紡ぐ、ひとすじ

伊東 丘多

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一方的はダメ

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これは、キスというものだろうか。

柚流は、自然と息を止めていて、苦しくなってから、この行為が何を意味するか気づいた。
急いで離れなくては、と思うが、つかまれた肩の痛さに、動けなくなる。
一瞬だけ力が抜けた瞬間に、空いていた右手で背中を叩く。

ハッと我に返った尚澄が、唇を離す。
そして、ささやく。
「……柚流、愛してる。」
「えっ?尚澄?……なにっ…んんっ……ふっ…。」
いきなり、どうしたのだろうか。
真意を聞こうとするが、すでに尚澄はキスを再開させていて、何も聞こえてはいない。

そして、逃さないとばかりに、何度も何度も角度を変え、夢中でキスをしてくる。
そのまま、体重をかけて、痛くないように柚流の頭を支えながら、覆いかぶさってきた。
柚流は、何とか肘で体を支えていたのに、ついに重たさに耐えられず、横になってしまう。
すると、さっきより体同士がピッタリと合わさる。

天井が尚澄の後ろに見えて、いつもと代わり映えのない部屋のはずなのに、非現実で不思議な感じだ。
さらに、酸欠と尚澄の体の熱さで力が抜けて、頭がボッーっとしてくる。
でも、このままではいけないと、自分の意思を総動員させる。
柚流はしっかり目を開けて、尚澄の様子をうかがった。

すると、尚澄は耐えられないような焦燥の目で、柚流を見つめていた。

何で?
柚流は、疑問に思う。
そんな感じは、最近あっただろか。
昨日の、尚澄らしくない態度も、あの長い反省文も、この行動に結びつかない。

やっと、苦しそうな柚流の顔を見て、口を離して、息をさせてくれる。

「………ふっ……、はぁはぁ。」
「柚流、ミルクティーの味する。美味しいね。」

そんなに美味しいなら、今すぐやめて、テーブルにあるのを飲め!と言いたい。
しかし、柚流の息が整い始めると、またすぐに口をふさいできて、言う事は叶わなかった。

体格差があるのか、びくとも動かない尚澄に、何とか抗議しようと、身じろぎ、体を動かそうと努力をする。
しかし離れようとしたのは逆効果だったのか、もう、これ以上、くっついていない所はないと思った体を、さらに押し付けてくる。
「………ちょ、……やめっ。っ……くるしっ……」
「………じっとしていて?」
尚澄は、許さないと言わんばかりに、口の中の浅いところから、深い所を延々と探り出す。
どうしようもなくて、長い間、そのままにさせていたら、ようやく満足したのか、ゆっくりと名残惜しそうに、口を離した。

そして、少し微笑んで、柚流の腫れぼったくなった唇を人差し指でつつく。
「……今度はフレンチトーストの味がした。」
「………ん。………はぁはぁ。」
やっと、スムーズに息が出来て深呼吸を繰り返す。
「もっと、あじわって良い?」
「や、……あ。はぁ、……あぁ。んっ。」

だから、さ。
それなら、自分の分を食べれば良かったじゃないか、と柚流は必死に尚澄に呼吸のリズムを合わせながら、ぼんやりとした心の中で思う。

半ば、あきらめて尚澄の思うままさせようと、観念しようとした所で、ふと、柚流は下に家族が勢揃いしている事を思い出した。

尚澄は、この部屋の鍵をかけただろか。
突然、部屋に来たりはしないだろうか。
気になってしまうと、それどころではなくなって、柚流は自由になっている足を、いきおいよく振り上げた。
かなりの手応えはあったようだ。
「………痛い。ひどいよ。」
「……………はぁ。……もうっ。どけよ!」
柚流の右膝は、無事、尚澄の股間に直撃をしたが、加減はしたから大丈夫だろう。
柚流は心配になりながらも、自分は正当防衛だと納得させる。

ただ、尚澄は臨戦態勢だったらしく、被害は甚大のようで、しばらく下を向いて耐えている。
柚流だって、肩は痛いし、唇は熱くなって腫れているし、色々と……大変なのだ。

何とか落ち着かせようと、残ってたミルクティーを一気に飲む。
深く大きくため息をついて、尚澄の頭にポンと手を置く。

「まずは、話し合いをしよう?こうなった経緯を、全部。」

その話し合いの結果、どんなことになっても覚悟するようにね?
そう、柚流は尚澄に強く圧力をかけた。

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