紡ぐ、ひとすじ

伊東 丘多

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まだ、食べられない

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等間隔に、書写の手本のようなキレイな字が並んでいる。
ざっと読んでみると、手紙は四部構造になっていた。
導入部—展開部—山場—終結部。
それらをふまえ、今回の事について、いかに自分の行動が浅は  かであったか、今後の対策と未来について言及している。
10分程かけ、壮大な反省文を完読して、柚流は思った。
一体、これは、何を読まされているのか。
結局はお互いの誤解から生まれているので、2人で話し合わなくては解決しないのだ。
一方的に謝られても、溝は埋まらない。

……というよりも。
「なんで、ここまで丁寧に書いて、俺に告白しないんだよ!」
部屋で、つい怒ってしまった。
まぁ、たくさん思うところはあるが、好きな人からの手紙は宝物ではあるので、ちゃんとたたんで引き出しにしまう。
何も現状は変わっていないが、ひと息がついて、お腹すいてきた。
柚流はお腹を鳴らしながら階段を降り、リビングに向かう。

「…………何でいるの?」
テーブルには、何故か尚澄が座っていて、丁寧な所作でミルクティーを飲んでいる。
柚流の親の前では、いつも優等生の振りをしているのだ。
「おはよう。柚流。」
よそ行きの、キラキラした笑顔で挨拶をしてくる。
「おはよう。……って、そうじゃない!お母さん?どういうこと?」
追加の食パンを切っていた母に、聞く。
「キッチンの窓から人影が見えてね。何かしら、と思ったら、尚澄くんだったのよ。そういうことよ。」
ここまで聞けば、想像がつく。
ポストの手紙が気になってウロウロしていた尚澄を、母が半ば強引に朝ご飯に誘ったのだろう。
「………はぁ。」

「おはよー!あ、尚くんも居る。」
「すごいね。今日は朝からなんか豪華じゃん。」
兄たちも、降りてきてしまった。
最近は滅多に全員が揃うことはないのに、こんな時に限って家族全員が集まるとは。
家族は好きだが、今じゃない感が強くて立ち去りたい。
尚澄とも話したい事がたくさんあるのに。
こんなに騒がしくては落ち着かない。

「今日は、とてもお腹が空いているので、部屋で集中して食べる。」
柚流は、有無は言わせない、とキリッとした態度で言い放つ。
良くわからない言い分だが、家族は、まったく気にしていない様子で了解し、テレビをみはじめている。
本当に、どっちでも良いのだろう。

大きなおぼんに2人分のフレンチトーストとミルクティーを置き、上に行く準備をする。
すると兄たちがテレビのくだらないバラエティで大声でゲラゲラ笑い始めたので、柚流の判断は間違っていなかった、とホッとする。

いつのまにか横にいた尚澄が持つよ、と言って、そっとおぼんを柚流から取った。
この間、ジュースをこぼしたのは尚澄のせいなので、これくらいはしてもらっても良いだろう
柚流は、軽く感謝を言って渡す事にした。

部屋に入り、いつものように向かい合わせで座る。
すると、2人きりになった途端に、尚澄は急に甘えた表情に変化した。
変わり身の早さに少し引く。

「柚流、家族とみんなで食べなくて良いの?」
「良いよ。朝から騒がしいしさ。」
「そっか。今日ってさ、予定ある?」
朝から気になっていた事を、尚澄からすぐさま聞いてくれる。
小テストも終わったし、のんびりと絵でも描こうとしていたから、家で一緒にいられたら嬉しいのだが。
「ないよ。」
「柚流の家族も?」
「午後から出掛けるみたいだよ。みんな。」
「それなら。後で話したいことがある。……ね、1人で食べてて。少し、時間かかるから。」
そう言って、尚澄の分のフレンチトーストもこっちに寄せてきた。
なんだか真剣な顔をしているが、腹でも痛いのだろうか。
まぁ、時間がかかりそうなら、遠慮なく冷めないうちに食べよう。
我が家ではバターとメープルシロップは、かなりの上位な贅沢品だ。
お腹も空いているし、温かいうちに食べたい。
「分かった。お大事に。」
トイレと決めつけて、柚流はバターが溢れシロップがジュワッとしみているフレンチトーストに、いきおいよくフォークをさした。
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