試練が次から次へとやってきますが、乗り越えてみせます

再会

首にかけていた石を、ゆっくりと外して手で包み込む。
「………ルーン？」

エイルは、先ほど石を握りながらルーンの事を考えていた。
それを、呼ばれたと思って、反応してくれたのかもしれない。
この、あたたかさはルーンの感情が動いて、ここに来る前の予兆だ。

しかし、少し待つが何も変化がない。
いつもなら、すぐに姿を表すのに。
「どうしたのかな？」
「………エイル。この気配は。」
アズールが、噴水の方を瞬時に見る。

白銀に光ったルーンが、波打つ水の上に浮いていた。
初めて会った、あの湖でのように。

「久しぶりね。……呼んだ？」
ルーンが懐かしそうに、笑う。
しかし、特に困っている様子もない平和な状況に、次第に表情を変えて呆れている。
「……もしかして、呼んでない？」
「あ、いや、間違えました。すみません。」
そんな、レストランの呼び出しボタンみたいな言い訳が通るわけないと思うが、とりあえず謝っておく。

「まぁ、良いわ。その石、返してもらいたかったしね。」
そう言うと、エイルの手の中にある石が、フワリと浮いてルーンの体内にスッと消える。
長い間、首にかけていたものだから、いきなり無くなってしまうと、何か不安になってしまう。
意味もなく、つい胸のあたりを探ってしまい、悲しい表情をしていると、ルーンが優しくエイルを抱きしめた。
体温はないはずなのに、温かい気がする。
「毎日、私の祭壇に祈りを捧げてくれて、ありがとう。これからも、石がなくても聞こえてるよ。」
ルーンは、ちゃんと受け止めてくれたようだ。
毎日の他愛のない話を。
「私は、魔王だけど敬虔な信者だからね。」
冗談まじりに言葉を返して、笑い合う。

「ふふ。………そうだ、アズール。この結界どうしたの？解除しない方が良さそうだったから、湖経由できたけど……。」
だから少し遅くなったのよ、と不満げにルーンは言う。

ふと、見るとアズールの輝いている目が泳いでいる。
エイルも、何とも言えず笑うしかない。
「こんな、イチャイチャするだけのための結界なら、全部壊せば良かったなー！」
ルーンは人間みたいに口をとがらせて、嫌味をいう。
「それだけじゃ、ない。………実は啓示を貰おうとしていたくらいなんだ。むしろ、会えて良かった。」
「ん？厄介事？私に入ってこないってことは、大したことじゃないと思うけど……。」

そうだ。
婚約を申し込まれて忘れかけていたが、アズールの過剰な魔力と、短剣の作成についての話をしていたのだ。

「ガゼルによって記憶が戻ると共に、俺の魔力が増大した。ルーンが闇の魔力だけ戻るのを止めてくれただろう？その時の影響ではないのか？」
「浄化するのは大変だけど、植え付けるのは簡単だからね。危険な戻し方をされたから、異変は当然だと思う。私も、とっさに罪の意識だけを阻止して、調整出来なかったし。……ごめん。減らす？」
軽い調子で魔力を吸い取る動作をする。

そんな簡単に魔力を取るな、とアズールは慌てて後ずさる。
「待て。この魔力を使って短剣を作りたい。一応、ルーンの確認をしたいのだが。」
「良いわよ。好きにして。」
「良いのか？」

さすが、創造神。
これくらいの魔力は、たいしたことないのだろう。
この魔力量と、攻撃性、さらにその膨大な魔力の制御能力、すべてが異常な状態であるのに。

「今、ここで作ったら？さらに、加護を与えてあげるよ。」
「………あぁ。その前に、少し相談をしても良いだろうか？」
その時、アズールは自分のまわりに、話す内容が変わる魔法を、こっそりと発動させていた。
……エイルに隠れて。

内緒話だろうか。
でも、エイルは、アズールが短剣を作ると言い出した時から、感づいていた。

きっと、同じ事に気付いたから。

しばらく、精神統一した後、アズールは体内の魔力を凝縮させ物質化させる。
そして、短剣の形をした最強魔法具を作り始めた。
アズールとエイル、２人分だ。

それは、アズールの膨大な魔力を全て使い切るのではないか、そう不安になるくらい凶暴なものになっている。
エイルも邪魔にならないように自分の魔力をアズールの魔力に上乗せし、絡ませて、剣に注ぎ込む。

そろそろ完成かという頃、最大の注意をはらい、エイルはルーンに思念伝達をする。
こちらはずっと石でルーンとつながっていた。
剣を作成し魔力量が少なくなったアズールなら、なおさら気づかれない自信がある。
アズールの思い通りにさせたくない。
だから、ルーンに最後のお願いを聞いてもらって、助けてもらう。

「お願いがあるの。アズールの方の剣だけ………。」

とても困った顔をしているが、こうなったら最後まで付き合ってもらおう。

運命は、創造神の意思にまかせることにした。