6 / 22
会えない時間
しおりを挟む
学校行事があるたびに、生徒会長である美羽は忙しくて家でも会えなくなる。
近嗣の悶々とした生活が始まる。
美羽が近嗣といる事で美羽まで悪く言われては困る。学校では話しかけられない。
どうにか二人きりになるきっかけが欲しいのに何もない。
近嗣は、何度目かわからないため息をついて屋上でお昼のパンを齧っていた。
屋上は、クラスに馴染めなかった近嗣が、のんびりと過ごすのにちょうどいい場所だった。
しばらくして、聡が屋上にやってきた。
聡は、時々やってきては嬉しそうに近嗣に話しかけてくる。今日は、友達と三人でやってきた。
「糸崎さん、この前は本当にありがとうございました!」
聡の友達が、ペコリと頭を下げてお礼を言った。
上級生に絡まれていたのを助けてあげたのは数日前の事だ。
「こいつの事、助けてもらってあざっした!」
「ありがとうございましたぁ!」
聡もその隣にいた別の友達もペコリと頭を下げた。
三人して頭を下げ続けている。
近嗣は、食べていたパンを急いで飲み込んでお茶で胃へ流し込んだ。
「気にしなくていい」
近嗣が言えば、三人とも嬉しそうに笑う。
「糸崎さん本当カッコ良かったです! 僕は、川淵って言います! 舎弟にして下さい!」
「俺もです! 俺は、楢林です!」
聡の友達は、近嗣を好意的に思ってくれたらしい。
「俺は……そういうのいらない……」
舎弟なんて必要ない。
ため息をつきながら言えば、聡が鼻息を荒くする。
「お前らな! 糸崎さんは、俺だってパシリにした事ないんだからな! お前らに頼むわけねぇだろ!」
訳のわからない事で三人で盛り上がっている。
どうやら、自称舎弟が三人に増えたらしい。
近嗣は賑やかなのは苦手だけれど、聡達の事は嫌いじゃない。
「糸崎さん、生徒会の手伝いって大丈夫でしたか? 生徒会長の野郎に何かされませんでしたか?」
心配そうに声を掛けてきた聡にフッと笑う。
「ああ……大丈夫」
近嗣が笑う事は珍しいので、三人は見惚れてしまう。
生徒会の補佐と言っても、美羽と一緒にいられたのでむしろ楽しかった。
そこで近嗣はふと思い立つ。
「生徒会って……俺でも入れたかな……」
もしも近嗣も生徒会に入れたのなら毎日一緒にいれたはずだ。
「え……糸崎さんが……?」
近嗣がボソリと呟いた言葉に聡はポカンと口を開けた。
(そこまで意外なのか……ちょっとショックだ……)
眉間に皺を寄せた近嗣に、聡は慌てて取り繕おうとする。
「入れないって事はないと思うっす! 糸崎さんって成績どれくらいなんすか?」
「上位10位以内には……いる……」
「へ……」
聡は、またもポカンと口を開けた。
近嗣は美羽に勉強を見てもらっているので成績はいい。母親と勉強を頑張るという約束もちゃんと守っている。
真面目にやっているのに真面目に思われないのは悲しいと思う。
「やっぱり俺じゃ無理か……。聡は成績は?」
近嗣に聞き返されるとは思わなかったのか聡は慌て出す。
「お、俺っすか!? えっとぉ……ビリから数えた方が早いっすね」
近嗣は、苦笑いする聡の頭をポンっと優しく叩いた。近嗣なりに慰めてあげたいと思った。
「勉強はしといた方がいい……お前の役に立つ」
聡は、近嗣のこういう所に憧れている。
見た目で誤解されやすいけれど、近嗣が本当は優しいのだと聡はわかっていた。
「糸崎さん……俺、頑張ります! 糸崎さんみたいになります!」
聡が言えば、二人も手を挙げる。
「ぼ、僕も頑張ります!」
「俺も!」
無表情でも頷いてあげれば、三人は嬉しそうに笑った。
暫くワイワイとしている三人の会話に耳を傾けていれば、川淵にふと質問された。
「糸崎さんて、彼女とかいるんすか?」
興味津々で聞かれてしまう。
「いる……」
生徒会長だとは言えないけれど、いないとは言いたくなかった。
「どんな人なんですか!?」
今度は聡が聞いてきた。
「……面倒見が良い……年上……」
「年上!? かっこいいっすね」
「でも……最近会えてない……」
言葉にしたら余計に会いたくなってしまった。
「会いに行ったらどうですか?」
楢林が言った。
「それは……迷惑だから……」
「何言ってんすか! 糸崎さんに会おうって言われたら嬉しいに決まってんじゃないっすか!」
聡にニコニコしながら言われたら、少し自信が湧いた。
「俺が会いに行ってもいいのかな……?」
「大丈夫っすよ! 俺だったら嬉しいですよ!」
「……そっか……」
へへへっと照れ臭そうに笑った聡に、ありがとうと呟いた。
それならばと思い、美羽にこっそり会いに行こうと決めた。
近嗣の悶々とした生活が始まる。
美羽が近嗣といる事で美羽まで悪く言われては困る。学校では話しかけられない。
どうにか二人きりになるきっかけが欲しいのに何もない。
近嗣は、何度目かわからないため息をついて屋上でお昼のパンを齧っていた。
屋上は、クラスに馴染めなかった近嗣が、のんびりと過ごすのにちょうどいい場所だった。
しばらくして、聡が屋上にやってきた。
聡は、時々やってきては嬉しそうに近嗣に話しかけてくる。今日は、友達と三人でやってきた。
「糸崎さん、この前は本当にありがとうございました!」
聡の友達が、ペコリと頭を下げてお礼を言った。
上級生に絡まれていたのを助けてあげたのは数日前の事だ。
「こいつの事、助けてもらってあざっした!」
「ありがとうございましたぁ!」
聡もその隣にいた別の友達もペコリと頭を下げた。
三人して頭を下げ続けている。
近嗣は、食べていたパンを急いで飲み込んでお茶で胃へ流し込んだ。
「気にしなくていい」
近嗣が言えば、三人とも嬉しそうに笑う。
「糸崎さん本当カッコ良かったです! 僕は、川淵って言います! 舎弟にして下さい!」
「俺もです! 俺は、楢林です!」
聡の友達は、近嗣を好意的に思ってくれたらしい。
「俺は……そういうのいらない……」
舎弟なんて必要ない。
ため息をつきながら言えば、聡が鼻息を荒くする。
「お前らな! 糸崎さんは、俺だってパシリにした事ないんだからな! お前らに頼むわけねぇだろ!」
訳のわからない事で三人で盛り上がっている。
どうやら、自称舎弟が三人に増えたらしい。
近嗣は賑やかなのは苦手だけれど、聡達の事は嫌いじゃない。
「糸崎さん、生徒会の手伝いって大丈夫でしたか? 生徒会長の野郎に何かされませんでしたか?」
心配そうに声を掛けてきた聡にフッと笑う。
「ああ……大丈夫」
近嗣が笑う事は珍しいので、三人は見惚れてしまう。
生徒会の補佐と言っても、美羽と一緒にいられたのでむしろ楽しかった。
そこで近嗣はふと思い立つ。
「生徒会って……俺でも入れたかな……」
もしも近嗣も生徒会に入れたのなら毎日一緒にいれたはずだ。
「え……糸崎さんが……?」
近嗣がボソリと呟いた言葉に聡はポカンと口を開けた。
(そこまで意外なのか……ちょっとショックだ……)
眉間に皺を寄せた近嗣に、聡は慌てて取り繕おうとする。
「入れないって事はないと思うっす! 糸崎さんって成績どれくらいなんすか?」
「上位10位以内には……いる……」
「へ……」
聡は、またもポカンと口を開けた。
近嗣は美羽に勉強を見てもらっているので成績はいい。母親と勉強を頑張るという約束もちゃんと守っている。
真面目にやっているのに真面目に思われないのは悲しいと思う。
「やっぱり俺じゃ無理か……。聡は成績は?」
近嗣に聞き返されるとは思わなかったのか聡は慌て出す。
「お、俺っすか!? えっとぉ……ビリから数えた方が早いっすね」
近嗣は、苦笑いする聡の頭をポンっと優しく叩いた。近嗣なりに慰めてあげたいと思った。
「勉強はしといた方がいい……お前の役に立つ」
聡は、近嗣のこういう所に憧れている。
見た目で誤解されやすいけれど、近嗣が本当は優しいのだと聡はわかっていた。
「糸崎さん……俺、頑張ります! 糸崎さんみたいになります!」
聡が言えば、二人も手を挙げる。
「ぼ、僕も頑張ります!」
「俺も!」
無表情でも頷いてあげれば、三人は嬉しそうに笑った。
暫くワイワイとしている三人の会話に耳を傾けていれば、川淵にふと質問された。
「糸崎さんて、彼女とかいるんすか?」
興味津々で聞かれてしまう。
「いる……」
生徒会長だとは言えないけれど、いないとは言いたくなかった。
「どんな人なんですか!?」
今度は聡が聞いてきた。
「……面倒見が良い……年上……」
「年上!? かっこいいっすね」
「でも……最近会えてない……」
言葉にしたら余計に会いたくなってしまった。
「会いに行ったらどうですか?」
楢林が言った。
「それは……迷惑だから……」
「何言ってんすか! 糸崎さんに会おうって言われたら嬉しいに決まってんじゃないっすか!」
聡にニコニコしながら言われたら、少し自信が湧いた。
「俺が会いに行ってもいいのかな……?」
「大丈夫っすよ! 俺だったら嬉しいですよ!」
「……そっか……」
へへへっと照れ臭そうに笑った聡に、ありがとうと呟いた。
それならばと思い、美羽にこっそり会いに行こうと決めた。
0
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
23時のプール
貴船きよの
BL
輸入家具会社に勤める市守和哉は、叔父が留守にする間、高級マンションの部屋に住む話を持ちかけられていた。
初めは気が進まない和哉だったが、そのマンションにプールがついていることを知り、叔父の話を承諾する。
叔父の部屋に越してからというもの、毎週のようにプールで泳いでいた和哉は、そこで、蓮見涼介という年下の男と出会う。
彼の泳ぎに惹かれた和哉は、彼自身にも関心を抱く。
二人は、プールで毎週会うようになる。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる