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お礼が言いたくて
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聡に背中を押されて、近嗣は放課後に生徒会室の前で美羽が出てくるのを影に隠れて待った。
美羽には、こうやって会うしかないと思った。
日が暮れて辺りが暗くなると、生徒会室のドアが開いて生徒会のメンバーが出てくる。
話をしながら近嗣に気づかずにみんな通り過ぎていく。美羽は生徒会室の鍵を閉めていて、最後を歩いてきた。
美羽も近嗣に気付かなかった。近嗣は、思わず美羽の腕を掴んで引っ張った。
驚きながらこちらを見た美羽は、すぐに近嗣に気付いて顔を綻ばせた。
生徒会の役員が気付かずにそのまま行ってしまうと、美羽は口角を上げながら口を開いた。
「学校では仲良くしないんじゃなかったのか?」
「ごめん……」
近嗣は、やっぱり迷惑だったのかと思い、シュンと肩を落としてしまう。
美羽は、そんな近嗣にクスクスと笑った。
「冗談だ。話せて嬉しい」
「みぃちゃん……」
嬉しそうにする美羽を見て、会いに来て良かったと思う。
近嗣がハニカミながら笑う。
「チカ……僕に──」
「会長!」
美羽が何かを話したと同時に別の声が聞こえてそちらに注目する。
こちらに戻ってきたのは忍だった。
美羽の姿が見えなくなって探しにきたらしい。
近嗣が美羽の腕を掴んでいるのを見て、近嗣と美羽の間に立ちはだかった。
近嗣は、掴んでいた手を放してしまう。
「糸崎近嗣! お前はこの前会長に助けてもらっただろう! 恩を仇で返すのか!?」
一緒にいただけでそんな風に言われてしまうのは悲しい。でも、そう見られてしまう。
近嗣は、違うと言いかけてやめた。違うと言ったところでそれを信じてもらえるとは思わないし、例え信じてもらっても、美羽に会いたくて会いに来たとは言えないからだ。
仕方なく踵を返して歩き出す。
「会長? 大丈夫でしたか?」
「ああ……」
近嗣は、そんな声を背中越しに聞きながら、悲しくなってはぁとため息をついた。
◆◇◆
美羽は、去っていく近嗣の背中を見ながらどうしたものかと悩む。
近嗣は、美羽と親しい仲にあると思われるのを嫌がっている。そこまで自分に自信がないのは困ったものだ。
(僕の評判なんて気にしなくていいのに……)
そう思いつつも、生徒会長という立場で問題児と仲がいいというのは評判に関わるのは確かだ。
そこまで自分の事を考えているのは嬉しいとは思う。けれど、時々寂しいとも思う。
近嗣は頑固だ。美羽が近付いたところで、野良猫のように威嚇して逃げてしまう気がしてならない。結局のところ、それが一番怖い。
「危ないところでしたね。あの糸崎です。何するか分かりませんからね」
忍が鼻息を荒くして言う言葉に少し苛ついて目を細めた。
近嗣は誤解されやすい。
それを知っているからもどかしい。
「僕は何もされていない。忍の勘違いだ」
「会長! そんな事ありません! 腕を掴むなんてよっぽどの事ですよ!」
美羽は、唐突にガシッと忍の腕を掴んだ。
「会長!?」
忍にニッコリと微笑む。
「これで僕も君に何かしたという事になるのか?」
「あ……いえ! と、とんでもないです……」
赤くなって震える忍にやっとわかったのかとため息をつく。
「そうだ。これだけで何かしたという事にはならない。だから糸崎も何もしていない」
「僕は嬉しいです!」
忍が嬉しそうにするので顔を引きつらせる。全然わかっていなかった。
「おい……話を聞いてるのか?」
「はい! 腕……洗いません……」
ちょっと引いてしまって思わず手を放す。
忍が美羽の事を崇拝しているのはわかっているが、少し度が過ぎる。
美羽は、こちらもどうしたものかとため息をついた。
◆◇◆
美羽は、生徒会のメンバーと共に家に帰りながら考える。
(チカは、あのまま家に帰っただろうか?)
近嗣の場合、美羽が忙しいと連絡もして来なくなる。気を遣いすぎていると思うのだが、美羽がいくら言っても近嗣からは連絡が来た事はない。
今日、少し会えた時の顔を思い出す。
あまり表情の変わらない近嗣がとても嬉しそうだった。
『みぃちゃん……』
数日ぶりに聞いた近嗣の声を思い出して、堪らなくなった。
すぐ近くにいたのに全然触れ合えてない。キスの一つもしたかった。
『チカ……僕に会いに来てくれてありがとう』
そう言いたかった。
あれだけ学校で仲良くしないと言っていた近嗣が、自分から美羽に会いに来てくれた。まだお礼を言えてない。
美羽は、ピタリと足を止めた。
「会長?」
「悪いな。寄るところを思い出したんだ」
「それなら僕も──」
ついて来そうな忍に学校で評判の微笑を向ければビクッと怯んだ。
「一人でいい。それじゃあ、みんなは早く帰るように」
「会長……」
美羽は、居ても立っても居られなくて早足で近嗣の家を目指した。
美羽には、こうやって会うしかないと思った。
日が暮れて辺りが暗くなると、生徒会室のドアが開いて生徒会のメンバーが出てくる。
話をしながら近嗣に気づかずにみんな通り過ぎていく。美羽は生徒会室の鍵を閉めていて、最後を歩いてきた。
美羽も近嗣に気付かなかった。近嗣は、思わず美羽の腕を掴んで引っ張った。
驚きながらこちらを見た美羽は、すぐに近嗣に気付いて顔を綻ばせた。
生徒会の役員が気付かずにそのまま行ってしまうと、美羽は口角を上げながら口を開いた。
「学校では仲良くしないんじゃなかったのか?」
「ごめん……」
近嗣は、やっぱり迷惑だったのかと思い、シュンと肩を落としてしまう。
美羽は、そんな近嗣にクスクスと笑った。
「冗談だ。話せて嬉しい」
「みぃちゃん……」
嬉しそうにする美羽を見て、会いに来て良かったと思う。
近嗣がハニカミながら笑う。
「チカ……僕に──」
「会長!」
美羽が何かを話したと同時に別の声が聞こえてそちらに注目する。
こちらに戻ってきたのは忍だった。
美羽の姿が見えなくなって探しにきたらしい。
近嗣が美羽の腕を掴んでいるのを見て、近嗣と美羽の間に立ちはだかった。
近嗣は、掴んでいた手を放してしまう。
「糸崎近嗣! お前はこの前会長に助けてもらっただろう! 恩を仇で返すのか!?」
一緒にいただけでそんな風に言われてしまうのは悲しい。でも、そう見られてしまう。
近嗣は、違うと言いかけてやめた。違うと言ったところでそれを信じてもらえるとは思わないし、例え信じてもらっても、美羽に会いたくて会いに来たとは言えないからだ。
仕方なく踵を返して歩き出す。
「会長? 大丈夫でしたか?」
「ああ……」
近嗣は、そんな声を背中越しに聞きながら、悲しくなってはぁとため息をついた。
◆◇◆
美羽は、去っていく近嗣の背中を見ながらどうしたものかと悩む。
近嗣は、美羽と親しい仲にあると思われるのを嫌がっている。そこまで自分に自信がないのは困ったものだ。
(僕の評判なんて気にしなくていいのに……)
そう思いつつも、生徒会長という立場で問題児と仲がいいというのは評判に関わるのは確かだ。
そこまで自分の事を考えているのは嬉しいとは思う。けれど、時々寂しいとも思う。
近嗣は頑固だ。美羽が近付いたところで、野良猫のように威嚇して逃げてしまう気がしてならない。結局のところ、それが一番怖い。
「危ないところでしたね。あの糸崎です。何するか分かりませんからね」
忍が鼻息を荒くして言う言葉に少し苛ついて目を細めた。
近嗣は誤解されやすい。
それを知っているからもどかしい。
「僕は何もされていない。忍の勘違いだ」
「会長! そんな事ありません! 腕を掴むなんてよっぽどの事ですよ!」
美羽は、唐突にガシッと忍の腕を掴んだ。
「会長!?」
忍にニッコリと微笑む。
「これで僕も君に何かしたという事になるのか?」
「あ……いえ! と、とんでもないです……」
赤くなって震える忍にやっとわかったのかとため息をつく。
「そうだ。これだけで何かしたという事にはならない。だから糸崎も何もしていない」
「僕は嬉しいです!」
忍が嬉しそうにするので顔を引きつらせる。全然わかっていなかった。
「おい……話を聞いてるのか?」
「はい! 腕……洗いません……」
ちょっと引いてしまって思わず手を放す。
忍が美羽の事を崇拝しているのはわかっているが、少し度が過ぎる。
美羽は、こちらもどうしたものかとため息をついた。
◆◇◆
美羽は、生徒会のメンバーと共に家に帰りながら考える。
(チカは、あのまま家に帰っただろうか?)
近嗣の場合、美羽が忙しいと連絡もして来なくなる。気を遣いすぎていると思うのだが、美羽がいくら言っても近嗣からは連絡が来た事はない。
今日、少し会えた時の顔を思い出す。
あまり表情の変わらない近嗣がとても嬉しそうだった。
『みぃちゃん……』
数日ぶりに聞いた近嗣の声を思い出して、堪らなくなった。
すぐ近くにいたのに全然触れ合えてない。キスの一つもしたかった。
『チカ……僕に会いに来てくれてありがとう』
そう言いたかった。
あれだけ学校で仲良くしないと言っていた近嗣が、自分から美羽に会いに来てくれた。まだお礼を言えてない。
美羽は、ピタリと足を止めた。
「会長?」
「悪いな。寄るところを思い出したんだ」
「それなら僕も──」
ついて来そうな忍に学校で評判の微笑を向ければビクッと怯んだ。
「一人でいい。それじゃあ、みんなは早く帰るように」
「会長……」
美羽は、居ても立っても居られなくて早足で近嗣の家を目指した。
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