大魔法使いは二度目の人生を〝普通〟に楽しみたい

おみなしづき

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入学後

攻撃魔法学 ②

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 召喚魔法は、自分の魔力を餌に別の世界から魔獣を呼ぶ。
 その昔、大魔法使いが契約した魔獣達らしい。
 魔法陣によって属性の違う魔獣が来る。
 俺が描いた魔法陣は水属性の水獣だ。

 召喚魔法は、既存の魔法陣がないと呼べない。
 魔法陣に魔法を通すのが苦手な俺は、召喚魔法なんて使ったりしなかった。
 こればかりはリンゼイの方が得意だったな。

 呼んだ魔獣には、魔力食べさせてあげるから代わりに言う事聞いてねって感じのやりとりをする。
 ただ……どの魔獣が来るのかはランダムだ。魔力の好みがあるらしく、気に入られると同じ魔獣が来たりする。

 くそ……やっぱり魔力を通すのに時間がかかる。

「ディノ。無理をするな」

 ニヤニヤしやがって。先生の言い方が気に入らなかった。絶対やる。
 俺はこの時、めちゃくちゃ集中力が高まった。

 すると、魔法陣が光って水獣がやって来た。

 出来た!

 ヒョコッと魔法陣から顔を出したのは、見た目は真っ青なイルカ。イルカに尖った角が生えている。魔法陣から顔だけ出している。

『おいこら、中途半端に呼ぶなや。出口がせめぇ。もっと魔力寄越せ。半分しかでれねぇだろうが』

 その場がシーンとする。
 なんて口の悪い魔獣だ……。
 ベルナルド先生の顔が引きつった。

『仕方ねぇから半分で出来ることやってやる。で? 俺に何して欲しいわけ?』

 あ……何も考えてない。

「ディノ……丁重に帰ってもらえ……」

 ですよね。
 ベルナルド先生もまさか本当に来るとは思っていなかったのだろう。
 俺もこの魔獣は予想外だ。
 俺が魔法陣で魔獣を呼ぶとこうなるんだ……勉強になった。

「あのー、大変申し訳ないのですが……何も考えてませんでした。帰って下さい」

 イルカの眉間に皺が。ちょうど角の下ぐらいに出た。

『ざけんなよ? あぁ? 見せ物か? 見せ物にしやがったのか? 許せねぇ。お前らに天誅を下す』
「え?」

 これ──やばいパターンだ。

 と、思った時にはもう遅い。

 水獣の角がピカッと光ると俺たちがいる一帯に緑色のスライム状の液体が大粒の雨の様に一気に降って来た。
 そこに居た全員が頭からザバァッと勢い良くスライムを被ってねっちょりする。
 スライムの水溜りの完成だ。

『次はまともに呼べや』

 そう言って水獣は魔法陣の中に消えた。

 魔力だけもらってラッキーって帰ってくれるやつもいるのに、あの水獣はとんでもない置き土産をしていった。

 やっばい。ベットベト。
 髪も服も全て緑色のスライムに覆われて気持ち悪い。
 とりあえず顔拭こう。

 地面も一面がスライムだ。
 膝をついたまま立ち上がれない。
 立ち上がろうとすると絶対コケる自信がある。

「おわっ!」

 あ。ほら誰かが滑ってコケた。

「うわぁ!」
「いてっ!」

 ベシャッ。ネチョ。ツルッ。

 尻餅をついたり、膝から崩れ落ちていたり、近くの奴らと手を取り合ってどうにか耐えていたり、隣のやつを巻き込んでコケたり。

 もう地獄絵図。

 やばっ……滑ってコケるみんなが面白い。
 ジワジワと笑いが込み上げてくる。
 腹を抱えて思いっきり笑ってやりたい。
 でも、ここで笑ったらこの状況を作った俺は絶対睨まれる。
 そう思って必死に耐える。

 ベルナルド先生は俺に向かって目を細めている。

「ディノ……お前……魔獣が呼べたのは褒めるが……半分って。しかもこの惨状をどうすんだ? 評価はできないからな」

 ですよね。
 ベルナルド先生もベッタベタですもんね。
 スライムも滴るいい男、とか言ったら怒られそうだ。

「渡してた魔法陣使っていいから、水魔法が使えるやつは洗い流せ。水魔法が使えないやつは洗い流してもらえ。綺麗になったやつから寮に戻って風呂入れ。今日はそれでおしまいにしよう」

 どうにかみんな水魔法でスライムを流していく。足元はまだぐちゃぐちゃだけれど、ここ一帯から抜け出ればいいだけだ。
 次々に脱出していく。

 俺どうしよう……立つか? 立てるのか?

 なんて考えていたら、頭上からバケツ一杯分くらいの水がザバァと降って来た。
 誰かが水魔法で流してくれたみたいだ。

「ディノ~、大丈夫ぅ~?」

 エーベルトだ。水魔法が得意って言ってたな。もうスライム地獄から抜け出して少し離れた場所にいる。ケフィンもエーベルトの隣にいて同じように抜け出していた。

「エーベルト、ありがとうございまーす」
「早く来いよー」

 ケフィンの言葉に頷く。このままではいられない。
 立とうとしたら、俺の前に来たのはメルフィスだ。
 仏頂面で手をスッと差し出してくれた。

「ほら……」

 有難いのでその手を取った。
 足に力を入れて立ち上がろうとして──ツルッ!

「ありが──うわぁ!」
「おいっ!」

 ベチャ。

 メルフィスを押し倒す形で滑ってコケた。
 せっかく綺麗にしたのにメルフィスの背中はスライムまみれだ。

「ありゃ。ごめんなさい」
「べ、別にいい……」

 メルフィスの胸板は逞しかった。
 クソガキだったくせに立派に育ったものだ。
 腹筋もあるし、手足も長い。
 そのまま感慨深く思っていれば、メルフィスは真っ赤になって綺麗なグレーの瞳を揺らした。

「どけよ……」
「ああ、はいはい」

 そうして、どうにかスライム地獄から抜け出した。
 ベルナルド先生が俺にニッコリ笑った。嫌な予感。

「ディノ。お前、このスライム全部焼き払って処分しとけ。魔力が足りなくなるだろうから休みながらでいいからな。夜までかかってもいいからやっとけよ」

 トマス先生に続き、ベルナルド先生も厳しいお方だ。

「はい……」

 後始末ですね……。
 俺のせいだもんね……。
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