2 / 4
2.
しおりを挟む
「よくぞ目覚めてくれた。これでお前が次期当主だ」
「この日をどんなに待ち望んだか。ああ、やっとこれであなたを心より愛せるわ」
ふっと戻った意識が最初に拾ったのは、二つの声。
そして、体を包む温もりだった。
重いまぶたを上げれば、涙を湛えた男女二人の姿が見えた。しかも男は私を抱きかかえ、女には両手を握りしめられている。思わずギョッとして、身構えた。
どう見ても、私を殴った男とその背後で庇いもしなかった女だ。
「長かった――今までよく耐えてくれたな」
「今までのことは、本当にごめんなさい。でも、これからは親子三人仲良くやっていきましょう」
私の意思など関係なく、べらべらとしゃべり続ける二人。
どうやら、今まで虐げてきたのは私の魔法を発現させるためだったらしい。
その魔法とは、黒魔法。
心に闇を抱えるほど、負の力をため込むほど強力になるものらしい。
まさかと思ったが、この二人は私の実の両親だった。
黒魔法とはブレア公爵家直系の特殊魔法らしい。代々続いて来たブレア家はここ近年、その力が弱体化傾向にあった。しかし、過去には強力な力が使える者もいた。その差は何なのか。純血なのか、他家との婚姻か――長年の研究で、ついにその謎が解き明かされた。
黒魔法使いの力の強弱とは、育ち方や環境で差が付くようだった。
ある者は熾烈な当主争いの中で、ある者は戦争に駆り出されたことで、ある者は家族や愛する者を亡くしたことで、その力を発現させたという。特に戦時の当主の時代は、その傾向が顕著だったらしい。己や周囲の『死』を意識することで、黒魔法が強力になる傾向があるようだった。
愛情をもって『普通に』育てても黒魔法は発現する。だが、その力はあまりにも弱く、なんとも頼りない。
ブレア家の都合で戦争を起こすわけにもいかない。
しかし、歴史あるブレア家には恐れられるほどの力、強大な黒魔法の使い手が必要であった。
だから、私に対して辛くあたっていた、と二人は話を締めた。
そしてすまなかった、ごめんなさい、と涙ながらに謝罪の言葉を紡ぐ。すべてはお前が憂いなくブレア家を継ぐため、と。
私の頭をなでるために近づく手、それは私のほおを張ったのと同じ手だ。触れられるたびに、意識せずとも体は強張る。
ごめんなさい、とこぼすその口からは、私を詰る言葉、尊厳を傷つける言葉しか出てこなかった。次はいつ、怒りのこもったため息に変わるのかと、落ち着かない。
理解できない言葉を話すこの二人はなんなのだろう。
私には、消えてしまったあの子の記憶がある。
親だというが、私があの子ではないと気付きもしない。
親子の絆とは、その程度のものなのだろうか。
「この日をどんなに待ち望んだか。ああ、やっとこれであなたを心より愛せるわ」
ふっと戻った意識が最初に拾ったのは、二つの声。
そして、体を包む温もりだった。
重いまぶたを上げれば、涙を湛えた男女二人の姿が見えた。しかも男は私を抱きかかえ、女には両手を握りしめられている。思わずギョッとして、身構えた。
どう見ても、私を殴った男とその背後で庇いもしなかった女だ。
「長かった――今までよく耐えてくれたな」
「今までのことは、本当にごめんなさい。でも、これからは親子三人仲良くやっていきましょう」
私の意思など関係なく、べらべらとしゃべり続ける二人。
どうやら、今まで虐げてきたのは私の魔法を発現させるためだったらしい。
その魔法とは、黒魔法。
心に闇を抱えるほど、負の力をため込むほど強力になるものらしい。
まさかと思ったが、この二人は私の実の両親だった。
黒魔法とはブレア公爵家直系の特殊魔法らしい。代々続いて来たブレア家はここ近年、その力が弱体化傾向にあった。しかし、過去には強力な力が使える者もいた。その差は何なのか。純血なのか、他家との婚姻か――長年の研究で、ついにその謎が解き明かされた。
黒魔法使いの力の強弱とは、育ち方や環境で差が付くようだった。
ある者は熾烈な当主争いの中で、ある者は戦争に駆り出されたことで、ある者は家族や愛する者を亡くしたことで、その力を発現させたという。特に戦時の当主の時代は、その傾向が顕著だったらしい。己や周囲の『死』を意識することで、黒魔法が強力になる傾向があるようだった。
愛情をもって『普通に』育てても黒魔法は発現する。だが、その力はあまりにも弱く、なんとも頼りない。
ブレア家の都合で戦争を起こすわけにもいかない。
しかし、歴史あるブレア家には恐れられるほどの力、強大な黒魔法の使い手が必要であった。
だから、私に対して辛くあたっていた、と二人は話を締めた。
そしてすまなかった、ごめんなさい、と涙ながらに謝罪の言葉を紡ぐ。すべてはお前が憂いなくブレア家を継ぐため、と。
私の頭をなでるために近づく手、それは私のほおを張ったのと同じ手だ。触れられるたびに、意識せずとも体は強張る。
ごめんなさい、とこぼすその口からは、私を詰る言葉、尊厳を傷つける言葉しか出てこなかった。次はいつ、怒りのこもったため息に変わるのかと、落ち着かない。
理解できない言葉を話すこの二人はなんなのだろう。
私には、消えてしまったあの子の記憶がある。
親だというが、私があの子ではないと気付きもしない。
親子の絆とは、その程度のものなのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
女神様、もっと早く祝福が欲しかった。
しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。
今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。
女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか?
一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。
真実の愛のおつりたち
毒島醜女
ファンタジー
ある公国。
不幸な身の上の平民女に恋をした公子は彼女を虐げた公爵令嬢を婚約破棄する。
その騒動は大きな波を起こし、大勢の人間を巻き込んでいった。
真実の愛に踊らされるのは当人だけではない。
そんな群像劇。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる