恋人が幽霊

由理実

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女子大生と凶悪事件

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警察署に入ったカスミは、名指しで証言を希望した。しかし、警察官からは
「この人達は手が離せないから、他の人じゃダメなの?」
「はい。この人達がいいです。」
「理由は?」
「なんとなく信頼できそうだから。」
「どうしてそう思うの?」
「人相で。」
「彼らも舐められたものだ。そんなに話しやすそうに見えるのか?でも、警察を舐めちゃいけないよ。君の言っている事が嘘なら、偽証罪で逮捕出来るんだからね。」
「彼らならそんな酷い扱いはしないと思いますし、ちゃんと友達が目撃した現場と、そのやり取りを記録したスクショを持っています。」
「それはどうやって手に入れたの?」
「あなたには教えたくありません。」
「私に黙秘するとはいい度胸だねぇ。自分が正しいと信じるなら、君の話を聞く担当は、私でもいいじゃないか。さあ、こっちに来なさい!」
格闘家の一人が、その警察官の肩を掴んだ。
「何なんだ?君は。公務執行妨害で逮捕するよ。」
「手続きが大変だと思いますけど?」
「最近の素人はこれだから嫌だねぇ。耳年増にもほどがある。とにかく、彼らは忙しいんだ。私でもいいだろう。」
「何であなたがそんなに必死なんですか?あとこれ実は、生配信で全世界に流れていますが何か?」
「チッ。生配信だか何だか知らんが、彼らは本当に忙しいんだよ。帰った帰った。」
さっきまでの、しつこい対応とは打って変わって、カスミ達を外に追い出し去って行った。
しかし、この対応を見た視聴者から、この刑事に対する批判がじわじわと湧いてきた。
「いい感じで燃えて来ましたねぇ。彼のデジタルトゥーは、こうして永遠に刻まれました。おめでとうございまーす!」
「カメラ小僧さん、あんまりふざけない方がいいわよ。この事件は、ある人物との裏取引から、警察が捜査に乗り出す事を放棄した、薬物不正売買事件と、その証拠を揉み消すために、二名の尊い命が、無残にも自死を装って殺された、どす黒い大事件なんだから!」
カスミはカメラ小僧を注意するテイを装って、これみよがしに視聴者に向かって大声で呼びかけた。
更に燃え上がるSNS。
この生配信が、警察署内でも話題を呼び、次々と世界中に拡散された。あらゆる言語の非難の声が上がった。
そして、妨害する犯人擁護派の警察官を踏み潰す勢いで、カスミは署内に導かれて、全ての証拠を提出した。ついでに念写君が写してくれた背中にぐっさりとナイフが刺さった男性二人の写真も提出した。
「つまり、二名とも後ろからナイフで刺された上に、海に放り込まれて、ワープロ打ちの遺書だけが残された。こんな、ずさん過ぎる手口を自殺と断定し、全く捜査を行わないとは、警察幹部も相当に酷い腐敗の仕方だな。」
事情が分かって呆れ返った、まともな警察官は、慎重に裏を取り犯人逮捕に至った。
キャスター君は、生配信の中で見事に実況中継を行い、彼が担当するニュース番組のスクープ記事として、ニュース全体の持ち時間を延長してまで放送され、報道としてはあり得ない視聴率を獲得した。
彼の冷静な仕切り能力は、再評価された。以前から、生放送の音楽番組のMCを、幾度となくこなして来たスキルが、この生配信での抜群の対応力として、活かされた瞬間だった。
「いつも温室で、ニュース原稿を読んでいるだけではダメね。あなたを見直したわ。今まで辛く当たって本当にごめんなさい。」
いつも厳しい態度で接していたメインキャスターが、謝罪してくれた。
「いいえ。今までの僕は、覚悟が出来ていませんでした。今回、初めて報道の素晴らしさや大切さ。報道で救われる人達が、実際にいるんだという熱いメッセージに、生まれて初めて接する事が出来ました。こちらこそ、考える機会を与えて下さり、本当にありがとうございました。」
メインキャスターとキャスター君はしっかりと両手で握手を交わした。
今まで1週間に1度のキャスター起用が、月・水・金の起用に変わった。
当然、奥さんの父親も彼の成長を認め、夫婦は元の仲良し家族に戻った。

カスミは幽霊たちとお別れした。ユウキが言う。
「カスミちゃん、生まれ変わったら結婚してね。結婚まで行かなくても、彼女になって!」
「嫌よ。あなたの事なんてすぐに忘れて、この現代を私は生きて行くわ。だからユウキも私の事は忘れて成仏するのよ。念写君、咲江さん、他の幽霊の皆さんも協力してくれて、本当にありがとう!」
「死んだ時は本当に、情けないやら腹立たしいやらだったけど、最後に楽しい幽霊ライフが送れて、本当に良かった。人様の為に何かを成し遂げるのって、こんなに楽しい事だったんだね。私は生きている時に、家族の事しか考えていなかった。私のその生き方が、家族を苦しめていたのかもしれないね。勉強になって良かったよ。ありがとうね。」
と、咲江さんが喜んでくれた。
こうやって、愛すべき幽霊仲間たちは次々と成仏して行った。
こうしてカスミは、素敵な冒険を経験し、前を向いて歩きだした。
そして何事もなかったように、新しい友人たちと共に、楽しいキャンパスライフを過ごした。
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