恋人が幽霊

由理実

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アイドルだって人間だ

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元アイドルのキャスターのスマホにライン通知。長女が熱を出し生死を彷徨っているとの事。
元アイドルのキャスターは
「娘が熱を出して、生死を彷徨っています。病院に行きたいのですが。」
「行きなさい。あなたがいなくても、現場は動くから。早く行きなさい。」
必要ない者扱いは、もう慣れていた。現在の待遇からして、このそっけなさはいつもの事だ。
そして、迷わず病院に駆け付けた。
「今、心電図が止まったわ。」
妻は泣きじゃくった。
「くっそお!」
が・・・。数分後にまた心電図が戻った。
勘のいい人ならお分かりの通り、この数分間の間に、エビデンスの手掛かりが出来た。
生き返った長女が描いた絵は、元アイドルのキャスターにとって、見覚えがある喫茶店だった。
「この喫茶店、実はデビュー前に行ったことがあるんだよ。まだ家族を連れて行った事もないのに、どうしてこの子が描けたんだろう。」
「本当に不思議ね。この子がなんで、行った事もない喫茶店の絵なんて描いたのかしら。しかも、この子にしてはやけに大人びた絵だわ。」
実は、毎回幽霊の集会が行われているのが、この喫茶店の営業時間の終わった、深夜0時過ぎで、ユウキの守護霊が、この少女の手を借りて描いたのだ。守護霊は、その人が死んでも、役割を終えて成仏するまで、守護を続ける。善良な魂であれば尚更だ。

以下、キャスター君とさせて頂くが、仕事が終わった真夜中に、車でこの喫茶店に向かった。そこには一人の女性がいた。カスミだった。咲江さんと念写君の手助けで、例の喫茶店でキャスター君を待っていた。
生きている人間には、生きている人間しか見えない。そして昨晩、幽霊の集会に顔を出して、「パパとママの離婚を止めて!」と顔を出した少女の声と、念写君が撮ってくれたストーリー動画を見せた。
キャスター君の将来に不安を感じた、キャスター君の奥さんの父親が、最近辛く当たるようになり、パワハラが続いていて、煮え切らない態度の奥さんに、苛立ったキャスター君が思わず
「離婚したい。」
と言ってしまったのだ。
そのやり取りを目撃した長女が熱を出し、それは止まることがなく、奥さんが病院に運んだ。そして、息を吹き返した長女の描いた絵を元に、ここに来ていたのだ。
「初めまして。うちの娘が描いた絵が気になって、ここに来ました。最近奇妙な夢にうなされていて。それが連日連ちゃん続いていて、迷信は信じない性格ですが、世の中には都市伝説で片付けられていた現実が、存在するのはご存じですよね。僕も今後のキャリアの為に、また、愛する家族の為に、何かを変えるきっかけになるなら、例え迷信であっても、信じてみようと思ってここに来ました。」
そして、夢の内容を聞いたカスミが、
「はい。それは真実です。」
そして、次々と証拠を突き付けた。更に、もう一度念を押した。
「昨日の深夜、あなたの娘さんから、『パパとママの離婚を止めて!』と言っていたと、友人の幽霊が言っていましたがどうですか?」
「はい。実は私生活で色々とあって、気が付いたら離婚と言う言葉を口走っていました。という事は、この事件は本当にあったことなんですね。」
「そう思っていただいて間違いないです。ただ、犯人は警察とグルになっているので、かなりヤバい案件です。素人の取材は命の危険を伴います。」
「ご安心ください。僕は腐っても現役の芸能人です。信頼できる仲間もいます。声を掛けてみますね。」
すぐに強面な集団がやって来た。
「かの不良系アイドルが兄貴と慕っていたのって、嘘じゃなかったんだ・・・。」
「いかついですけど、ちゃんとした一般人ですよ。全員が格闘家の卵です。普段の仕事は警備員です。警察権力とは無縁の組織だけど、戦闘能力は互角なので安心してください。」
「心配なのは、警察権力と違って銃を保持していない事だけど。」
「じゃーん。ここにカメラ小僧がいる事もお忘れなく。銃なんかよりも、デジタルタトゥーの方が、数億倍怖いって見せつけてやりますよ。それに、これからやる事は、生配信で皆に向かって発信していきます。」
「もう一人の可愛い後輩です。」
こうして役者は揃った。ただ、芸能人を本当に信じてもいいのか、また、人気商売だけに事務所が何らかの、邪魔を入れて来るのではないかと言う危惧もあった。
「カスミさんの心配も分かるけど、キャスター君は離婚の危機にあるし、キャスター君のお仲間も、キャスター君には色々と助けられて来たみたいよ。将来に不安を感じるのは、一般人も芸能人も一緒だから。私だって順風満帆だと思っていたのに、家族の頭の中が急に読めるようになって、そんなに嫌っていたのかと、とてもショックだったわ。だから大丈夫。それに、警察の中で今の腐敗した体質にうんざり来ている人が、何人かいるわ。念写君、顔写真を念写してカスミさんのラインにUPして。」
「はい。名前も一緒に送りますね。」
意を決したカスミ。
「みんなを信じて証拠を持って証言します。何かあったら警備をお願いします。」
「ここから生配信するので、安心して証言して下さい。」
カメラ小僧とハイタッチをして、カスミは警察署に向かって歩き出した。
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