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クォーツ島
朝日はやさしく照らす
しおりを挟む太陽も昇りきらない早朝。
レリスの部屋の扉が激しくノックさる。
「お兄さん! 起きてるかい?」
ドンドンドン!
「……ふぇ?」
レリスはぱちりと目を開く。もちろん今起きたばかりである。
扉の向こうで声がする。宿の女性だろうか。
寝ぼけ切った頭でとりあえずフードだけ被り、扉は開けずに扉の前に立つ。
「ど、どうしましたか?」
寝起きのふにゃふにゃした声が出た。自分で笑いそうになる。
「あら寝てたの? 悪いんだけどね。表の枝撤去手伝ってくれない? 扉開けられないのよ」
「……」
自分は一応客のはずだが。俺の思い過ごしだったのだろうか。
「準備したら行きます」
「早くね!」
どたどたと足音が去って行く。
「……っ、く、ふあぁぁ……」
両手を上げて背伸びをすると、大きな欠伸をひとつ。カーテンを開ける。窓の外はまだ暗いが、済んだ空が広がっていた。
髪は適当に櫛で撫でつけ、サイドの髪を後ろで結ぶ。その間、ずっと外を眺めていたがロッドはまだ寝ているのか、顔を出さない。
顔を洗おうと廊下に出れば、たまたま戻ってきた女性に問答無用で裏口に引っ張られていく。転びかけて一気に目が覚めた。
「まだ顔洗ってないんですが!」
「どうせ顔見えないからいいだろ」
あんまりだ。
宿の女性と道を塞いでいる枝やら屋根の一部やらをせっせと撤去していく。嵐が多い島だからか、こういったゴミを置いておく広場がある。そこにゴミを乗せた荷車で往復。
大きな枝も軽々運ぶレリスに、宿の女性は喜色満面だ。
「最終的に、このゴミはどうするんですか?」
「え? あー。仕事無い奴らが回収してってくれるよ。全部運んでくれたら私らがお金を払うって流れだね」
(……そのゴミはどこへ?)
気にはなったが女性は駆け足で朝食を作りに行ってしまう。楽しいのか明るい性格なのか、鼻歌を歌いながら。空になった荷車を引いてレリスも後に続く。
部屋で休もうとしたが「皮剥いて」と言われた。朝食作りの手伝いをしろという事か。嘘だろ。
足元にくずかごを置いて、適当な椅子に腰かけ皮を剥いていく。
(眠い)
欠伸を噛み殺す。
これはもうこっちが宿代払うのではなくて、お手伝い代金を頂きたい気分だ。
「貴女一人なんですか? ここで働いているのは」
「そうだよ! あんたうちで働かないかい? 男手が無いから力持ちは大歓迎さね! 賄いの他にお菓子も作ったげるよ」
「……」
心が揺れかけた。短期間なら悪くないかもしれない。しかし旅の資金はまだいくらか残っている。
(あまり一つの島でもたもたしていると、ロッドが爆裂不機嫌になからな)
小型ナイフで剥いた皮が足元の桶に落ちていく。
レリスの面倒臭い出来事ランキング一位があの海龍のご機嫌斜め、だ。本当にめんどくさい。どこがめんどくさいかと言うと、八つ当たりでレリスをわりかし本気で殺しにかかってくるところが。
この歳まで生き延びられたことが奇跡だと思う。
長寿の癖にロッドはせっかちだ。早く次の島! 早く次の島ァ! と急かしてくる。卵を見つけたい気持ちはレリスも同じだが、一回深呼吸してほしい、あのもふふわベッド龍。
苦笑を滲ませる。
「すみません。あまり長く一か所に留まれないので」
「あー……。島の皆をだいたい敵に回してたもんね。あんた」
ぐさっと胸に刺さる。
「そ、そうですね」
「やめときなよ。軽い気持ちで龍の卵を欲しがろうとするのは。あれは厄介事しか引き寄せないよ」
宿の女性はすぐ背を向けたが、レリスは愛想笑いの一つも浮かべていなかった。
「ありがとうございます」
「またおいでよ!」
朝食を食べると、宿の女性に礼を言ってから出た。手を振って見送ってくれたのが嬉しかった。
「一番大きいのにしちゃったな……」
クォンツ酒。でかい瓶に入ったものを、有無を言わさず風呂敷で包んでくれた。
真っすぐ海へは向かわず、お世話になった寺院に箒を持って足を伸ばす。
宿の女性が貸してくれた箒が使いやすい。チラチラ見られたが誰も話しかけてこなかった。最後に島の神に一礼してから山道を下る。
途中、破損していた山道の手すりを修復して、高台のわざと目立つところで一人、ぼうっと時間を潰す。高台の掃除係なので、箒はそのまま高台に置いておいてと頼まれた為、隅っこに立て掛けておく。
いい眺めだ。
眩しい朝日から手で目を庇う。
(……来ないか)
何かを探すように、橙色の瞳が左右に動く。陽はすっかり昇り、朝早い島人たちが活動を開始している。高台にもちらほら人がやってきた。
頃合いだ。
(あとはロッドの話を聞こう)
高台から飛び降りようとしたが寸前で、「これ人間がする行動じゃないな」と思い直した。後ろにいた人たちが「自殺⁉」と目を飛び出しかけていたのが視界の隅に入ったのだ。誤魔化し笑いをしながら柵を跨ごうとしていた足を引っ込め、駆け足で海へと続く道へと引き返す。
道に砂が混じり始めると、荒れていたのが嘘のような海が出迎える。……ついでに、こちらを睨んでいる龍の頭も。
ざっざっと砂を踏んでいく。木片やヒトデが散らばる砂浜。
「おはよう。ロッド」
『……おはよう』
挨拶はきちんとする海龍。
「酒買っちゃったから、二人で飲まないか? ここの名産品っぽくてさ。宿の人が……」
『レリス。我は下らん話を聞く気は無い』
ばっさり切り捨てられ、顔の高さまで持ち上げていた酒瓶を下げる。
「……。そうだな。島の人に聞いても情報は無いし、しばらく様子を見たけど同じ目的の奴がちょっかいかけてくることもなかった」
残念そうなレリスに、ロッドも落胆したような息を吐く。龍のブレスでレリスのフードがはためき、外れないように手で押さえる。砂が巻き上がり、背後に落ちていたヒトデが転がっていった。
『ではもう、ここにも用は無い。行くぞ。乗れ』
「ああ」
いい島だからもう少し観光していきたいな~、など言おうものなら、口内に閉じ込められ強制的に出港させられる。ならば素直に従って頭部に乗っかっている方がマシだろう。でかいので口の中でも短時間ならまあ過ごせるが、口の中にいるとべろべろ舐められるのだ。飴扱いしないでほしい。
長い身体をぴょんぴょん跳びながら駆け上がり、頭部の角に掴まる。
龍は未練もなくクォーツ島に背を向けた。目元まで海水に浸かり、泳ぎ出す。
飛沫が顔に当たり片目を閉じる。嵐が去った海の空気のなんと美味いこと。
『……で? レリスよ。その酒はちゃんと甘いんだろうな?』
「しっかり聞いてんじゃん!」
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