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ポルフィディオ盗賊団編
ー 28 ー ポルフィディオ盗賊団編②
しおりを挟む謎の2人組に、ハウスのボスの娘、クリアを攫われた!
「くそっ」
ベネットがぎりぎりと拳を握りしめ、項垂れる。
まさか、あんなにあっさりとクリアを攫われるとはー!
「…レノンに報告だ」
ベネットが、左手首に装着した時計のようなウェアラブル端末を操作する。
ヴォン…!
画面がキラリと輝き、空中にレノンの立体映像を描き出した!
「おおっ!すげえ!」クロロが目を丸くする。
「…ベネットだ。緊急事態が発生した。クリアが攫われた」
『…!クリアが…!』
背景を透過し、鮮明とは言えない映像だったが、レノンが眉間に皺を寄せるのが分かった。
「レノン兄ちゃん!オレだ!クロロだ!なんか、でかいカメラを持ったヤツが、写真の中にクリアを閉じ込めたんだ!」
クロロが立体映像に顔を寄せて叫ぶ!
『…カメラ…!?そいつの風貌は分かるか?』
「ふ、フーボーって、なんだっけ?」
コン太がクロロの頭を小突きながら後を引き取る。
「れ、レノンさん、2人組で、1人は全身タトゥーが入ったプロレスラーみたいな体型の男でした…。きょ、巨大な一眼レフのポラロイドを持っていて…。そのカメラが、おそらくイマジネット・オーラで、写真を撮った瞬間にクリアさんが消えました…。も、もう1人は、女子高生のような制服を着た少女で、強力なオーラ弾を放つ能力者でした!そして、煙のように消えたんです…。あ、あいつらがどうやって消えたのかは分かりませんでしたが…でも、女の子が男に触れた瞬間にいなくなったから、あの女の子の能力かも…」
コン太が敵の身体的な特徴を的確に伝える。しかし、奴らの能力については分からないことだらけだ。
『…なるほど。その特徴…間違いない、そいつらは、ポルフィディオ盗賊団の一味だ』
「ぽ、ポルフィディオ盗賊団…!?」
「やはりか…」
ベネットが歯を食いしばる…!
「厄介ね、これは…!」
【ポルフィディオ盗賊団】
強力なイマジネット・オーラを操り、破天荒な凶事を働く集団。
団のトップがポルフィディオという名の男で、10人程のメンバーで構成されている。
『自らが楽しいと思うことだけをやる』という信念を掲げており、一見ポジティブに聞こえるポリシーであるが、楽しむためならどれだけ残虐なことも厭わない、自制のリミッターが外れた極めて危険な集団だ。
悪事の振れ幅も大きく、「富裕層の財産を軒並み盗んで貧民層に分配する」といった、場合によっては一方の当事者からはプラスにも思えるようなケースもあれば、「人が消えた国家において、どんな過程を経て都市が壊滅していくか」を見るために一つの島国の国民を全員殺害するなど、倫理観を全く無視した凶行を働く。
団長ポルフィディオのタガが外れ切った私欲特化の振る舞いは、ある種のカリスマ性を孕んでおり、それに感化された人間(彼らもまた人としての倫理観が決定的に欠如している)が、団員となり、新たな天災とも言える凶事を生み出している。
倫理観や自制心のリミッターが外れた人間のイマジネット・オーラは非常に強力であり、ハウスであろうとも、賊との対峙は困難を極める。
リミッターが外れた人間には、自身を縛るものがない。できるかな?やってもいいのか?大丈夫か…?そんな概念自体が存在しないがために、異常に突き抜けた能力が発現するのだ。
そして何より、個々の賊の能力も全くの未知数だ。
これまでポルフィディオ盗賊団とハウスが直接敵対することはなかったが、クリアの存在が奴らの琴線に触れたのだろう。
つまり奴らのターゲットになってしまったのだ。ハウスにとって事態は非常に深刻と言える…。
「どっひゃー!そ、そんな変なヤツらなんか!」クロロが飛び上がる!
「て、敵の能力の内容も分からないのか…!」
コン太が唇を噛み締める。
(おいおい、能力が未知数ってマジか…!あのカメラ男は割と分かりやすいけど…見たまんま、カメラで撮った被写体を写真に閉じ込めるんだろう。もう1人の女の子…オーラの威力も反射神経も並じゃなかったぞ…!その場から煙のように消える、回避系の能力なのか…?いずれにしても今まで対峙したパワー押しの能力者とは違いそうだ…!い、一体何が狙いなんだ?恐喝か?い、いや、楽しいことだけをやるっていうなら、深い理由はないのかも?ああー!配属した直後にこの案件は重すぎるだろー!)
「…レノン、すまない、俺がいておきながら」
ベネットの体から、怒りを孕んだ電撃がバチっと走る。
『起きたことはしょうがない。ヤツらを追えるか?』
…!
「…大丈夫、追えるわ!」
リリアンがニヤリと微笑む。
「…え?ど、どうやって?クリアはオーラも無いし、写真になっちまったし!」
リリアンが指先で、耳に揺れるピアスを弾いた。
「クリアちゃんに、私のオーラ・ピアスを渡してある!」
………
……
…
「あっ、リリアン。そのピアス、かわいい」
リリアンの耳には、ゆらゆら揺れる、小ぶりなピアスがつけられていた。シルバーに輝く短いチェーンの先に、パープルとピンクのグラデーションが美しい小さな宝石が、西陽を浴びて煌めいている。
「あっ!これはね、私のオーラで作ったピアスなの。ほら、イマジネット・オーラで好きなもの作れちゃうから!」
リリアンが宝石を指先でつんと揺らす。
「えっ。そうなんだ。かわいいな」
「良かったら、作ってあげよっか?」
「いいの!?やった!」
「ふふ!もちろん!」
そう言いながら、リリアンが手のひらを胸の前に差し出す。
ふんわりとした光が手のひらを包み込み、星屑のような無数の光が瞬いていく…
光の粒が一箇所に集まっていき、一瞬強い光を放ったのちに、リリアンの耳についているものと同じピアスが、ころんと出現した。
「はい、どうぞ!」
「すごい!ありがとう!」
クリアが、笑顔を見せてピアスを手に取る。
…
……
………
「あっ!そ、そうか!」
リリアンが目を閉じる。
「…オーラをトレースするわ…。うん…移動してるけど、おそらく徒歩ね…ここからはまだそんなに離れてないわ…ジメイ神宮のあたりよ!」
『…よし、すぐに追うんだ。俺たちも動く!ただし、ポルフィディオ盗賊団は本当に危険な集団だ。くれぐれも気を付けてくれ』
ベネットの端末からレノンの立体映像が消える。
「よっしゃ!行くぜ!待ってろよ…!クリアっ!」
4人はジメイ神宮がある方角に目を向けた。深刻な事態とは裏腹に、透き通った静かな青空が広がっていたー。
ーその頃
ジメイ神宮。
都市スターノ3番区に隣接する行政区である、13番区にある比較的新しい神社だ。
大都市のど真ん中に存在するが、非常に広い敷地面積を有し、鳥居を潜るとまるで山奥の森に足を踏み入れたような、荘厳な風景が広がる…。
ジャリ…ジャリ…
ズブロッカとヘルメスが、広い参道に敷かれた砂利を踏みながら、敷地の奥へと急ぐ。
「うまくいったが、もう少し戦いたかったな。ちくしょう」
ズブロッカが丸太のような太い腕をブンブンと回す。
「…うん、我慢しなさい。あとで目一杯遊べるでしょう」
ヘルメスが小走りで駆けながらズブロッカを見遣る。
「だといいがな」
言いながら視線を上に上げる。
「おい、ウィルキンソン!見えてんだろ?もうじきにそっちに着くぜ!どうだ、ベネット達は追ってきてるか?」
ジジ…
2人の頭上に、ハエのような大きさの人工衛星が浮かんでいる。
『全部見てたよ。お疲れ様。別の機が奴らの様子を捉えてる。全部の会話を把握するには距離が離れすぎてるけど、これ以上ヤツらに近づくのは無理かな。で、ハウスの上層部…レノンだと思うけど、報告してるね。あと、僕らを追える手段もありそうだ』
都心とは思えない静寂の中、鳥の鳴き声に混じって、古いラジオみたいな不鮮明なウィルキンソンの声が上空から降り注ぐ。
「やっぱ追えるか。まあ、そりゃそうか。ボスの大事な娘が攫われたんだからな。だが、あんまり早く特定されると社長の調査時間が減っちまうんだろ?やっぱ俺がベネットたちを潰しとくか?」
ズブロッカがぼてっとした瞳を輝かせる。
『残念、バカルディがスタンばってるよ』
頭上から無機質な声が降る。
「ちっ。そうかあ。あいつらと遊びたかったなあ」
「うん、まあ、すぐにハウスからもっと手だれがくるから。我慢しなよ。あなたが現像しないと、それ、出てこないでしょ」
ヘルメスが、ズブロッカの指先の写真を指差す。ポラロイドの中ではクリアが絶望の表情のまま閉じ込められていた。
「ふん、わかったよ、くそっ。現像したらすぐに暴れてやるからな」
………
……
…
3番区、銀杏並木通りー
「よし、ジメイ神宮方面に向かう。飛ぶぞ!」
その時…!!!
ゴゴゴゴゴ…!!!
体の芯に響くような地鳴り!
「!!!」
ボボボボボン!!!
銀杏並木通りに埋め込まれていたマンホールの蓋が一斉に天高く吹き上がった!
「なっ…!?」
クロロが天を仰ぐ!
マンホールの蓋は、不規則に回転しながら宙に揺れている。その数、視界に入るだけでも、数十といったところだ…!
周囲一帯の蓋が吹き飛んでいる…?
グオオっ!
その一瞬後!
体全体が地下に向かって引き込まれた!まるで、巨大な掃除機に吸い込まれるように…!
!!!
ボコン!!!!!
4人がいた歩道が崩れ、アスファルトごと強烈な力で地中に引っ張られる!!!
「うわあああ!!!」
ドシン…!
………
……
…
「うう…、こ、ここは?」
コン太が回る視界にふらつきながら上体を起こす。
ガタ…ガタ…
不規則に揺れている…?
ジジ…と、点滅する灯りが空間を浮かび上がらせる…。
地下鉄…!
視線を上に向ける!
今いる車両の天井は、車内から大きな力で突き破ったような、巨大な穴が空いており、黒く無機質な地下トンネルの肌が、凄まじい勢いで通り過ぎていく…!
この穴から引き摺り込まれたのか…!?
は、走る地下鉄で!?い、一体どうやって…?
「みんな、無事か?」
ベネットが立ち上がり、周りを見渡す。
「おおっ!いちち」「な、なんとか…」「やれやれね、全く」
「どうやったのかは分からんが、走行するメトロに乗せられたようだ…行き先は…」
点滅する電光板が電車の目的地を示している。
「り、リバー…オーバー?なんだ?変な名前だな」クロロが首を傾げる。
「都市スターノから離れていってる…!」
コン太が目を見開く!
『リバー・オーバー』と言えば、都心から少し離れた人気の観光スポットだ。数百年前の当時の街並みが残存し、中でも古い時計台が街のシンボルになっている。
「ちっ!リリアン、クリアの居場所は分かるか?」
リリアンが目を閉じる…「…うん、まだ分かるわ!でも離れる度にクリアちゃんの場所が曖昧になっていく…」
「早く脱出するぞ!クリアから引き離すために、電車に引き摺り込んだんだろう!メトロなら駅間も短い!次の停車駅で…」
グオーーー!
その時、窓の外から明るい光が差し込み、数秒で通り過ぎて行った!
!!!
駅だ!!!
メトロの区間は各駅停車のはずだ!
ググン…!
「お、おい…何かスピードが上がってねえか…?」
間違いない…!加速している!
「ただの地下鉄じゃない…。どうやら、敵のテリトリーに入ってしまったようね…!」
この車両には乗客はいないようだが、他の車両は不明だ。
このスピードのまま目的地に到着すれば、客がいろうがいなかろうが、どっちにしても駅ごと吹き飛ばす大惨事だ…!
「…電車を止めるしかないな」
ドア横のプレートには7の数字が確認できる。
今いるのは7両目…!
バチっ!
天井の穴から聞こえくる轟音を背景に、壊れたライトから火花が飛び散る。
点滅する車内…前後の車両も、漆黒の闇が広がり様子が見えない…が…!
ー 異様な気配 ー
ザワ…!
!!!
今、闇の淵が動いた…?まるで巨大で真っ黒なアメーバのように、影の輪郭が蠢いたのだ!
ザワザワ…
…間違いない!
「警戒しろっ!」
ベネットが右手から電気を球体状にして放出し、空間に浮かべた!
光の帯がカッと広がり、周囲を照らす!
!!!!!
そこには、ソフトボール大の真っ黒なダンゴムシのような虫が、夥しい数で群がっていた!黒い影のように見えていたのは、隙間なく密集した虫の群れだったのだ!
「ぎゃー!!!」
リリアンが髪を逆立てる勢いで絶叫した!
「さ、最悪!私、虫が全宇宙で一番大嫌いなの!」そう言って、頭を抱えてしゃがみ込む。
「ちっ…!電車を停めるぞ!すぐにだ!」
「おうっ!」「はいっ!」
ベネット、クロロ、コン太がバシュッと全身からオーラを噴き上げて虫の群れと対峙する!
ダンゴムシのような虫は、ベネットが放った電気とオーラの圧に驚いたのか、ガサガサと体を波打たせて動き回りながら、3つの赤い目でクロロらを睨んだ!
そして、カッターの刃のような前足をギラリと光らせる!
電車を停めるには、一刻も早く運転室へ向かうしかない!
運転室は先頭車両にあるはずだが、隣の車両は虫の群れがみっちり詰まっていて、まるで巨大な黒い壁のようだ…!
「いっちょ前に威嚇しやがって…!一気に片付けてやる!」
クロロの体からオーラの光が迸り、白金の輝きが車内を照らし出す!
「3、2…」
右腕を大きく背の方へと引いていく。
煌めく光の粒が右の掌に集まり、銀河のような光の渦を形作っていく…!
「…1っ!」
光の渦が弾けるように膨らみ、波紋を成して周囲に広がる!
「ファイヤー!」
ズドン!!!
ロケットランチャーのような、一抱えもある光弾が爆炎と共に飛び出した!
ゴオオオ!!!!!
黒い壁に着弾する!
車両を埋め尽くしている虫の群れが次々とかき消され、光の粒子となって宙を舞っていった…!
…シュウウウ………
オーラ弾が通り過ぎた轍から、白い煙が立ち昇っている…。
「…やはりこの虫、オーラで出来ているようだな…先頭車両に急ぐぞ!」
ベネットが先導して6号車の方へと駆け出す。
クロロ、コン太、リリアンが後に続く。
「ほんっと最悪だわ!鳥肌が止まらない…」
リリアンが両手で体を抱きながら、顔を顰める。
クロロの光弾により、5号車までの虫の群れが一掃されたようだ。
しかし、その先では車内が黒く塗りつぶされたかのように、天井、壁、床に虫の大群がびっしりと蠢いている…!
「この車両もオーラの気配がしねえな…人は乗ってなさそうだぜ!」
「ま、まさか、虫に食べられたのかな…?」
「コン太…嫌なこと言わないで!は、早く片付けて!」
リリアンがクロロとコン太の背を押しやる。
「オッケー、わかったぜ!」
「よ、よし、オーラ弾をぶちまけてやる!」
指先にオーラの光を集めると、空間を扇ぐように掌を薙ぎ払った!
ボボボボボン!
指先から細かなオーラの光が弾け飛び、複数の虫が消滅していく。
「…この虫、襲ってくるわけでもないし、オーラ弾ですぐに消えるし…なんか少し拍子抜けですね」
確かに、車両を埋め尽くすほどの数の多さには驚いたものの、対処は非常に容易だ。このペースなら、先頭車両にもすぐに到達できるだろう。
「…コン太、油断は厳禁だ。こんな、障害物にもならんような能力を、わざわざ盗賊団メンバーが使うはずがない…。必ず何かがある。慎重に進め」
ベネットの電撃が、光の波のように車両を走り抜け、オーラに触れた虫がかき消されていく。
(…慎重にとは言え…、じっくり時間をかけるわけにはいかない…くそっ、罠に嵌っていっている気がしてならん…!)
ベネットが冷や汗を拭う。
先に進むしかないが、待ち受けているものは何だ…?
嫌な予感に無理やり蓋をし、次の車両へと急ぐ!!!
………
……
…
3番区、銀杏並木通り。
約10メートル四方に渡り地面が崩落した銀杏並木通りは、早朝の静寂とは別世界のように、騒然としていた。
警官、消防や救急隊員が数十人単位で駆けつけ現場検証を行っており、物々しい赤色灯が銀杏の木肌を赤く染めている。
非常線の外では、報道アナウンサーとカメラマンが崩落の様子を伝え、3番区周辺にいた買い物客らが野次馬と化し、ごった返している。
ジジ…
銀杏並木の上空…崩落現場の様子を人工衛星が捉えている。
「バカルディ、うまくやったみたいだね」
ウィルキンソンが映像を見ながら呟く。
ウィルキンソンの前には、まるでモニタールームのように大小様々な壊れかけたブラウン管テレビが積み上げられ、その一つに崩落現場が映し出されていた。
何十台ものテレビが置かれているのは、昨晩の廃墟ではなく、木製の柱と板敷の床が広がる、ガランとした空間だった。
ところどころに三角コーンや木材、工具等が置かれており、天井からはコードが垂れ下がっている。
建築中かもしくは修繕途中の建物の中のようだ。
「それにしても地下鉄とはいい舞台じゃねえか」袈裟姿の団長、ポルフィディオが板の床に肘をついて寝転びながら、ニヤリと笑う。
「ああいう密室めいた場所じゃ、バカルディは文字通り最強だろう。ベネットたちはこれで終わりだな。地下鉄内の様子は見れないのか?」
ウィルキンソンが両手を上げて答える。
「戦闘中の狭い空間に人工衛星を飛ばすのはちょっと無理かな…多分、秒で壊れる…」
ウィルキンソンの人工衛星は、操作範囲も操作個体数もずば抜けている一方、強度はほとんどゼロなのだ。壁にぶつかる程度の衝撃でも、使い物にならなくなる。
「まあ、そうか。んじゃ、バカルディの報告を待つしかねえか。レノンや他のハウスの連中の動きにも警戒といてくれ」
数十台のブラウン管テレビには、都市やジャングル、島に山岳、室内から屋外まで、あらゆる場所の監視映像が映し出されていた…!
「ベネットたちもそろそろ、異変に気付く頃だろうが…気付いた時にはもう遅い、ってやつだ」
ポルフィディオがパンと膝を打って立ち上がる。
「さあ、ズブロッカとヘルメスももうじき到着するぞ。あいつらが来たら、すぐに現像しよう」
…
1号車…
「はぁっ、はぁっ!くそっ、キリがねえ」
クロロの目の前には、虫たちが一つの巨大なモンスターかの如く、塊となって蠢いている。
「しかも、なんか変だ!さっきから虫がなかなか倒せねえぞ!」
5号車、4号車付近ではオーラ弾の爆発で即座に消滅していた虫の群れが、3号車を越えてからはオーラ弾の一撃では倒れなくなっていた。
凶暴性も増しているのか、鋭利な刃を持つ前足を振りかぶり、襲いかかってくる。
そして、真っ黒だった体表が、少しずつ赤みを帯びてきている…?
「運転席に能力の主がいるのは間違いない。近づくほど、能力が強くなってるんだろう…。気を抜くなっ!」
ベネットの指先から蒼い電撃が迸り、1号車を埋め尽くす虫の群れに直撃する!
ズオオオオオオ!!!
「まだまだだっ!」「いくぞっ!」
クロロとコン太が追い打ちをかけるように、マシンガンの如く両手のひらからオーラ弾を撃ち出していく!
ドドドドドドドドド…!!!
絨毯爆撃のようなオーラの弾幕により、黒い虫の群れを焼き払う!
「はぁっ!はぁっ!1号車も運転席の前以外は全部やっつけたぞ!あとは目の前のやつだけだな!」
運転室と乗客スペースを隔てる仕切りを覆い尽くすように、赤黒い虫の大群がうじゃうじゃとひしめいている…!
「ほ、ほんとに最悪ね…!もう私、今日は悪夢を見る気しかしないわ…」
リリアンが青白い顔で眉を顰める。
「…こ、これが最後の砦だな…!こ、この先に能力者が…!?」
コン太がごくりと唾を飲みこむ。
「同時に攻撃するぞっ!コン太っ!」
「よ、よしっ!」
クロロとコン太の体から、白銀のオーラがバーナーのように燃え上がる!
「お前たち、オーラを残しておけよ!」
ベネットが息を切らしながら叫ぶ。
攻撃をかわしながら、高耐久の虫を倒していくのは、地味であるが体力もオーラも大きく消耗する…!
「まだまだ大丈夫だっ!コン太、3つ数えて一気にブチ破るぞ!」
「オッケー、おまえの必殺技に乗ってやる!」
3…、2…!
クロロの右手とコン太の左手を重ねて、同時に背の方へと引いていく…!
1…!!!
ゴオオオっ!!!
2人の巨大なオーラが渦を巻きながら膨らみ、激しい光の奔流となって空間を包み込む!
「ファイヤー!!!!!」
クロロと、コン太が同時にオーラの塊を解き放った!!!!!
ズドドドドドン!!!!!
光の塊が運転席の前に群がる虫たちを消し去って行く…!
ブワワワ…!
虫たちが小さな花火みたいに、光の粒子となって弾け飛んだ…!
光の粒子は、しばらく宙を漂った後に、運転室の方へと吸い込まれていった…!
(…!?虫から弾け出た光が運転室へ?一体…)
そのとき、運転室に繋がる仕切りがクロロたちの方に向かい、ボコボコと盛り上がる!
「ふせろっ!」
ベネットが叫び、クロロたちが咄嗟に床に体をつける!
ブオオオっ!
運転室の仕切りが乗客スペース側へと吹き飛び、バラバラになった仕切りの残骸が車両一面に突き刺さった!
ゴゴゴゴゴ…
!!!
「ふほっ!よく来たね!」
フロントガラスを背に運転席の操作パネルに腰掛け、フランケンシュタインのような風貌の男が大ぶりのハンバーガーを齧りながら手を振っている!
ずんぐりむっくりの大柄な体を真っ黒な衣装ー黒のタートルネックに、黒のジャケットとパンツーで包んでおり、顔や手など見えている肌の部分はツギハギだらけだ。
ギョロリとした目と大福のような鼻。短く刈り込んだ頭髪も真っ黒だ。
そして、異様なのが運転室内いっぱいに積み上げられたハンバーガーだ。100個以上は軽くあるだろう。
「…どうなってる?なんだこいつは…」
「き、気味が悪い悪いやつね…」
フランケンシュタインのような男は、傍のハンバーガーを器用に両手で3個ずつ掴むと、あんぐりと大口を開けて、6個を一気に口の中に詰め込んだ!
アグアグアグアグ…ゴクゴクゴクン…!
「ぷはあ!ああ、すごい。お前たちが大量にハンバーガーを寄越してくれるから…。この量はなかなか食べ応えがあるよ。おかげで、うちの子達も相当進化したよ」
ハンバーガーを寄越す…?進化…?
一体こいつは何を言っている…?
ベネットの額から冷や汗が流れ、頬を伝って床にポタリと落ちる。
ハンバーガー男の背後の窓から駅の光が迫り、一瞬で通り抜けていった。
操作機器に取り付けられているレバーは手前側に目一杯引かれており、レバーの近くにある計器類は破壊されているようだ。
ハンバーガーに隠れてよく見えないが、おそらく、速度制御やブレーキ、緊急停止に関連するシステムは軒並み物理的にダウンさせられているのだろう。
「あ。自己紹介が遅れたね。俺はバカルディ。ポルフィディオ盗賊団の団員だよ。それで、君たちのことは…あーん、アグアグアグアグ…分かってるから、アグアグアグアグ…挨拶は不要だよ」
バカルディと名乗った男は、しゃべりながら、息継ぎをするようにハンバーガーを頬張っている。
…シチュエーションが異常すぎる…。
今までどこかで見たような要素は、全く無い。
異常すぎるシチュエーションは、思考能力を停止させる。経験も知識も通用しないから、連想もできないし、想定も立てられない。
何か行動をする際の選択肢やパターンも大量に生まれるので、判断に遅れが出る。
だが、ここまで異常だと、何かを考えるのも無駄だから、むしろ単純かもしれない。
ベネットの体からバヂッと青白い電気が迸り、右腕に螺旋状のスパークを纏う!
「シンプルに、てめえを焼き尽くすだけだ!!!」
ズドン!!!
特大の雷撃が、バカルディの顔面に直撃した!
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