クロロの大冒険〜田舎の少年が組織に入り”オーラ”を習得、葛藤や紆余曲折を経て大人になり親になり、やがて星を救う物語〜

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ポルフィディオ盗賊団編

ポルフィディオ盗賊団編 ープロローグー

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チチチ…
 
数羽の小さな鳥たちが、石畳の道路に影を落としながら飛び去っていく。
その後を追うように、微風が銀杏並木を横切り、扇形をした緑色の葉をサワサワと揺らしていく。





世界有数の都市であり、1番区から23番区までの区部と、その他郊外地域からなる。
面積は小さいものの、政治・経済・文化の中心として、あらゆる機能が集積している。
経済的に最先端で、巨大なマーケットが構築されている一方、文化的にも豊かであり、伝統と現代が融合した多様な文化が息づいている。
緑豊かな公園も多数整備されており、大都市でありながらも、その喧騒を忘れられるスポットも点在している。

このも、そんな自然を感じられるスポットの一つだ。
区部の中でも特に洗練されたエリアである3番区の中にある。

国内外のあらゆるハイブランドーファッション、貴金属、時計、インテリア、自動車ーや、高級グルメ、エンターテイメントを巻き込んだ商業ビルが、区の中心を貫く国道沿いに立ち並んでいる。

そのメイン・ストリートの脇から、一本の道が延びていて、見上げるほどの大きな銀杏が等間隔に整然と並んでいる。

国道沿いとは打って変わって閑静な銀杏並木通りの先には、都心とは思えないほど大きな森を有する一画が広がっており、歴史的建造物や競技場、BBQが出来る公園などが点在しているー。



「風が気持ちいいなー!」
銀杏の樹の一つに寄りかかりながら、クロロが大きく深呼吸をする。

「おい、クロロ!もうじきにベネットさんとリリアンさんも到着するだろうし、そろそろ気持ちをビシっとさせろよ、ビシっと!」
コン太が落ち着かない様子で銀杏の間をウロウロしながらクロロを睨みつける。

(つ、ついに正式配属になってからの最初のミッションか…!そ、それもVIPの護衛とは…!政府の高官か?大企業のCEOか?い、いや、なら警察の出番だろう…。わざわざハウスが護衛するとなると、高官やCEOといっても宇宙人とか地底人とか…?うう、まるで想像がつかん…!)

「おいっ!コン太っ!」
クロロがバシンと背中を叩く!

「キンチョーすんなよ!大丈夫だって!、だっけ?ビシっと守ってやるよ、へへ!」
クロロが得意げに右手を胸に打ち付ける。

「お、おまえ…VIPってのは人の名前じゃないんだぞ、最重要人物を指す言葉だ…」

「へ?そうだったのか!んじゃ、名前、聞かないとな!間違えるとこだった!サンキュー!」
クロロがニカと微笑み、コン太がやれやれと首を振りながら天を仰ぐ。


「しかし、きっついなー、この服は!ミッション始まる前に疲れちまうぜー」

クロロとコン太は、ハウスメンバーのドレスコードである、を纏っていた。
白のシャツを除き、ジャケットもパンツも靴もタイも、オールブラックだ。

ただし、通常のスーツとは異なり、生地が驚くほど軽く伸縮性があり、クロロみたいに年がら年中みたいな格好でない限りは、窮屈さを感じないだろう。
ぐっと引っ張っても破れる気配は全くなく、耐久性が非常に高いようだ。多少のダメージにはびくともしない、特殊な素材で仕立てられているのだろう。

「我慢しろよ!…てかおまえなんでネクタイをしてないんだよ」
コン太が自分のネクタイをクイっと引っ張りながら言う。

「窮屈じゃねえかよー、それに付け方も知らねえし」

「はあ…。先が思いやられるな…。あっ!もうすぐ9時になるぞ…!昨日カナドラゴから指定された時間だ!」

………
……


レビオラでの激闘の後ー
クロロとコン太は、ベネットチームへの配属が決まったのだった。

「近いうちに、ミッションの司令がカナドラゴを経由して入る。それまでは自由にしていろ」
ベネットはそう言い残し、リリアンと共に、レビオラ本部から飛び去って行った。

「ミッションがあるまでは自由時間ってことなのか…?」
「まっ、とりあえずモーリーのところに戻ろうぜっ!」



「おめでとうございます!!!」
イーマ国立公園に開けられたから、に戻ると、モーリーが満面の笑みで出迎えてくれた。

「ははっ!ありがと!でも腹へったなあ」
クロロが右手で腹をさする。

「…おまえ…ボクはもうヘトヘトで、このまま寝たいよ…」
コン太が白いテーブルに突っ伏しながら言う。

「ふふふ。まあ、それはそれは疲れたでしょう。しばらくゆっくり…と言いたいところですが…。どうやらそうもいかないようですね」
カナドラゴが椅子の下から顔を出すと、ぴょんとジャンプしてテーブルの上に飛び乗った!

「!!!か、カナドラゴ!」
「おっ!もうミッションってことか!?」


ズ…
ズズ…
ズズズ…


カナドラゴの胴体に文字が浮き出る!

… 明日… 午前9時……
VIP…護衛…
都市…スターノ…3番区
国道から…
17本目の…銀杏…

「ぶ、VIPのご、護衛!?これが、さ、最初のミッション!?しかも、明日って…ま、まじか…」

「うほっ!いきなり明日か!なんだかよく分かんねえけど、やったな、コン太!」

はしゃぐクロロの横で、コン太が冷や汗を流す。
(や、休みもなく、早速明日からミッション…!こ、これはなかなかブラックじゃないか…!?そして、VIPの護衛だって!?場所は都市スターノ…!3番区で銀杏並木と言えば、246を折れた先の場所か…?)

その時、カナドラゴが体をひねり、もう一方の胴体を差し出した。

…スーツ…を……
支給…する…

カナドラゴがプルプルっと体を震わすと、鱗の隙間から、2つのが転がり落ちた。
丸薬みたいに、非常に小さいものだ。

「なんだこれ!?」
クロロが指でつまんで目を近づける。

「クロロさん、指で押しつぶしてみてください」
モーリーの言葉を受け、指にぐっと力を込める!

ボンっ!

指の間から煙が吹き出し、黒いジャケットやパンツ、シャツやタイが煙の中からひらひらと飛び出した!
一拍遅れて黒い革靴が、トンっと床に転がる。

「わわわ!!!」

「ふふ!これがハウスのドレスコードである、ブラックスーツです。ミッションの際は、基本的に着用してください。私やジュディさんのようなサポートメンバー以外は、原則、これがユニフォームとなりますよ」

確かに、ベネットやリリアンをはじめ、幹部のレノンやライアンもブラックスーツ姿だった。

「で、でも、こんな豆粒みたいなものにどうやって…」
コン太が吹けば飛ぶような丸い粒に目を近づける。

「これもハウスにいるサポートメンバーのイマジネット・オーラです。物体を構成している要素を分解し圧縮して、小さな球体の中に閉じ込めています。
また、カナドラゴが運んできてくれましたが、これは彼らの習性の一つです。
カナドラゴは一つの地に留まらず、かなりの距離を旅しながら生活します。そのため、木の実などを鱗の間に挟んで移動するのです。こういった丸い粒は、運ぶのにうってつけなんですね。
ミッションの際に必要なアイテムがあれば、カナドラゴが持ってきてくれますよ」

「ほえ~賢いんだな、おまえって!」
クロロがカナドラゴの頭を撫でてやる。

「では、今日はゆっくりと、ここで休んでいってください。明日朝に、指定の場所の近くまでお届けしましょう」



翌朝…

「あー、よく寝た!おい、コン太!何をシケた面してんだ?」
「お前のいびきがうるさかったんだよ!って、前も同じくだりをやった気がするぞ…!くっそー、モーリーさん、次は絶対こいつと別の部屋にしてくださいよ!」

スーツに着替えながら、コン太がクロロを小突く。

「ふふふ。そうですね、ただ、残念ながら、私とは今日でお別れとなります」

「ええっ!なんで!?」

「私はリクルーターです。君たちがメンバー入りした以上は、役目が終了となるのです。残念ですが…。
でも、短い間でしたが、私も君たちから多くを学ばせてもらいました。とはいえ、同じ組織ですから、いずれまた会えるでしょう!その時は、一緒にお仕事ができるといいですね…!」

「も、モーリーさん…!」
コン太の目が潤む。

「…わ、わかった!モーリー!絶対にまた会おうな!そん時は、オレももっともっとでっかくなってるから!」
クロロがニカっと笑う!

「モーリーさん!ボクだってきっと!今以上に逞しくなってみせます!」
コン太がぐっと拳を握りしめる。

「ふふふ。楽しみにしていますよ!私も君たちに負けないように、『イエロー・サブマリン』の能力アップに励みますよ!必ずまた、会いましょうね!」

そう言って、モーリーが拳を差し出した!

「おう!絶対だぞ!」「はい!必ず!」
クロロとコン太も腕を上げると、3つの熱い拳をコツンを打ちつけた!

キイっと白いドアが開き、透明な朝の光が白い部屋に差し込む。

「んじゃ、いってくる!またな!」「いってきます!」
先ほど打ちつけた拳を掲げ、光の中に足を踏み出した!

………
……


「まだかなー!ミッション!なんだろうな!大冒険か、アドベンチャーか!」
クロロが銀杏の葉をつまんでひらひらとかざす。

「…冒険も、アドベンチャーも、同じ意味だろーが」

コン太がため息をついた、その時…


「早かったな、クロロ、コン太」「おっはよー!」
銀杏の幹の背後からベネットとリリアンが姿を現した。
モーリーと同様、空間を繋げる能力を持つ組織員によるものだろう。

そしてベネットとリリアンに挟まれるようにして、1人のが立っていた。
年齢はクロロ、コン太と同じ15歳くらい。
シルバーに近いアッシュ・ブラウンのロングヘアーで、毛先を薄いピンクに染め上げている。白い肌に、透き通ったブラウンの瞳。真っ白なワンピースを纏っている。

後ろ手に腕を組み、不貞腐れたように眉を顰めながら視線を落としている。

(か、かわいい…!け、けど、なんだか機嫌が悪い?)
コン太がどう反応するのが正解なのか、反射的に頭をフル回転させる。


「おう!遅かったなー!待ちくたびれたぞー」
クロロが能天気に声を上げる。

「…言ってなかったが、次からはミッションは時間ピッタリに来るんだ。早く来すぎることが、場合によってはリスクになるからな」
ベネットが、立てた人差し指から電気を発し、を形作る。

「おっけー!そんで、そいつがってやつか?」
クロロが女の子に向けて、ビシッと指を突きつける。

女の子が眉を顰めたまま、クロロに向かって視線を上げる。

「ばっ!ばか!おまえ!ははは、すみません、失礼なアホで、こいつ」
コン太がクロロの頭を小突きながら苦笑いをする。

「…ふん」と、女の子がため息を吐いて、目を細めてクロロとコン太を見遣る。

「紹介するね!。この2人がチームの新メンバーのクロロとコン太よ!クロロ、コン太。この子は、クリア。さんよ」
リリアンがニコニコと笑いながらさらっと紹介する。

「え…?い、いま何て…?」
「ぼ、ボスの、娘さん?」
クロロとコン太が目を丸くして、リリアンと女の子を交互に見る。

「そっ。よ。まあ、VIPもVIP、ってとこよね」
リリアンがウインクをする。

「どっひゃー!す、すげえ!」
「よ、よよ、よろしくお願いします!」



「今回のミッションを説明する」
ベネットが鋭い眼光で周囲を警戒しながら、神妙な面持ちで口を開く。

銀杏並木の通りは、まだ朝も早いこともあり、人通りはほとんどない。
たまにジョギングをしている人や、犬を散歩している人とすれ違う程度だ。

「ミッションは至ってシンプルだ。だが、明確な完了時間や完了条件が決まっていない。状況に応じてフレキシブルに対応する必要があり、拠点の制圧に時間がかかることもあれば、あっさりといくこともあるだろう。再度同拠点での作戦が走る場合もある。覚悟をしておけ」

クロロとコン太がゴクリと唾を飲み込み、ベネットの一言一句に神経を集中させる。
戦場でも敵地でもなんでもないこの3番区の街で、一体どんなミッションが待ち受けているのか…。

「この後、作戦のための移動を開始する。徒歩での移動だ。今回、最も攻め入るべき拠点に、いきなり向かうことになるぞ…」
ベネットがギラリと目を光らせる…!


「いやいやいや、ベネット、ちょい待ち!」
リリアンが腕を振りながらベネットを制する。

「仰々しすぎるって!今回のミッションは護衛!の、ね!」

「か、かいもの???」

そよそよとした肌触りのよい風がクロロたちの間を吹き抜ける。

「そう。プランを説明するわ。今日は『ギャラリー・プロダクツ』の新作発売日なの。君たちは知らないと思うけど、ギャラリー・プロダクツは、この国を代表する超人気のハイブランドよ。新作が発売されると、間違いなく即日完売になるくらい。ってわけ」

「ぼ、ボスの娘さんでも、入手できないような代物なんですか?」

ブランドのことはよくわからないが、ハウスだったらいくらでも入手手段はありそうなものだ。
少なくとも、ボスの娘がわざわざ直々に、護衛をつけてまで出向くようなものではない気がするが…。


「…ふう、そうじゃないの」
ボスの娘、クリアが口を開く。不機嫌そうな表情は変わらないが、透き通ったかわいらしい声だ。

「そうじゃねえって…じゃあどういうことだよ?」

のよ。何でも貰えたんじゃ」
クリアが少し頬を膨らませながら、視線を下げる。

「え?な、なんでも貰えたんなら、いいじゃんかよ」

「わかってないわね。蛇口をひねっていつでも飲める水と、砂漠に放り出されて、喉がカラカラな時に飲む水とじゃ、同じ水でも価値は別モノでしょ。そういうこと」

「…な、なるほど…。分かったような分からないような…」
コン太が苦笑いをする。
(うーん、つまり、手に入れようと思えばいつでも手に入るけど、それじゃあ思い入れも何もないから、他の人と同じように、いくつかのハードルを乗り越えてゲットしたい、ってことだよな?
ちょ、こ、これは。一言で言うと、に付き合わされてる、っていうことじゃないのか!?ま、まあ命の危険がありそうなミッションじゃなさそうなのは良かったものの…)


「はは、全く意味が分かんないや!けど、買いモンに行くってことは分かった!んじゃ、行くか!」
クロロがGO!と言うように右腕を振り上げる。

「そうね!こうしてる間も行列は延びてるだろうから、向かいましょ!」
リリアンが国道側に向かって足を踏み出した。



国道と森を繋ぐ銀杏並木の通りは非常に静かだったが、メインストリートにあたる246は、ひっきりなしに自動車が行き交い、広い歩道も多くの人で溢れていた。

『ギャラリー・プロダクツ』は、この国道を13番区方面に少し進んだ先の交差点にある、商業ビルのB1Fにあるショップだ。
著名な建築家が設計した歴史ある建物で、ブラウンの外壁が近隣のランドマークになっている。
ファッションブランドのショップや飲食店が入居している他、屋上にはテニスコートが設置されている。

クロロたちが国道沿いを進んでいると、歩道の脇に長い行列が出来ていた。
ざっと100メートルといったところか。
行列のほとんどは若い女性で、ブラウンの壁色をした商業ビルの入り口まで続いている。

「ここが最後尾のようね。想像以上に並んでるわね。買えるといいけど」
リリアンがクリアに目をやる。

「うん、でもね。買えるか買えないか…ドキドキするし…」
クリアが少し不安そうな表情で行列の先を伺っている。
不機嫌そうな面持ちが和らぎ、代わりに10代の少女そのものの、ちょっと幼なげな表情を覗かせる。

「人がすげえなあ!でも、なんでみんな店の中に入らねえんだ?」
クロロがおでこに手のひらをかざしながら言う。行列の先頭はさっきから止まったままで、こうしている間にもクロロたちの後ろに人が並び始めている。

「オープンが11時だからよ。あと約2時間、待たなきゃね」

「に、2時間だってー!?そんなに待つんかー!!!」
クロロがバカでかい声で叫ぶ。
その騒々しさに、前後に並んでいる人が露骨に嫌な顔をして距離を空ける。

「このバカっ!VIPを護衛してる人間が目立ってどうすんだ!」
コン太が声のトーンを落としながらクロロを睨みつける。

「ふん。まあ、目立とうが隠れてようが、狙われる時は狙われる。大事なのは常にの範囲を広げておき、何があっても焦らずに冷静に対処することだ」
ベネットが呟く。
ベネットは自身を中心とした半径100メートルにの網を広げていた。この範囲で、
不審なオーラの動きがあれば即刻、イマジネット・オーラであるで対処する。
100メートルの範囲であれば、どんな攻撃を受けようがベネットの電撃の方が速い。

もっとも、敵がオーラをして近づく場合は察知では捉えられないので、瞬間的な判断と対応が求められることになるが…。

「おう!!!まかせとけ!!!」
「だからうるさいってんだよ!」
クロロの背中をコン太がパシンとはたく。





「なあ、クリア!ボスの娘ってことは、ってことだよな。聞かせてくれよ、ボスのことをよ!」
クロロがさらりと問いかける。
コン太もずっと気になっていたが、さすがに簡単には聞けない内容だった。
こういう時に、能天気でなクロロは頼りになる。

「…しらない」
クリアが視線を落としながらぽつりと言う。

「はは、知らないってことはねえだろ、とうちゃんなんだし」

「そう。父親、らしいけど」

「ら、らしいって」

クリアが振り向いて、クロロをキッと睨みつける。

「会ったことがないのよ!どんな顔をして、どんな声をしてるのか、何一つ知らないの!母親もそうよ。母親のことも知らない。
気づいたときには、ボスの子供ってことで、小さい頃からハウスの人たちに守られながら…、1人で暮らしてきたの」

クリアが堰を切ったよう一気に言い切った。

重い空気が流れる…
コン太の額から冷や汗が流れる。

(な、なんと…ボスの娘と言っても、ボスに、実の親に会ったことがないということか…。複雑な境遇の子なんだな…育ての親がハウスの組織員ってことか。
ボスの娘だから、きっと腫れ物に触るような扱いをされて、一方で欲しいものは何でも与えられて…。そんな風に育ってきたから、こんなキツそうな性格になってるのか?
母親にもあったことがないのか。もしかしたら、血は繋がっていても、何か公にできない経緯があるのかもしれないし…。いずれにしても、VIPというのは間違いないが、地雷を踏まないように接しないと…。そして、こんな重い話に対しては、一体どう返すのが正解なんだ?)


クロロがにっと笑う。

「ふーん!そっか!そんで、オーラ・ドライブは使えるんか?」

(か、軽い…!何でも無い話みたいに流して、更に別の質問を被せるとは…!クロロみたいに何も気にしないってのは、ある意味で最強かもしれん…。ぼ、ボクには絶対できないけど…)
コン太が目を丸くしてあんぐりと口を開ける。


「…。オーラ・ドライブ、私にはできないよ。でも護衛メンバーが使ってるのは知ってる」

「ほえー、そっか。まあ、ジュディの特訓には付いてけそうもねえしな」

「ふん、なによそれ」

「オーラ・ドライブの特訓だよ!かなりきつかったからなあ!でもその分、強くなったけどな!そのうちおまえにも見せてやるよ!」

「…別に…。興味ないわ」

クリアはクロロの質問に、つっけんどんに答えながらも少し戸惑っていた。
これまで、なんの遠慮もなく話掛けられることなんて、ほとんどなかったからだ。

少し前から護衛としてついてくれているリリアンは、非常に明るい性格で、クリアにとっては「お姉ちゃん」といった感じの人だ。
クリアが心を開いている数少ない人間の1人…。
ベネットは無口だし、目を合わせてもくれないけど、気を遣われてるっていう感じはしない。元からそういう性格の人なんだろうと思っている。

しかし、クロロは別だ。しかも、今日初めて会ったばかりだというのに…。
もう1人のコン太も悪い人じゃなさそうだけど、に初めて会った時の反応としては、コン太が普通なんだと思う。
同世代の友達なんていうのもいなかったのだが、気兼ねなく話をするっていうのはこういうことなのかな、と、ぼんやり思った。

「クリアちゃん、クロロ、もうそろそろオープンよ!」
リリアンが腕時計を指差しながら言った。



「お、おまえ、買いすぎだろー」
「ぐぐう…」
クロロとコン太の両手には持ちきれないほどの大量の紙袋がぶらさがっている。

「クリアちゃん、欲しかったもの全部ゲットできた?」

「うん、できた。…でも」

「…ん?」

「また…、明日も行きたいかも」

クロロとコン太に衝撃が走る。

「あ、明日もって、おまえ!また、こんなに並ぶんか!?店ん中も人でいっぱいだったしよ!」
クロロが紙袋をガサガサと揺らしながら叫ぶ。

「これがいいの。この感じ!なんだか、特別なものを手に入れたって気がしたし」

「クリアちゃん、明日は『unpredictable beauty』の限定品の発売があるわね」
リリアンがスマートフォンを軽快に操りながら答える。

「それ、行きたい!」

「う、うえー」

「2人とも、明日も荷物持ち、よろしく頼むわね」
クロロとコン太がうなだれる。
朝から並んで店に入ったが、すでに太陽は夕暮れの色を見せ始めている。



「あっ、リリアン。そのピアス、かわいい」
リリアンの耳には、ゆらゆら揺れる、小ぶりなピアスがつけられていた。シルバーに輝く短いチェーンの先に、パープルとピンクのグラデーションが美しい小さな宝石が、西陽を浴びて煌めいている。

「あっ!これはね、私のオーラで作ったピアスなの。ほら、イマジネット・オーラで好きなもの作れちゃうから!」
リリアンが宝石を指先でつんと揺らす。

「えっ。そうなんだ。かわいいな」

「良かったら、作ってあげよっか?」

「いいの!?やった!」

「ふふ!もちろん!」
そう言いながら、リリアンが手のひらを胸の前に差し出す。
ふんわりとした光が手のひらを包み込み、星屑のような無数の光が瞬いていく…
光の粒が一箇所に集まっていき、一瞬強い光を放ったのちに、リリアンの耳についているものと同じピアスが、ころんと出現した。

「はい、どうぞ!」

「すごい!ありがとう!」
クリアが、笑顔を見せてピアスを手に取る。
今日、初めて見せた笑顔だった。
宝石に負けないくらいに輝いた笑顔だ。


「おい、なんだか仲良いけどよ、ほんとに明日も行くのかよ?」

「当たり前よ。あんたらは荷物持ちに最適だしね」
クリアが目を細めてクロロとコン太に目をやる。

「げーっ!」

…………
………


クロロたちの2、3メートルほど上に、が浮かんでいた。

よく見ると、それは昆虫ではなく、の形をしている。
極ミニサイズの人工衛星だ!
羽のようなソーラーパネルがついたボディの中心には、極小のカメラ・レンズのようなものが取り付けられている。

ジジ…

いつからそこにいたのかは分からないが、クロロたちの上空をゆっくりと周回すると、黄昏に溶け込むように、姿を消した…!

………
……


都市スターノ、4番区。
3番区とほど近いエリアだが、都市スターノの中でも最も商業が発展している地区の一つだ。
その中でも、と呼ばれる一帯は、あらゆるナイト・ビジネスがひしめく、一大歓楽街となっている。

時刻は23時を過ぎた頃…。
深夜に差し掛かっても、ギブカの通りは酔客や、キャッチ、観光客などでごった返している。

そんな通りの中に、明らかに場違いな小さい影があった。

大人の半分くらいの背丈に、半袖半ズボンのおかっぱ頭。
のロゴが入ったリュックで、背中がすっぽり覆われている。
小学3年生くらいだろうか。
真夜中の歓楽街を、人の間を縫うように、ゆっくりと歩いている。

「ねえ、あれ小学生?」
「迷子かな?」
「なんでこんな時間にこんなとこ、歩いてるんだろ」

すれ違う通行人がヒソヒソと声を上げる。

しかしその声も、すぐにギョッと息を飲む音にかき消されていく。
通りの先から、異様な姿の男が向かってくるからだ。

プロレスラーのような体型に、全身にびっしりと入ったタトゥー。
剃り上げた頭のてっぺんに、パイナップルのヘタのような緑色の髪がくっついている。
そして、レンガくらいの大きさの巨大な「」を首から下げて、ノシノシと大混雑の通りを歩いている。

ほとんどの通行人は、びっくりした顔で道を空けていく。

しかし…

ドンっ!

カメラ男と、柄の悪そうなチンピラの一群の肩がぶつかった。
チンピラたちが道いっぱいに広がるように歩いている中、カメラ男が避けることなく、そのど真ん中につっこんでいったのだ。

チンピラ軍団の側から、「チッ」という舌打ちが聞こえる。

「おい、コラっ!!!」
肩を当てられたチンピラの1人がドスの効いた声を上げる。
浅黒い肌にベリーショートの金髪、色の薄いサングラスを掛けた、筋肉質の男だ。

しかし、カメラをぶら下げたタトゥーだらけの男は、全く聞こえていないかのように、歩みを進める。

「おい、てめえ!無視こいてんじゃねえぞ!戻ってこいや!」

カメラ男はぴくりとも反応しないまま、人ゴミの中に紛れつつある。

「…あの野郎…!路地に連れ込んで、殺してやる」
金髪のチンピラは、一緒に歩いていた仲間を引き連れ、一斉にカメラ男に近づいていく…

その時だった。

カメラ男がゆっくりと右拳を胸の高さまで上げると、コインを弾くように、親指を鳴らした。
誰も気づいてはいなかったが、その右手はうっすらとを帯びており、指を弾いた勢いで、がカメラ男の後方へと飛んでいった。

「どけこらっ!」

金髪のチンピラが、通行人を乱暴に掻き分けていく!
そして、まさにカメラ男の肩に掴み掛かろうとした瞬間…

パツン!

ポップコーンが弾けるような音がして、金髪の動きが止まった!

「ん?おい、どうした!」
仲間たちが金髪を見やる…!

「あ、あ…あああ…」

「!!!」

金髪の眉間にビー玉大の穴が空いている!
そしてその穴から、粘度の高い、ドス黒い血の塊がゆっくりと流れ出ていく。

金髪は、ぐるりと白目を剥き、体を痙攣させながら地面に倒れていった。

「きゃー!!!」
「うわあああ!!!」
「う、撃たれた!?撃たれてる人がいるぞーーー!」

一瞬で通りが騒然となった。

カメラ男は、背中で悲鳴を聞きながら、より夜の店が密集している、ギブカ・シティのメイン通りに向かって道を折れた。

先ほどの通りでの悲鳴や怒鳴り声は、メイン通りに出た瞬間に、再びキャッチの声や、酔客たちのざわめき、あらゆる店舗から流れ出てくる色とりどりの音楽にかき消される。何事もなかったかのように…。


「んん!?」
カメラ音が眉を顰め声を漏らした。
視線の先には、例の「」が歩いていた。

「おい、、久しぶりじゃねえか」
カメラ男が小学生に声をかける。

「あっ、。元気にしてた?」
ラフロイグと呼ばれた小学生が、口元に笑みを浮かべて応じる。

「ああ。元気っつーか、暇してたがな」
ズブロッカが鼻をふんと鳴らす。

の召集、なんだろうね!」
ラフロイグがおもちゃ屋にでも向かっているかのように声を弾ませる。

その時、盛大なクラクションの音が響き、ラフロイグとズブロッカの横に、黒塗りのセダンがゆっくりと現れた。
この通りは、歩行者専用というわけではないが、車道いっぱいまで人が溢れかえっているため、通りに用事のある自動車はクラクションを鳴らしながら、自転車くらいのスピードで進まざるを得ない。

か」
ズブロッカがセダンに向かって呟くと、後部座席の窓が半分下り、ゴージャスなドレスに身を包んだ妖艶な美女が顔を出した。

「はーい。お二人さん。あら、ラフロイグ。背、伸びた?」
真っ赤な唇でにこっと微笑むと、細いタバコを一口吸い、窓の隙間から煙を吐き出した。

「うーん、伸びたかも。測ってないからわかんないや」

「おい、カシス。おめえは相変わらずみてえだな」
ズブロッカがイカつい顔を車に近づける。

「本業が絶好調なのよ。今日も、の召集、終わったら、すぐ店に入るわ。じゃあね」
すらっとした手をひらりと上げると、スモークがかけられた窓が閉められ、ゆっくりと走り去っていく。

「ふん。はすぐそこじゃねえか。歩けよな、全く」
「でもこの辺りじゃ、芸能人やタレントなんかも及ばないくらいの超売れっ子のホステスみたいだよ。歩くのも大変なんじゃないかな」

ズブロッカがブスン、と鼻を鳴らす。
「酒も飲めねえガキが、どっからそんな情報仕入れてきてんだ。この不良が!」



さらに道を進むと、右手側に細い路地が現れた。車が一台通れるかどうかの狭い道だ。

激しい喧騒のメイン通りとは打って変わって、路地の先は数メートル先に自動販売機が1台あるくらいで、ネオンサインの一つも見当たらない。

路地の入り口は、左右のビルのゴミ捨て場のようで、道の両脇にゴミ用のネットや回収日を示した立札が設置されているが、通行人が放り投げた空き缶やファストフードの油ぎった紙袋やコンビニ弁当の残骸などが無造作に散らばり、通り全体がゴミ捨て場のようになっていた。

ズブロッカとラフロイグは、ゴミを踏みつけながら、ゆっくりと路地に入っていく。
ゴミ捨て場と化した一帯を過ぎると、ボロボロの古い木造家屋が、雑居ビルに混じっていくつも立ち並んでいる。

木造家屋は、相続人が不明なのか、家主が寝たきりなのか死にかけているのかはわからないが、開発にあたり行政が立ち退かせられなかったのだろう。

ヂヂ…と点滅する街路灯に、蛾が群がり、据えた匂いが辺りを漂う。

そんなボロボロの建物が連なる通りをさらに進むと、通りの左手に、が顔を出した。
瓦敷きの木造建築で、道路の側までガラスの破片や木材や、雨に濡れてぐしゃぐしゃになった紙切れが散らばり、被せるようにゴミが散乱している。

元は店舗だったようで、全てのガラスが割れ切った入り口の先には、かつてディスプレイだった木製の棚があり、壁際にはひしゃげて原型を留めていない冷蔵ケースがいくつも並んでいる。
床には、潰れた缶や割れた空き瓶が転がり、漏れ出た液体が黒い染みとなっていたるところにこびりついている。

屋根瓦と入り口の間にある、捻じ曲がった庇には、「」と書かれた看板が今にも落ちそうな角度でへばりついていた。

ズブロッカとラフロイグが廃墟の前に立ち止まる。
。僕らが最後かな」
「ふふん。さあて、今回のは、どんだけ楽しませてくれんのか」

2人はパキパキとガラスを踏みつけながら、廃墟の中に入って行った。


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