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世界統一編

第五十六話 三部会招集

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 私はジェラードの屋敷に呼ばれて、彼のもとへ向かった。内密な話があると言っていたのでレオは連れて行かなかった。なんだろう。

 ジェラードの屋敷で客間に通されて、彼が恰幅かっぷくのいい中年の男性とともにやってきた。あれ、あの人は……。

 それに対しジェラードはにこやかに言った。

「よく来てくれた。お前も忙しいだろうが、急用でな、お前に会わせたい人がいたのだ。この方は、知っているかもしれないが、カーディフ侯爵だ」

 やっぱりカーディフ侯爵。ネーザン王国の地方貴族の重鎮の一人。かなり先進的な考えの貴族の方で、一説には共和派だとかいう噂もある方だ。カーディフ侯爵は私に手を差し出した。

「アーノルド・オブ・カーディフです。宰相閣下お初にお目にかかります。以後お見知りおきを」
「こちらこそ、ミサ・オブ・リーガンです」

 そしてジェラードは席に座るよううながした。

「立ち話もなんだ、落ち着きながら話そう」
「わかったわ」

 そうしてテーブルの椅子に座った。召使がワインを持ってくる。私はそれでのどをうるおしながら、ジェラードに聞いた。

「なんとなく察しがついているけど、用事とは何かしら」
「うむ、実はな、お前の改革が上手くいってることで、地方貴族も二つの派閥に分かれている。お前と恭順して、改革を取り入れ、経済を活発化し、領地改革にいそしみたい貴族たちと、特権を捨てるなどもってのほか、宰相は何を考えているかと反発する貴族。この二つだ」

「当然ね、自分で言うのもなんだけど、あまりにも改革のスピードが速すぎる。貴族たちも戸惑うのは無理もないし、反発するのも予想していた。

 でも、いつ魔族との戦いが始まるかわからない以上、やれることはなるべく早くやりたかった。それで良からぬことを言われるのは覚悟していた」
「まあ、そうだろうな。お前ならそう考えていると思った。国王領の改革で、ガラッと世界が変わったかのように進歩を続けている。だが、お前は国王領だけで、終わらせるつもりはないのだろう?」

「ええ、ネーザン国全体を変えないと意味はない。税制一本化による、ネーザン国の安定した経済を作り上げるには地方の改革も必要になってくる」
「そこでだ、この方、カーディフ侯爵はお前の改革に非常に興味があってな、改革派地方貴族をまとめて、地方改革を成し遂げようという志を持っておられる」

「それは、非常に嬉しい限りです、カーディフ侯爵殿」

 カーディフ侯爵は泰然したようすで、私に微笑んだ。

「宰相閣下の慧眼、進歩的な創造性、アイディア。どれをとっても素晴らしい。まさに貴女は革命の女神でしょう。ぜひ私たち改革派貴族と縁をもって、我々も領地改革にいそしみたいのです」
「これはありがたきお言葉痛み入ります、よろしければ資料や、人材をお貸しいたしましょう」

「おおっ、喜ばしきことかな、これで我々も新たな未来へと進めるでしょう。時に、税制改革の件ですが、この国の伝統をご存じでしょうか?」

「わかっております、地方貴族の免税特権、徴税特権を合意なしに奪うことはできない。カーディフ侯爵どのは三部会招集のことを申し上げたいのかと察しております」

「何と鋭敏な頭脳かな、いやはや、幼女とは思えませぬな。これは失礼。そうです、国王領の権利は国王にありますが、地方領の権利は領主や、荘園主にある、勝手に変えることは、それこそ戦争を起こされても文句はない。

 そのための税制改革への合意が必要。荘園主である、聖職者の第一身分、貴族の第二身分、そして平民の第三身分。このすべての合意のもと、税など重要な事柄を決める必要があります。

 つまり国王陛下への三部会招集の進言を行うのですね? 宰相閣下」

「いつかは必要かと思いましたが、カーディフ侯爵がお力になっていただけるなら、明日にでも三部会招集を陛下に申し上げるつもりです」

「さすがは救世主殿、決断が早い。貴族と言えばあれこれ難癖をつけて、後回しにするものですが、貴女は確かなリーダシップをお持ちと確信しました。

 わかりました。ならばこのアーノルドも閣下のために働きましょう。なるべく改革派の貴族をまとめておきます。閣下がお望みならば」

「素晴らしきお言葉。陛下もお喜びでしょう。カーディフ侯爵殿がお力になっていただけるのならば百人力。ネーザンの未来は栄光に満ちているでしょう」

 そこでジェラードは召使に命じて、装飾の施されたワイン瓶を持ってこさせて言った。

「このワインはネーザン王国の英雄獅子王ケインが愛飲されたと言われるもの。我らの陛下はケイン王の再来と言われ、獅子王と崇められている今、ネーザンの夜明けにふさわしき酒と言えよう、我ら、陛下のために杯を捧げようではないか」

「ええ! そうね」

 そうして私たち三人の杯に年代物のワインが注がれ、私たちは乾杯を捧げた。

「ネーザンに栄光を!」
「ネーザンに栄光を!」
「ネーザンに栄光を!」

 そうして杯を掲げ飲み干す、革命の味は深く味わい深いものだった。

 翌日私は王宮へ向かった。まず三部会招集で内府に準備と根回しをしておかなければならない。なので現在の地方領のことをジャスミンにきいた。

「地方領で改革は望めそう? 貴族たち民衆たちの様子はどうなってる?」
「簡単ではないでしょう、保守的な貴族は特に。国王領の改革によって、どんどんこちらに民が畑を捨ててやってきております。

 武闘派貴族は、それを弾圧して、流民に対して刑罰を下しております。ですが改革派貴族たちは率先して、国王領に人材を送り、技術移転や土地改革に励んでおります」

「一枚岩ではないか、簡単にはいけそうにないわね。三部会招集のあとは私の実力が試されそうね」
「閣下ならこの動乱をまとめる器量をお持ちだと私は確信しております」

「ありがとう、それと、元宮宰カンビアスの件だけど、私への襲撃や陰謀事件は恐らく裏に糸引くものがいると思うわ、しかし、何のために私を狙ったのかがわからない、どう? 何か情報が上がってきた?」
「いえ、国王領各地にミサミサ団を派遣して改革を推し進めながら、情報網を築いていますが全く……」

「不気味ね……、やはり、裏には地方貴族がいるのかしら、王宮貴族でないとすると」
「かもしれません、なら、三部会、荒れるでしょうね」

「むしろ好機よ、ネーザンに巣食うたちの悪いネズミをあぶりだして、私が仕留めて見せましょう」
「わかりました、では、陛下への謁見の準備をいたします」

「ええ、お願い」

 私はウェリントンへと謁見に向かった。もちろん下準備しているし、カンビアスは失脚して、ただの王宮貴族になっている。もはや王宮で私に抵抗するものは国王議会で、のびのびとヤジを飛ばしている。

 つまり私とウェリントンの間に障害などないのだ。私はウェリントンへ膝をつき挨拶をした。

「陛下ご機嫌麗しゅう」
「うむ。そなたの改革により、王宮は綺麗になった。国王として、そなたに礼を申す。なかなか私は心地よい暮らしをしておるぞ」

「それはそれは、嬉しきお言葉。この宰相冥利につきます」
「で、用件を聞こうか」

「陛下、改革の鳥をネーザン国中に放つ時が来ました」
「そうか……、ついに来たか」

「はい、では、国王陛下、三部会招集の宣下をいただきたく存じます」
「ミサ。三部会は国を挙げての国事。王宮、ひいては国王の威信がかかっておる。失敗すれば、この国もどこに向かうかわからん、準備は怠りないな?」

「はっ、万事抜かりなく!」
「では、ここに宣言する。我がネーザン国王の名のもとに、三部会招集を命じる!」

「ははっ!!」

 謁見室皆が国王に頭を下げた。これから始まる、この国の未来を左右する三部会招集が今始まったのだった。
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