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世界統一編

第五十五話 自由経済市場誕生

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 私は国王領の視察が終わり自分の屋敷に帰ってきた。レオや召使が迎えてくれ、私は上機嫌で語った。

「いやあ、今回の視察は実りが多かったわ」

 レオは私の疲れをいやすためお茶を入れてくれた。

「ありがとう、レオ」
「それでどんな感じでした。実際の改革を見た感想は」

「期待通り7割、期待外れ3割ね。それはいい意味でよ、政治的にね。何事も自分の頭で考えたようにうまくはいかないもの。特に改革は大勢の人間が動く、現実は難しい。改革を成し遂げるには、もっと現場を知るための人材が必要よ。

 今は国王領だけだけど、いずれネーザン国すべてを変えて見せる。その時に王宮に現地の詳しい情報が上がってくるように、地方の組織化、州県制が必要よ。地方自治体があって、そこからデーターが上がってきて、政府が国のかじ取りをする。

 有用な人材は得難く、また、どこに潜んでいるかわからない、くまなくミサミサ団を派遣して、どんどん人材を登用していくわ」

「なるほど、いつぐらい完成できますか、改革は?」
「改革に終わりはないわ、その時に応じて変化していかなければならない。私のやることは方向を示すことと、システムを作ること。

 ねえ、ダムを作ると言ったでしょ、それに加えて国王領に運河を作るわよ、それを国王領で蜘蛛の巣のように水のネットワークを作る計画よ」

「運河を! 壮大な話ですね」
「ええ、陸上で物資を運ぶには、馬車じゃまったく不足する。運河を張り巡らして、船で荷物をやり取りする。ダムで運河に水量を流す量を調節して、緩やかな流れで、広い運河を船が行き来する。

 馬のように、飼い葉も必要ないし、荷物を運ぶ一回の量が多い。自然コストが下がり、物価のインフレを防ぎ、供給が容易くなる。物価がもっと安くなるし、経済が豊かになるわ」

「でもダムを動かすには大量の馬が必要ですよね、水量を調節するときに」
「それも機械でできるようになったわ、力織機ってわかる? 織物を作るのが半自動にできる機械が研究の成果で出来た。水力力織機の動力機関は水力エネルギーを利用して、強大な動力へ変化して、巨大な機材を動かすことができる。

 それはシステムは似たようなものなので、ダムで利用してダムの運用を機械で動かすことができるようになる。人手も減るし、コストも削減できる。すでに革命は始まっているわ、経済革命がね」

「そんなものまで! ミサ様が科学研究に投資していた成果ですね! やっぱ目の付け所が違いますね!」
「まあね」

 これで、流通面の不足を大幅に改善できる。水力エネルギーはクリーンだし、自然災害も起こりにくい。領土に豊富な水資源と物資がいきわたれば、地元で仕事ができる。仕事が出来れば、自然、富が産まれ、地方経済も活発化する、人口が増えて、上り調子のまま、経済成長をコントロールできる。

 人口増加による公害も防げるし、機械化で、今までの労力以上に生産できる。あとは富の分配まで考えて、上の方から、社会制度を整える。労働関連法案や、福祉関連は現代でも問題になるほど、答えのない政治問題。

 私が政治をコントロールできるうちに、できるだけ国民みんなが経済発展の恩恵を受けるように、細心の注意を払ってシステム作りをしなければならない。国あっての民ではなく、民あっての国なのだ。発展しても皆が不幸になっては意味がない。

 私は簡単な食事を済ませて、ワインに酔いながらぐっすり寝た。久しぶりに深く眠れてとても気分が良かった。

 休みが明けて改革の基礎作りの最後の課題を私は成し遂げなければならない。自由経済に移行することだ。今まではギルドに流通が管理されており、物を作っても、ギルドが許可出さなきゃ物が売れないし、物理的に排除される。

 まあ、日本の農協を過激にしたみたいなもの。もちろん一定の品質管理になっていたし、徒弟制度で技術者が産まれてきた側面がある。しかしこれからは機械化の時代だ。自由に物が行き来し、公平な売買が行われなければならない。

 そうじゃないと、良いものを作っても売れないのだ、中世では。ギルドは国や権力者から勅許もらって、国の後押しのもと行われていた。その分ギルドからの収入が国庫の主な財源だった。

 しかし、税制一本化で、租税によって、国庫がまかなわれるようになっては時代錯誤になった制度だ。これを私は改善し、流通を制するものが世界を制す。Amazonのようにね。健全な経済には健全な市場が必要。

 私は職人ギルドの有力者を王宮に呼んでいる。皆何が起こるか察しているのか、ピリピリしていた。ジャスミンの紹介により私が呼ばれギルドの親方たちにこう宣言した。

「私ミサ・エチゴ・オブ・リーガンは今年度をもって、ギルド制度の廃止をここに申し伝えます!」

「やはりか!」
「宰相の横暴だ!」
「ギルドは我らの命綱、最後まで抵抗する!」

 待ち構えていたように、口々に不満を垂れ流しブーイングが飛んでくる。私は冷静にそれを処理する。

「では皆さん、資料をお配りします。書類に目を通してください」

 私の命令で印刷機でA4用紙に刷られた、自由経済化の抜本改革の資料を官僚たちが親方たちに渡す。初めて見る印刷紙を見てぶったまげたように驚きざわめいた。これは機械で作ったものだからだ。

「これほど精密で、書類が書かれているとは!?」
「しかも全く同じ文面、絵柄!」
「これが噂にきく機械によるものか!」

 職人の彼らにはこれを手作業でやれば一年ぐらい平気でかかることぐらいわかる。文明の差に彼らは驚愕しながら、資料に目を通す。経済改革の指針とこれからのギルドの処遇がそこには書いている。

「ざっと書類に目を通しましたか? あなた方ギルドはこれからは職人工業組合として、変化し、国によって許可されて、運営されます。

 しかし流通権はあなた方には与えられません。良いものが市場を作り、そして民はもっと良いものを作ろうと、自由にアイディアを巡らせて、切磋琢磨していきます。

 そう、自由市場の誕生です!」
「し、しかし、我らは長年──」

「ではこの服たちを見てください、全て機械で作られたものです」

 官僚たちは工場で生産された、衣服を親方たちに見せて回る。

「これは……!?」
「手に取ってもよろしいでしょうか!?」

「どうぞ」

 親方たちは職人だ。この衣服がどれだけの価値か理解できる。慌てふためく様にさらに私はこう伝える。

「今建設中の工場で、この衣服が一日数千個作られます。この意味が貴方がた技術者にはよくわかるはずです」

「数千個も!?」
「われらは失職するではないか!」
「なんということだ……!」

 だが技術者は偏屈者だ、ある親方が異議を唱えた。

「だが、手作りの衣服の方が味わい深いものがある」

 それに対し私は笑いながら言った。

「その通りです!」
「えっ!?」

 私の言葉に意図がつかめず動揺する会場。そして私は演説を始めた。

「私は何もあなた方の仕事を取り上げようとしているのではありません、自由な競争で、もっといいものを皆さんに作っていただいて、そして、安く、民のみんなに買って欲しいのです。

 手作りにも手作りの良さがあります。私はそれを侮辱するつもりはないし、否定もしないし、むしろ皆様方職人を尊敬いたしております。

 私たち王宮はあなた方を文化財産として、ブランド化するつもりでございます。機械とは違う、違う価値の生産物を市場で売るつもりです。

 もちろん生産量は機械に勝てませんから、安くされるとあなた方は不安になるでしょう。でも先ほど言った通り手作りには手作り独特の価値がございます。

 値段は高くなりますが、私たち王宮がバックアップして、ブランド化し、宣伝をして、あなた方職人を保護いたします。どうぞご安心ください。

 よって、これをもってギルド制は終了し、新しい経済世界として、あなた方職人たちが生き生きと活躍して欲しいのです。これが私の心です!」

 ある程度、不安が払しょくされたのか、拍手する親方たちもいた。反抗するものが出るのは仕方ない、改革には犠牲がつきものだ。しかし道は示せた。彼らは職人組合としてこれからネーザン国を支えてもらわなければならない。

 そのために商法、民法、公平取引法、文化保護法が制定される。

 ──こうしてネーザン国王領はギルド制が廃止され、自由経済市場となり、一気に経済発展がなされるようになったのだ。
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