5 / 10
5
しおりを挟む
「出来たよー! って、作ったのはアズサだけどね」
「うん、今行くよ」
ヨチヨチと歩き、椅子にしがみつきながら座る。
シチューにパン、目玉焼きとサラダ。テーブルの上で、良い香りを湯気に乗せている。
「焼いてくれたんだ? いただきます」
「卵は栄養満点だからね。いただきまーす!」
気を遣って、もう1品追加してくれたらしい。私の好きな丁度いい半熟加減だ。
「シチュー、すごく美味しいよ! 店でも開いたら?」
「あははっ。タケヤ専用食堂になりそう」
自画自賛ではあるが、美味しくできたと思う。市販のルーのおかげだけどね。
タケヤも喜んでくれて良かった。
食事を終えると、もう1つの辛い時間がやってくる。……散歩だ。
習慣化して、筋力の低下を防ぐ必要がある。
不自由に歩く姿を、すれ違う人から変な目で見られないといけない。
タケヤがいつも隣で励ましてくれるから我慢できるけど、一人で続けていたら心が折れていただろう。
「さて、そろそろ行こうか」
「うん。頑張る……」
帽子を目深にかぶり、マスクとサングラスをつける。二人で外に出る時は大体この格好だ。
タケヤの動画は平均再生数15万回。顔出し配信者だから、バレたらファンが寄って来る。
アンチに私なんかが見つかれば、何を言われるか分からない。変な歩き方の女。それだけで荒らしコメントの燃料になるだろう。
部屋を出て歩き出す。
コッ、コッ……コッ、コッ……
これが私の私の歩行音。
両手の杖で体を支えながら、まるで四足歩行だ。
エレベーターを降りて外へ。
一気に緊張感が高まる。
「周りの目なんて気にしなくていいよ。僕がいるだろ?」
「……好き」
「ん? なんか言った?」
「いつもありがとって言ったの!」
いつもと同じコースを歩く。人通りの少ない道をタケヤが選んで決めてくれた。
「明日さ、生放送しようかな? ……で、お願いがあるんだけど」
「私に出来ること?」
「アズサにしか無理。配信中、側にいてくれない?」
「いいけど……笑わせないでね?」
「あははっ。僕が冗談を言うタイプじゃないって知ってるだろ? 明日が楽しみだなぁ」
楽しみだなんて嘘。タケヤ、心が疲れてる。
だって、撮影中の姿を見せたくないって言ってたじゃない。
タケヤは強い……ように見せてるだけ。
敵意に晒されながらの生活なんて、やっぱり無理なんだよ。
……そっか。だから急にお風呂の話を。
今日はたくさん甘やかしてあげよう。
「うん、今行くよ」
ヨチヨチと歩き、椅子にしがみつきながら座る。
シチューにパン、目玉焼きとサラダ。テーブルの上で、良い香りを湯気に乗せている。
「焼いてくれたんだ? いただきます」
「卵は栄養満点だからね。いただきまーす!」
気を遣って、もう1品追加してくれたらしい。私の好きな丁度いい半熟加減だ。
「シチュー、すごく美味しいよ! 店でも開いたら?」
「あははっ。タケヤ専用食堂になりそう」
自画自賛ではあるが、美味しくできたと思う。市販のルーのおかげだけどね。
タケヤも喜んでくれて良かった。
食事を終えると、もう1つの辛い時間がやってくる。……散歩だ。
習慣化して、筋力の低下を防ぐ必要がある。
不自由に歩く姿を、すれ違う人から変な目で見られないといけない。
タケヤがいつも隣で励ましてくれるから我慢できるけど、一人で続けていたら心が折れていただろう。
「さて、そろそろ行こうか」
「うん。頑張る……」
帽子を目深にかぶり、マスクとサングラスをつける。二人で外に出る時は大体この格好だ。
タケヤの動画は平均再生数15万回。顔出し配信者だから、バレたらファンが寄って来る。
アンチに私なんかが見つかれば、何を言われるか分からない。変な歩き方の女。それだけで荒らしコメントの燃料になるだろう。
部屋を出て歩き出す。
コッ、コッ……コッ、コッ……
これが私の私の歩行音。
両手の杖で体を支えながら、まるで四足歩行だ。
エレベーターを降りて外へ。
一気に緊張感が高まる。
「周りの目なんて気にしなくていいよ。僕がいるだろ?」
「……好き」
「ん? なんか言った?」
「いつもありがとって言ったの!」
いつもと同じコースを歩く。人通りの少ない道をタケヤが選んで決めてくれた。
「明日さ、生放送しようかな? ……で、お願いがあるんだけど」
「私に出来ること?」
「アズサにしか無理。配信中、側にいてくれない?」
「いいけど……笑わせないでね?」
「あははっ。僕が冗談を言うタイプじゃないって知ってるだろ? 明日が楽しみだなぁ」
楽しみだなんて嘘。タケヤ、心が疲れてる。
だって、撮影中の姿を見せたくないって言ってたじゃない。
タケヤは強い……ように見せてるだけ。
敵意に晒されながらの生活なんて、やっぱり無理なんだよ。
……そっか。だから急にお風呂の話を。
今日はたくさん甘やかしてあげよう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる