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31.地上での封印デート

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「では、クロウ。地獄を任せたぞ」

「はい、ディラン様もテラスも気をつけて、お役目果たしてきてください!」

「ありがとう。行ってくる」

「行ってきます、クロウ様」

「おうよ! いってらっしゃい」







「ディランにテラスちゃーん! こっちこっち。この森の奥なら、人間も来ないし、封印しちゃっていいわよ!」

「助かる」

「ありがとうございます」

 仮封印として、瓶詰めにされた元怠惰の神を、地獄の神は空間から取り出した。

「……気になっていたのですが、怠惰の神の司るものと業務はどうなったのでしょうか」

「あぁ……」

「テラスちゃん、元上司で仕事ぶりを見ていたのに、それ言っちゃう?」

「え?」

「……こいつが受け持っていた業務はほとんどなかったから、他の神に分担して問題のない量であった。また、司るものも罪という部分で私の範疇に入れることが可能であろうという結論となった」

「……思っていた以上に仕事していませんでした」

「……」

「戻り次第、働き方改革について、天界に上奏しようかと思う。地獄をモデルケースとして実験的に改革にし、その後、天界や地上に導入していけばいい」

「お手伝いさせてください!」

「盛り上がっているところ悪いけど、ささっと封印しちゃいましょ! ディランにおすすめマップを渡しておいたから、デートしてらっしゃい!」

「……すまない」

「……ありがとうございます」

「何この空気。一人と一柱とも、顔を真っ赤にしちゃって…かっわいーい……さすがに想いは伝え合っているのよね?」

 ぶつぶつと独り言をつぶやく地上の神を横目に、テラスは浄化の魔法を展開するために集中する。

「浄化……あ」

「え、”あ”?」

「……やり過ぎて消滅しかけたので、慌ててヒールをかけておきました。HPはぎりぎり1残っています」

「……なかなかすごいことをしているじゃない、この子」

「復活は神の領域のはずだが……」

「では、封印してしまってください! ディラン様」

「地獄の神の名によって、封印する」

 淡く光った元怠惰の神の瓶詰めは、森の奥の小さな洞窟にひっそりと封印されたのだった。そして、洞窟の前に岩が置かれ、物理的にも封印されたのだった。

「……さすがテラスだな、助かった」

「いえ、ディラン様がいてくださったおかげです」

「……この空気に、あたしって必要?」

「テラスの浄化やヒールには、学ぶところがあるな。テラスがいてくれるから、いつも地獄はいい環境に保たれているんだ」

「いえ。ディラン様の素晴らしい統治のおかげです」

「……じゃ、お先に最高神に報告に行ってくるから、地上デートたのしんで~」

「あ、ありがとうございます!」

「……すまない、ありがとう」







「わぁ!」

「ここが、グラ-シスのおすすめの場所か」

 地上の神のおすすめの場所は、小さな丘の上であった。そこから見下ろすことのできる人間の街は、いつの間にか夜になっていて、街灯が揺らめいている。

「人間の街に街灯が揺らめいて灯っていて、すごくきれいです」

「雨に濡れた石畳に光が反射してきれいだな」

「はい」

「テラス。私は長く存在してきたが、他の者とは、あまり関わってこなかった。しかし、テラスのおかげで世界が広くなったように感じる。……こんなにも大切な存在ができたのは、はじめてなんだ。だから、この気持ちをどのように表現したらいいかわからない」

「……ありがとうございます、ディラン様。私も、こんなにも大切な存在は、初めてです。ですから、一緒に考えていきませんか? どのようにこの想いを表現したらいいのか、どのように関わっていけばいいのか……」

「ありがとう、私のかけがえのない片割れテラス」

「よろしくお願いいたします、私の大切なディラン様」

 そう言った一人と一柱は、そっと手を重ね、どちらからともなく握りあった。

「……」

 後ろで街灯が輝く中、そっと見つめ合ったまま、吸い寄せられるかのように口づけを交わしたのだった。
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