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第五章
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しおりを挟む太一と亮が互いの事を少しだけ語り、それからクラス替えの表を見に行って、なんともまぁ凄い確率だとは思ったが全員が同じクラスになっていたと知り盛大に笑った日から、季節は早いもので、もう六月となっていた。
そんな目まぐるしく過ぎる日々のなか、中間テストの結果が散々だった龍之介と優吾は放課後補習があると教師に別教室に連れていかれ、亘はなぜか部員でもないのに生物部の奴らのなかに混じって中庭の木を観察するからと一人消えていってしまい、放課後珍しく亮と二人になった太一。
そして、今日はバイトない日でしょ? だったら一緒にどっか遊びに行こうよ。と亮に誘われるがまま、太一は今ゲームセンターへと来ていた。
ガヤガヤとやかましい店内に眉間に皺を寄せつつ、キョロキョロと辺りを見回した太一が、
「俺、ゲームセンター初めて来た」
と亮に言ったが、隣に居ても煩い店内のせいで上手く声が聞こえなかったのか、身を屈めては、何? と耳を寄せる亮。
その亮の耳に聞こえるよう、悔しくも伸びをして手でより聞こえるようにと口を囲いながら、太一は叫んだ。
「初めて来たって言ったの!」
「いや鼓膜いった!」
大音量で発せられた太一の声に亮がビクンッと体を震わせ、それに太一がゲラゲラと笑い、もー、なに。なんて亮も笑った。
それから初めてのカーレースゲームをしてボロクソに負けたり、リズムゲームでは初めてだというのに意外にもあったらしい音感力で圧倒的に勝ったりとはしゃいだ太一は、「クレーンゲームしよう」と亮に腕を引かれ、大きなガラスケースの中に並ぶ黒猫のぬいぐるみの前へと連れていかれた。
チャリン。とお金を入れ、真剣な眼差しで操作をしている亮の横顔とそのぬいぐるみとを見ながら、太一も食い入るようにクレーンを見る。
ゆらゆらと揺れながら動くクレーンが絶妙な位置で止まり、それから下がってはぬいぐるみを挟み持ち上げたのを見て、太一は自分の事のように、おおぉ! と声をあげた。
「すげーな、お前なんでもできるやん」
ポスン、と綺麗に取り出し口に落ちた猫のぬいぐるみを取り出している亮に太一が笑えば、さっきリズムゲームでボロクソに俺を打ち負かしたくせに何いってんの。てか何も出来ないよ俺。と笑いつつ、
「はい。あげる」
なんて太一にその猫のぬいぐるみを差し出してきた亮。
「え?」
「これ、太一みたいじゃない?」
無理やり太一の手にぬいぐるみを押し付け、一回持ってみて。なんて笑う亮に困惑しながら、似てねぇだろ。なんて思いつつも、太一が胸元でぎゅっとふわふわのぬいぐるみを抱き締める。
そんな、満更でもない。というような太一の小さい子めいた仕草に、「ははっ。似合う似合う。可愛い」なんて亮が口を開け笑い、太一はそのありがたく貰ったぬいぐるみで、バカにしてんだろ。とぶん殴った。
それからうろうろと店内を見て回る亮の後ろを、未だにぎゅうっとぬいぐるみを抱えたままついていきながら、……なにかしらいっつも貰ってんなぁ……。なんて思った太一は、ふわふわの猫の頭に顔を押し付けつつ、うーん。と唸った。
そうして、そろそろご飯食べよっか。と夜ご飯を食べていた時に、何の気なしにという体を装って、
「亮さ、なんか欲しいもんとかある?」
と太一が聞けば、フォークとスプーンを器用に使いパスタをくるくると巻いていた亮が、欲しいもの? と首を傾げた。
「いきなりどうしたの?」
「いや、べつに」
「……ふーん。欲しいものかぁ……」
「あっ、たっけぇやつは無理な。千円以内ぐらいのやつで」
「……うーん、なんだろう……」
「消しゴムとか、シャーペンとか、ノートとか、あんだろいろいろ」
実に学生らしいアイテムを並べる太一に、普段色んな人から高価な物を貰う亮が、それでも全然そっちの方が嬉しいな。と表情を弛める。
それからずずい、と顔を前に出し向かいに座っている太一に近付いては、
「じゃあ、物は要らないからさ、今度の日曜日たまには皆でじゃなくて二人でどっかに遊びに行こうよ」
なんて亮は満面の笑みを見せた。
「はぁ? いや、別にそれはいいけど、じゃなくて物だよ物。物聞いてんの俺は」
「……え?」
「千円以内な」
「……あれ、ちょっと待って、もしかして俺勘違いしてた?」
「は? なにを?」
そう太一が首を傾げつつハンバーグをがぶりと食べていれば、珍しく本当に照れた様子で顔を掌で隠した亮が、ぽつりと呟いた。
「……俺の誕生日祝ってくれるもんだとてっきり……、待って、めちゃくちゃハズい勘違いした……」
だなんて恥ずかしげに呟かれた言葉に太一は途端に目を見開き、は? と開いた口からぼとっとハンバーグを落としてしまった。
「え、りょ、りょうお前、」
「っ、ごめん、なんも言わないで今。めちゃくちゃ恥ずかしい」
「いや、じゃなくて、もしかして誕生日近いのか?」
「うわ、誕生日自体知られてなかった……」
「あ、ごめん……。で、誕生日いつ」
「……いやいい、忘れて……」
未だハズいハズいと呟いては顔を覆っている亮に太一が身をのりだし、その手をがばりと掴みながら、「いつ」と凄む。
そんな太一から視線を逸らし、亮がまたしてもぽつりと呟いた。
「……日曜日」
「え、日曜って……」
「……うん。物聞いてくるから太一が祝ってくれようとしてるのかなと思って、だから物よりも一緒に遊んでくれる方が嬉しいなぁと思ったんだけど、ってヤバい、言っててめちゃくちゃハズ過ぎる……」
そう言いながら照れている亮に、太一はすとん、と自分の席に座り、そ、それで日曜日遊ぼうなんて言ったんか……。と顔を赤くさせた。
「……い、言えよ、そういうことは、先に……」
「自分から誕生日だから祝ってよって言う訳ないじゃん。ていうか誕生日知らないんだったらなんで欲しいものとか聞いてきたの」
「……別に、」
「うん?」
「……いや、ほんと意味はなかったんだけど、ただ、いつものお礼に、なんか俺からもあげたくなっただけっていうか……」
ぽつりと呟いて今度は太一が顔を逸らし、口を尖らせる。
そんな耳まで赤くなっている太一に、え、と声を漏らした亮は、それからにやけてしまいそうな口元を隠しながら、お礼とかいいのに。ただ俺が勝手にしたくてやってるんだから。なんて笑った。
「じゃあやっぱり、日曜日付き合ってよ」
「……だから、それはいいけど、そんなんでいいのかよ」
「うん。それが嬉しい」
「……ん、じゃ、じゃあ、日曜日な」
「え、ほんと? やったー!」
くしゃりと顔を破顔させ、今度こそ素直に喜ぶ亮の無邪気な笑顔に太一もふっと笑い、それから、誕生日なんだからやっぱなんかあげたいよな……。なんて考えては、落としたハンバーグをもう一度口に突っ込んだ。
その帰り道。いつかのあの日のように外に出ればいつの間にか雨が降りだしていて、太一と亮はあの日のように亮の傘で一緒に家路を歩き、亮はあげた猫のぬいぐるみを濡れないようにと胸に抱き抱えている太一を見ては、やっぱそっくり。と微笑んだのだった。
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