342 / 407
ハルジオンが開くとき
12
しおりを挟む
今はどうだろうか。あの時より少しは成長しているはずだ。それでも、理想とする絵を描けない言い訳を探したがっている自分も存在していた。
スミレと話していると、そんな自分の弱さを剥き出しにされる。目を背けたくなるものを眼前に突きつけて、現実を認めろと詰め寄られている気分だ。
オレが黙り込むと、スミレはまたコーヒーを口にした。そして、ふと表情を緩める。
「この3年間……別れた後も、ずっと桔平の絵を追い続けてきたの。公募や大学祭の展示、アートプラザに出しているものも、グループ展も。出来る限り観てきたつもり」
思っていた通り、スミレはずっとオレの絵を追っていた。やはり絵に関しては執念深い。だからこそ、その審美眼が磨かれてきたのだろう。
「そして、この前の卒業制作の絵。あれを観て確信した。貴方は確実に変わっている。だから必ず描けるはずよ。自分自身の絵を。私は、この個展を絶対に成功させたい。そのためには桔平の力が必要なの」
ただただ、真っ直ぐな瞳。オレが惹かれたのも、こういう瞳だった。絵に対する情熱は少しも変わっていない。むしろ以前より増しているようにも見える。
オレの力が必要。あのスミレが、こんな言い方をするとは思わなかった。この企画に余程の思い入れがあるらしい。
「返事は1ヶ月待つわ。だから、よく考えてみて。画家としての今後を大きく左右することよ」
すぐに返事が出来ないオレを見て、スミレが微笑む。
1ヶ月という期間が、長いのか短いのかは分からない。しかしこれが大きな分岐点となることは、自分でも感じていた。
「ずいぶんと、髪が伸びたわよね」
会社に戻るというスミレと一緒に店を出ると、オレを見上げてぽつりと言った。
スミレと別れた時、自分がどんな髪型をしていたのかはあまり覚えていない。スミレの方はロングからボブへ変わっていたが、黒くて真っ直ぐなままだった。
「伸ばしてるの?」
「まぁ、何となく……」
「似合ってる。相変わらず派手だけどオシャレで、桔平だなって感じたわ」
あの頃と同じようにスミレが笑いかけてくる度に、3年間の空白を感じる。オレと別れた後のことは、やはり何も語らなかった。
「それじゃ。可愛い彼女とも、よく話し合ってね。色よい返事を期待してるわ」
パンプスの音を響かせながら、スミレが颯爽と去っていく。その後ろ姿を見送ることなく、オレは踵を返した。
早く帰ろう。そして愛茉を抱きしめよう。考えるのは、それからでいい。
頭の中にこだまするスミレの言葉を振り払い、駅の改札へと急いだ。
スミレと話していると、そんな自分の弱さを剥き出しにされる。目を背けたくなるものを眼前に突きつけて、現実を認めろと詰め寄られている気分だ。
オレが黙り込むと、スミレはまたコーヒーを口にした。そして、ふと表情を緩める。
「この3年間……別れた後も、ずっと桔平の絵を追い続けてきたの。公募や大学祭の展示、アートプラザに出しているものも、グループ展も。出来る限り観てきたつもり」
思っていた通り、スミレはずっとオレの絵を追っていた。やはり絵に関しては執念深い。だからこそ、その審美眼が磨かれてきたのだろう。
「そして、この前の卒業制作の絵。あれを観て確信した。貴方は確実に変わっている。だから必ず描けるはずよ。自分自身の絵を。私は、この個展を絶対に成功させたい。そのためには桔平の力が必要なの」
ただただ、真っ直ぐな瞳。オレが惹かれたのも、こういう瞳だった。絵に対する情熱は少しも変わっていない。むしろ以前より増しているようにも見える。
オレの力が必要。あのスミレが、こんな言い方をするとは思わなかった。この企画に余程の思い入れがあるらしい。
「返事は1ヶ月待つわ。だから、よく考えてみて。画家としての今後を大きく左右することよ」
すぐに返事が出来ないオレを見て、スミレが微笑む。
1ヶ月という期間が、長いのか短いのかは分からない。しかしこれが大きな分岐点となることは、自分でも感じていた。
「ずいぶんと、髪が伸びたわよね」
会社に戻るというスミレと一緒に店を出ると、オレを見上げてぽつりと言った。
スミレと別れた時、自分がどんな髪型をしていたのかはあまり覚えていない。スミレの方はロングからボブへ変わっていたが、黒くて真っ直ぐなままだった。
「伸ばしてるの?」
「まぁ、何となく……」
「似合ってる。相変わらず派手だけどオシャレで、桔平だなって感じたわ」
あの頃と同じようにスミレが笑いかけてくる度に、3年間の空白を感じる。オレと別れた後のことは、やはり何も語らなかった。
「それじゃ。可愛い彼女とも、よく話し合ってね。色よい返事を期待してるわ」
パンプスの音を響かせながら、スミレが颯爽と去っていく。その後ろ姿を見送ることなく、オレは踵を返した。
早く帰ろう。そして愛茉を抱きしめよう。考えるのは、それからでいい。
頭の中にこだまするスミレの言葉を振り払い、駅の改札へと急いだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完】経理部の女王様が落ちた先には
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位
高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け
ピンヒールの音を響かせ歩く
“経理部の女王様”
そんな女王様が落ちた先にいたのは
虫1匹も殺せないような男だった・・・。
ベリーズカフェ総合ランキング4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
関連物語
『ソレは、脱がさないで』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『初めてのベッドの上で珈琲を』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜
入海月子
恋愛
「君といると曲のアイディアが湧くんだ」
昔から大ファンで、好きで好きでたまらない
憧れのミュージシャン藤崎東吾。
その人が作曲するには私が必要だと言う。
「それってほんと?」
藤崎さんの新しい曲、藤崎さんの新しいアルバム。
「私がいればできるの?私を抱いたらできるの?」
絶対後悔するとわかってるのに、正気の沙汰じゃないとわかっているのに、私は頷いてしまった……。
**********************************************
仕事を頑張る希とカリスマミュージシャン藤崎の
体から始まるキュンとくるラブストーリー。
惚れた男は根暗で陰気な同僚でした【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
イベント企画会社に勤める水木 茉穂は今日も彼氏欲しさに合コンに勤しむ、結婚願望が強い女だった。
ある日の週末、合コンのメンツが茉穂に合わず、抜け出そうと考えていたのを、茉穂狙いの男から言い寄られ、困っていた所に助けに入ったのは、まさかの男。
同僚で根暗の印象の男、【暗雨】こと村雨 彬良。その彬良が会社での印象とは全く真逆の風貌で茉穂の前に現れ、茉穂を助けたのである………。
※♡話はHシーンです
※【Mにされた女はドS上司に翻弄される】のキャラを出してます。
※ これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
※終了したら【プラトニックの恋が突然実ったら】を公開します。
お前が愛おしい〜カリスマ美容師の純愛
ラヴ KAZU
恋愛
涼風 凛は過去の恋愛にトラウマがあり、一歩踏み出す勇気が無い。
社長や御曹司とは、二度と恋はしないと決めている。
玉森 廉は玉森コーポレーション御曹司で親の決めたフィアンセがいるが、自分の結婚相手は自分で決めると反抗している。
そんな二人が恋に落ちる。
廉は社長である事を凛に内緒でアタックを開始するが、その事がバレて、凛は距離を置こうとするが・・・
あれから十年、凛は最悪の過去をいまだに引き摺って恋愛に臆病になっている。
そんな凛の前に現れたのが、カリスマ美容師大和颯、凛はある日スマホを拾った、そのスマホの持ち主が颯だった。
二人は惹かれあい恋に落ちた。しかし凛は素直になれない、そんなある日颯からドライブに誘われる、「紹介したい人がいるんだ」そして車から降りてきたのは大和 祐、颯の息子だった。
祐は颯の本当の息子ではない、そして颯にも秘密があった。
デキナイ私たちの秘密な関係
美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに
近寄ってくる男性は多いものの、
あるトラウマから恋愛をするのが億劫で
彼氏を作りたくない志穂。
一方で、恋愛への憧れはあり、
仲の良い同期カップルを見るたびに
「私もイチャイチャしたい……!」
という欲求を募らせる日々。
そんなある日、ひょんなことから
志穂はイケメン上司・速水課長の
ヒミツを知ってしまう。
それをキッカケに2人は
イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎
※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。
溺愛プロデュース〜年下彼の誘惑〜
氷萌
恋愛
30歳を迎えた私は彼氏もいない地味なOL。
そんな私が、突然、人気モデルに?
陰気な私が光り輝く外の世界に飛び出す
シンデレラ・ストーリー
恋もオシャレも興味なし:日陰女子
綺咲 由凪《きさき ゆいな》
30歳:独身
ハイスペックモデル:太陽男子
鳴瀬 然《なるせ ぜん》
26歳:イケてるメンズ
甘く優しい年下の彼。
仕事も恋愛もハイスペック。
けれど実は
甘いのは仕事だけで――――
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
契約結婚!一発逆転マニュアル♡
伊吹美香
恋愛
『愛妻家になりたい男』と『今の状況から抜け出したい女』が利害一致の契約結婚⁉
全てを失い現実の中で藻掻く女
緒方 依舞稀(24)
✖
なんとしてでも愛妻家にならねばならない男
桐ケ谷 遥翔(30)
『一発逆転』と『打算』のために
二人の契約結婚生活が始まる……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる