ホウセンカ

えむら若奈

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ハルジオンが開くとき

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 今はどうだろうか。あの時より少しは成長しているはずだ。それでも、理想とする絵を描けない言い訳を探したがっている自分も存在していた。
 スミレと話していると、そんな自分の弱さを剥き出しにされる。目を背けたくなるものを眼前に突きつけて、現実を認めろと詰め寄られている気分だ。

 オレが黙り込むと、スミレはまたコーヒーを口にした。そして、ふと表情を緩める。

「この3年間……別れた後も、ずっと桔平の絵を追い続けてきたの。公募や大学祭の展示、アートプラザに出しているものも、グループ展も。出来る限り観てきたつもり」

 思っていた通り、スミレはずっとオレの絵を追っていた。やはり絵に関しては執念深い。だからこそ、その審美眼が磨かれてきたのだろう。
 
「そして、この前の卒業制作の絵。あれを観て確信した。貴方は確実に変わっている。だから必ず描けるはずよ。自分自身の絵を。私は、この個展を絶対に成功させたい。そのためには桔平の力が必要なの」

 ただただ、真っ直ぐな瞳。オレが惹かれたのも、こういう瞳だった。絵に対する情熱は少しも変わっていない。むしろ以前より増しているようにも見える。

 オレの力が必要。あのスミレが、こんな言い方をするとは思わなかった。この企画に余程の思い入れがあるらしい。

「返事は1ヶ月待つわ。だから、よく考えてみて。画家としての今後を大きく左右することよ」

 すぐに返事が出来ないオレを見て、スミレが微笑む。
 1ヶ月という期間が、長いのか短いのかは分からない。しかしこれが大きな分岐点となることは、自分でも感じていた。
 
「ずいぶんと、髪が伸びたわよね」

 会社に戻るというスミレと一緒に店を出ると、オレを見上げてぽつりと言った。
 スミレと別れた時、自分がどんな髪型をしていたのかはあまり覚えていない。スミレの方はロングからボブへ変わっていたが、黒くて真っ直ぐなままだった。

「伸ばしてるの?」
「まぁ、何となく……」
「似合ってる。相変わらず派手だけどオシャレで、桔平だなって感じたわ」

 あの頃と同じようにスミレが笑いかけてくる度に、3年間の空白を感じる。オレと別れた後のことは、やはり何も語らなかった。
 
「それじゃ。可愛い彼女とも、よく話し合ってね。色よい返事を期待してるわ」

 パンプスの音を響かせながら、スミレが颯爽と去っていく。その後ろ姿を見送ることなく、オレは踵を返した。

 早く帰ろう。そして愛茉を抱きしめよう。考えるのは、それからでいい。
 頭の中にこだまするスミレの言葉を振り払い、駅の改札へと急いだ。
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