50 / 407
アンスリウムが咲く頃
8
しおりを挟む
「私が寝てる間、ずっと絵描いてたの?」
「ああ、理性保てなくなりそうだったから」
手を止めず、さらりと言い放った。
「可愛い顔して、すげぇ無防備に寝てるもんだからさ。じっと見てたら、ついキスしたくなって」
「し、したの!?」
「してねぇよ、我慢した。ちゃんと意識がある時にする方が反応見れるしな」
「反応って……」
ついつい桔平くんとのキスを想像して、勝手に赤面してしまう。い、いつかはするんだよね。
絶句していると、桔平くんが手を止めてこっちを見た。
「もしかして、キスもしたことない?」
「だ、だって、付き合ったことないもん。何なら男の人とデートしたのも肩抱かれたのも頭撫でられたのも、お姫様抱っこされたのだって、桔平くんが初めてだもん」
恥ずかしさを誤魔化すように早口で言ったものの、改めて今日の出来事が脳裏に浮かんで、余計に頬が熱くなった。
感情の読めない表情で見つめられる。この視線には、いつもドキドキしてしまう。
「嫌だった?」
「……嫌、じゃ……ない」
「そう。なら良かった」
少しだけ笑みを浮かべながら言って、桔平くんはアンスリウムに視線を戻した。
これ、好きって言ったようなもの?違うよね。嫌じゃないってだけだもんね。
それからしばらく、無言だった。桔平くんは絵を描くことに集中していて。私はまたベッドに横になりながら、ぼんやりとその姿を眺める。
沈黙って、本当は好きじゃない。誰と一緒にいても無言になるのは耐えられなくて。気の利いた話題を探して、必死に場を繋ぎとめてばっかりだった。
それなのに桔平くんとの無言の時間は、何故か心地良い。すごく穏やかに時間が流れていて、春の陽射しの中にいるみたいな感じ。
横顔もだけど、指がすごく綺麗だな。オシャレな桔平くんが指とか手首にアクセサリーをつけないのは、絵を描く時に邪魔になるからなのかも。
あ、鉛筆置いた。描き終わった?話しかけていいかな。
「……あの、引き留めておきながら、長時間寝ちゃってごめんね」
「いいよ。眠れる時に寝るのが一番だろ」
「もう、体調は大丈夫だから」
「んじゃ、そろそろ帰るかな」
私は慌ててベッドから降りて立ち上がった。
「えっと、そうじゃなくて。夕ご飯を……作ろうかなって」
「ん?それは、オレに飯作ってくれるって意味?」
こくんと頷いたものの、やっぱり出過ぎた真似かもと思ってしまう。いきなり手料理って、重たくない?
「え、いいの?」
「だ、だって。今日のタクシー代は、絶対受け取ってくれないでしょ。だからせめてご飯ぐらいはって……」
「マジで?すげぇ嬉しいんだけど」
な、なんでそんな子供みたいな顔で笑うのよ。そこまで嬉しいの?
「ああ、理性保てなくなりそうだったから」
手を止めず、さらりと言い放った。
「可愛い顔して、すげぇ無防備に寝てるもんだからさ。じっと見てたら、ついキスしたくなって」
「し、したの!?」
「してねぇよ、我慢した。ちゃんと意識がある時にする方が反応見れるしな」
「反応って……」
ついつい桔平くんとのキスを想像して、勝手に赤面してしまう。い、いつかはするんだよね。
絶句していると、桔平くんが手を止めてこっちを見た。
「もしかして、キスもしたことない?」
「だ、だって、付き合ったことないもん。何なら男の人とデートしたのも肩抱かれたのも頭撫でられたのも、お姫様抱っこされたのだって、桔平くんが初めてだもん」
恥ずかしさを誤魔化すように早口で言ったものの、改めて今日の出来事が脳裏に浮かんで、余計に頬が熱くなった。
感情の読めない表情で見つめられる。この視線には、いつもドキドキしてしまう。
「嫌だった?」
「……嫌、じゃ……ない」
「そう。なら良かった」
少しだけ笑みを浮かべながら言って、桔平くんはアンスリウムに視線を戻した。
これ、好きって言ったようなもの?違うよね。嫌じゃないってだけだもんね。
それからしばらく、無言だった。桔平くんは絵を描くことに集中していて。私はまたベッドに横になりながら、ぼんやりとその姿を眺める。
沈黙って、本当は好きじゃない。誰と一緒にいても無言になるのは耐えられなくて。気の利いた話題を探して、必死に場を繋ぎとめてばっかりだった。
それなのに桔平くんとの無言の時間は、何故か心地良い。すごく穏やかに時間が流れていて、春の陽射しの中にいるみたいな感じ。
横顔もだけど、指がすごく綺麗だな。オシャレな桔平くんが指とか手首にアクセサリーをつけないのは、絵を描く時に邪魔になるからなのかも。
あ、鉛筆置いた。描き終わった?話しかけていいかな。
「……あの、引き留めておきながら、長時間寝ちゃってごめんね」
「いいよ。眠れる時に寝るのが一番だろ」
「もう、体調は大丈夫だから」
「んじゃ、そろそろ帰るかな」
私は慌ててベッドから降りて立ち上がった。
「えっと、そうじゃなくて。夕ご飯を……作ろうかなって」
「ん?それは、オレに飯作ってくれるって意味?」
こくんと頷いたものの、やっぱり出過ぎた真似かもと思ってしまう。いきなり手料理って、重たくない?
「え、いいの?」
「だ、だって。今日のタクシー代は、絶対受け取ってくれないでしょ。だからせめてご飯ぐらいはって……」
「マジで?すげぇ嬉しいんだけど」
な、なんでそんな子供みたいな顔で笑うのよ。そこまで嬉しいの?
1
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜
和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`)
https://twitter.com/tobari_kaoru
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに……
なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。
なぜ、私だけにこんなに執着するのか。
私は間も無く死んでしまう。
どうか、私のことは忘れて……。
だから私は、あえて言うの。
バイバイって。
死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。
<登場人物>
矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望
悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司
山田:清に仕えるスーパー執事
クールな御曹司の溺愛ペットになりました
あさの紅茶
恋愛
旧題:クールな御曹司の溺愛ペット
やばい、やばい、やばい。
非常にやばい。
片山千咲(22)
大学を卒業後、未だ就職決まらず。
「もー、夏菜の会社で雇ってよぉ」
親友の夏菜に泣きつくも、呆れられるばかり。
なのに……。
「就職先が決まらないらしいな。だったら俺の手伝いをしないか?」
塚本一成(27)
夏菜のお兄さんからのまさかの打診。
高校生の時、一成さんに告白して玉砕している私。
いや、それはちょっと……と遠慮していたんだけど、親からのプレッシャーに負けて働くことに。
とっくに気持ちの整理はできているはずだったのに、一成さんの大人の魅力にあてられてドキドキが止まらない……。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる