ホウセンカ

えむら若奈

文字の大きさ
上 下
49 / 407
アンスリウムが咲く頃

7

しおりを挟む
 桔平くんは、涙が止まらない私をずっと宥めてくれた。どうして泣いているのかは、自分でも分からない。ただ、胸がいっぱいで。嬉しいのか苦しいのか切ないのか、感情がグチャグチャ。

 泣き疲れたのと、桔平くんの手が心地良かったのもあって、私はいつの間にか眠ってしまった。

 ぼんやり目を開けると、桔平くんはまた絵を描いている。今度は出窓に飾ってある花を細かくスケッチしているみたい。

 桔平くんの瞳が何もかも見透かしているように感じるのは、いつもいろいろなものの細部を見ようとしているからなのかな。

 もぞもぞ体を起こすと、その気配を察したのか、桔平くんが手を止めた。
 
「起きた?」
「うん」
 
 寝顔、めっちゃ見られたんじゃないかな。ヨダレとか垂れてないよね……。
 
「具合はどう?」
「だいぶ良くなったよ」
「すげぇ爆睡してたもんな。イビキかいて」
「えっ、うそ」
「嘘だよ」

 私が睨むと、桔平くんは笑いをかみ殺しながら、また手を動かし始めた。

 でも桔平くんになら、ヨダレ垂らしたりイビキかいたりしている姿を見られてもいいかもって、ほんの少し思った。気を許しすぎかな。

 時計を見たら、もう16時半過ぎ。私、2時間も寝てたの?桔平くんをほったらかしにして。

「綺麗だな、アンスリウム」

 視線を花に向けたまま、桔平くんが言った。アンスリウムの名前が瞬時に出てきたことに驚く。
 
「桔平くん、花も詳しいの?」
「植物は好きだよ。動物と一緒で、世話ができねぇから家に飾ることはないけど。愛茉の部屋は、植物多いな。他はハーブか」
「うん。ハーブは虫よけにもなるし」
「どんだけ虫嫌いなんだよ」

 桔平くんは、よく笑う。それは私と一緒にいるからだって自惚れてもいいのかな。

 合コンで最初に見た印象は、なんだか怖くて冷たそうな人って感じだったのに。この3週間くらいで、印象はまるで変わった。

 本当はすごく温かくて優しくて、とっても純粋な人。特に好きなものに向ける視線は真っ直ぐで、あれこれと理屈ばかり頭に浮かべてしまう私とは大違い。

 こんな人に好きだって言ってもらえる私は、すごく幸せなのかもしれないな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

クールな御曹司の溺愛ペットになりました

あさの紅茶
恋愛
旧題:クールな御曹司の溺愛ペット やばい、やばい、やばい。 非常にやばい。 片山千咲(22) 大学を卒業後、未だ就職決まらず。 「もー、夏菜の会社で雇ってよぉ」 親友の夏菜に泣きつくも、呆れられるばかり。 なのに……。 「就職先が決まらないらしいな。だったら俺の手伝いをしないか?」 塚本一成(27) 夏菜のお兄さんからのまさかの打診。 高校生の時、一成さんに告白して玉砕している私。 いや、それはちょっと……と遠慮していたんだけど、親からのプレッシャーに負けて働くことに。 とっくに気持ちの整理はできているはずだったのに、一成さんの大人の魅力にあてられてドキドキが止まらない……。 ********** このお話は他のサイトにも掲載しています

処理中です...