あなたに最後の贈り物を

しゃーりん

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デュール伯爵夫人ではあるが、部隊長の妻として、隊員の妻の相談に乗りたい。
 
そう告げた、妻の心遣いを嬉しく思っていた。

ふた月に一度ほど、お茶会をしていたのは知っている。
だが、夫人の集まりのため、内容を確認したことはなかった。

おそらく、夫の愚痴とかその辺りのことを話して盛り上がっているのではないかと思っていたのだ。

それなのに、隊員の妻の相談に乗るどころか、何も知らなかったメルリーを嘲笑い、ほかの隊員の妻が夫から聞いたブレイズとアイリーンのキスのことを、事細かに話して反応を面白がっていたらしい。 

何もしていない夫人に対し、妻のしていたことは虐めよりもひどい。
 

「先日のお茶会でのこと、なぜ報告しなかった?」


部隊長は妻を問い質した。


「あ……倒れてしまった夫人のことかしら?ごめんなさい。繊細な内容だったから躊躇してしまって。」

「そのわりには、使用人たちへの口止めは完璧だったんだな。」

「ごめんなさい、あなたが気にしないようにって思ってしまって。」
 
「なぜだ?むしろ、精神的苦痛を与えた詫びをいち早く入れなければならなかったというのに。」


妻の言うことが理解できない。


「え……?あ、だって、流産したのがたまたまお茶会の最中だったってだけだわ。
医師も手配してあげて、服も差し上げたわ。馬車で送ってあげたのよ?十分じゃないかしら。」


そういうことか。
妻は自分の陰湿な虐めが流産に繋がったとは思っていないのだ。
いや、思いたくないから、目が覚めた夫人をさっさと馬車に乗せて追い出したのだろう。

やましくなければ、一晩ここで安静にさせる手配をしたはずだ。
しかし、私にバレてはいけないからと追い出したのだ。 


「証言は取れている。顔色が悪く、帰りたがった夫人を君が引き留めて浮気の状況をペラペラと聞かせたのだということを。流産したのはたまたまじゃない。君の度重なる虐めによって彼女は追い詰められたんだ。
流産の原因は、君と君に追随して彼女を虐めた夫人たちによるものだ。」
 
「そんな、そんなことないわ。大したことは言っていないもの。
キスしていることも、浮気も事実だし、何も間違ったことは口にしていないわ。」

「間違っていないからと、笑いものにするように本人の前で話すことが正しいことなのか?
そもそも、部屋の中を覗いた者がいたわけでもないのに浮気が事実だとどうしてわかるんだ。

自分で言ったお茶会の目的を忘れたのか?
彼女に寄り添って相談に乗り、私に報告し、隊員たちの行動を諌めるように何故言わなかった?」
 

面白がっていたからだろう?

妻は言葉に詰まり、首を横に振るだけだった。


「しかも、勝手に口利きの約束までしていたらしいな。隊員の出世を君が左右できる?私はそんな権限を君に与えた覚えはないぞ。
個人的な贈り物まで受け取っていたとは……伯爵夫人でありながら浅ましい。」


爵位を継げない隊員とその妻は、実家に頼んで融通してもらっていたのだろう。申し訳ない。

よくも、デュール伯爵家の名を貶めるようなことをしてくれたものだ。


「もう、隊員の妻とのお茶会は禁止だ。他の社交についても当分の間、謹慎ということにする。
子供たちとも会うのは最小限にしてくれ。君に子供たちを任せていいものかが、不安になった。」

「そ、そんな……ひどいわ。」

「なら、離婚するか?」

「離婚?!」

「君は自分のしたことを夫人側になって考えてみろ。あるいは子供たちに自分がしたことができるのか?
目の前で小さな命を失わせたというのに、同じ母親として卑劣なことをしたとも思っていないその心根が私には信じられない。
私から、メルリー夫人には謝罪を入れる。君は何もしなくていいから謹慎していろ。」
 

他にも令嬢や夫人に対して余罪があるかもしれないので調査しなければならないが、ひとまず明日、ブレイズに夫人の様子を確認して詫びなければならない。
 


しかし翌日、まさか彼らが離婚したと知ることになるとは、この時は思いもしていなかったのだ。

 
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