19 / 30
19.
しおりを挟むデュール伯爵夫人ではあるが、部隊長の妻として、隊員の妻の相談に乗りたい。
そう告げた、妻の心遣いを嬉しく思っていた。
ふた月に一度ほど、お茶会をしていたのは知っている。
だが、夫人の集まりのため、内容を確認したことはなかった。
おそらく、夫の愚痴とかその辺りのことを話して盛り上がっているのではないかと思っていたのだ。
それなのに、隊員の妻の相談に乗るどころか、何も知らなかったメルリーを嘲笑い、ほかの隊員の妻が夫から聞いたブレイズとアイリーンのキスのことを、事細かに話して反応を面白がっていたらしい。
何もしていない夫人に対し、妻のしていたことは虐めよりもひどい。
「先日のお茶会でのこと、なぜ報告しなかった?」
部隊長は妻を問い質した。
「あ……倒れてしまった夫人のことかしら?ごめんなさい。繊細な内容だったから躊躇してしまって。」
「そのわりには、使用人たちへの口止めは完璧だったんだな。」
「ごめんなさい、あなたが気にしないようにって思ってしまって。」
「なぜだ?むしろ、精神的苦痛を与えた詫びをいち早く入れなければならなかったというのに。」
妻の言うことが理解できない。
「え……?あ、だって、流産したのがたまたまお茶会の最中だったってだけだわ。
医師も手配してあげて、服も差し上げたわ。馬車で送ってあげたのよ?十分じゃないかしら。」
そういうことか。
妻は自分の陰湿な虐めが流産に繋がったとは思っていないのだ。
いや、思いたくないから、目が覚めた夫人をさっさと馬車に乗せて追い出したのだろう。
やましくなければ、一晩ここで安静にさせる手配をしたはずだ。
しかし、私にバレてはいけないからと追い出したのだ。
「証言は取れている。顔色が悪く、帰りたがった夫人を君が引き留めて浮気の状況をペラペラと聞かせたのだということを。流産したのはたまたまじゃない。君の度重なる虐めによって彼女は追い詰められたんだ。
流産の原因は、君と君に追随して彼女を虐めた夫人たちによるものだ。」
「そんな、そんなことないわ。大したことは言っていないもの。
キスしていることも、浮気も事実だし、何も間違ったことは口にしていないわ。」
「間違っていないからと、笑いものにするように本人の前で話すことが正しいことなのか?
そもそも、部屋の中を覗いた者がいたわけでもないのに浮気が事実だとどうしてわかるんだ。
自分で言ったお茶会の目的を忘れたのか?
彼女に寄り添って相談に乗り、私に報告し、隊員たちの行動を諌めるように何故言わなかった?」
面白がっていたからだろう?
妻は言葉に詰まり、首を横に振るだけだった。
「しかも、勝手に口利きの約束までしていたらしいな。隊員の出世を君が左右できる?私はそんな権限を君に与えた覚えはないぞ。
個人的な贈り物まで受け取っていたとは……伯爵夫人でありながら浅ましい。」
爵位を継げない隊員とその妻は、実家に頼んで融通してもらっていたのだろう。申し訳ない。
よくも、デュール伯爵家の名を貶めるようなことをしてくれたものだ。
「もう、隊員の妻とのお茶会は禁止だ。他の社交についても当分の間、謹慎ということにする。
子供たちとも会うのは最小限にしてくれ。君に子供たちを任せていいものかが、不安になった。」
「そ、そんな……ひどいわ。」
「なら、離婚するか?」
「離婚?!」
「君は自分のしたことを夫人側になって考えてみろ。あるいは子供たちに自分がしたことができるのか?
目の前で小さな命を失わせたというのに、同じ母親として卑劣なことをしたとも思っていないその心根が私には信じられない。
私から、メルリー夫人には謝罪を入れる。君は何もしなくていいから謹慎していろ。」
他にも令嬢や夫人に対して余罪があるかもしれないので調査しなければならないが、ひとまず明日、ブレイズに夫人の様子を確認して詫びなければならない。
しかし翌日、まさか彼らが離婚したと知ることになるとは、この時は思いもしていなかったのだ。
2,340
あなたにおすすめの小説
あなたの絶望のカウントダウン
nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。
王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。
しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。
ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。
「本当にいいのですね?」
クラウディアは暗い目で王太子に告げる。
「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました
Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。
「彼から恋文をもらっていますの」。
二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに?
真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。
そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。
※小説家になろう様にも投稿しています
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました
よどら文鳥
恋愛
ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。
ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。
ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。
更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。
再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。
ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。
後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。
ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる