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ディオン殿下が一時帰国した。目的は明かされていない。

公爵となった第二王子殿下が主催でパーティーが開かれると聞いた。王家主催ではなかった。

つまり、特に外交目的でもなくラーガ王国次期女王の王配としてではない。
単なる里帰りのようなもの。

久しぶりに帰国した弟が顔見せできる場所を兄が提供するといった形のようだった。


マロン侯爵家にも、両親とソフィアナ夫婦宛に招待状が届いたので参加することになった。
正直言って、元婚約者を招待することは少々悪趣味なのではないか、と思ってしまう。

何のわだかまりもないと思わせたいとも取れるが、結婚三か月前の婚約解消でわだかまりがないと判断するのもいかがなものなのか。

もちろん、一般的に婚約解消になった二人がパーティーで出くわすことはよくある。
だがお互いが主催である時は、名指しで招待状を送ることは少ない。
爵位のある親宛に送られた招待状に同伴者何名までといった形で家族も来てもいいといった形になる。
参加不参加は本人の自由だ。
今回は上の爵位である公爵からソフィアナ夫婦の名指しで来ているため、ほぼ強制になる。

ディオンの兄である公爵は送付リストを確認したのだろうか。

ディオンの独断なのだろうか。

彼のことだから、私が未だにディオンを恋しがっているはずで喜ぶに違いないと思っているのだ。

まぁ、今更屋敷に来られても醜聞になりかねないのでパーティーで再会する方が助かる。 





そしてパーティーの日、ソフィアナは清楚でエレガントなドレスを着た。
三年前、まだディオンの婚約者だった頃とは全くイメージの違うドレス。 

未婚で10代の令嬢だった頃とは違い、既婚で子供もいる夫人の装いだ。
20代に入ったばかりでは10代の頃と同じく派手なドレスの女性もいるが、やがて落ち着く。
大きなリボンや多くのフリルや花飾りはどうしても若い子の方が似合う。

男性はともかく、女性の三年は大きい。
毎日、毎月のように顔を合わせている場合は、少しの変化に慣れてさほど変わった印象にはならないが、三年も会っていなければ、しかも、ディオンが目にしていたような可愛らしいドレスでなくなっていれば、普通は月日の流れを感じ取り、お互いにそれだけの時間が過ぎたと認識するだろう。

あの頃とは違う、大人の対応を期待する。元婚約者であっても今は無関係なのだから。

多少、懐かしむことはあったとしても、ディオンが他の参加者と同じような対応をしてくれるのであればそれでよかった。それを望んでいた。そしてそのまま何事もなくラーガ王国に帰ってくれるのを。


だが、やはりその望みは無意味だった。




ディオンの兄である公爵が、『三年ぶりに帰国した弟が懐かしい顔ぶれと楽しめるようにパーティーを開いた。人数が多いので全員と話すのは難しいだろうから、声がかからなかった者は残念だが食事と飲み物で楽しんでくれ』と笑いを誘う気軽な挨拶をした。

その後は、ディオンがどの辺にいるかがわかるくらい盛り上がっていた。

『久しぶり』『懐かしい』『カッコいい』『向こうではどんな仕事を?』『王女様とは?』

そんな声が聞こえてきた。
若い令嬢たちは初めてディオンを間近で見たのだろう。きゃあきゃあ言いながら後を追いかけている。


そして、ようやくディオンの目にソフィアナが入ったのだろうか。


「アナっ!」


と言いながら、嬉しそうに一直線にやってきた。


この時点で、私たち家族はディオンに幻滅したのだ。


  

 
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