17 / 33
17.
しおりを挟むブランシェはアンゼムと前を向いて共に歩む決意をした。
アンゼムが浮気した事実は消えない。
ブランシェが八か月間、行方不明だった事実も消えない。
社交界では、アンゼムがリンゼと再婚するのではないかと噂されていたというし、見つかったブランシェが離婚することなく表に出てくることをよく思わない貴族もいるはず。
それでも、何も悪いことをしていないので堂々とするつもりでいる。
義両親もブランシェを受け入れてくれている。
頼りないアンゼムにはブランシェのような、しっかりした女性がいなければ後を任せられないと婚約者時代から言われていた。
そういう意味では、図々しく強引なリンゼを義母が追い出さずに後妻候補として置いていたのもわからなくはない。
リンゼが義母のお気に召す女性となっていたら、ブランシェは元の居場所に戻れなかったと思う。
リンゼが妄想癖のある嘘つき女で助かった。
ブランシェが見つかったことは徐々に広まっていった。
騎士たちとも話し合い、ブランシェは『赤子と共に監禁されていた』ということになった。
赤子の世話をしていたと誤認されるように。
間違ってはいない。お腹の中にいたグレースを世話していたようなものなのだから。
赤子が誰の子かが不明で、ブランシェに懐いているためエメック侯爵家でお世話をしているということになっている。
ブランシェが妊娠していたことは騎士数人とエメック侯爵家の使用人の多くが知っているため、箝口令を敷いてもいつかはバレるかもしれない。
特に、解雇した侍女たちは噂を広める可能性がある。
しかし、グレースがブランシェの子ではないと証明できるため、嘘つき呼ばわりされるのは彼女たちになるというわけである。
魔術で子供を腹に移したなど、誰も想像しないし、知られていないことなのだから。
こうしてブランシェは、お茶会や夜会に顔を出して”元気”な姿を見せ始めた。
「ご無事でよかったですわ。お変わりない姿を見て安心しました。」
「ありがとう。」
ここまではどの夫人も同じ。
ここから、二手に分かれる。
他愛ない話や八か月の間にあった変化を教えてくれる夫人と、夫の浮気の話や監禁時の実情を探ろうとする夫人か。
「旦那様の愛人、追い出したのですって?さすが、ブランシェ様ですわねぇ。」
この夫人は後者だった。
まぁ、性格上、そうだとは思っていた。目と口で面白がっているのだとわかる。
「愛人?あぁ、あの妄想癖のある侍女のことですわね。彼女に感化された他の侍女まで義母に歯向かうような言動が見られるようになったので、纏めて解雇せざるを得ない状況になってしまって。
お気をつけてくださいね、嘘を真実だと思い込まされないように、関わってはダメですよ?」
解雇された侍女たちは、エメック侯爵家の話をして雇ってもらおうと動き回っているらしい。
リンゼに至っては、アンゼムに側にいてほしいと縋られたのに、ブランシェが怖くて殺される前に逃げ出したのだとペラペラと嘘を話しているという。
ブランシェの話ばかりにならないよう、リンゼや侍女たちが動き回っているのを放置していたが、そろそろ我慢の限界だからリンゼの家に抗議し、守秘義務違反をした元侍女たちは捕らえると義母が言っていた。
「おっほほほ……。関わりませんわ、そんな、怪しい解雇された侍女なんて。ええ。雇いませんとも。」
顔が引き攣っているわ。侍女として雇う前に、情報源としてお金でも払ったのかしら。
1,415
あなたにおすすめの小説
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。
夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。
ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。
一方夫のランスロットは……。
作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。
ご都合主義です。
以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。
【完結】巻き戻したのだから何がなんでも幸せになる! 姉弟、母のために頑張ります!
金峯蓮華
恋愛
愛する人と引き離され、政略結婚で好きでもない人と結婚した。
夫になった男に人としての尊厳を踏みじにられても愛する子供達の為に頑張った。
なのに私は夫に殺された。
神様、こんど生まれ変わったら愛するあの人と結婚させて下さい。
子供達もあの人との子供として生まれてきてほしい。
あの人と結婚できず、幸せになれないのならもう生まれ変わらなくていいわ。
またこんな人生なら生きる意味がないものね。
時間が巻き戻ったブランシュのやり直しの物語。
ブランシュが幸せになるように導くのは娘と息子。
この物語は息子の視点とブランシュの視点が交差します。
おかしなところがあるかもしれませんが、独自の世界の物語なのでおおらかに見守っていただけるとうれしいです。
ご都合主義の緩いお話です。
よろしくお願いします。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる