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23.
しおりを挟む学園後期が始まった。
セラヴィとトレッドの婚約破棄は休暇中に知れわたっており、社交界の話題としてはもう古い話と言ってもおかしくはないのだが、学園では婚約者ではなくなった2人がどんな顔で現れるか興味津々だった。
先にやってきたのはセラヴィ。
有体に言えば、彼女はフラれた側。
だが、頭も目もおかしいのはトレッドで、セラヴィは何も悪くないと誰もが知っている。
そして、前までと変わらない姿で明るく挨拶をしたセラヴィにみんながホッとした。
後にやってきたのはトレッド。
長年の婚約者で侯爵令嬢であるセラヴィを捨てて、留学生のナリアに心を奪われた愚か者。
彼の姿は、少し前とは違っていた。
男前のキラキラ度が明らかに下がっていたのだ。
全体的に痩せたように思えた。
それはそうだ。伯爵家はセラヴィの侯爵家との繋がりが切れたことにより信用を失った。
今後は契約終了や期日満了が更新されることなく、他家から縁を切られていくことだろう。
「あっ!セラヴィ、会いたかったんだ。話がしたくて。」
「トレッド様、私に話しかけないように伝えましたよね?」
「……そうだけど。本気じゃないよね?
それにそんな他人行儀じゃなくて前みたいに呼び捨てでいいのに。」
「本気です。そして私たちは他人です。家名で呼んでもいいですがクラスの方針が名前ですので。」
その方針を決めたのはクラス委員ではなくトレッドだったが。
「あ、僕の家の鉱山とセラヴィが持っている鉱山を取り換えてくれないかな。」
唐突にトレッドが放った言葉に、クラス中がシーンとなった。
非常識すぎる発言を人前でするこの男は何かクスリでも飲まされたのではないか?そんなことを考えたのは一人や二人ではないだろう。
「領地にある鉱山を、領主でもないあなたと私が手続きすることなどできません。
それに我が領地にあるものを手放すほど侯爵家は困っておりません。」
「いや、でもナリアが欲しがっていて……その鉱山がないと婚約できない。」
「意味がわかりません。あなたの領地の鉱山でいいではないですか。うちは関係ありません。」
セラヴィがトレッドから視線を外して席に座り、この会話が不快だと言動で表した時に教師がやってきたため、トレッドも話を続けることができなくなり席に着いた。
セラヴィはトレッドに呆れると共に、ナリアは既にトレッドから離れようとしているのではないかと思った。
彼女を繋ぎ止めるためにトレッドは必死になっている。
トレッドがそこまでナリアに心を奪われているのに、彼女の狙いはトレッドの妻ではなく鉱山。
……少し可哀想な気がするけれど、これも彼が選んだ結果なのだから。
ナリアが欲しがる鉱山はダイヤモンド鉱山。
ダイヤモンドが欲しいのなら、他の鉱山のダイヤモンドが宝飾店にはたくさんあるはずよ。
指輪にネックレス、イヤリングにブレスレット、髪飾りにブローチ、あとはティアラやドレス?
自分の好みのものが欲しいのであればデザイン通りに作ってもらえばいい。
加工前のダイヤモンドなんて、仕入れたいのなら簡単よ?まぁ、お金は必要だけど。
だからダイヤモンドが彼女の狙いではない。
鉱山そのもの。あるいはあの場所?
自領について学んだけれど、あの鉱山に何か意味があるなんて知らない。
お父様も知らないんじゃないかしら。おそらく、亡くなったお祖父様も。
だって、嫌がらせに使ったくらいなんだもの。
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