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しおりを挟むロベリー公爵がオードリック辺境伯の屋敷についた。
リリィはエイダン様と一緒に既に屋敷の中にいて、呼ばれるまでは姿を見せないことになっていた。
「着いたばかりだけど、公爵は呼ぶだろうか?」
「呼ぶでしょう。辺境伯様に軽くあしらわれてイライラするでしょうし。」
辺境伯様よりもジョーダンの方が爵位は上でも歳は30歳以上離れているため強く出難く、さっさと目的を果たしてしまいたいと思っているはず。
そう思っていたら、想像よりも早く呼ばれた。
まだお茶の一杯も飲み終わっていないのは確実だろう。
リリィはエイダン様と一緒に応接室へと向かった。
応接室に入ると、1年と数か月ぶりのジョーダンがいた。
「リアンヌ、元気そうでよかった。迎えに来たよ。一緒に帰ろう。」
「ジョーダン様、リアンヌは死にましたので帰りません。私はリリィとしてここで生きていきます。」
「リアンヌ、心配しなくていい。帰ったら母にもロレッタにも罰を与えて君に関わらないようにさせる。
それに、君は死んだことになったから社交界に出る必要もなくなった。陰口を聞くこともなくなる。
だから、昼間は屋敷内で君の好きに過ごして構わない。これでいいだろう?」
「……いえ、戻る気はありません。」
その時、エイダン様が口を挟んだ。
「ちょっと待ってください。公爵は誰がリリィをあんな目に合わせたかご存知ということですか?」
「ああ。母とロレッタの共謀だ。」
「なのに、未だ罰を受けさせていないということは証拠がないためですか?」
「いや、証拠は掴んでいるがリアンヌを取り戻してからにしようと思っていた。ところで君は?」
「私はオードリック家三男のエイダンです。リリィを助けた者です。」
「あぁ、君が。妻が世話になった。だが、妻の生存を知らせてくれるべきでは?」
ジョーダンはエイダン様のせいでリアンヌを見つけるのに時間がかかったと思っているのだろう。
「私が知らせないでほしいとお願いしました。だって、葬儀が終わっていたのですから。
私は誘拐されて凌辱されて足を折られて森に捨てられたのです。戻ったところで公爵夫人として過ごせるはずもありませんし、私が戻りたいと思わなかったのです。」
「……凌辱されたのか?」
「ええ。ただ殺すためだけに連れ去られたわけではなかったようですね。」
「アイツらの計画では、隣国の娼館に売るはずだったのだが……」
ジョーダンはいつ計画を知ったのだろうか。リリィが攫われる前?それとも後?
おそらく、攫われる前から知っていたのではないか。そして何らかの手違いで誘拐を阻止できなかった。
そして、隣国の娼館や道中を念入りに探したがリアンヌは見つからなかったということなのだろう。
「あら。それでは誘拐犯の独断なのでしょうか?エイダン様が見つけてくださらなければ確実に死んでいたはずですので。」
運よく獣に出会わなくても、森の中から出られずに餓死していた可能性もあるのだから。
「他の男に穢されて……」
まさか、ジョーダンはその可能性を考えていなかったのだろうか。
リアンヌの身が穢されていたことを知って、彼の気持ちが揺らいだように感じた。
「殺そうとしたのではなく娼館に売ろうとしたのであったとしても、そんなことを計画する人たちがいるところに帰りたいとも思いませんし、戻って囲われるような暮らしも絶対に嫌です。
それに、私、結婚しました。リリィとして。エイダン様と。」
ジョーダンは呆然としたままリリィとエイダン様の顔を見て呟いた。
「結婚……?まさか、この男にも体を許したと?」
「ええ。子供も授かりました。」
リリィは妊娠がわかったばかりのお腹に手を当てて微笑んだ。
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