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しおりを挟むリリィはエイダン様と結婚してお腹に子供もいることを元夫ジョーダンに告げた。
ジョーダンはリリィのお腹を凝視した後、顔色を悪くしながら言った。
「君は私という夫がいながら不貞するような女だったのか?」
「あなたの妻だったリアンヌは死んだことになりました。私はリリィとして結婚しましたので不貞ではありません。」
何度言えばわかるだろう。
ジョーダン自身も、リリィを王都に連れ帰ってもリアンヌが生きていたと公表するつもりはないのだ。
屋敷内で囲って外に出さない。そんな生活をさせるようなことを先ほど言っていたから。
つまりはジョーダンももう夫婦には戻れないとわかっているはずなのに。
「王都に戻れば、アンソニーに会えるんだぞ?」
「アンソニー、とは誰ですか?」
「お前は自分が生んだ子供を忘れたのか?!」
「あぁ、あの子はアンソニーという名前なのですね。いくら訊ねても誰も教えてくださいませんでした。」
辺境伯様とエイダン様がひどく驚いたことに気づいた。
我が子の名前すら知らないとは信じられないでしょうね。
「あの子を捨てるのか?母親を求めて泣くぞ?」
「捨てるも何も、私から子供を取り上げたのはジョーダン様ですよね?
出産直後、抱かせてもらったあの子を私の腕から取り上げて、あなたは前公爵夫人に手渡されました。その後、私は一度も会わせてもらえませんでした。
名前も知らなかったし、あの子の瞳の色も、私は知りません。それなのに、母親?
母親を求めて泣く?ご結婚されるロレッタ様が母親になってくださいます。義母として大切に育てると婚約時の新聞記事にも載っていました。
生みの母は死んだ。それで構いません。」
リリィは子供の顔もわからない。腕の中にいたのはわずか1分ほどのことだったから。
王都に戻り、『この子がお前の子供だ』とそばにいることを許してもらえても、本当にその子が自分の生んだ子だという確信すら持てない。
ジョーダンの遊び相手の女性が生んだ子供の可能性もあるかもしれない。
要するに、ジョーダンの何もかもが信じられないのだ。
母親だからという理由だけで、子供のために自分の人生をもう犠牲にはしたくない。
父親はジョーダンなのだ。母親が必要と判断するのであれば、ロレッタ様になってもらえばいい。
「私以外の男に体を許し、その上妊娠までした女など、もう触れる気も起らないが、息子の乳母として側にいさせてやろうとした慈悲まで蔑ろにするとはなっ!お前はもっと愛情深い女だと思っていたよ。」
今更なにを言っているのだか。
どちらかしか選べないのであれば、会えなかった我が子への未練より、新たに授かった我が子に愛情を注ぎたいと思うのは当然のことだろう。
それを薄情と罵るのであれば、別に構わない。
耐え忍んでいたロベリー公爵夫人リアンヌは死んだ。アンソニーの母も死んだ。それでいい。
「二度と息子に会えないんだぞ?本当にいいんだな?ポマド子爵夫妻にも会わせないぞ?」
「構いません。両親は一度も会わせてもらったことはなく、孫の1歳のお祝いの品も送り返された時、娘が亡くなったことで祖父母だと名乗ることすら許されないのだと諦めたそうですので。」
送り返したのは前公爵夫人らしいが、ポマド子爵家と関係を断つと公爵であるジョーダンが示したのと同じことだ。
ジョーダンはリリィを連れて帰る意味も口実も無くなり、その日のうちに王都へと戻って行った。
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