上 下
44 / 44

44.

しおりを挟む
 
 
3か月後、ミーシャは妊娠した。

悪阻がひどく、研究所は退職することにした。
おそらく、出産後は子供のそばにいたいと思うだろうから。
目が良くなる薬を作りたくて研究員になった。
子供を預けてまでどうしても続けたいと思うほど熱意もなかった。
子供が大きくなったら、また薬師として働いたりするかもしれないけれど。


産まれたのは、女の子だった。エレーナと名付けられた。

びっくりするくらいキレイな子で、みんなから可愛がられた。
特にお義母様とお義姉様は自分が産みたかった女の子の代わりに、エレーナを着飾らせて楽しんでいた。
ミーシャ自身は流行に疎いし、あまり服装に興味もないのでお任せ状態。

結局、侯爵邸と街の家を行ったり来たりと半々くらいで暮らす状態になっていた。

結婚後も出産後も、侯爵家の護衛は派遣されたままで乳母までいる。


「あの子、平民の生活なんて無理よね。」

「そうだなぁ。侯爵家に慣らされすぎたな。
 だけど、無防備な状態で2人を家に置いておくのは不安過ぎて実家に甘えたままだ。
 兄上は侯爵家の養女にしてもいいと言うし、俺が子爵位を貰うなら子爵令嬢だ。
 俺たちが社交嫌いだからといってエレーナを平民にはできない。」

「攫われて娼館や愛人は絶対ダメよ!」

「ははっ。ミーシャはよほど自分がそう言われたのが怖かったんだな。
 うん。とりあえず、貴族の教育は受けさせて、学園入学前にどうするか決めるか。
 難しいな。侯爵令嬢だと相手を選べるかもしれないけれど、高位貴族になる。
 子爵令嬢だと政略結婚で断れないかもしれない。
 あぁ、親バカだとは思うが、エレーナの可愛さは最強だろ?」 

 
しかし、6歳になる頃からエレーナへの婚約申し込みが増えてくることを、カーティスとミーシャはまだ知らなかった。
その原因が、侯爵位を継いだ兄の2人の息子のせいだとも。
あちらこちらでエレーナの可愛さを語った2人が、侯爵邸に友人を招いたことが原因だということを。
大好きな従兄弟2人に連れられてエレーナが顔を見せてしまい、息子に付き添ってきた母親たちが一目でエレーナを気に入ってしまうことになろうとは思いもしない。それはまだ少し先のこと。


エレーナが誰を選ぶか、あるいは侯爵とカーティスが誰をエレーナの相手に選ぶかはまだわからないけれど、エレーナにも幸せな結婚をしてほしい。

ミーシャは、アロイスと出会う前までの、誰とも話さない寂しさを今では全く感じることはない。
カーティスとエレーナが、侯爵家のみんながそばにいてくれるから。

自分と同じように、エレーナも良い出会いに恵まれて幸せな結婚をしてほしいと願う。


「どうかしたか?」

「ううん。カーティス様と結婚して、エレーナが生まれて、幸せだなぁって思ってたの。」

「俺もこんな幸せがあるなんて思いもしなかった。じー様に感謝だな。」


笑い合って、顔を寄せてキスをした。




 
<終わり>


  
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

ユウ
恋愛
婚約者を妹に奪われた伯爵家令嬢のアレーシャ。 我儘で世間知らずの義妹は何もかも姉から奪い婚約者までも奪ってしまった。 侯爵家は見目麗しく華やかな妹を望み捨てられてしまう。 そんな中宮廷では英雄と謳われた大公殿下のお妃選びが囁かれる。

いいですよ、離婚しましょう。だって、あなたはその女性が好きなのでしょう?

水垣するめ
恋愛
アリシアとロバートが結婚したのは一年前。 貴族にありがちな親と親との政略結婚だった。 二人は婚約した後、何事も無く結婚して、ロバートは婿養子としてこの家に来た。 しかし結婚してから一ヶ月経った頃、「出かけてくる」と言って週に一度、朝から晩まで出かけるようになった。 アリシアはすぐに、ロバートは幼馴染のサラに会いに行っているのだと分かった。 彼が昔から幼馴染を好意を寄せていたのは分かっていたからだ。 しかし、アリシアは私以外の女性と一切関わるな、と言うつもりもなかったし、幼馴染とも関係を切れ、なんて狭量なことを言うつもりも無かった。 だから、毎週一度会うぐらいなら、それくらいは情けとして良いだろう、と思っていた。 ずっと愛していたのだからしょうがない、とも思っていた。 一日中家を空けることは無かったし、結婚している以上ある程度の節度は守っていると思っていた。 しかし、ロバートはアリシアの信頼を裏切っていた。 そしてアリシアは家からロバートを追放しようと決意する。

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

メガネじゃ見えないものもある

長井瑞希
青春
職場の後輩をデートに誘うも前日になり突然キャンセルされたメガネ男子。たまの休日だというのに予定がすっかりなくなってしまった男は、行きつけの居酒屋に行き誰に聞かれるわけでもなくフラれ話を語りだした……。 とある男の供養話。

気がついたら無理!絶対にいや!

朝山みどり
恋愛
アリスは子供の頃からしっかりしていた。そのせいか、なぜか利用され、便利に使われてしまう。 そして嵐のとき置き去りにされてしまった。助けてくれた彼に大切にされたアリスは甘えることを知った。そして甘えられることも・・・ やがてアリスは自分は上に立つ能力があると自覚する

私の婚約者は誰?

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ライラは、2歳年上の伯爵令息ケントと婚約していた。 ところが、ケントが失踪(駆け落ち)してしまう。 その情報を聞き、ライラは意識を失ってしまった。 翌日ライラが目覚めるとケントのことはすっかり忘れており、自分の婚約者がケントの父、伯爵だと思っていた。 婚約者との結婚に向けて突き進むライラと、勘違いを正したい両親&伯爵のお話です。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

20年かけた恋が実ったって言うけど結局は略奪でしょ?

ヘロディア
恋愛
偶然にも夫が、知らない女性に告白されるのを目撃してしまった主人公。 彼女はショックを受けたが、更に夫がその女性を抱きしめ、その関係性を理解してしまう。 その女性は、20年かけた恋が実った、とまるで物語のヒロインのように言い、訳がわからなくなる主人公。 数日が経ち、夫から今夜は帰れないから先に寝て、とメールが届いて、主人公の不安は確信に変わる。夫を追った先でみたものとは…

処理中です...