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しおりを挟むレイノルズはもっと簡単に結婚式の中止が決まると思っていたのだ。
「私の判断ミスです。ベックがあんなに抵抗するとは思わず、時間がかかってしまいました。」
新郎であるベック側が揉めている間に、新婦であるサリーシャ側は化粧や髪型、ドレスの着付けまで終わってしまっていたのだ。
中止になって悲しい気持ちでドレスを脱ぐことになるなど、させたくなかったのに。
レイノルズはそう悔やんでいた。
「サリーシャ嬢、君は浮気する男は嫌だと言っていただろう?式を中止にした私の行動は正しかったと思っていいだろうか。それとも君はベックを許し、結婚式を挙げたかったのだろうか。結婚式を中止にするようなことをしておいて今更だが、やはり君に先に確認するべきだったと自分の行動を後悔しているんだ。」
なるほど。レイノルズがここで待っていた本音は、勝手に行動して自責の念に駆られたからだろう。
「レイノルズ様、私は結婚式が中止になってよかったと思っています。もし、式を挙げてしまった後にベック様の浮気のことを知ってしまった場合でも許すことはなかったと思います。それに彼は取り調べを受けることになるでしょうから、婚姻無効あるいは離婚も認めてもらえたと思います。
結婚式で誓った後だったら、ショックが大きすぎて今みたいに落ち着いていられなかったでしょうね。」
「レイノルズ、君には感謝しているよ。入籍前だった。これは気持ち的には大きいからね。」
父にも感謝されて、レイノルズはホッとしたようだった。
「よかった。余計なお世話だと怒鳴られても仕方がないかと思っていました。
ですが、そうですね。ベックは女性の接待を受けていたということで調査されますね。そこまで頭が回っていませんでした。結婚式を中止にしなければならないということで頭がいっぱいで。」
レイノルズはこうやっていつも私を気遣ってくれる。しかし、それは彼の告白を断ってからのことだった。
それまでの彼は、優しかったが自分中心で他人の気持ちには疎かったように思う。
「サリーシャ嬢、こんな日に伝えるべきではないかもしれないが言わせてほしい。
私は今でも君が好きだ。私との結婚を考えてくれないだろうか。」
サリーシャは驚いた。確かにレイノルズに婚約者はいない。いい出会いを探しているのだと思っていたが、サリーシャが結婚するまでは考えたくなかったのかもしれない。
彼の気持ちは意外と一途だったということなのか。
「レイノルズ様にとって浮気の認識はどこからかしら。」
政略結婚の場合、跡継ぎができた後は形だけの夫婦となってどちらも愛人を作ったり娼館通いをしたりすることは少なくない。
サリーシャはそれが嫌で、ベックとレイノルズに浮気をしないかと確認したつもりだった。
恋愛結婚となれば、自分だけを愛してくれるはずだと思っていたから。
自分の言葉足らずが原因だったかもしれないが、仕事の一環だからと女性の手配を受けることに納得したベックはそれを浮気と認識しないまま結婚後もサリーシャを裏切り続けていたことに変わりはなかっただろう。
ではレイノルズはどうなのか。告白を断る前のレイノルズの考えが変わっていなければ、サリーシャの浮気の認識とは違ってくる。
だが、彼は以前とは変わった。だからこそ確認したい。父のいる前で。
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