あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

しゃーりん

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ノックス殿下のやらかした寸劇が終わり、さぁ、パーティーの続きを、といった空気になっていたところをぶち壊したのはやはりノックス殿下だった。


「ちょ、ちょっと父上、王太子に戻さないというのはどういうことですか?確かに、アヴリルを離婚させようとしたことは間違いだったと認めます。ですが、それはまだ彼女が僕のことを好きなはずだと思っていたからであって。喜ぶだろうと勘違いしていただけのこと。
それと王太子に戻さないというのは、問題が違うのでは?」


国王陛下はノックス殿下に向かって呆れたように言った。


「この間、説明したではないか。2年前、お前の婚約解消を認めた時点でお前は今後も王太子にはなれないということを。あぁ、あの子爵令嬢が王太子妃の器ではないとも言ったから、彼女の代わりを見つければ王太子に戻れると勘違いをしたのか。
そうではない。
あの時、お前が王太子に相応しくないから第一王子に戻せと進言され、それを妥当であると私は受け入れた。誰からも何の反論もなかった。つまり、この国の貴族家の総意でお前は王太子に相応しい男ではないと見做されたのだ。

婚約破棄を言い出すほどお前が好きなあの子爵令嬢が王子妃教育を終えたら、結婚させてやるつもりだった。
だが彼女はまず貴族としての基本から学ぶ必要があった。それで2年経ってもまだ終えていないが時期に終わるだろう。王太子妃教育とは違うからな。

お前には兄王子として王太子になる弟を支えてやってほしいと思い、この2年、様々な仕事を与えて何に適応するかを見ていたが、どこでも苦情ばかりだった。 

王太子には相応しくなく、王子として弟を支える能力もない。つまりお前は……役立たずだ。
北方領地の領主を命ずる。あの子爵令嬢を妻とし、赴くがよい。」


国王陛下の命令にどよめきが起きたが、やがて妥当な任地だと思われた。

北方の地は、古くからの民族が団結していてそれぞれに長がいる。
領主になっても長に口出しはできないし、報告を受けるだけ。
領主がいない期間であっても、代理できちんと管理されている。

つまり、お飾り領主でいいのだ。

お飾りでいいのだが、娯楽はほとんどない。お飾りでいるには暇すぎるところなのだ。

王都からとても遠い場所。社交も必要なく、誰かを招くことも誰かに招かれることもない。


自分が国王である父親から見放されたとわかったノックス殿下は、なぜかアヴリルを批判した。


「アヴリル、お前が、お前が結婚なんてしてるから、離婚しないと言ったから俺が見放されたんだ!」


アブリルに掴みかかる勢いでやってきたノックス殿下は、アヴリルに辿り着く前に近衛騎士に捕まった。
国王陛下はノックス殿下を退出させるため近衛騎士に指示を出していたからだ。

アヴリルの夫スタンリーも、もちろんアヴリルの前に立ちふさがっていた。
スタンリーの後ろから顔を出してアヴリルはノックス殿下に向かって言った。

 
「あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?小賢しい私との結婚を嫌って婚約破棄を告げたのはあなたではないですか。責任転嫁をしないでいただけますか?自業自得なのですよ。」


アヴリルはそう言ってスッキリした。
この男の妻にならずに済んで良かったと心から愚かなこの男に感謝した。 
 
近衛騎士によってノックス殿下は退出させられた。
いや、領主を命じられたことでもう殿下ではないとも言える。
 
アヴリルが彼より劣る存在でいたのなら、劣等感を抱くことなく彼は真面目でいられたのだろうか。

今となっては、もうわからない。

彼が自分で選び、進んだ結果なのだ。私のせいにされても困る。


「アヴリル、疲れたんじゃないか?椅子に座ろう。」

「ありがとう、スタンリー。」

「それにしても、妊婦用のドレスに気づかないとはな。」

「そうね。驚いたわ。」


そう。まだほとんど目立たないがアヴリルは妊娠中。お腹を締め付けないようにハイウエストのドレスを着ている。
これは妊婦の証でもあり、ダンスの誘いはないしアルコールを勧められることはないし椅子も優先的に座れる。

誰が見てもアヴリルは妊娠中だと言うのに、ノックス殿下は離婚を命じた。

他人の子供を妊娠中の女性を王太子妃に?

寸劇は喜劇だったと言える。楽しんでもらえただろうか。 

もう二度と舞台には上がりたくない。二度も準主役級を演じた。どちらも台詞は少なかったけど。

私には注目される素質はない。王太子妃、王妃には向かなかった。
次期侯爵夫人で精一杯。
夫と子供、そして領民のために尽くす今の暮らしで十分に満足しているわ。


「どうした?」

「ううん。当分、観劇はいいかなって。」


アヴリルのその言葉に、スタンリーは爆笑していた。
 
スタンリーの笑顔のお陰で、ようやく舞台から下りて幸せな日常に戻れた気がした。



<終わり>

 


 
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