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終章 未来への道筋
第88話 リネアの行方
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「えっ、リネアが帰って来ない?」
父であるトワイライト公王から呼び戻しの手紙が届き、リネアに別れの挨拶にとお屋敷を訪れたのだが、聞かされたのは一週間ほど前から連絡が付かないという知らせだった。
「それでリネアはどこへ行ったの?」
「トワイライト公国へです」
「!?」
トワイライト公国、それはまさに僕がこれから向かおうとしていた目的地。
少し前から時折耳にする公国の様子に、いつかはこんな日が来るのではと覚悟はしていたが、まさか別れ話をするために訪れた僕の方が、この様な話を聞かされるなんて思いもしなかった。
しかも呼び出したのが義理の母となるオリーブ・トワイライトと聞けば、僕でなくとも嫌な予感しか思い浮かばない。
「こちらから再三連絡を入れているのですが、返ってくるのはただ今は帰せないとだけ。理由を尋ねても公妃様の命令だとしか教えて貰えない始末でして」
どう言う事だ? 継承問題で義理母が僕の存在を疎ましく思っているのは当然知っている。だけどリネアは全くと言っていいほど関係がない。
今回ゼストから届いた手紙には継承絡みの事が書かれていたので、恐らくは僕を次の公王にという声が上がってしまったのだろう。僕としてはハッキリと断りたいところではあるが、それが通じない事も理解している。
するとリネアは僕に対しての嫌がらせか?
僕がこの地にいる事ぐらいは耳にしているだろうが、監視役のゼストが居た手前、リネアとは必要以上に近づかない様に心がけていた。でももし僕のせいでリネアの身に何かがあれば……。
「すまない、急用ができた」
とにかく今は早く公国に戻らなければいけない。
僕は一人馬に跨り、急ぎトワイライト公国へ向けて旅立つのだった。
ーー 数日前、トワイライト公国・公城 ーー
「お連れいたしましまた」
案内役の男性に連れられるまま、やってきたのは公城の敷地内にある東塔。
詳しくは知らないが、東塔には正妻であり現在たった一人の公妃様と、その息子であるレイヴン公子が住まわれており、西塔には今は亡くなられた第二公妃様の忘れ形見、第二公子様と妹の第一公女様のお二人が住まわれているのだという。
「初めてお目にかかります、リネア・アクアと申します」
まずはカテーシーでご挨拶。
このトワイライト連合国家は、それぞれの領地が独立した国だというのは覚えているだろうか。本来国の最高位でもある王族に挨拶をする場合、臣下の礼をととるのだが、この場合私と公妃様は同じ立場。もちろん領地の規模や連合国家内の発言力は雲泥の差だが、ここでかしずく事はそのままお互いの立場を決定付けてしまう。
幾ら呼び出しに従ったとはいえ、ここでスキを見せればアクアの立場も悪くなってしまうだろう。
「遠くの地からよく来てくれたわね」
「いえ、公妃様直々のお呼び出しとなれば、馳せ参じるのは当然の事。それで御用というのはどういった内容なのでしょうか?」
なるべく丁寧に、一語一句言葉を間違えない様に言葉を紡ぐ。
私の知っている範囲の情報では、公妃様と公王様の関係はあまりいい噂はなく、王位継承問題では第一公子派と第二公子派とで分かれていると聞いている。
なんでも国民からの人気は低いが、多くの臣下や連合国家の領主が推す第一公子と、国民からの人気はあるものの、放浪癖があり臣下から評判が悪いと噂される第二公子。
直接本人との面識がないので個人的な感想は控えさせてもらうが、私としてはどちらが公位を継承しようが関係ないので、ここは中立の立場を示すのが賢明だろう。
「どうやら聞いていた通りの子の様ね」
「???」
今の会話で一体何が分かったのかと尋ねたいが、公妃様の中では何かが確定してしまったのだろう。
これでもアクア領の知名度がここ1年で知れ渡った事は理解しているし、商会が取り扱っている様々な食品関係が、このトワイライト公国にまで広まっているのも知っている。
恐らくはその辺りから私の噂を聞かれたのだろうが、過大な評価は正直お断りしたいところだ。
「リネア、貴女をを呼び寄せた理由を説明する前に一つ質問はいいかしら?」
「??? はい。私に答えられる事でしたら」
公妃様は呼び寄せた理由を説明する前に、なぜか前置きをおいて私に尋ねて来られる。
「貴女、好きな男性はいるのかしら?」
「……は?」
余りの予想外の問いかけに、思わず公妃様の前だというのに間抜けた顔を晒してしまう。
待って待って、その質問は一体何処に繋がっているの?
好きな男性がいるのか問われると、当然『いない』と答えるのだけれど、ここで正直に答えて見知らぬ男性を紹介されても困ると言うもの。
公妃様が持ってこられたお見合い話なら、私などの弱小領主は断れないのは明白。かといって、ここで誰かを指名して中添え人をするとか言われても困ってしまうので、どう答えれば正解なのかが全くわからない。
そもそも最初の質問がコレってどうなのよ。
「えっと……その……」
無意識のうちに服の下に隠しているアレクのペンダントにそっと触れる。
「その様子だと片思いかしら?」
この時、私の心臓がドキッと大きな鼓動を響かせる。
正直今の私はアレクどう想っているのかが分からない。幼少の頃からの淡い想いを抱いていたのは本当だが、それは恋心というよりどちらかといえば尊敬できる兄のような気持ちだった。それが運命的の再会を果たし、立派に成長したアレクの姿を見て一時はトキメキもしたのだが、私はアレクを仕事のパートーナーとして割り切らせてしまったのだ。
アレクはいずれ私の元を去っていく、それは変えようのない現実だし、元々そういう契約だったので引き止める権利は私にはない。
だったら心の中に眠る気持ちを曝け出すより、今まで通り仕事のパートナーとして良い関係を維持する方がいいのではないか?
私がどう想おうと、アレクが同じ気持ちでいるとも限らないのだから……
「……いいえ。好きな人などいません……」
ズキッ……、心が痛い。
私はいま自分に嘘をついた。何が『どう想っているかわからない』だ、この心の痛みこそ答えそのものではないないか。
私は逃げたのだ、自分の心からも、アレクからも……。
父であるトワイライト公王から呼び戻しの手紙が届き、リネアに別れの挨拶にとお屋敷を訪れたのだが、聞かされたのは一週間ほど前から連絡が付かないという知らせだった。
「それでリネアはどこへ行ったの?」
「トワイライト公国へです」
「!?」
トワイライト公国、それはまさに僕がこれから向かおうとしていた目的地。
少し前から時折耳にする公国の様子に、いつかはこんな日が来るのではと覚悟はしていたが、まさか別れ話をするために訪れた僕の方が、この様な話を聞かされるなんて思いもしなかった。
しかも呼び出したのが義理の母となるオリーブ・トワイライトと聞けば、僕でなくとも嫌な予感しか思い浮かばない。
「こちらから再三連絡を入れているのですが、返ってくるのはただ今は帰せないとだけ。理由を尋ねても公妃様の命令だとしか教えて貰えない始末でして」
どう言う事だ? 継承問題で義理母が僕の存在を疎ましく思っているのは当然知っている。だけどリネアは全くと言っていいほど関係がない。
今回ゼストから届いた手紙には継承絡みの事が書かれていたので、恐らくは僕を次の公王にという声が上がってしまったのだろう。僕としてはハッキリと断りたいところではあるが、それが通じない事も理解している。
するとリネアは僕に対しての嫌がらせか?
僕がこの地にいる事ぐらいは耳にしているだろうが、監視役のゼストが居た手前、リネアとは必要以上に近づかない様に心がけていた。でももし僕のせいでリネアの身に何かがあれば……。
「すまない、急用ができた」
とにかく今は早く公国に戻らなければいけない。
僕は一人馬に跨り、急ぎトワイライト公国へ向けて旅立つのだった。
ーー 数日前、トワイライト公国・公城 ーー
「お連れいたしましまた」
案内役の男性に連れられるまま、やってきたのは公城の敷地内にある東塔。
詳しくは知らないが、東塔には正妻であり現在たった一人の公妃様と、その息子であるレイヴン公子が住まわれており、西塔には今は亡くなられた第二公妃様の忘れ形見、第二公子様と妹の第一公女様のお二人が住まわれているのだという。
「初めてお目にかかります、リネア・アクアと申します」
まずはカテーシーでご挨拶。
このトワイライト連合国家は、それぞれの領地が独立した国だというのは覚えているだろうか。本来国の最高位でもある王族に挨拶をする場合、臣下の礼をととるのだが、この場合私と公妃様は同じ立場。もちろん領地の規模や連合国家内の発言力は雲泥の差だが、ここでかしずく事はそのままお互いの立場を決定付けてしまう。
幾ら呼び出しに従ったとはいえ、ここでスキを見せればアクアの立場も悪くなってしまうだろう。
「遠くの地からよく来てくれたわね」
「いえ、公妃様直々のお呼び出しとなれば、馳せ参じるのは当然の事。それで御用というのはどういった内容なのでしょうか?」
なるべく丁寧に、一語一句言葉を間違えない様に言葉を紡ぐ。
私の知っている範囲の情報では、公妃様と公王様の関係はあまりいい噂はなく、王位継承問題では第一公子派と第二公子派とで分かれていると聞いている。
なんでも国民からの人気は低いが、多くの臣下や連合国家の領主が推す第一公子と、国民からの人気はあるものの、放浪癖があり臣下から評判が悪いと噂される第二公子。
直接本人との面識がないので個人的な感想は控えさせてもらうが、私としてはどちらが公位を継承しようが関係ないので、ここは中立の立場を示すのが賢明だろう。
「どうやら聞いていた通りの子の様ね」
「???」
今の会話で一体何が分かったのかと尋ねたいが、公妃様の中では何かが確定してしまったのだろう。
これでもアクア領の知名度がここ1年で知れ渡った事は理解しているし、商会が取り扱っている様々な食品関係が、このトワイライト公国にまで広まっているのも知っている。
恐らくはその辺りから私の噂を聞かれたのだろうが、過大な評価は正直お断りしたいところだ。
「リネア、貴女をを呼び寄せた理由を説明する前に一つ質問はいいかしら?」
「??? はい。私に答えられる事でしたら」
公妃様は呼び寄せた理由を説明する前に、なぜか前置きをおいて私に尋ねて来られる。
「貴女、好きな男性はいるのかしら?」
「……は?」
余りの予想外の問いかけに、思わず公妃様の前だというのに間抜けた顔を晒してしまう。
待って待って、その質問は一体何処に繋がっているの?
好きな男性がいるのか問われると、当然『いない』と答えるのだけれど、ここで正直に答えて見知らぬ男性を紹介されても困ると言うもの。
公妃様が持ってこられたお見合い話なら、私などの弱小領主は断れないのは明白。かといって、ここで誰かを指名して中添え人をするとか言われても困ってしまうので、どう答えれば正解なのかが全くわからない。
そもそも最初の質問がコレってどうなのよ。
「えっと……その……」
無意識のうちに服の下に隠しているアレクのペンダントにそっと触れる。
「その様子だと片思いかしら?」
この時、私の心臓がドキッと大きな鼓動を響かせる。
正直今の私はアレクどう想っているのかが分からない。幼少の頃からの淡い想いを抱いていたのは本当だが、それは恋心というよりどちらかといえば尊敬できる兄のような気持ちだった。それが運命的の再会を果たし、立派に成長したアレクの姿を見て一時はトキメキもしたのだが、私はアレクを仕事のパートーナーとして割り切らせてしまったのだ。
アレクはいずれ私の元を去っていく、それは変えようのない現実だし、元々そういう契約だったので引き止める権利は私にはない。
だったら心の中に眠る気持ちを曝け出すより、今まで通り仕事のパートナーとして良い関係を維持する方がいいのではないか?
私がどう想おうと、アレクが同じ気持ちでいるとも限らないのだから……
「……いいえ。好きな人などいません……」
ズキッ……、心が痛い。
私はいま自分に嘘をついた。何が『どう想っているかわからない』だ、この心の痛みこそ答えそのものではないないか。
私は逃げたのだ、自分の心からも、アレクからも……。
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