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都内
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一方その頃、時は少し遡り出て行った久臣を見た久遠は彼に続こうと短い手足を動かす。何なら法術も使うがそれを晴臣に阻止されてぷっくうううっと頬をパンパンに膨らませる。
「くちゃ、いく!!」
「だめです若君」
「い、くううううううっ!!!!」
ぐああああああっと海老ぞりになってそう言うが、晴臣の腕に抱かれている小さな体ではあっさりと拘束されて終わった。
久遠は晴臣のことが好きだが、こういう時は嫌いである。
ふんふん興奮して鼻息荒くいやいや首を振る。晴臣はどうにか興奮しているこの子供の意識を逸らそうと手近にいるもう一人に焦点を向けた。
「ほら、若君。しーちゃんのお友達ですよ。挨拶したらいかがです?」
瞬間、すんっと無表情になった久遠はむっと口をへの字に曲げる。それからじとおっと頭を逆さにしながらそこにいる駆をみた。
そもそも、静紀が外にいるとあのよく分からん奴にいわれてきたというのに何でこんなことになっているのだろうか。
全く、こんな場所でしーちゃんが、お、俺の友達が外に!という駆の声を聞かなければここに来ることもなく素通りしてお外に出られたのに。
大体にして、自分がずっと会えてないのにお友達ぃ?誰の許可を得てお友達なんて名乗ってるわけぇ?
久遠にまだ、駆の言っているしーちゃんが自分のしーちゃんかどうかなんて判別がついていないが、まあ、結局は同じしーちゃんなので支障はないだろう。
ちなみに晴臣は、同じ名前の子がいるんだなと露ほどにも同一人物だとは思っていない。こんなところにずっと探していた子がぽっと現れるとは夢にも思わないだろう。
とりあえず久遠の意識を逸らしたいがためにそう言っただけだ。
「やっ!」
一先ず、外に出ようとじたばたするのはやめて久遠はとても不満を抱えつつぷいっとそっぽを向いた。のけぞっている久遠の頭を支えて一先ず起こしてあげながら晴臣は困った顔をする。絶対一人で出ちゃいけない人物がさっさと行ってしまって後を追いたいが、久遠を一人にさせるわけにも行かず今晴臣はこの場で待つしかできないのである。
誰か、護衛の一人や二人来てくれないか!!
晴臣はそう思いながらぷりぷり怒っている久遠の背中を撫でて宥めつつ腰を屈める。
「こんばんは。怪我とかはないですか?」
晴臣は一先ず、駆に声をかけた。呆然としている彼は声をかけられたことによりびくりと体を震わせてそれから恐る恐る声を出す。
「俺は、守られていたので……」
「そうですか。なら良かった。私は晴臣、こっちは久遠といいます」
「俺は、駆……です」
「駆君ですね。お家はどこですか?ここは私たちに任せて……」
「いえ!しーちゃんの安否が分かるまではここにいます!!」
駆は力強くそういった。晴臣はぱちくりと瞬きをしてそれから彼の頭を優しく撫でる。
「そうですか。それは失礼しました。では一緒に待つことにしましょう」
「は、はい」
「くちゃ、や!」
「こら、若君。しーちゃんのお友達に優しくしないといけませんよ。しーちゃんが悲しんじゃうでしょう?」
「う、う~~~~~~っ!!」
晴臣にそういわれて横に体を揺らしつつ唸る久遠は口をとがらせてちらっと駆を見た。駆は自分よりも小さい子供に緊張しつつもどうしようと表情をこわばらせる。
そしてもぞっと晴臣の胸に顔を隠して半分ほどのぞかせながらこう言った。
「しちゃ、くちゃの」
「あ、うん」
駆はとりあえず刺激しないように頷いた。すると久遠はふんすっと鼻を鳴らして得意げな表情を見せる。
どうやらお気に召したらしい。
その表情にほっとして駆が胸をなでおろす。その様子をくすりと晴臣は笑った。
そんな彼らに、門を守っている兵士二人ははあ?っと声をあげる。先ほどの男の態度に苛立っているのに、目障りなそれらがいるのが気に入らないのである。
「目障りだから帰れ」
「これだから外周どもは嫌いなんだ」
外周。それは門の近くに住んでいるものの蔑称だ。そして晴臣たちにそういったのだけでは飽き足らず、ちゃきっと槍を持っている二人はそれをちらつかせて脅す。幸いにも子供二人、しかももう一人はとても手がかかりそうな幼い子供、と刀を持っているが弱そうな優男だけ。男達だけでも簡単に抑えられそうな弱者だと思っているのだろう。
その態度に思わず駆は顔を顰める。こういう者をよく見てきたが、いつでもどこでも腹が立つ。しかも今は、自分の友達を助けるために外に出てくれた人の知り合いをこうも侮辱されて不快感がさらに増す。
すっと二人を守るように立って自分の身分を明かそうと口を開くが、晴臣に腕を掴まれた。其方を見ようとしたがその前に駆を背にして二人の前に堂々と立つ。
「おやおや。それは申し訳ありません。さ、少し離れたところに行きましょう」
「え、でも……っ!」
「いいんですよ。仕方ありません」
晴臣に手を引かれて駆はその場を離れるしかできなかった。後ろで「貧乏くささがうつるところだった」や「身分の低い奴は子供も碌に育てられねえんだな」と言いたい放題である。悔しくて、やっぱり言い返してやろうと駆が踏みとどまるが「いけません」と晴臣が声をあげた。
「大丈夫ですよ。ありがとう」
「でも俺、折角貴方の知り合いに助けてもらっているのに!!」
「気にしないでください。……ん?」
そう言った晴臣が、何処かを見て立ち止まる。
駆も其方を見てさっと顔色を青くした。
福禄の提灯を持っている誰か。その人物にはとても心当たりがあった。
「くちゃ、いく!!」
「だめです若君」
「い、くううううううっ!!!!」
ぐああああああっと海老ぞりになってそう言うが、晴臣の腕に抱かれている小さな体ではあっさりと拘束されて終わった。
久遠は晴臣のことが好きだが、こういう時は嫌いである。
ふんふん興奮して鼻息荒くいやいや首を振る。晴臣はどうにか興奮しているこの子供の意識を逸らそうと手近にいるもう一人に焦点を向けた。
「ほら、若君。しーちゃんのお友達ですよ。挨拶したらいかがです?」
瞬間、すんっと無表情になった久遠はむっと口をへの字に曲げる。それからじとおっと頭を逆さにしながらそこにいる駆をみた。
そもそも、静紀が外にいるとあのよく分からん奴にいわれてきたというのに何でこんなことになっているのだろうか。
全く、こんな場所でしーちゃんが、お、俺の友達が外に!という駆の声を聞かなければここに来ることもなく素通りしてお外に出られたのに。
大体にして、自分がずっと会えてないのにお友達ぃ?誰の許可を得てお友達なんて名乗ってるわけぇ?
久遠にまだ、駆の言っているしーちゃんが自分のしーちゃんかどうかなんて判別がついていないが、まあ、結局は同じしーちゃんなので支障はないだろう。
ちなみに晴臣は、同じ名前の子がいるんだなと露ほどにも同一人物だとは思っていない。こんなところにずっと探していた子がぽっと現れるとは夢にも思わないだろう。
とりあえず久遠の意識を逸らしたいがためにそう言っただけだ。
「やっ!」
一先ず、外に出ようとじたばたするのはやめて久遠はとても不満を抱えつつぷいっとそっぽを向いた。のけぞっている久遠の頭を支えて一先ず起こしてあげながら晴臣は困った顔をする。絶対一人で出ちゃいけない人物がさっさと行ってしまって後を追いたいが、久遠を一人にさせるわけにも行かず今晴臣はこの場で待つしかできないのである。
誰か、護衛の一人や二人来てくれないか!!
晴臣はそう思いながらぷりぷり怒っている久遠の背中を撫でて宥めつつ腰を屈める。
「こんばんは。怪我とかはないですか?」
晴臣は一先ず、駆に声をかけた。呆然としている彼は声をかけられたことによりびくりと体を震わせてそれから恐る恐る声を出す。
「俺は、守られていたので……」
「そうですか。なら良かった。私は晴臣、こっちは久遠といいます」
「俺は、駆……です」
「駆君ですね。お家はどこですか?ここは私たちに任せて……」
「いえ!しーちゃんの安否が分かるまではここにいます!!」
駆は力強くそういった。晴臣はぱちくりと瞬きをしてそれから彼の頭を優しく撫でる。
「そうですか。それは失礼しました。では一緒に待つことにしましょう」
「は、はい」
「くちゃ、や!」
「こら、若君。しーちゃんのお友達に優しくしないといけませんよ。しーちゃんが悲しんじゃうでしょう?」
「う、う~~~~~~っ!!」
晴臣にそういわれて横に体を揺らしつつ唸る久遠は口をとがらせてちらっと駆を見た。駆は自分よりも小さい子供に緊張しつつもどうしようと表情をこわばらせる。
そしてもぞっと晴臣の胸に顔を隠して半分ほどのぞかせながらこう言った。
「しちゃ、くちゃの」
「あ、うん」
駆はとりあえず刺激しないように頷いた。すると久遠はふんすっと鼻を鳴らして得意げな表情を見せる。
どうやらお気に召したらしい。
その表情にほっとして駆が胸をなでおろす。その様子をくすりと晴臣は笑った。
そんな彼らに、門を守っている兵士二人ははあ?っと声をあげる。先ほどの男の態度に苛立っているのに、目障りなそれらがいるのが気に入らないのである。
「目障りだから帰れ」
「これだから外周どもは嫌いなんだ」
外周。それは門の近くに住んでいるものの蔑称だ。そして晴臣たちにそういったのだけでは飽き足らず、ちゃきっと槍を持っている二人はそれをちらつかせて脅す。幸いにも子供二人、しかももう一人はとても手がかかりそうな幼い子供、と刀を持っているが弱そうな優男だけ。男達だけでも簡単に抑えられそうな弱者だと思っているのだろう。
その態度に思わず駆は顔を顰める。こういう者をよく見てきたが、いつでもどこでも腹が立つ。しかも今は、自分の友達を助けるために外に出てくれた人の知り合いをこうも侮辱されて不快感がさらに増す。
すっと二人を守るように立って自分の身分を明かそうと口を開くが、晴臣に腕を掴まれた。其方を見ようとしたがその前に駆を背にして二人の前に堂々と立つ。
「おやおや。それは申し訳ありません。さ、少し離れたところに行きましょう」
「え、でも……っ!」
「いいんですよ。仕方ありません」
晴臣に手を引かれて駆はその場を離れるしかできなかった。後ろで「貧乏くささがうつるところだった」や「身分の低い奴は子供も碌に育てられねえんだな」と言いたい放題である。悔しくて、やっぱり言い返してやろうと駆が踏みとどまるが「いけません」と晴臣が声をあげた。
「大丈夫ですよ。ありがとう」
「でも俺、折角貴方の知り合いに助けてもらっているのに!!」
「気にしないでください。……ん?」
そう言った晴臣が、何処かを見て立ち止まる。
駆も其方を見てさっと顔色を青くした。
福禄の提灯を持っている誰か。その人物にはとても心当たりがあった。
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