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「あずさって子見つかったって」

「! 本当ですか!?」

「うん、片足がない状態だけど生きてるってさ」

「かた、あし……」



足、そうだ、叢雲さん足飛ばしてた。そしたら梓さんじゃなくなった。



「梓さんは一体どこに……?」

「福禄の座敷牢だね。今保護されて治療を受けてるよ」

「え……」



じゃあやっぱり初めから……。

気付かなかった。気づけなかった。迂闊だった。

そうか、俺って敵だと思わないと分からないのか……。やり直し前までは、味方がいなかったから区別をつける必要もなかったけれど、今は味方だと思ったら分からなくなってしまうみたい……。



「ごめんなさい、俺がもっと早く気付ければ……」

「え?なんでしーちゃんが謝ってるの?あれは判別難しいよ」

「そうだよ。しーちゃんは何も悪くない。しーちゃんより過ごす時間が長かった俺たちが気づかなかったんだもの」



久臣さんと叢雲さんが慌ててそう励ましてくれるが彼らの言葉に緩く首を振る。



「いえ、俺は昔から勘がよくて見分けがついてたのに、味方だと思うと鈍っちゃうみたいで……」

「それは……」

「今度はもっと気を張ることにします。皆さんに危害が加えられないように」



久臣さんが言葉を詰まらせた。そんな彼にどうにか笑顔を作って安心させる。

そうだ、もっと今度は気を付けよう。こういう法術があると念頭に入れておけば誰が敵か味方か区別がつくはずだ。

そう息巻くと、叢雲さんがぎゅっと俺の手を握ってくる。これはたぶん、叢雲さんの話を聞いてほしい時。



「しーちゃん、それはとても良い事だね」

「あ、はい。ありがとうご……」

「ううん、味方だと気が緩んじゃうってところだよ?俺たちの事信じてくれてとっても嬉しい」

「え?」



今そんな話だっただろうか。俺が思わず首を傾げると叢雲さんはうんうんっと頷く。



「これからももっと俺たちを信頼して欲しいな」

「はい、勿論です」

「うん。だから、そんなに気を張ることはないよ。勿論、しーちゃんみたいにこれからはそういう可能性もあるんだって構えるのは悪い事じゃないけど、何かあれば必ず誰かに相談すること」



そう言うとぐっと叢雲さんの手に力が入る。

何となく嫌な予感がして頷きながらも離れようと身を引いて視線を逸らすが「しーちゃん」っと叢雲さんが俺の名前を呼ぶ。恐る恐る、そちらを見ると彼はにこにこ笑顔だ。それが逆に怖い。



「本当は、言いたくなかったんだけどね。しーちゃんがそんな事言うなら言うしかないかなって」

「……はい」

「今回はたまたま助けてくれる人がいたけど、次はこううまくいくとは限らない。だからしーちゃんは、一人で残るんじゃなくて誰か助けを呼ぶべきだった。分かるよね?」

「それは、駆君に任せて……」

「それがダメ。そこがダメ。しーちゃん何でもかんでも一人でやろうとしすぎ。都に行けば誰かいるでしょ?ほら、門のところにいつも門兵もいるし、民家もあるから誰かは気づいてくれる。ね?うまく使わなくちゃ」



え?使う……?

叢雲さんの言葉に少し違和感を覚えた。

じっと叢雲さんを見つめる。彼は変わらず笑顔である。俺はそれを見てゆっくりと頷いた。



「わかり、ました……」



少し引っ掛かりを感じるが、俺を心配していることは本当だろう。だから俺はそう納得して答えた。



「……しーちゃんは優しいね。本当、心配になるぐらい」

「いや、優しくないです」

「そお?」



話しは終わりだっと叢雲さんが俺の手を離した。



「一先ず帰ろうか。今日疲れたでしょ?」

「い、いえ!大変だったのは叢雲さんたちです!」



俺は沢山の術者と箱から出てきた妖魔と対峙もしていない。少し手こずったが、外套の男以外はそこまで苦戦しなかった。だから首を振るが、ひょいっと抱えられてしまう。



「こういう時は、はいそうですで良いの!さあ我が家に帰ろう!!」

「あ……」



こんな事があったのに、まだそんな事を言ってくれるのか。

怪しい外套の男に狙われている俺を、まだ。



「? どうしたの?」

「い、え、俺、残ります」

「ええ?なんで?」

「その、迷惑が……」

「ええ?迷惑なんてかけられてないけど……?」



不思議そうに叢雲さんが言うが俺は首を振って腕の中から下りようとする。するとぽんっと俺の頭を久臣さんが撫でた。突然のことにぽかんとして俺は彼を見上げた。



「しーちゃん、俺はしーちゃんを守るってさっき言ったでしょ?その人のところが嫌なら俺のところに来てもいいけど、そうじゃないならお世話になってもいいと思う」

「え、で、でも……」

「ダメなら縛り付けて持って行くしかないけど」



一気に話が不穏になった。

きゅっと口を閉ざしてぎゅっと叢雲さんに縋りつく。あれは本気の目だ。



「しーちゃん!お願い!今更どこかに行くとか言わないで!!」



そして、今まで静観していた紫さんが縋りつくように叢雲さんごと抱き着いてきた。



「明日のご飯が!炭になる!!」

「確かにそうだ!俺もうしーちゃんのご飯なしに生きられない!どっかいかないでお願い!!」

「あ、ああ……」



そうだった。この人たちお米しか炊けない人だった。紫さんの必死な表情と叢雲さんの切実な声に思わず変な声が漏れる。

でも、そうか。この人たちが困るなら……。それだけで俺が居てもいいと言ってくれるなら……。



「お世話に、なります……」



気付いたらそう言っていた。するとぱっと二人は表情を明るくさせる。

そして声を揃えてこういった。



「しーちゃん、ありがとう!!」

「ど、ういたしまして」



お礼を言うなら俺の方だけど、それは飲み込んでそう返した。
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