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「あの男のことは気にするんじゃねーぞ。久兄は使えるからっておいてるけど」





あの男とは昨日の人だろう。久遠も嫌いと大きな声で興奮気味に言っていたのを思い出す。

しかし、俺は久遠が嫌がっているから煽りにあおっただけでそこまで気にするような人物ではないと思っている。勉強をすることは大事だし。ただ、久遠の様子がただならぬ雰囲気だったので牽制しただけで……。





「大丈夫です」

「お前はいつもそれしか言わねえけどよ。俺の方が年上だから頼れよ」





ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。あまり頭を撫でなれていないのか頭が若干揺れたが九郎なりに俺を励ましてくれているのが分かる。





「うん、ありがとう九郎」

「おう!」

「くーちゃもたおって!!」

「ありがとうくーちゃん」





久遠もそう言ってくれたので頭を撫でた。





「いや、それ言うなら法術の暴発どうにかしろよ」

「……う」

「まって九郎。くーちゃんは反省してるから、ね?」

「でもあの騒ぎは久遠の法術のせいだろー?」

「……?」





そういえばさっきから久遠の法術の話をしているけれど……。文脈と行動からあの時のあれは久遠の法術だったのだろうか。こんなに色んな人が言ってるからきっとそうなのだろう。俺は知らなかったが、かなり強力な法術じゃないだろうか?しかもこんな小さい頃から出来るなんて天才では?



……あれ?じゃああの健次郎っていう人はなんでわざわざあんな事を言ったんだ?思わず俺は謝ってしまったがそういえば、流れがおかしいような気がする。他の人もその時何も言わなかったし……。

そう考えこんでいると、ぐいっと久遠が俺を引っ張った。





「しーちゃ、あーそーぼー!」

「あ、うん遊ぼう」

「俺も遊ぶ!」

「うん、何する?」

「かくえんぼ!」





久遠がそう言った。かくれんぼの前に燕さんの救出しようとしたら晴臣さんが楽しんでと連れて行ってしまってごめんなさいと頭を下げるしかできなかった。申し訳ない……。

かくれんぼは久遠が鬼したいと言ったので見つけやすいところに隠れた。久遠はまだ小さいしあまり見つからなかったら可哀そうだと思ったからだ。

案の定自分から鬼を志願したが少しして「しちゃ?」っと不安げな声が聞こえ俺はすぐにもっと見つけやすい場所に入った。丁度刀も持ったままなのでちょろっと角から出してみれば「あー!」と嬉しそうな声をあげてとてとてと近づいた後ににぱっと満面の笑みで俺を見つける。





「しちゃみっけ!」

「見つかっちゃった」

「ん!」





そして仲良く手をつなぎ、九郎を探した。数秒で見つけた。あれ?結構九郎上手に隠れてるんだけどな?

そう思って何度も繰り返す。その間ずっと久遠が鬼をやっており毎回すぐに見つかる俺に嬉しそうに顔をほころばせるがある時ふと考えこんで今度は九郎が鬼をしろっと言ってきた。





「なんだ、鬼飽きたのか?」

「ちなう」

「まあいいけど。ほら数えるから隠れろよ」

「ん!」





九郎が数え始めた。

九郎だったら少し違うところに隠れた方がいいかと思っていたら久遠がぐいっと俺の手を引っ張った。

え?っと思っていると「こち!」と久遠がぐいぐい引っ張っていく。俺は連れていかれるがままに久遠と行動をすると久遠は壁に突っ込んでいく。





「くーちゃん!?危ないよ!?」

「しちゃこちよ!」





思わず足を止める俺だったが久遠はぐいぐいと引っ張る。この壁に何かあるのだろうかと思ったら久遠が片腕を突っ込んだ。壁に吸い込まれるように久遠の腕が無くなって驚いている間にいつの間にか俺もその壁の中に入ってしまう。



壁の中は部屋だった。



誰か、子供用の部屋なのか小さめの布団や子供の服やおもちゃが置いてある。

久遠の第二の部屋か?

お金持ちだからそういうものもあるのだろうと俺は納得する。ただ、かくれんぼにしては少しやりすぎだ。





「ここ、みかーない!」

「うん、そうだね。でもそれじゃあ鬼の九郎が俺たちを見つけられ無くて泣いちゃうよ?」

「……う、くろちゃ」





久遠は九郎が泣く姿を想像したのだろう。しゅんっとにこにこ笑顔がすぐに悲しげな表情になった。久遠は絶対に見つからないから俺と一緒にここに来たんだろう。幼いから仕方ない。





「あっちに行って違う場所に行こう?」

「ん」





手を差し伸べるとぎゅうっと久遠がそれを握った。よしよしとあいている手で彼の頭を撫でてふと、そう何気なく部屋のものに目がついた。



気のせいだろうか。



前に使った俺の寝間着がそこにあるような……?もしかして久遠が成長したら使うものだったのかもしれない。持ち物も何もなく泊まっていることに再び罪悪感を覚えながら今度はお泊りセットを外にでも保管しておこうと俺は誓った。いや今度追い出されたときにまた泊まろうとは思わないが念のためだ。
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