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4、おひさま王子様と、新年の誓い

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「えっ、結構です」
「なにっ、遠慮するな」
 
 えっ、さすがにこんなに軽いノリでお妃様を決めちゃだめでしょう?
 
 原作では仲間キャラ全員の中からプレイヤーがお妃を選べるシステムで、悪役令嬢のルルミィは敵キャラなので対象外だったんだよ? ちなみに、男キャラもお妃に選べるというのがSNSで話題でした!
 
「遠慮じゃないです……私は対象外です」
「対象外ってなんだ。お前、たまにわけがわからないことを言う」
「殿下。妹が嫌がっているので、お妃様のお話はなしでお願いします」
「なんで嫌がるんだ? おれは嫌われているのか? 王子様だぞ? おれがんばるぞ? 国一番の男になるぞ?」

 あっ、エイデン王子がしょんぼりしてる。

「別に嫌っているわけじゃないです!」
「じゃあ、なぜだ? 他に好きなやつがいるのか」
「えっと」

 好きな相手はいない。
 でも、こういうときは「いる」って言うのが一番かも?
 私はあわてて相手を探した。パパって言うのは子どもっぽい。お兄様って答えるのも、ブラコンみたいだし。

「えっと、えーっと……」

 はっと目に入ったのが、まんまるの目で私を「大丈夫?」と見上げてくる精霊さんだった。猫のお耳をぴんと立てていて、すっごく可愛い。

「せ……精霊さんです! エイデン殿下も好きだけど、精霊さんがもっと好きです!」
「一応おれのことも好きではあるんだ!?」
「うにゃーん♪(嬉しい)」

 この回答は良かったみたいで、エイデン王子は機嫌がよくなって「相手が精霊さんなら結婚できないしな。異性でもないしな」と言った。
 
 そして。
「ところで前から思ってたが、名前とかつけないのか?」
 と、精霊さんへの名付けを提案してくれた。
 
「精霊さんにお名前……」
「おれが考えてやってもいいぞ! シロシロとか、ワタワタとか。ユキユキでもいい」
「自分で考えようかなと思います」
「お前はおれに冷たくないか? もっと優しくしてほしい」
「えっ、すみません……」

 じゃあ、エイデン王子が考えてくださった名前から選ぼうかな?
 シロシロ、ワタワタ、ユキユキ……。

「どのお名前がいいですか、精霊さん?」
「うにゃーん!(どれでもいい!)」
 
 ニコニコ、なでなで。精霊さんは上機嫌……今後も、仲良くしてくれそうです!

「ふうむ。名前は、のんびり考えましょう……きゃっ?」

 のんびりと精霊さんを撫でていると、エイデン王子は急に私を抱き上げた。
 
「今できることを後回しにするな。今決めろ!」
「で、殿下っ」
  
 日々鍛えているからだろうか、軽々と私を持ち上げる腕は、じたばた暴れてもびくともしない。
 成長期のエイデン王子は、背もすらりと伸びていて、まだまだ伸びるぞ~って雰囲気だ。
 
「た、た、高いですっ。たかたかこわこわです!」
「たかたかこわこわってなんだ? こわいのか」
「こわいに決まってるじゃないですかっ」
 
 もともと高い塔の上なのだ。  
 さらなる高さに持ち上げられた私は、目の前のエイデン王子に慌ててしがみついた。

「そうか、すまんっ」
 
 あまり悪いと思ってなさそうな声で、どっちかといえば嬉しそうに謝罪される。
 悪いと思っていませんね? と顔を見た私は、近い距離にあったエイデン王子の屈託がない笑顔に目を奪われた。

 ……なんて嬉しそうな目で私を見つめるのだろう……。

「でもお前、やっとおれを見た!」

 「おれを見て欲しかったのだ」と輝く瞳は、あまりにまっすぐな好意を見せてくる。

「おれはお前を気に入ってる。わかれ」
「ひゃい」
「うむ。可愛いぞ、褒めてつかわす」
 
 つい頬を染めてしまう。助けて、アルバートお兄様?
 視線を向けると、アルバートお兄様は助け舟を出してくれた。このお兄様は「黙ってた方がいいかなー」って時は黙っていて、「助けた方がいいかなー」って時は助けてくれるという、実に空気が読めるお兄様だ。有能!

「妹が困っています、そこまでですエイデン殿下!」
「おっと、おれの腹心のアルバートが妹に手を出されて怒ってるぞ! はははっ、許せ許せ! 返す前に一回だけぎゅーっと抱きしめちゃだめか?」
「だ、め、で、す!」
 
 塔の上に、まだ大人になりきらない前の少年同士特有の笑い声があふれる。
 そんな空気が心地よくて、私もつられて笑ってしまった。
 
「はははっ」
「あははは……!」
  
 笑いを治めて視線を交わすと、エイデン王子は言った。
 
「おれのルルミィは、本当に可愛い」
 
 どきんと心臓が跳ねる私を王子の腕から救出しながら、アルバートお兄様が「まだ婚約などをしていないので、妹は王子のものではありません」とつっこみしている。

「よーし、それなら、今年中におれはルルミィと婚約するぞーー!」
 
 おひさまみたいな王子は元気いっぱいに塔の上で宣言して、私を真っ赤にさせた。
 
 
 こうして王国に死霊術の影が落ちることはなく、私の一家も悪役になることなく。
 私は(たぶん)平穏な日々を手に入れたのだった。

 ――Happy End!
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