紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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エリザベスは、《王華》をまたペンダントへと戻した。ペンダントは一瞬、輝きを増したかと思うと、なにも無かったかのように、エリザベスの胸元を揺らした。



フランスシスは、その様子を眺めながら微笑み

「お母様が無くなった頃、お兄様もまだ11歳、どんなにか寂しかったでしょうに…。
だなのに私の心の傷の深さを思いやって、私のわがままを叱ることなく、それから、15年もの間…なんでも黙って聞いてくださっていたの。でもたった1回…、13年前に、そうたった1回。エリザベス様に差し上げるそのペンダントだけは、触らせていただけなかった。そのペンダントに、ご自分のいろんな思いを、そして願いを込められていらしたのね。」


そう言って、フランシスは、くすりと笑って

「その後で…小さなピンクのサファイアがついたペンダントをくださったの。でも、ほんとに小さくて…お兄様にピンクの宝石が見えませんとまた泣いたりして…。」


フランシスは、両手をエリザベスに広げた、エリザベスはフランシスの意図がわかったのだろう。エリザベスも両手を広げ、お互いをその腕の中へと誘った。

フランシスは、エリザベスの肩口で声を埋まらせ
「もう、お姉さまって呼んでいいですよね。…」と聞いた。



エリザベスは何度も頷き
「…問題を片付け…必ずアークに貰ってもらいます。」と言って、フランシスの背中を撫でた。

どれくらい…ふたりは泣いていただろうか、そのうちお互い恥ずかしくなって、そっと離れた。

エリザベスは真っ赤になった眼を擦りながら、照れくささを隠すように…
「でも…私のほうがフランシス様より、ひとつ年下ですが、姉だと思っていただけますか?」
と、ちょっと赤くなった緑色の瞳をいたずらぽっく輝かせた…



フランスシスは…唇を尖らせ
「そ…そうでしたわね。でも、お兄様の伴侶ならやはりお姉さまですわ。」


ふたりはくすくすと笑い出した。



エリザベスは、両手を首の後ろに廻し、ペンダントを外すとフランシスの手にのせた。

「エ、エリザベス様…!」

「どうぞ触って」と言って微笑んだ…そして…

「あれ?お姉さまと呼んでくださるのでは…」と、今度はしてやったりと得意げに笑った。

フランシスは真っ赤な顔で小さく「…お姉さま…ありがとう」と言って、そのペンダントを両手で大事に包み込んだ。



その時だ…


突然、扉が開き、マールが飛び込んできたかと思ったら、挨拶もなしにベットのフランシスに近づいた。エリザベスは異様な様子のマールに、その動きを止めようとマールへと手を伸ばしたが、わずかに届かず、マールはフランシスの手の中のペンダントを奪うと、ベットから突き落とした…。

運悪くベット脇のテーブルライトにフランシスの体が当たり、テーブルライトと共に床に落ち、テーブルライトのガラスは、フランシスの体を傷つけた、打ち所が悪かったのか、フランスは動かなかった…そして床に…赤い血が広がっていった。

マールは一瞬たじろいだが…そのまま逃げ出した。マールは、ペンダントの事だけしか頭になかった。



ペンダントさえあれば、アークフリードとエリザベスが共有していた、あの穏やかで美しい時間が、自分にも得られそうな気がして、それだけで…やってしまった。



だから、ペンダントに王の魔法が入っていることなど気がつかなかった。



いや、考えもしなかった。









エリザベスは、床に広がるフランシスの赤い血を見て、迷いはなかった。魔法でマールを拘束できるだろうが、マールを拘束する為のわずかな時間さえも、フランシスに血を流させたくなかった。人の命は危うい…ほんの少しの時間が命取りになる、死んでしまったら、魔法でも…無理だ。エリザベスは、躊躇なく自分の中の《王華》で治癒魔法をつかい…そして…ペンダントを奪われた記憶を消してそのまま眠らせた。

ペンダントが、奪われたことを知ったら…フランシスがどんなに傷づくかと思うと辛かった。 母親を目の前に亡くし、それが自分のせいだと責めつづけていたフランシス…。


また同じことをさせたくなかった。

フランシスをベットにあげるため、枕もとの呼び鈴を鳴らし侍女たちを呼び、そうしてエリザベスはマールを追う為に、フランシスの部屋を後にした。



エリザベスは、落ち着けと…心に何度も言いながら、考えを纏めていた。
眼が見えなかったのだ…、この辺の地形がわかるはずはない、どこかに隠れている…どこかに…。




マールは震えていた…まさか…フランシスが怪我をするとは思っていなかったからだ。
「だ、だ、大丈夫よ。エリザベス王女がいるんだもの、魔法で治せるわ…。」


エリザベスの思う通り、マールは近くで隠れていた。そこは庭師が利用している小屋だった…だが、運命は…エリザベスに微笑んでくれなかった…その時、ブランドン公爵家に出入りしている農家の馬車が、マールの隠れていた小屋の近くに止まっていたのだった。マールは、馬車の荷台に潜り込み、ブランドン公爵家から難なく出ることができた。






エリザベスは眼を閉じ、《王華》を探した…。

見つけた…だが移動している…。それも、かなりのスピードだ。捕まえられない。

…どこかに止まるまで…待つしかない…。だが、どうやって…マールは出たのだろう? 移動するスピードを考えると…おそらく馬車だ。


…運にも見放されたのか。


考えたくはないが…もし取り戻すことが出来なくて…先頭になった場合、私の《王華》だけで、バクルー王とどこまで戦えるだろうか…。


 一時は優勢だろうが…最終的には勝てないだろう。軍事国家のバクルー国だ。無理だ。

捜さなければ…取り返さなければ…このままだと……負ける。







「おやっ…こんな場所で婚約者殿にお会いするとは…。」

それは、パメラとの今夜の逢瀬を約束し終え、着実に計画を進んでいる事に、ご機嫌なバクルー王だった。

こんなときに…とエリザベスは唇を噛んだ…。





 王の魔法がだんだん離れていく…。 

 
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