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突然現れた、バクルー王にエリザベスの顔は色を無くし歪んだ。
エリザベスの歪んだ顔を見て、バクルー王は愉悦だったが、バクルー王とて、ここにいることを余り勘繰られたくなかった。
おもむろにエリザベスの手を取り
「いや…野暮用が片付くと、おまえにまた会いたくなってなぁ。どこにいるかと想像して…ひょっとしたら、初恋の相手ブランドン公爵殿のところかと思って足を運んだのだが…まぁ想像が当たったことは悲しいが…歳の離れたおまえに、俺も大人の余裕を見せねばなるまい。だがエリザベス。俺だって多少は傷ついているんだぜ。せめて俺の心を癒す為に、おまえの屋敷でお茶でもいただけるかなぁ。」
下手に出ているが、有無も言わさないぞと眼は言っていた…。
エリザベスは迷った、ここでまだ用事があると言えば…バクルー王は何か不審に思うだろう…そう思い、頭を切り替えた。
今夜、マールを探そう…。今はこの御仁だ。
そう、決めてエリザベスは、にっこりと微笑み
「我が家のお茶がお口に合いますでしょうか?…それでもよろしければ…どうぞ」
エリザベスの返事に、眉を上げ…
「ほぉ…、そんな物言いもできるんだ」と笑い、エリザベスの腰を抱き自分の馬車へと促した。
その様子を二階の窓から、パメラは表情もなしに見ていた。
エリザベスが国王陛下からのお召しで王宮へと行って、まもなくアークフリードはコンウォール邸を辞した。だが、アークフリードが自分の屋敷に戻ったのは夕方だった。
今夜、フランシスを連れてコンウォールが用意した隠れ家に行く計画だが、アークフリードは、わかっていてもやはり辛かった。 昼頃にはコンウォール邸を出たのに、屋敷には戻らず、気がついたらライドの所に向かっていた。
ライドは、アークフリードの突然の訪問を疎むどころか
「なぜもっと早く来ない。」「俺を頼りにしろ。」と怒鳴った。
その言葉は胸を熱くし…眼をしっかりと閉じなければ、落涙するところだった。
迷っている暇はない…。アークフリードは、ライドに今までのことを話した。
ライドは驚くこともなかった…。ひと言
「ミーナ嬢がエリザベス女王か…だろうなぁ。あの迫力、俺…正直びびっていたもんなぁ。」
と苦笑気味だったが、だんだんとライドの声は厳しくなっていった。
「それで、コンウォール殿の手引きで、隠れ家に行くのか…。おまえの気持ちは、俺もわかる…。だが、エリザベス様の弱点は間違いなくおまえだ。男としてのプライドの為に、エリザベス様を危機に追い込むな。今のエリザベス様なら…。ふたつ《王華》を手に入れたエリザベス様なら無敵だろう。13年前とは違う。あんな悲惨なことにはならないさ。アークフリード、これが片付いたら、おまえの腹の中にある鬱憤は、俺が剣で相手をしてやる。だから、今は…今は…。」
そこまで言って、ライドは黙った。
耐えろ、我慢しろと言わなければならないだろうが…、男として守りたい女に、守られるという事を同じ男として、辛いということがわかるからだ。なかなか言えなかった。
そんなライドに…。背中を押してくれた友人に…。アークフリードは感謝をし…そしてこう返事すべきだと思った。
「俺は、おまえより強いぞ。相手になるかなぁ。」
ライドは、キョトンとした顔をしていたが…やがて大きな声で笑って
「俺のほうが、一億万倍、強いぞ!!」と叫んだ!
その子供染みたライドに、アークフリードも大きな声で笑った。
隠れ家には、今夜、コンウォールと彼の信頼できる部下たちと行く予定だったが、ライドにも着いてきて欲しいと頼み、屋敷へと馬を走らせた。 屋敷についた途端、執事のエパードが走ってきて、横に客のライドがいるのに、気づく様子もないくらいに当惑していた。
「旦那様、何か変なのでございます。先程侍女たちが、フランシス様のお部屋に呼び鈴で呼ばれ、お部屋に入ると、なぜかミーナ様いらして、ベットの下にフランシス様が…お怪我はございませんでした…どうやら、眠っていらしたようでございます。そしてミーナ様はですが、突然お見えになられたバクルー王様とご一緒に…屋敷からお出になられて…。呆然としていていると、今度はマール様がいないと侍女たちが騒ぎ出し、その騒ぎの中、眼に包帯もなく、傷跡もないマール様に似た方が、 紫色に輝くペンダントを持って、お庭に走っていかれるのを見たという者まで現れ…なんだか変なのでございます。」
アークフリードとライドは顔を見合わせた。
おそらくエリザベスは、魔法でフランシスを訪ねたのだろう…。 何があったかはわからないが、フランシスを眠らせたのもエリザベスだ。
ではなぜ、フランシスを眠らせたんだ?フランシスを訪ねたのに…。
彼女に見せたくない事柄が急にあった…?
バクルー王は、おそらくパメラの様子を窺いに来たのだ、あの夜のパメラは異常だったから、そして偶然、エリザベスとバクルー王は会ったのだろう…。
気になるのはこれだ! 眼が見えないはずのマールが消え、 包帯もなく、傷跡もないマールに似た女が、庭へと走っていったのを見た使用人がいる…それも紫のペンダントを持って…。
アークフリードは倒れそうになった。
マールに《王華》を移したペンダントを取られたんだ…。
やはりバクルー王の手先だったマールが、バクルー王にあのペンダントの秘密をばらし盗んだのか?
いや、…それならなぜ…マールは逃げた。
バクルー王が同じ公爵家にいたのに、ペンダントを渡さずに…。
なぜ?
マールの眼を治したのは、エリザベスだ…。エリザベスは恩人だろう?
なぜマールは、ペンダントを盗んだ。
わからない…わからないが…はっきり言えるのは、
エリザベスは《王華》をひとつ失った。
《王華》は…ペンダントは…マールが持っている。
なら、やることはひとつだ!
「ライド…マール嬢を探すのを手伝ってくれ。彼女が《王華》を移したペンダントを盗んだ。」
ライドは青い顔で頷いた。
エリザベスの歪んだ顔を見て、バクルー王は愉悦だったが、バクルー王とて、ここにいることを余り勘繰られたくなかった。
おもむろにエリザベスの手を取り
「いや…野暮用が片付くと、おまえにまた会いたくなってなぁ。どこにいるかと想像して…ひょっとしたら、初恋の相手ブランドン公爵殿のところかと思って足を運んだのだが…まぁ想像が当たったことは悲しいが…歳の離れたおまえに、俺も大人の余裕を見せねばなるまい。だがエリザベス。俺だって多少は傷ついているんだぜ。せめて俺の心を癒す為に、おまえの屋敷でお茶でもいただけるかなぁ。」
下手に出ているが、有無も言わさないぞと眼は言っていた…。
エリザベスは迷った、ここでまだ用事があると言えば…バクルー王は何か不審に思うだろう…そう思い、頭を切り替えた。
今夜、マールを探そう…。今はこの御仁だ。
そう、決めてエリザベスは、にっこりと微笑み
「我が家のお茶がお口に合いますでしょうか?…それでもよろしければ…どうぞ」
エリザベスの返事に、眉を上げ…
「ほぉ…、そんな物言いもできるんだ」と笑い、エリザベスの腰を抱き自分の馬車へと促した。
その様子を二階の窓から、パメラは表情もなしに見ていた。
エリザベスが国王陛下からのお召しで王宮へと行って、まもなくアークフリードはコンウォール邸を辞した。だが、アークフリードが自分の屋敷に戻ったのは夕方だった。
今夜、フランシスを連れてコンウォールが用意した隠れ家に行く計画だが、アークフリードは、わかっていてもやはり辛かった。 昼頃にはコンウォール邸を出たのに、屋敷には戻らず、気がついたらライドの所に向かっていた。
ライドは、アークフリードの突然の訪問を疎むどころか
「なぜもっと早く来ない。」「俺を頼りにしろ。」と怒鳴った。
その言葉は胸を熱くし…眼をしっかりと閉じなければ、落涙するところだった。
迷っている暇はない…。アークフリードは、ライドに今までのことを話した。
ライドは驚くこともなかった…。ひと言
「ミーナ嬢がエリザベス女王か…だろうなぁ。あの迫力、俺…正直びびっていたもんなぁ。」
と苦笑気味だったが、だんだんとライドの声は厳しくなっていった。
「それで、コンウォール殿の手引きで、隠れ家に行くのか…。おまえの気持ちは、俺もわかる…。だが、エリザベス様の弱点は間違いなくおまえだ。男としてのプライドの為に、エリザベス様を危機に追い込むな。今のエリザベス様なら…。ふたつ《王華》を手に入れたエリザベス様なら無敵だろう。13年前とは違う。あんな悲惨なことにはならないさ。アークフリード、これが片付いたら、おまえの腹の中にある鬱憤は、俺が剣で相手をしてやる。だから、今は…今は…。」
そこまで言って、ライドは黙った。
耐えろ、我慢しろと言わなければならないだろうが…、男として守りたい女に、守られるという事を同じ男として、辛いということがわかるからだ。なかなか言えなかった。
そんなライドに…。背中を押してくれた友人に…。アークフリードは感謝をし…そしてこう返事すべきだと思った。
「俺は、おまえより強いぞ。相手になるかなぁ。」
ライドは、キョトンとした顔をしていたが…やがて大きな声で笑って
「俺のほうが、一億万倍、強いぞ!!」と叫んだ!
その子供染みたライドに、アークフリードも大きな声で笑った。
隠れ家には、今夜、コンウォールと彼の信頼できる部下たちと行く予定だったが、ライドにも着いてきて欲しいと頼み、屋敷へと馬を走らせた。 屋敷についた途端、執事のエパードが走ってきて、横に客のライドがいるのに、気づく様子もないくらいに当惑していた。
「旦那様、何か変なのでございます。先程侍女たちが、フランシス様のお部屋に呼び鈴で呼ばれ、お部屋に入ると、なぜかミーナ様いらして、ベットの下にフランシス様が…お怪我はございませんでした…どうやら、眠っていらしたようでございます。そしてミーナ様はですが、突然お見えになられたバクルー王様とご一緒に…屋敷からお出になられて…。呆然としていていると、今度はマール様がいないと侍女たちが騒ぎ出し、その騒ぎの中、眼に包帯もなく、傷跡もないマール様に似た方が、 紫色に輝くペンダントを持って、お庭に走っていかれるのを見たという者まで現れ…なんだか変なのでございます。」
アークフリードとライドは顔を見合わせた。
おそらくエリザベスは、魔法でフランシスを訪ねたのだろう…。 何があったかはわからないが、フランシスを眠らせたのもエリザベスだ。
ではなぜ、フランシスを眠らせたんだ?フランシスを訪ねたのに…。
彼女に見せたくない事柄が急にあった…?
バクルー王は、おそらくパメラの様子を窺いに来たのだ、あの夜のパメラは異常だったから、そして偶然、エリザベスとバクルー王は会ったのだろう…。
気になるのはこれだ! 眼が見えないはずのマールが消え、 包帯もなく、傷跡もないマールに似た女が、庭へと走っていったのを見た使用人がいる…それも紫のペンダントを持って…。
アークフリードは倒れそうになった。
マールに《王華》を移したペンダントを取られたんだ…。
やはりバクルー王の手先だったマールが、バクルー王にあのペンダントの秘密をばらし盗んだのか?
いや、…それならなぜ…マールは逃げた。
バクルー王が同じ公爵家にいたのに、ペンダントを渡さずに…。
なぜ?
マールの眼を治したのは、エリザベスだ…。エリザベスは恩人だろう?
なぜマールは、ペンダントを盗んだ。
わからない…わからないが…はっきり言えるのは、
エリザベスは《王華》をひとつ失った。
《王華》は…ペンダントは…マールが持っている。
なら、やることはひとつだ!
「ライド…マール嬢を探すのを手伝ってくれ。彼女が《王華》を移したペンダントを盗んだ。」
ライドは青い顔で頷いた。
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