45 / 78
44
しおりを挟む
エリザベスは、泣きながら逃げた先は、王宮の庭にあるガゼボだった。
庭園内につくられた装飾的なこの小さな建物は、自立した建築物で屋根があり、柱があるだけで外の空間に開けており、隠れるような建物ではない。
だがエリザベスには、そんなガゼボの中で、身を縮め小さくなって泣いていた。
ーアークは、あの少女を置いてはこれないだろう。腕の中にいる眼の不自由な女性を…置いては……いや嘘だ。私は追いかけて欲しかったんだ。腕の中にいる眼の不自由な女性を置いてでも、追いかけて欲しかったのだ
首を振りながら、エリザベスは涙を拭った。
ーわかっている。あの場面でアークが彼女を突き放せないということは。それでも、それでも、私はアークに追いかけて欲しかった。私だけをその腕に抱いて欲しかった。愚かだ…
「泣いているのか…」
その声は、エリザベスの癇に障った。
「バクルー王。あなたには関係ない」
バクルー王はエリザベスに近づきながら、ガゼボの柱に手をついて
「あんな男のどこがいいんだ…。惚れた女をひとり、こんな寂しいガゼボで泣かせて…」
そういうと、ガゼボの中に入りエリザベスの手を引き、自分の腕の中に囲い込んだ。
「あいつは、やめろ…。」
熱い眼だった…エリザベスは一瞬ひるんだが、…バクルー王の胸元を押して
「ふざけないで、アークが例え彼女を選ぼうが…私は、私は絶対にあなたに屈しない。」
バクルー王は、顔を歪ませたが…にやりを人の悪い笑みを浮かべ
「アークフリードとおまえの偽者は、今頃ふたりで王宮の一室にいるぜ。あの偽者…アークフリードの体にしがみついて…離れやしない。あれじゃ、今夜はふたりで一室に籠るんだろうなぁ。あの偽者、確かに顔半分は包帯だが、色の白い肌に赤い唇は、男をそそるぜ。ましてや初恋の人エリザベスだとあいつは信じているみたいだからなぁ…今夜一晩…一緒にいたら…男と女…どうなるかなぁ…」
そういうと、また強く抱きしめてきた。
「告白するか…私が本物と…そうすればふたりにはひととき、幸福が味わえるかもしれないなぁ…だが、ひとときだ!100人、1000人の兵士達に、狙われたアークフリードをどうやって守るんだ、血の海の中で抱き合って死ぬか?!まぁそれも一興…。だが体の不自由なあいつの妹、フランシスはどうなるんだろうなぁ…可哀相に…」
「そ、そんなこと、そんなこと」と小さく言いながら、エリザベスの体の力が抜けた。
バクルー王は、ぐいっとエリザベスの体を抱き寄せ
「たかが口づけだろう…」と言ってエリザベスの唇を食んだ。
力が抜けたエリザベスの体を長い時間抱きしめ、ゆっくりとやわらかい唇を食み、舌でその唇を開かせたときだった。 薄っすらと開けた眼に映ったのは、鋭い眼差しの緑の瞳だった。
思わずエリザベスを跳ね除け、後ろへ下がろうとした、
だが…。
うぐっ…!!バクルー王の口元から、赤い血が流れてきた。バクルー王の舌を噛んだのだ。
エリザベスは、赤い血で汚れた自分の口元を拭いながら、
「いい加減になさいませ…。」その顔には、先程の壊れそうになって泣いていた少女はいなかった。
バクルー王は、口元の血を手のひらで拭って、
「おいおい、こんなに出血してんのかよ」と言って、ふざけた声をだしたが…眼だけは違った。
その眼は、この女が欲しい、手に入れたいという熱い思いが忍んでいた。
エリザベスは、嘲笑うかのように
「たかが口づけをする為に、娘ほど歳が離れた私に、脅迫じみたことを言う、あなたは本当にバクルー王ですか?なんと無様なことですこと。」
バクルー王は、怒りのために真っ赤になった顔を見せたが…大きく息を吸って
「ほんと、マールバラの王家の女は口が悪い。」と言って、ガゼボから出て行ったが数歩歩くと足を止め
振り向きざまに…。
「どうやって、この難所を切り抜けるか、お手並み拝見だ。」
バクルー王が視界から消えたが、耳に残るバクルー王の声にエリザベスは、両耳を手で押さえ、その場に座り込んだ。
コンウォール男爵が、アークとフランシス様を守る段取りやってくれている。それが整うまでは、私は自由に動けない。そう心の中で言いながら、バクルー王と対峙していたが…、バクルー王の強気な言葉に、一瞬間に合うのだろうかと不安が頭を過ぎった。
その迷いが隙を作り…。
また、バクルー王に口づけをされてしまった。
ーあの男は事をすばやく進めるだろう。
あの男自身が、短い間でいいからアークの眼を逸らしたいと言っていたのだから…。
私の偽者を用意したことを考えると、おそらく…婚約者という事で、今回帰国の折に、バクルー国に連れて行かれるのは間違いないだろう。
バクルー王と結婚の儀までには、間に合わないかもしれない。
正式に婚約が整った時点で、私がマールバラ王国のエリザベスだったと公表し、結婚の儀を進める。ノーフォーク王には跡継ぎがいない、現王の妹、そしてマールバラ王国の王妃リリスの娘と公表すれば…もう逃げられない。
例え、バクルー国の脅威を感じても、魔法を使える現王の姪の私をノーフォークの重鎮たちも賛成だろう。
大したものだ、……だが、ほんと…あのバクルー王といると疲れる。
偽りでもあのバクルー王と結婚か…アークのお嫁さんになりたかった。
マールバラの教会で結婚できるのをずっと夢を見ていたのになぁ。
アーク…と呟くと、涙が滲んできた。
エリザベスは少し口をとがらせ…
「もう俺は、他の男に抱かれる君の姿はもう二度と見たくない。もう二度とだ…なんて言ったくせに、自分は、他の女性を抱いて…」
と言って膝を抱えなおし、「アークのバカ!」と言って、抱えた膝に頭をつけた。
庭園内につくられた装飾的なこの小さな建物は、自立した建築物で屋根があり、柱があるだけで外の空間に開けており、隠れるような建物ではない。
だがエリザベスには、そんなガゼボの中で、身を縮め小さくなって泣いていた。
ーアークは、あの少女を置いてはこれないだろう。腕の中にいる眼の不自由な女性を…置いては……いや嘘だ。私は追いかけて欲しかったんだ。腕の中にいる眼の不自由な女性を置いてでも、追いかけて欲しかったのだ
首を振りながら、エリザベスは涙を拭った。
ーわかっている。あの場面でアークが彼女を突き放せないということは。それでも、それでも、私はアークに追いかけて欲しかった。私だけをその腕に抱いて欲しかった。愚かだ…
「泣いているのか…」
その声は、エリザベスの癇に障った。
「バクルー王。あなたには関係ない」
バクルー王はエリザベスに近づきながら、ガゼボの柱に手をついて
「あんな男のどこがいいんだ…。惚れた女をひとり、こんな寂しいガゼボで泣かせて…」
そういうと、ガゼボの中に入りエリザベスの手を引き、自分の腕の中に囲い込んだ。
「あいつは、やめろ…。」
熱い眼だった…エリザベスは一瞬ひるんだが、…バクルー王の胸元を押して
「ふざけないで、アークが例え彼女を選ぼうが…私は、私は絶対にあなたに屈しない。」
バクルー王は、顔を歪ませたが…にやりを人の悪い笑みを浮かべ
「アークフリードとおまえの偽者は、今頃ふたりで王宮の一室にいるぜ。あの偽者…アークフリードの体にしがみついて…離れやしない。あれじゃ、今夜はふたりで一室に籠るんだろうなぁ。あの偽者、確かに顔半分は包帯だが、色の白い肌に赤い唇は、男をそそるぜ。ましてや初恋の人エリザベスだとあいつは信じているみたいだからなぁ…今夜一晩…一緒にいたら…男と女…どうなるかなぁ…」
そういうと、また強く抱きしめてきた。
「告白するか…私が本物と…そうすればふたりにはひととき、幸福が味わえるかもしれないなぁ…だが、ひとときだ!100人、1000人の兵士達に、狙われたアークフリードをどうやって守るんだ、血の海の中で抱き合って死ぬか?!まぁそれも一興…。だが体の不自由なあいつの妹、フランシスはどうなるんだろうなぁ…可哀相に…」
「そ、そんなこと、そんなこと」と小さく言いながら、エリザベスの体の力が抜けた。
バクルー王は、ぐいっとエリザベスの体を抱き寄せ
「たかが口づけだろう…」と言ってエリザベスの唇を食んだ。
力が抜けたエリザベスの体を長い時間抱きしめ、ゆっくりとやわらかい唇を食み、舌でその唇を開かせたときだった。 薄っすらと開けた眼に映ったのは、鋭い眼差しの緑の瞳だった。
思わずエリザベスを跳ね除け、後ろへ下がろうとした、
だが…。
うぐっ…!!バクルー王の口元から、赤い血が流れてきた。バクルー王の舌を噛んだのだ。
エリザベスは、赤い血で汚れた自分の口元を拭いながら、
「いい加減になさいませ…。」その顔には、先程の壊れそうになって泣いていた少女はいなかった。
バクルー王は、口元の血を手のひらで拭って、
「おいおい、こんなに出血してんのかよ」と言って、ふざけた声をだしたが…眼だけは違った。
その眼は、この女が欲しい、手に入れたいという熱い思いが忍んでいた。
エリザベスは、嘲笑うかのように
「たかが口づけをする為に、娘ほど歳が離れた私に、脅迫じみたことを言う、あなたは本当にバクルー王ですか?なんと無様なことですこと。」
バクルー王は、怒りのために真っ赤になった顔を見せたが…大きく息を吸って
「ほんと、マールバラの王家の女は口が悪い。」と言って、ガゼボから出て行ったが数歩歩くと足を止め
振り向きざまに…。
「どうやって、この難所を切り抜けるか、お手並み拝見だ。」
バクルー王が視界から消えたが、耳に残るバクルー王の声にエリザベスは、両耳を手で押さえ、その場に座り込んだ。
コンウォール男爵が、アークとフランシス様を守る段取りやってくれている。それが整うまでは、私は自由に動けない。そう心の中で言いながら、バクルー王と対峙していたが…、バクルー王の強気な言葉に、一瞬間に合うのだろうかと不安が頭を過ぎった。
その迷いが隙を作り…。
また、バクルー王に口づけをされてしまった。
ーあの男は事をすばやく進めるだろう。
あの男自身が、短い間でいいからアークの眼を逸らしたいと言っていたのだから…。
私の偽者を用意したことを考えると、おそらく…婚約者という事で、今回帰国の折に、バクルー国に連れて行かれるのは間違いないだろう。
バクルー王と結婚の儀までには、間に合わないかもしれない。
正式に婚約が整った時点で、私がマールバラ王国のエリザベスだったと公表し、結婚の儀を進める。ノーフォーク王には跡継ぎがいない、現王の妹、そしてマールバラ王国の王妃リリスの娘と公表すれば…もう逃げられない。
例え、バクルー国の脅威を感じても、魔法を使える現王の姪の私をノーフォークの重鎮たちも賛成だろう。
大したものだ、……だが、ほんと…あのバクルー王といると疲れる。
偽りでもあのバクルー王と結婚か…アークのお嫁さんになりたかった。
マールバラの教会で結婚できるのをずっと夢を見ていたのになぁ。
アーク…と呟くと、涙が滲んできた。
エリザベスは少し口をとがらせ…
「もう俺は、他の男に抱かれる君の姿はもう二度と見たくない。もう二度とだ…なんて言ったくせに、自分は、他の女性を抱いて…」
と言って膝を抱えなおし、「アークのバカ!」と言って、抱えた膝に頭をつけた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる