紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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エリザベスは、泣きながら逃げた先は、王宮の庭にあるガゼボだった。


庭園内につくられた装飾的なこの小さな建物は、自立した建築物で屋根があり、柱があるだけで外の空間に開けており、隠れるような建物ではない。
だがエリザベスには、そんなガゼボの中で、身を縮め小さくなって泣いていた。



ーアークは、あの少女を置いてはこれないだろう。腕の中にいる眼の不自由な女性を…置いては……いや嘘だ。私は追いかけて欲しかったんだ。腕の中にいる眼の不自由な女性を置いてでも、追いかけて欲しかったのだ



首を振りながら、エリザベスは涙を拭った。


ーわかっている。あの場面でアークが彼女を突き放せないということは。それでも、それでも、私はアークに追いかけて欲しかった。私だけをその腕に抱いて欲しかった。愚かだ…





「泣いているのか…」



その声は、エリザベスの癇に障った。

「バクルー王。あなたには関係ない」

バクルー王はエリザベスに近づきながら、ガゼボの柱に手をついて

「あんな男のどこがいいんだ…。惚れた女をひとり、こんな寂しいガゼボで泣かせて…」



そういうと、ガゼボの中に入りエリザベスの手を引き、自分の腕の中に囲い込んだ。

「あいつは、やめろ…。」


熱い眼だった…エリザベスは一瞬ひるんだが、…バクルー王の胸元を押して

「ふざけないで、アークが例え彼女を選ぼうが…私は、私は絶対にあなたに屈しない。」


バクルー王は、顔を歪ませたが…にやりを人の悪い笑みを浮かべ

「アークフリードとおまえの偽者は、今頃ふたりで王宮の一室にいるぜ。あの偽者…アークフリードの体にしがみついて…離れやしない。あれじゃ、今夜はふたりで一室に籠るんだろうなぁ。あの偽者、確かに顔半分は包帯だが、色の白い肌に赤い唇は、男をそそるぜ。ましてや初恋の人エリザベスだとあいつは信じているみたいだからなぁ…今夜一晩…一緒にいたら…男と女…どうなるかなぁ…」

そういうと、また強く抱きしめてきた。

 「告白するか…私が本物と…そうすればふたりにはひととき、幸福が味わえるかもしれないなぁ…だが、ひとときだ!100人、1000人の兵士達に、狙われたアークフリードをどうやって守るんだ、血の海の中で抱き合って死ぬか?!まぁそれも一興…。だが体の不自由なあいつの妹、フランシスはどうなるんだろうなぁ…可哀相に…」



「そ、そんなこと、そんなこと」と小さく言いながら、エリザベスの体の力が抜けた。

バクルー王は、ぐいっとエリザベスの体を抱き寄せ

「たかが口づけだろう…」と言ってエリザベスの唇を食んだ。



力が抜けたエリザベスの体を長い時間抱きしめ、ゆっくりとやわらかい唇を食み、舌でその唇を開かせたときだった。 薄っすらと開けた眼に映ったのは、鋭い眼差しの緑の瞳だった。



思わずエリザベスを跳ね除け、後ろへ下がろうとした、



だが…。



うぐっ…!!バクルー王の口元から、赤い血が流れてきた。バクルー王の舌を噛んだのだ。


エリザベスは、赤い血で汚れた自分の口元を拭いながら、
「いい加減になさいませ…。」その顔には、先程の壊れそうになって泣いていた少女はいなかった。



バクルー王は、口元の血を手のひらで拭って、

「おいおい、こんなに出血してんのかよ」と言って、ふざけた声をだしたが…眼だけは違った。
その眼は、この女が欲しい、手に入れたいという熱い思いが忍んでいた。

エリザベスは、嘲笑うかのように
「たかが口づけをする為に、娘ほど歳が離れた私に、脅迫じみたことを言う、あなたは本当にバクルー王ですか?なんと無様なことですこと。」


バクルー王は、怒りのために真っ赤になった顔を見せたが…大きく息を吸って

「ほんと、マールバラの王家の女は口が悪い。」と言って、ガゼボから出て行ったが数歩歩くと足を止め

振り向きざまに…。

「どうやって、この難所を切り抜けるか、お手並み拝見だ。」



バクルー王が視界から消えたが、耳に残るバクルー王の声にエリザベスは、両耳を手で押さえ、その場に座り込んだ。



コンウォール男爵が、アークとフランシス様を守る段取りやってくれている。それが整うまでは、私は自由に動けない。そう心の中で言いながら、バクルー王と対峙していたが…、バクルー王の強気な言葉に、一瞬間に合うのだろうかと不安が頭を過ぎった。



その迷いが隙を作り…。





また、バクルー王に口づけをされてしまった。




ーあの男は事をすばやく進めるだろう。
あの男自身が、短い間でいいからアークの眼を逸らしたいと言っていたのだから…。

私の偽者を用意したことを考えると、おそらく…婚約者という事で、今回帰国の折に、バクルー国に連れて行かれるのは間違いないだろう。

バクルー王と結婚の儀までには、間に合わないかもしれない。

正式に婚約が整った時点で、私がマールバラ王国のエリザベスだったと公表し、結婚の儀を進める。ノーフォーク王には跡継ぎがいない、現王の妹、そしてマールバラ王国の王妃リリスの娘と公表すれば…もう逃げられない。

例え、バクルー国の脅威を感じても、魔法を使える現王の姪の私をノーフォークの重鎮たちも賛成だろう。



大したものだ、……だが、ほんと…あのバクルー王といると疲れる。



偽りでもあのバクルー王と結婚か…アークのお嫁さんになりたかった。
マールバラの教会で結婚できるのをずっと夢を見ていたのになぁ。





アーク…と呟くと、涙が滲んできた。



エリザベスは少し口をとがらせ…



「もう俺は、他の男に抱かれる君の姿はもう二度と見たくない。もう二度とだ…なんて言ったくせに、自分は、他の女性を抱いて…」



と言って膝を抱えなおし、「アークのバカ!」と言って、抱えた膝に頭をつけた。

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