紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

文字の大きさ
上 下
42 / 78

41

しおりを挟む
あれから、どう部屋を出たのか覚えていない。気がついたら、庭にいた。

ただ…


彼女がすでに侯爵家にいないだろうとは思っていた。

その予想はあたった。執事のエパードが庭にいた俺に、彼女の伝言を持ってきたからだ。


 =今夜の王宮の舞踏会の為、コンウォールの家に戻り準備をしてまいります。=



その伝言を聞きながら、俺は別のことを考えていた。
彼女が、何かやろうとしていることは、おそらくバクルー王に関することだ、


この庭での昨日のふたりを思い出し…頭を振った。

君は、なにをしようとしているんだ。





「旦那様?」エパードの心配する声に、

「いや、なんでもない。すまない…エパード」



エパードは微笑み、封筒を差し出した。

「コンウォール男爵夫人から、お手紙が届いております。」

「男爵夫人から?」



………


 アークフリード様



 娘は、心からあなた様をお慕いしております、どうぞ、それを信じてから、この先を読んでいただきたく存じます。 娘は、この度のことで、あなた様の為にすべてを掛けるつもりです。

そのひとつが、バクルー王との婚姻を…


…………




その先が、読めなかった。
俺はすぐにコンウォール邸に行くつもりで、エパードの止める声を振り切り、庭を走り出したら


「アークフリード!!」突然、庭の大きな楠の影から、出てきたライドに手を捕まれた。


「悪い、あとから…」と手を振りほどこうとしたが…ライドはその手を離さず


「わかっている。ミーナ嬢とバクルー王の婚姻の話だろう。」


「ど、どうして知っている…。」震える声でたずねた。


「…おい、本当なのか?。昨夜、ひとりでやってきたバクルー王に、俺は護衛と言う名目でついたのだが…早朝、バクルー王と義母殿が王宮に上がったんだ。そこで、ノーフォーク王に会うなりバクルー王がミーナ嬢との婚約という爆弾発言したのさ。王宮内は右往左往だ。驚くことに…どうやら義母殿も知らなかったみたいだ…彼女の顔が、 赤くなったり青くなったりしていたぞ。

アークフリード…どうなってるんだ?あれから…おまえはミーナ嬢のところに行ったんだろう。
ずっと一緒だったんだろう…朝まで…。それがなぜ?こんな話が出てくるんだ?!」


「……」言葉がでなかった。


 手元から、コンウォール男爵夫人からの手紙が落ちていった。








コンウォール夫人は、夫とこれからのことを話す娘…いやエリザベスを隣の部屋から見ていた。たとえ、愛する人を守る為とはいえ…その方に疎まれるのを承知で、他の方のもとに嫁ぐなんて…エリザベス様は、おそらくアークフリード様に真実を言われないで、消えていくおつもりだ。



マールバラ王国のエリザベスと言うことも…。

そしてアークフリード様を守る為に嫁ぐことも…。


そう思うと、堪らなかった。


せめてアークフリード様には、エリザベス様が愛していらっしゃるのは、あなた様だけだと知っていただきたかった。このまま終わってしまうことだけは、どうしても…嫌だった。



あまりにも辛すぎる……。



エリザベス様、申し訳ありません。



涙を流して書いた手紙は、読み返すことができなかった。



………


娘は、この婚姻を受けることになるでしょう。


隣国の王からの結婚の申し出を下位貴族だから、断れなかったという理由ではありません。私の夫、コンウォールは、この大陸で一番の商人であると自負しております。バクルー王からの申し出を断る術、いや申し出をださせない術を持っております。その夫の力を借りず結婚の申し出を受けたのは…おそらくあなた様のため…そうでなければ、あなた様以外の方と婚姻などするわけはありません。

あなた様を守る為…娘はすべてを懸けております。
強い娘です。でも愛する人がいるのに、他の方と結婚をすることは、どんなに強い女性でも死ぬほど辛いことです。 娘はなにもを言わずに、あなた様のもとを離れたことと思います。


娘が初めて愛したあなた様に、このまま疎まれていくのはあまりにも可哀想で どうか娘の気持ちをわかってやってください。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...