王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

5日目④

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「うん、よし!髪はサラサラ、肌はスベスベ。」

キャロルさんの満足気な声に、ようやく終わったと力のない笑みを浮かべた私に
「綺麗になるのも、日々のお手入れ。剣の修行と同じでございます。毎日やる事が大事なのでございますよ。ロザリー様。」

「…はい。」

クスクスと笑ったキャロルさんは、使ったタオル数枚を手に取ると
「片付けて参りますので、しばらくお待ちくださいませ。」

本来なら、私の身のまわりの世話は、数人の侍女がやってくれているが、今回はウェディングドレスの手直しの件もあって、キャロルさんがひとりでやってくれていた。

「キャロルさん、ありがとう。」

「いいえ。」

にっこり笑ったキャロルさんに、私は礼を何度言っても足りないなぁと、自分の姿を鏡に映しながら、夕餉の為に、また化粧をしてもらい、髪を結ってもらっている自分に
「感謝しないとだめだぞ。ロザリー。」

そう口にした時だった。

キャロルさんの押し殺した声が聞こえた。


私はドレスの裾を持ち、外へと出たキャロルさんを追いかけようと、扉を開けると
「…ぁ…ダメです。来ないでください。ロザリー様。」

背中を向けたまま、キャロルさんはそう言って私が来るのを拒み
「な、なんでもありませんから…。お部屋に…お戻りください。」


キャロルさんの視線の先に、何かある事はわかる。
危険な事ではないようだけど…でも、それを私に隠す理由は何だろう。

私はゆっくり足を進めると、キャロルさんがまた小さな声だったが…
「ロザリー様…。」と言って私を見た。



キャロルさんの視線の先には…抱きあう男女の姿。

男性の広い背中に回された細い腕と、女性の泣き声。


「…ぁ…あのロザリー様。きっとなにか事情があるはず、ルシアン殿下に…あのように抱き合う相手は…」
と言って、泣きそうな顔で私を見ていた。


黒い髪。
高い身長。

そして…

背中にある広背筋を鍛えていると思われるその男性の背中は、広くたくましくがっしりとしている。


私はキャロルさんの肩に手を置き、にっこり微笑むと、その男女に向かった歩き出した。



そして…



「ジャスミンさん…」と声を掛けると

その女性は…いや、ジャスミンさんはキョトンとした顔で私を見ているだけで、声が出てこないようだったので、その男性に
「初めまして、ロザリーと申します。」


私の声に、その男性はゆっくりと振り向くと跪き
「ロザリー様。この度は…」

「どうか顔をお上げください。お願いします。」

その方は躊躇いながら、面を上げた…




やはり…違う。



広背筋を鍛えていると思われるその男性の体型は鍛えた体だが、この方の剣の腕は、まだまだなのだと思う筋肉の付き方だったから、その後ろ姿を見た瞬間、ルシアン殿下ではではないと思ったが、顔を見てその違いは明らかだと思った。

この方は恐らく…
ルシアン殿下の祖父のあたる先々代の子供で、ルシアン殿下の叔父になる方…ロイさんだ。


赤い瞳に黒い髪、ローラン国の王家の印を身に纏われた方ではあったが、その色は…ルシアン殿下より薄く、寧ろ…その顔立ちは前ローラン王と似ていらっしゃるような気がする。

赤い瞳。

その色は力強さと、情熱の色だからだろうか、その赤い瞳に見つめられたら、ひれ伏したくなるような力がある。
でも、この方の赤い瞳は…少し違う。

この方が持つ空気にカリスマ性がないと言うのではない、この方の赤い瞳にも、体が震えるくらいの空気を感じる。
だが、ルシアン殿下が纏う空気はもっと熱く、すべてのものを焼き付くほどの熱と、そしてまったく裏腹に、清冽な空気の流れの中に体を浸しているように、爽やかな風を感じる。


この方には…柔らかい空気は感じるが、すべてのものを焼き付くほどの熱は感じられない。
その違いは王となる方との差だろうか…。

王になる方は…
すべてのものを焼き付くほどの熱という非情さと、清冽な空気の流れの中に体を浸しているように、爽やかな風のような優しさを持たなければならないという事なのだろうか…。




『王は優しさと、そして相反する非情さを持たなければならない。だが、王とて人だ。人だからその優しさと非情さの間で心が揺れ動く。その思いはきっと一生付きまとうものだと思っている。

一時の感情に左右されるな…強くなれと、王家に生まれた者はそう育てられるが…心はそう簡単に強くならないと俺は思っていた、でもおまえを知って俺は知ったんだ。

おまえが俺を愛してくれるその愛は…俺の心を強くしてくれるという事に。

ロザリー…俺をもっと愛してくれ。
俺が優しさと非情さのどちらにも傾き過ぎないように、俺の心を…おまえの愛で守ってくれないか。』


一瞬、ルシアン殿下が仰った言葉が頭を過った。

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