152 / 214
結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
5日目⑤
しおりを挟む
「…ホントに…女性だったんだ。」
ぼんやりとロイさんを見ていた私の耳に、ジャスミンさんの声が聞こえた。
「ジャスミン!王妃様に…失礼だぞ。」
ジャスミンさんはハッとしたように口を一旦押えたが、真っ青になって頭を下げ
「ぁ…ご、ごめんなさい。」
「王妃様、失礼の段ご容赦ください。」
ロイさんはそう言いながら、頭を下げられた。
「…男の振りをしていたんです。そう思われて当然です。気にしないでください。」
口元に笑みを浮かべたが、少し強張っていたかもしれない。
私は王妃と呼ばれたことで、なにか不安な気持ちになっていた。
王妃…様…か。
まるで強調するかのように、私をなぜ王妃と呼ばれるのだろうか?
貴族の教育を受けたロイさんならわかっているはずだ。
戴冠式、そして結婚式後ならわかるが、この時点では私はまだ王妃ではない。
なのに…なぜ…私を王妃と呼ぶのだろう。
確かにすでに王宮に入り、国を動かしているのはルシアン殿下だが、公式に王冠を聖職者等から受け、王位への就任を内外に宣明する儀式…戴冠式を終えていないルシアン殿下はまだ王ではない。
儀式という一定の作法・形式で執り行われる行事だから、形だけだと言う者もいるが…、そのような大きな儀式を執り行うのには、貴族の協力は必要だ。
それは、戴冠式を無事執り行えるという事は、王に対して貴族らは忠誠を誓ったと同様の事。
だからその前に、敬称をつけられて呼ばれることは…とても違和感を感じる。
何か意図があるのかもしれない。
ロイさんの意図を探るように見つめ…
「ロイさん。私はまだ王妃ではありません。戴冠式そして結婚式が終わるまでは、私はブラチフォード国のロザリー・ウィンスレットです。どうぞ、ロザリーとお呼びください。」
「ですが…。もう決まったも同然なのですから…。」
「確かに戴冠式、結婚式の式典を終えれば、そうなるのでしょうが…。出来れば私は…敬われる身分となるなら、それに見合う働きをすることで、民から…」
ロイさんの顔が変わって行くのがわかった。私はにっこり笑い
「そしてロイさんから、本当に王妃だと言われたいです。」
ロイさんは目を見開くと、困ったような顔で笑った。
「ロイさん…?」
「すみません…。ルシアン殿下と互角の剣の腕前と聞いていたので、どんな女傑の方かとビビッておりましたが…。こんなに気さくで綺麗な方とは…。」
そう言って、にっこり笑われると呟くように
「あなた様で良かった。」
「…それは…どういう意味なのでしょうか?」
ロイさんはまたにっこり笑い、その問いに答えてはくれず、ジャスミンさんに目を移し
「バウマン公爵は私に、ジャスミンとナダルの命が大事なら、ルシアン殿下になれと脅し、ルシアン殿下の振りを徹底的に仕込まれました。
でも、ルシアン殿下にお会いした時、無理だとすぐにわかりました。
剣の腕前もですが。なにより、赤い瞳にその纏われたものが見えたのです。
敵に対する時の、あの地獄の業火のような赤い瞳を…。
そして味方には、家の灯りのように、温かく迎えてくれる赤い瞳を見て…私は気が付けば、ルシアン殿下の前に跪いておりました。
でも今回のことで…少し不安になってしまったのです。ルシアン殿下はロザリー様の剣を、そして愛を、無条件に信じていらっしゃる。そして…そんなあなた様の為に無理をなさることが…不安で…。」
今回の事は確かに私のせいだ。
おひとりで動かれるようなことにさせたのは…私のせい。
そっと唇を噛んだ私に、ロイさんは途切れ途切れに
「もし…ロザリー様が…裏切れば…ルシアン殿下と互角の剣の腕、そしてその腕を鍛えられたあのウィンスレット侯爵様が父親。おふたりが逆臣となればバウマン公爵より恐ろしいと…考えてしまい…。」
「…そうだったんですね。」
「申し訳ありません!ロザリー様が権力の権化でないことを確かめようとしたことを…どうかお許しください。」
「ロイさん…。」
ロイさんは私の前に跪き
「私はルシアン殿下とロザリー様に対し、忠誠を貫くことを誓います。」
そう言われた赤い瞳は…ルシアン殿下のように、国への愛に溢れた瞳だった。
ぼんやりとロイさんを見ていた私の耳に、ジャスミンさんの声が聞こえた。
「ジャスミン!王妃様に…失礼だぞ。」
ジャスミンさんはハッとしたように口を一旦押えたが、真っ青になって頭を下げ
「ぁ…ご、ごめんなさい。」
「王妃様、失礼の段ご容赦ください。」
ロイさんはそう言いながら、頭を下げられた。
「…男の振りをしていたんです。そう思われて当然です。気にしないでください。」
口元に笑みを浮かべたが、少し強張っていたかもしれない。
私は王妃と呼ばれたことで、なにか不安な気持ちになっていた。
王妃…様…か。
まるで強調するかのように、私をなぜ王妃と呼ばれるのだろうか?
貴族の教育を受けたロイさんならわかっているはずだ。
戴冠式、そして結婚式後ならわかるが、この時点では私はまだ王妃ではない。
なのに…なぜ…私を王妃と呼ぶのだろう。
確かにすでに王宮に入り、国を動かしているのはルシアン殿下だが、公式に王冠を聖職者等から受け、王位への就任を内外に宣明する儀式…戴冠式を終えていないルシアン殿下はまだ王ではない。
儀式という一定の作法・形式で執り行われる行事だから、形だけだと言う者もいるが…、そのような大きな儀式を執り行うのには、貴族の協力は必要だ。
それは、戴冠式を無事執り行えるという事は、王に対して貴族らは忠誠を誓ったと同様の事。
だからその前に、敬称をつけられて呼ばれることは…とても違和感を感じる。
何か意図があるのかもしれない。
ロイさんの意図を探るように見つめ…
「ロイさん。私はまだ王妃ではありません。戴冠式そして結婚式が終わるまでは、私はブラチフォード国のロザリー・ウィンスレットです。どうぞ、ロザリーとお呼びください。」
「ですが…。もう決まったも同然なのですから…。」
「確かに戴冠式、結婚式の式典を終えれば、そうなるのでしょうが…。出来れば私は…敬われる身分となるなら、それに見合う働きをすることで、民から…」
ロイさんの顔が変わって行くのがわかった。私はにっこり笑い
「そしてロイさんから、本当に王妃だと言われたいです。」
ロイさんは目を見開くと、困ったような顔で笑った。
「ロイさん…?」
「すみません…。ルシアン殿下と互角の剣の腕前と聞いていたので、どんな女傑の方かとビビッておりましたが…。こんなに気さくで綺麗な方とは…。」
そう言って、にっこり笑われると呟くように
「あなた様で良かった。」
「…それは…どういう意味なのでしょうか?」
ロイさんはまたにっこり笑い、その問いに答えてはくれず、ジャスミンさんに目を移し
「バウマン公爵は私に、ジャスミンとナダルの命が大事なら、ルシアン殿下になれと脅し、ルシアン殿下の振りを徹底的に仕込まれました。
でも、ルシアン殿下にお会いした時、無理だとすぐにわかりました。
剣の腕前もですが。なにより、赤い瞳にその纏われたものが見えたのです。
敵に対する時の、あの地獄の業火のような赤い瞳を…。
そして味方には、家の灯りのように、温かく迎えてくれる赤い瞳を見て…私は気が付けば、ルシアン殿下の前に跪いておりました。
でも今回のことで…少し不安になってしまったのです。ルシアン殿下はロザリー様の剣を、そして愛を、無条件に信じていらっしゃる。そして…そんなあなた様の為に無理をなさることが…不安で…。」
今回の事は確かに私のせいだ。
おひとりで動かれるようなことにさせたのは…私のせい。
そっと唇を噛んだ私に、ロイさんは途切れ途切れに
「もし…ロザリー様が…裏切れば…ルシアン殿下と互角の剣の腕、そしてその腕を鍛えられたあのウィンスレット侯爵様が父親。おふたりが逆臣となればバウマン公爵より恐ろしいと…考えてしまい…。」
「…そうだったんですね。」
「申し訳ありません!ロザリー様が権力の権化でないことを確かめようとしたことを…どうかお許しください。」
「ロイさん…。」
ロイさんは私の前に跪き
「私はルシアン殿下とロザリー様に対し、忠誠を貫くことを誓います。」
そう言われた赤い瞳は…ルシアン殿下のように、国への愛に溢れた瞳だった。
0
お気に入りに追加
1,378
あなたにおすすめの小説
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる