7 / 77
第1章 幼少期(7歳)
6 無色の魔力
しおりを挟む
大神殿の中央、生誕の間。
この国で産まれた者ならば一度は確実に足を踏み入れる場所。
伝え聞いた話では、ここで初代国王が生まれたという。
「こちらへどうぞ」
「……はい」
神官様に呼ばれ、部屋の中央へ向かう。
お父様とカトリーナは入り口で待機。中へ入れるのは調べる神官様と調べられる者だけなのよ。誤認してしまうとまずいから。
「それでは始めます」
神官様が宣言し、儀式を始める。
壁や床に刻まれた模様が光の道を作り、中央に立つ私へと集まってくる。
美しい光景だわ。この光景は二度目よ。覚えている。他のことはほとんど覚えていないのに。
本当に……私に一体、何が起きていたのかしら。
「どうか目を閉じてください。そして自らの心と向き合うのです」
足元まで光が来たあたりで神官様が言った。
言われたとおりに目を閉じて、胸元で手を組む。
属性は、どうしようもないことだわ。生まれついての色で大体が決まっているもの。
だけど少しくらい期待してもいいはず。だってほんのわずかでも私にも光の属性があったのだもの。
どうせ水の属性が出るにしても、以前よりも少しでも強く光の属性が出てくれれば少しは待遇が良くなるかもしれない。
「そ、そんな。まさか……」
そう考えながらその時を待っていると、耳に神官様の呆然としたような声が届いた。
どうしたのかしら。なんだか様子がおかしいみたい。
目を開く。そして視界に飛び込んできたのは水の属性の青い魔力――では、なかった。
「え……」
私を取り巻いていたのは、僅かに金色を纏った、何の色も持たない透明な魔力だった。
水の属性じゃ、ない?
それは喜ばしいけれど、でも、どの色でもない透明とはつまりどういう属性なのかしら?
「無属性」
いつの間にか隣に来ていた神官様がぼそりと言う。
その声音は、硬くて厳しい。
私、何かとてもまずい状況だったりするのかしら。
「水ではないのか。そして多少光はある、と。魔力量は十分、ならいいだろう。帰るぞ」
入口に立つお父様が言う。
その後ろで、カトリーナが絶望したかのような悲壮な顔をしていた。
お父様の反応はまあ分かるけれど、……カトリーナの反応がおかしい。
カトリーナはこの透明な魔力……無属性?について何かを知っているんだわ。そしてお父様は、知らない。
どういうことかしら……?
「おい、さっさとしろ」
考え込んでいると、お父様が不機嫌そうに言ってきた。
考え事の邪魔をしないでほしいわ。
今の私にはお父様の優先順位は低いのよ。
それでも私は子供でお父様の娘だから、従わなければならないのよね。
溜め息を噛み殺しお父様の元へ向かおうと歩き出そうとした、けれど。
「え?」
そんな私の肩を、神官様がやんわりと掴んだ。
驚いて神官様を見るが、彼は険しい顔でお父様を見ている。
「どうやらオリオン殿は無属性がどういうことかお知りではないようですね」
感情を押し込めたような声音で神官様が言う。
なに……何が起きているの?訳が分からないわ。
「それがなんだと言う?神官ごときが……さっさとそれをこちらに寄越せ」
「いいえ。ご息女を貴方に渡すことはできません。貴方には今この瞬間、虐待の容疑が掛かりましたので」
「なっ!?」
お父様が驚愕の声を上げる。
虐待。この場合、私に対する、よね?
確かにお父様が私にしたことは虐待以外の何物でもないわ。操り人形にしたことは当然として、覚えている限りの幼い私にしてきた仕打ちも。
「ご令嬢、どうぞあちらへ。少々お父君と話をいたしますので」
神官様がそう入口とは別の、いつの間にか開いていた扉へと誘導する。
逆らう理由もないし、行った方がいいわね。恐らく私には悪いようにはならないはず。
お父様と神官様の話も気になるけど……ああ、そうだわ。
「あの、カトリーナ……私の侍女も一緒では、いけませんか?」
少し視線を彷徨わせながら、神官様に聞く。
駄目なら駄目でいいけれど、このよく分からない状況で一人になるのは少し不安だもの。それにカトリーナは何か知っているようだし。
「あちらの女性ですか?ふむ、……よいでしょう、部屋にご案内を。さあ、貴方はあちらへ」
「は、はい」
神官様に促され、部屋を出る。
その先には修道女は一人いて、どうぞこちらへ、と私をどこかへ案内しようとしていた。
神官様を振り返ってみると頷かれたから、少し不安ながらもその修道女の後を追った。
薄暗い廊下は、少しだけあの石の牢に似ていた。
この国で産まれた者ならば一度は確実に足を踏み入れる場所。
伝え聞いた話では、ここで初代国王が生まれたという。
「こちらへどうぞ」
「……はい」
神官様に呼ばれ、部屋の中央へ向かう。
お父様とカトリーナは入り口で待機。中へ入れるのは調べる神官様と調べられる者だけなのよ。誤認してしまうとまずいから。
「それでは始めます」
神官様が宣言し、儀式を始める。
壁や床に刻まれた模様が光の道を作り、中央に立つ私へと集まってくる。
美しい光景だわ。この光景は二度目よ。覚えている。他のことはほとんど覚えていないのに。
本当に……私に一体、何が起きていたのかしら。
「どうか目を閉じてください。そして自らの心と向き合うのです」
足元まで光が来たあたりで神官様が言った。
言われたとおりに目を閉じて、胸元で手を組む。
属性は、どうしようもないことだわ。生まれついての色で大体が決まっているもの。
だけど少しくらい期待してもいいはず。だってほんのわずかでも私にも光の属性があったのだもの。
どうせ水の属性が出るにしても、以前よりも少しでも強く光の属性が出てくれれば少しは待遇が良くなるかもしれない。
「そ、そんな。まさか……」
そう考えながらその時を待っていると、耳に神官様の呆然としたような声が届いた。
どうしたのかしら。なんだか様子がおかしいみたい。
目を開く。そして視界に飛び込んできたのは水の属性の青い魔力――では、なかった。
「え……」
私を取り巻いていたのは、僅かに金色を纏った、何の色も持たない透明な魔力だった。
水の属性じゃ、ない?
それは喜ばしいけれど、でも、どの色でもない透明とはつまりどういう属性なのかしら?
「無属性」
いつの間にか隣に来ていた神官様がぼそりと言う。
その声音は、硬くて厳しい。
私、何かとてもまずい状況だったりするのかしら。
「水ではないのか。そして多少光はある、と。魔力量は十分、ならいいだろう。帰るぞ」
入口に立つお父様が言う。
その後ろで、カトリーナが絶望したかのような悲壮な顔をしていた。
お父様の反応はまあ分かるけれど、……カトリーナの反応がおかしい。
カトリーナはこの透明な魔力……無属性?について何かを知っているんだわ。そしてお父様は、知らない。
どういうことかしら……?
「おい、さっさとしろ」
考え込んでいると、お父様が不機嫌そうに言ってきた。
考え事の邪魔をしないでほしいわ。
今の私にはお父様の優先順位は低いのよ。
それでも私は子供でお父様の娘だから、従わなければならないのよね。
溜め息を噛み殺しお父様の元へ向かおうと歩き出そうとした、けれど。
「え?」
そんな私の肩を、神官様がやんわりと掴んだ。
驚いて神官様を見るが、彼は険しい顔でお父様を見ている。
「どうやらオリオン殿は無属性がどういうことかお知りではないようですね」
感情を押し込めたような声音で神官様が言う。
なに……何が起きているの?訳が分からないわ。
「それがなんだと言う?神官ごときが……さっさとそれをこちらに寄越せ」
「いいえ。ご息女を貴方に渡すことはできません。貴方には今この瞬間、虐待の容疑が掛かりましたので」
「なっ!?」
お父様が驚愕の声を上げる。
虐待。この場合、私に対する、よね?
確かにお父様が私にしたことは虐待以外の何物でもないわ。操り人形にしたことは当然として、覚えている限りの幼い私にしてきた仕打ちも。
「ご令嬢、どうぞあちらへ。少々お父君と話をいたしますので」
神官様がそう入口とは別の、いつの間にか開いていた扉へと誘導する。
逆らう理由もないし、行った方がいいわね。恐らく私には悪いようにはならないはず。
お父様と神官様の話も気になるけど……ああ、そうだわ。
「あの、カトリーナ……私の侍女も一緒では、いけませんか?」
少し視線を彷徨わせながら、神官様に聞く。
駄目なら駄目でいいけれど、このよく分からない状況で一人になるのは少し不安だもの。それにカトリーナは何か知っているようだし。
「あちらの女性ですか?ふむ、……よいでしょう、部屋にご案内を。さあ、貴方はあちらへ」
「は、はい」
神官様に促され、部屋を出る。
その先には修道女は一人いて、どうぞこちらへ、と私をどこかへ案内しようとしていた。
神官様を振り返ってみると頷かれたから、少し不安ながらもその修道女の後を追った。
薄暗い廊下は、少しだけあの石の牢に似ていた。
2
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる