22 / 31
旅は道連れ
21
しおりを挟む
——あまい。考えが甘すぎる。こぢんまりとした黒川温泉、出会わないわけがない。
「………………」
「………………」
甘味処で、さっそく例のセットに出くわしていた。
「湯あがり白玉だって! お団子をすくって食べるんだよー」
などと聞こえた瞬間に、先にテーブルで食べていた私とティアは無言で顔を見合わせていた。現在のティアは帽子と眼鏡のみ。外に出るときは日よけで日傘とフェイスカバーも使うが、食事中のため外していた。
今日は休日で昨日より人がいる。しかし、観光客は海外のひとも多く、ティアはそこまで目立っていない。
なにより、ティアはすこし意識が変わったのか——私が横で派手なサングラスをして目立っているせいか——本当に周りの目を気にしなくなったように思う。ただ、私のサングラスを見る目は冷笑。
隣のテーブルにやって来てしまったセットが、「あっ……」こちらに気づいたようだった。
「……どうも」
無視できない自分の中途半端さが泣ける。薄っぺらい笑みで挨拶すると、みのりは申し訳なさそうに眉を下げつつ、
「こんにちは」
元彼となるタイチのほうは、困惑顔で座った。
(座るんかい。出て行かんのかい)
心の声を抑えていると、ティアがニコっと笑って、
「こんにちは」
第三者ゆえの余裕な表情で挨拶を返していた。
みのりとタイチの目が、ティアをそろりと観察したのが見て取れた。昨夜も見ていた。ティアのありのままの容姿は確かに珍しい。見たくなる気持ちは分からなくもないが……
「……ティアくん、もう出る?」
「うん? 出たい? 白玉まだ残ってるけど……」
彼らの視線は気にならなかったらしい。
私が考えて止まっていると、ティアは何か勘違いしたらしく、
「心配しなくても、今日のレイちゃんも可愛いよ? 自信もって♪」
——ちがうちがう。なんでそうなる?
胸中の突っこみは届いていない。
いっっさい心配していない私の外見は、ティアによって午前中の入浴のあとに整えられている。
——ここのシミが気になるんだよねー。
——ファンデ厚塗りしないで。コンシーラーでカバーして。
——ふっ……そんな物は持っていないよ。
——なんでかっこつけてるの? 僕の使う? 君にはちょっと明るいかな?
——出たよディオール……デパコスだよ……。
——このコンシーラー、おすすめだよ? 柔らかくていいよ。
そうして、シミはキレイに隠された。
ディオールの威力は素晴らしかった。
「——ところでレイちゃん、そっちの『きなこ』も気になるから……すこし貰っていい?」
「え……あ、どうぞ」
「ありがと」
ニコニコとしたティアの顔。
淡い瞳に映る私は、会社にいるときよりも完璧なメイクがなされていて、まあ悪くない。
横の存在に打ちのめされるほどではない。
「美味しいね。僕の『ごまみつ』も味見してみる?」
「……うん」
「はい、どうぞ」
「…………あ、おいしい。これ、黒ごまと黒蜜……? すごく好きかも」
「でしょ? レイちゃん、ぜったい好きだと思った」
「お土産に欲しいな……」
「売ってるかな? ……ま、売ってなくても、帰ったら一緒に作ってみようよ。再現できる……かも?」
「いいね! 手作りなら安いから大量に作れるし! 大量に食べたい!」
「——うん、その顔が可愛い」
「ん? なんて?」
「ううん、なんでもない」
首を振るティアは苦笑しながらも、優しい目でこちらを見ていた。
「………………」
「………………」
甘味処で、さっそく例のセットに出くわしていた。
「湯あがり白玉だって! お団子をすくって食べるんだよー」
などと聞こえた瞬間に、先にテーブルで食べていた私とティアは無言で顔を見合わせていた。現在のティアは帽子と眼鏡のみ。外に出るときは日よけで日傘とフェイスカバーも使うが、食事中のため外していた。
今日は休日で昨日より人がいる。しかし、観光客は海外のひとも多く、ティアはそこまで目立っていない。
なにより、ティアはすこし意識が変わったのか——私が横で派手なサングラスをして目立っているせいか——本当に周りの目を気にしなくなったように思う。ただ、私のサングラスを見る目は冷笑。
隣のテーブルにやって来てしまったセットが、「あっ……」こちらに気づいたようだった。
「……どうも」
無視できない自分の中途半端さが泣ける。薄っぺらい笑みで挨拶すると、みのりは申し訳なさそうに眉を下げつつ、
「こんにちは」
元彼となるタイチのほうは、困惑顔で座った。
(座るんかい。出て行かんのかい)
心の声を抑えていると、ティアがニコっと笑って、
「こんにちは」
第三者ゆえの余裕な表情で挨拶を返していた。
みのりとタイチの目が、ティアをそろりと観察したのが見て取れた。昨夜も見ていた。ティアのありのままの容姿は確かに珍しい。見たくなる気持ちは分からなくもないが……
「……ティアくん、もう出る?」
「うん? 出たい? 白玉まだ残ってるけど……」
彼らの視線は気にならなかったらしい。
私が考えて止まっていると、ティアは何か勘違いしたらしく、
「心配しなくても、今日のレイちゃんも可愛いよ? 自信もって♪」
——ちがうちがう。なんでそうなる?
胸中の突っこみは届いていない。
いっっさい心配していない私の外見は、ティアによって午前中の入浴のあとに整えられている。
——ここのシミが気になるんだよねー。
——ファンデ厚塗りしないで。コンシーラーでカバーして。
——ふっ……そんな物は持っていないよ。
——なんでかっこつけてるの? 僕の使う? 君にはちょっと明るいかな?
——出たよディオール……デパコスだよ……。
——このコンシーラー、おすすめだよ? 柔らかくていいよ。
そうして、シミはキレイに隠された。
ディオールの威力は素晴らしかった。
「——ところでレイちゃん、そっちの『きなこ』も気になるから……すこし貰っていい?」
「え……あ、どうぞ」
「ありがと」
ニコニコとしたティアの顔。
淡い瞳に映る私は、会社にいるときよりも完璧なメイクがなされていて、まあ悪くない。
横の存在に打ちのめされるほどではない。
「美味しいね。僕の『ごまみつ』も味見してみる?」
「……うん」
「はい、どうぞ」
「…………あ、おいしい。これ、黒ごまと黒蜜……? すごく好きかも」
「でしょ? レイちゃん、ぜったい好きだと思った」
「お土産に欲しいな……」
「売ってるかな? ……ま、売ってなくても、帰ったら一緒に作ってみようよ。再現できる……かも?」
「いいね! 手作りなら安いから大量に作れるし! 大量に食べたい!」
「——うん、その顔が可愛い」
「ん? なんて?」
「ううん、なんでもない」
首を振るティアは苦笑しながらも、優しい目でこちらを見ていた。
65
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる