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旅は道連れ

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 ——あまい。考えが甘すぎる。こぢんまりとした黒川温泉、出会わないわけがない。
 
「………………」
「………………」
 
 甘味処で、さっそく例のセットに出くわしていた。
 
「湯あがり白玉だって! お団子をすくって食べるんだよー」
 
 などと聞こえた瞬間に、先にテーブルで食べていた私とティアは無言で顔を見合わせていた。現在のティアは帽子と眼鏡のみ。外に出るときは日よけで日傘とフェイスカバーも使うが、食事中のため外していた。
 今日は休日で昨日より人がいる。しかし、観光客は海外のひとも多く、ティアはそこまで目立っていない。
 なにより、ティアはすこし意識が変わったのか——私が横で派手なサングラスをして目立っているせいか——本当に周りの目を気にしなくなったように思う。ただ、私のサングラスを見る目は冷笑。
 
 隣のテーブルにやって来てしまったセットが、「あっ……」こちらに気づいたようだった。
 
「……どうも」

 無視できない自分の中途半端さが泣ける。薄っぺらい笑みで挨拶すると、みのりは申し訳なさそうに眉を下げつつ、
 
「こんにちは」
 
 元彼となるタイチのほうは、困惑顔で座った。
 
(座るんかい。出て行かんのかい)
 
 心の声を抑えていると、ティアがニコっと笑って、
 
「こんにちは」
 
 第三者ゆえの余裕な表情で挨拶を返していた。
 みのりとタイチの目が、ティアをそろりと観察したのが見て取れた。昨夜も見ていた。ティアのありのままの容姿は確かに珍しい。見たくなる気持ちは分からなくもないが……
 
「……ティアくん、もう出る?」
「うん? 出たい? 白玉まだ残ってるけど……」

 彼らの視線は気にならなかったらしい。
 私が考えて止まっていると、ティアは何か勘違いしたらしく、
 
「心配しなくても、今日のレイちゃんも可愛いよ? 自信もって♪」

 ——ちがうちがう。なんでそうなる?
 胸中の突っこみは届いていない。
 
 いっっさい心配していない私の外見は、ティアによって午前中の入浴のあとに整えられている。
 
——ここのシミが気になるんだよねー。
——ファンデ厚塗りしないで。コンシーラーでカバーして。
——ふっ……そんな物は持っていないよ。
——なんでかっこつけてるの? 僕の使う? 君にはちょっと明るいかな?
——出たよディオール……デパコスだよ……。
——このコンシーラー、おすすめだよ? 柔らかくていいよ。

 そうして、シミはキレイに隠された。
 ディオールの威力は素晴らしかった。
 

「——ところでレイちゃん、そっちの『きなこ』も気になるから……すこし貰っていい?」
「え……あ、どうぞ」
「ありがと」

 ニコニコとしたティアの顔。
 淡い瞳に映る私は、会社にいるときよりも完璧なメイクがなされていて、まあ悪くない。
 横の存在に打ちのめされるほどではない。
 
「美味しいね。僕の『ごまみつ』も味見してみる?」
「……うん」
「はい、どうぞ」
「…………あ、おいしい。これ、黒ごまと黒蜜……? すごく好きかも」
「でしょ? レイちゃん、ぜったい好きだと思った」
「お土産に欲しいな……」
「売ってるかな? ……ま、売ってなくても、帰ったら一緒に作ってみようよ。再現できる……かも?」
「いいね! 手作りなら安いから大量に作れるし! 大量に食べたい!」
「——うん、その顔が可愛い」
「ん? なんて?」
「ううん、なんでもない」
 
 首を振るティアは苦笑しながらも、優しい目でこちらを見ていた。
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