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Chap.16 処刑は判決の前に
Chap.16 Sec.5
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『……あの日、あなたは……ほんとうに、私を殺す気でいたのか』
ぽつり、と。
こぼれた音は、哀しい響きをしていた。
困惑のような、永遠の謎を問うような、色のない音。まっさらで、悲しみなんて見えないのに……だからこそ、哀しい音。誰にも届かない音。
この声は、誰のものだっただろう?
知っているのに、知らない響きをしている。
酩酊したような脳が、目に映る画を、ゆるりゆるりと結んでいく。
闇夜に浮かぶ月のように、ぼんやりとした視界で照らされている——誰かを。
——誰かが、泣いている。
小さな小さな、男の子。真っ黒な髪と、片手に覆われて、泣き顔は見えない。嗚咽も聞こえず、本当に泣いてるのかさえも定かではない。——けれど、親とはぐれて迷子になってしまったかのように、不安そうに蹲る姿から、きっと泣いているのだと思った。
(——どうしたの? 何があったの? 困っているなら、私が力になるから、話してみて)
そう声をかけたいが、言葉が出てこない。言葉が伝わらなさそうな異国の子に、なんと声をかければいいのか。うわべだけ身につけた言語のせいか、回らない頭のせいか、この子の顔を上げさせるための言葉を、とっさに口にできなかった。誰かを慰めるための言葉なんて、遣う必要がなかったから。
私はこの世界で、ずっと、自分が生きるための言葉と、感謝を伝える言葉ばかりを欲して、誰かのために遣う言葉を——誰かに優しくするための言葉を、必要としなかったのだろうか。
——また、何もできない。
ぽたり、自己嫌悪の雫が、胸に落ちる。灰色のしみが、広がろうとして、
ふと、気づいた。
——そっか、でも、知らないわけじゃない。
私が、この世界で最初にもらった優しい音を。
忘れたわけじゃない。
——泣くなよ。
その言葉を胸に、重たい体を起こして、そっと手を伸ばした。
「……泣かないで」
抱き寄せた、その小さな男の子は。
顔を上げることなく、声を返してくれることもなく。
じっと、身動きひとつしなかった。
ただ、そっと。
繋がっていた手を、確かめるように握り返した。どうしていいか分からないかのように、ぎこちなく。
誰にも、抱きしめてもらったことがなかったみたいな、その少年は。
やわらかな冬の匂いがした。
ぽつり、と。
こぼれた音は、哀しい響きをしていた。
困惑のような、永遠の謎を問うような、色のない音。まっさらで、悲しみなんて見えないのに……だからこそ、哀しい音。誰にも届かない音。
この声は、誰のものだっただろう?
知っているのに、知らない響きをしている。
酩酊したような脳が、目に映る画を、ゆるりゆるりと結んでいく。
闇夜に浮かぶ月のように、ぼんやりとした視界で照らされている——誰かを。
——誰かが、泣いている。
小さな小さな、男の子。真っ黒な髪と、片手に覆われて、泣き顔は見えない。嗚咽も聞こえず、本当に泣いてるのかさえも定かではない。——けれど、親とはぐれて迷子になってしまったかのように、不安そうに蹲る姿から、きっと泣いているのだと思った。
(——どうしたの? 何があったの? 困っているなら、私が力になるから、話してみて)
そう声をかけたいが、言葉が出てこない。言葉が伝わらなさそうな異国の子に、なんと声をかければいいのか。うわべだけ身につけた言語のせいか、回らない頭のせいか、この子の顔を上げさせるための言葉を、とっさに口にできなかった。誰かを慰めるための言葉なんて、遣う必要がなかったから。
私はこの世界で、ずっと、自分が生きるための言葉と、感謝を伝える言葉ばかりを欲して、誰かのために遣う言葉を——誰かに優しくするための言葉を、必要としなかったのだろうか。
——また、何もできない。
ぽたり、自己嫌悪の雫が、胸に落ちる。灰色のしみが、広がろうとして、
ふと、気づいた。
——そっか、でも、知らないわけじゃない。
私が、この世界で最初にもらった優しい音を。
忘れたわけじゃない。
——泣くなよ。
その言葉を胸に、重たい体を起こして、そっと手を伸ばした。
「……泣かないで」
抱き寄せた、その小さな男の子は。
顔を上げることなく、声を返してくれることもなく。
じっと、身動きひとつしなかった。
ただ、そっと。
繋がっていた手を、確かめるように握り返した。どうしていいか分からないかのように、ぎこちなく。
誰にも、抱きしめてもらったことがなかったみたいな、その少年は。
やわらかな冬の匂いがした。
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