【完結】致死量の愛を飲みほして【続編完結】

藤香いつき

文字の大きさ
73 / 228
Chap.7 墜落サイレントリリィ

Chap.7 Sec.4

しおりを挟む
「お前ら、眠くねぇの?」

 娯楽室と呼ばれている、赤・金・黒の極彩色の空間。窓からし込む光のせいか、昨夜よりも健全な印象を受ける室内にセトの質問が響いた。円卓を囲んでいた3人は入り口の方へと視線を向ける。目を輝かせて真っ先に反応したのはハオロンだった。

「セト、いいところに来たわ。一緒にティア倒そっさ」

 キラキラした瞳のハオロンとは真逆で、ティアは死んだ眼をしている。

「おはようセト君……ロン君をさ、気絶でもさせて、終わりが見えないこのゲームを終わらせてほしいな……」
「アンタが負けりゃい~んじゃん? いつまでも意地はってねェでさァ」
「こんな感じで僕アウェイなの。可哀想かわいそうでしょ、早くなんとかして」

 辟易へきえきしたようすのティアは盛大に嘆息たんそくした。セトは円卓に寄り、ハオロンの肩に手を乗せ、

「もう諦めろよ。メシでも食おうぜ」
「でもあと少しなんやって……ティアが眠たい今がチャンスやわ」

 ティアが向かいで「そのセリフ散々聞いたよ……」遠い目をしている。セトはティアに同情しつつ、ハオロンをどう説得すべきか考えていた。

「なあ、ハオロン。弱ってるときに勝っても納得いかねぇだろ?」
「そぉかぁ……?」
「またリベンジしたらいいじゃねぇか。いつでもやれるんだしよ」
「んー……」

 あとひと押しか。セトはロキへと矛先を変えた。

「お前は眠くねぇの?」
「ン? ……あ~まァ、多少は?」
「無理せず寝ろよ。大して楽しいわけじゃねぇんだろ?」
「楽しくはねェな~……全ッ然勝てねェし? サイキックの本領発揮って感じでさァ……」
「別に超能力じゃねぇだろ」
「そォかねェ? もうこれ、超常の域だと思うケド……暇潰しに研究しよかなァ?」
「どう研究すんだよ……」
「脳を解剖かいぼうすンの」
「貴重な被検体をあっさり殺すな」

 セトとロキの応酬おうしゅうに、ティアは「なんか怖い会話してる……」身を震わせ、ハオロンに目を投げた。

「というわけで、解剖される前に終わらない?」
「……ほやの。手ぇ止めたら眠くなってきたわ」
「アドレナリンが切れたんだよ……よかった」
「近いうちにまたやろな?」
「えっ…………うん、気が向いたら」

 立ち上がったハオロンに、セトが「メシ、部屋に送ってやろうか?」尋ねたが、ハオロンは「ちょこちょこつまんでたからぁ……いらんわ。おやすみ」あくびをして去っていった。
 ロキも気だるげに席を立ち、ふと思い出したような表情でセトに向いた。

「そォいやウサギは? どこにいンの?」
「……知らねぇ」
「ハオロン完全に忘れてンじゃん? 代わりにオレが欲しいンだけど……てめェの部屋じゃねェの?」
「俺んとこにはいねぇよ」
「……ほんとかねェ?」
「疑うなら部屋開けてやるから、好きなだけ調べりゃいいだろ」
「——なァ、ミヅキもどき」

 ロキは唐突にセトから目線を外し、宙に向けて声を発した。その呼び声にセトの眉間がかすかにゆがむ。

《——なぁに?》

 鈴が鳴るような声とともに、空間にふわりと黒髪の少年が現れた。

「ウサギどこにいンの?」
《ハウス内にはいないよ?》
「エ~? そんなワケねェじゃん。コイツの部屋じゃねェの?」
《現在セトの私室には何もいません》
「……じゃァどこにいンの?」
《残念だけど、ぼくは知らないよ。確信をもって言えるのは、ハウスの中にはいないということだけです》
「えェ~? なんで外にいるワケ? ……よく分かんねェ……散歩でもしてンの?」

 話を聞いていたティアが、

「うん、散歩するの好きだって言ってた」
「あっそォ……じゃ、い~や。オレも寝よ」

 用が無くなったと判断したミヅキは無音で消散した。ロキがその場から離れる。娯楽室のドアが完全に閉まるまで、セトとティアは黙していた。ドアが閉まると、互いに横目で視線を合わせる。

「……ウサギ、散歩が好きなんて言ってたか?」
「言ってない。セト君も分かってるでしょ」
「変だよな? ミヅキのやつ、なんでウサギの居場所言わなかったんだ?」
「たぶんだけど……アリスちゃんのこと、ウサギって認識してないよ。お客さまって呼んでたし、最初に僕が呼んだ〈アリス」のほうで認識してるのかも」
「ああ、そうか。端末登録してねぇしゲストになってんのか?」
「……ちなみにどこにいるの?」
「食堂。つか、調理室。メルウィンに預けて来た」
「それはいいね、安全地帯だ」

 んんん、と喉に詰まった声をもらしながら、ティアは両腕をストレッチするように伸ばした。上がった肩を落としながら息を吐き出し、

「……疲れた」
「だろな」
「アリスちゃん、休めた? セト君はちょっかい出してない?」
「お前、ほんと俺のことなんだと思ってんだよ」
「野獣だと思ってる、って言わなかった?」
「あのな……こっちのこと嫌ってるやつなんて俺もやりたくねぇよ。気分悪いだろ」
「なんの話? アリスちゃん、セト君のこと嫌いじゃないって言ってたよね」
「……覚えてねぇ」
「なに白々しいこと言ってるかな。アリスちゃん、泣いて訴えてたよね。嫌いじゃない、ごめんなさいって」
「…………どうでもいい。つぅか、お前がそんな頑張った意味、あんまぇかも」
「うん?」
「ウサギのやつ、ロキとけっこう楽しそうにやってたぞ」
「えっ! セト君、ふたりがしてるとこ、のぞいたのっ?」
「語弊がある言い方すんな! あいつらがホールのとこでヤってたんだよ! 声が聞こえただけで見てねぇよっ」
「あぁ……ロキ君だもんね……」
「けどよ。ウサギのやつ、そんなロキが好きだと。趣味わりぃよな」
「……えぇぇぇ? なにその誤解」
「誤解じゃねぇって。今回はちゃんと言ってんのを聞いた」
「ロキ君が好きって?」
「……まぁ、そんな感じのことを」
「嘘だ。ぜっったいに嘘だ。僕、セト君のそういう話はもう信じない」
「はぁっ?」

 両手で耳を塞いでみせるティア。その幼稚な仕草に、セトは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

「信じたくねぇならいいけどよ」
「うん、信じない。はっきり言って、アリスちゃんはロキ君より僕が好きだと思う。比べるなら、の話だけど」
「そうかよ……まぁ一応、ティアがハオロン引き留めてるっつぅ話はしたし、感謝もしてたけどよ」
「……え? 僕の手柄になってるの?」
「? ……そりゃそうだろ。お前、そのためにカードで本気出してたんじゃねぇの?」
「それはそうだけど。……でもさ、アリスちゃん休ませてあげたいって、セト君の発案でしょ?」
「……は?」
「アリスちゃんと寝るの、ロン君のあと——最後でいいって。あれ、そういうことをしたかったわけじゃなくて、ゆっくり休める場所をあげたかっただけでしょ?」
「………………」

 予想外の指摘に、セトは否定どころか何も返せず硬直してしまった。それは肯定したも同じだった。
 ティアは頬を微笑でゆるめる。

「人の気質って変わらないらしいよ、ロン君いわく」
「……うるせぇな。俺には責任があんだよ」
「うん、そうだね。あるね。ただそれは、拾った責任ではなくて、引き止めた責任かな?」
「…………お前っていやなやつだな」
「今ごろ気づいたの?」

 じとりとした目でティアを見下ろしてから、セトは舌打ちした。

「早く休めよ、お前も」
「や、僕も食堂に行く。お腹空いたし。集中してたから何も食べてないんだよね」

 ティアはイスから立ち上がった。ふたりは連れだって娯楽室を後にする。
 白い照明が廊下を明るくしていた。

「朝ごはん何かな? メル君が作ってくれる朝食って、僕あんまり食べたことないな~……」
「お前、朝いねぇもんな。夜型か」
「う~ん……日光が苦手だからかな、つい夜が遅くなりがちなんだよね。いつもは朝昼のごはんが合わさってブランチって感じ」
「ふぅん」
「セト君はいつも朝ごはん食べてるんだよね? メル君は何作ってくれるの?」
「なんだっけな……多いのは、ターメイヤサンドにフールとか?」
「ターメイヤサンド? タコスみたいなのだっけ? フールはそら豆のスープ? ……それさ、セト君に合わせて作ってくれてるんじゃない?」
「? ……別に俺は好きってほどじゃねぇぞ?」
「……メル君の配慮がむだに終わっている……」
「なんの話だよ」
「——それにしても、そんな重いもの食べられないな……スープなら、まだ」
「俺は甘くない物ならなんでもいい」
「え? めずらしいね? 甘いものなら無限に食べられるセト君なのに」
「無限には無理だろ……。甘いもんをずっと食ってたから、今はしょっぱいのが食いてぇってだけだ」
「……甘いものをずっと食べてた? あれ、もしかしてセト君も眠ってない?」
「…………ベッド貸してやったし。てきとうに時間潰してたら朝になってた」
「……ほんとに? アリスちゃんの寝顔を眺めてずっと欲望と闘ってた、とかじゃないよね?」
「はぁっ? 俺はやりたくねぇって言ってんだろ! なんでまたそこに戻るんだ!」
「……焦ってるね。半分は図星かな」

 エレベーターのドアが開いた。ふたりは乗り込む。セトは大きくなった声を自覚して声量を落とした。

「……眺めてねぇよ。洋服とかそろえてやってたんだよ」
「なるほど……よかった。一晩じゅう見てたらさ、さすがに僕もちょっと怖いなって思っちゃう」
「………………」
「…………え、やっぱり見てたの?」
「いや……なんかうなされてたから、気になっただけで……」

 再び開いたエレベーターのドア。ふたりは降りた。歯切れの悪いセトの物言いに、ティアは鼻白はなじろんでいる。

「……ずっと見てたの?」
「ずっとじゃねぇよ」
「……ねぇ、もうさ、素直に認めない?」
「何を」
「なにって……」
「仮にお前がうなされていても、心配くらいはする」
「ほんとに? 一晩中、見守ってくれるの?」
「…………それはしねぇけど」
「ほらっ! しないよね!」
「あのな! ウサギのことだって一晩中は見てねぇよ!」

 言い合いながら食堂に入った。人の気配に気づいて、ふたりは同時に、長いテーブルの奥へと目をやる。立ったまま、ぱちりと目をまばたかせた、話題の彼女が、


「……せと、てぃあ……すもーぶろ、たべる?」

 ふたりの知らない何やら未知の単語を唱えて、ひかえめに首をかしげた。

 奥の調理室からメルウィンが出てくるまで、たっぷり1分ほど。セトとティアはそれぞれ異なる理由で、あるいは複数の理由で言葉を発せずに固まっていた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...