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Chap.7 墜落サイレントリリィ
Chap.7 Sec.4
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「お前ら、眠くねぇの?」
娯楽室と呼ばれている、赤・金・黒の極彩色の空間。窓から射し込む光のせいか、昨夜よりも健全な印象を受ける室内にセトの質問が響いた。円卓を囲んでいた3人は入り口の方へと視線を向ける。目を輝かせて真っ先に反応したのはハオロンだった。
「セト、いいところに来たわ。一緒にティア倒そっさ」
キラキラした瞳のハオロンとは真逆で、ティアは死んだ眼をしている。
「おはようセト君……ロン君をさ、気絶でもさせて、終わりが見えないこのゲームを終わらせてほしいな……」
「アンタが負けりゃい~んじゃん? いつまでも意地はってねェでさァ」
「こんな感じで僕アウェイなの。可哀想でしょ、早くなんとかして」
辟易したようすのティアは盛大に嘆息した。セトは円卓に寄り、ハオロンの肩に手を乗せ、
「もう諦めろよ。飯でも食おうぜ」
「でもあと少しなんやって……ティアが眠たい今がチャンスやわ」
ティアが向かいで「そのセリフ散々聞いたよ……」遠い目をしている。セトはティアに同情しつつ、ハオロンをどう説得すべきか考えていた。
「なあ、ハオロン。弱ってるときに勝っても納得いかねぇだろ?」
「そぉかぁ……?」
「またリベンジしたらいいじゃねぇか。いつでもやれるんだしよ」
「んー……」
あとひと押しか。セトはロキへと矛先を変えた。
「お前は眠くねぇの?」
「ン? ……あ~まァ、多少は?」
「無理せず寝ろよ。大して楽しいわけじゃねぇんだろ?」
「楽しくはねェな~……全ッ然勝てねェし? サイキックの本領発揮って感じでさァ……」
「別に超能力じゃねぇだろ」
「そォかねェ? もうこれ、超常の域だと思うケド……暇潰しに研究しよかなァ?」
「どう研究すんだよ……」
「脳を解剖すンの」
「貴重な被検体をあっさり殺すな」
セトとロキの応酬に、ティアは「なんか怖い会話してる……」身を震わせ、ハオロンに目を投げた。
「というわけで、解剖される前に終わらない?」
「……ほやの。手ぇ止めたら眠くなってきたわ」
「アドレナリンが切れたんだよ……よかった」
「近いうちにまたやろな?」
「えっ…………うん、気が向いたら」
立ち上がったハオロンに、セトが「メシ、部屋に送ってやろうか?」尋ねたが、ハオロンは「ちょこちょこ摘んでたからぁ……いらんわ。おやすみ」あくびをして去っていった。
ロキも気だるげに席を立ち、ふと思い出したような表情でセトに向いた。
「そォいやウサギは? どこにいンの?」
「……知らねぇ」
「ハオロン完全に忘れてンじゃん? 代わりにオレが欲しいンだけど……てめェの部屋じゃねェの?」
「俺んとこにはいねぇよ」
「……ほんとかねェ?」
「疑うなら部屋開けてやるから、好きなだけ調べりゃいいだろ」
「——なァ、ミヅキもどき」
ロキは唐突にセトから目線を外し、宙に向けて声を発した。その呼び声にセトの眉間がかすかに歪む。
《——なぁに?》
鈴が鳴るような声とともに、空間にふわりと黒髪の少年が現れた。
「ウサギどこにいンの?」
《ハウス内にはいないよ?》
「エ~? そんなワケねェじゃん。コイツの部屋じゃねェの?」
《現在セトの私室には何もいません》
「……じゃァどこにいンの?」
《残念だけど、ぼくは知らないよ。確信をもって言えるのは、ハウスの中にはいないということだけです》
「えェ~? なんで外にいるワケ? ……よく分かんねェ……散歩でもしてンの?」
話を聞いていたティアが、
「うん、散歩するの好きだって言ってた」
「あっそォ……じゃ、い~や。オレも寝よ」
用が無くなったと判断したミヅキは無音で消散した。ロキがその場から離れる。娯楽室のドアが完全に閉まるまで、セトとティアは黙していた。ドアが閉まると、互いに横目で視線を合わせる。
「……ウサギ、散歩が好きなんて言ってたか?」
「言ってない。セト君も分かってるでしょ」
「変だよな? ミヅキのやつ、なんでウサギの居場所言わなかったんだ?」
「たぶんだけど……アリスちゃんのこと、ウサギって認識してないよ。お客さまって呼んでたし、最初に僕が呼んだ〈アリス」のほうで認識してるのかも」
「ああ、そうか。端末登録してねぇしゲストになってんのか?」
「……ちなみにどこにいるの?」
「食堂。つか、調理室。メルウィンに預けて来た」
「それはいいね、安全地帯だ」
んんん、と喉に詰まった声をもらしながら、ティアは両腕をストレッチするように伸ばした。上がった肩を落としながら息を吐き出し、
「……疲れた」
「だろな」
「アリスちゃん、休めた? セト君はちょっかい出してない?」
「お前、ほんと俺のことなんだと思ってんだよ」
「野獣だと思ってる、って言わなかった?」
「あのな……こっちのこと嫌ってるやつなんて俺もやりたくねぇよ。気分悪いだろ」
「なんの話? アリスちゃん、セト君のこと嫌いじゃないって言ってたよね」
「……覚えてねぇ」
「なに白々しいこと言ってるかな。アリスちゃん、泣いて訴えてたよね。嫌いじゃない、ごめんなさいって」
「…………どうでもいい。つぅか、お前がそんな頑張った意味、あんま無ぇかも」
「うん?」
「ウサギのやつ、ロキとけっこう楽しそうにやってたぞ」
「えっ! セト君、ふたりがしてるとこ、のぞいたのっ?」
「語弊がある言い方すんな! あいつらがホールのとこでヤってたんだよ! 声が聞こえただけで見てねぇよっ」
「あぁ……ロキ君だもんね……」
「けどよ。ウサギのやつ、そんなロキが好きだと。趣味わりぃよな」
「……えぇぇぇ? なにその誤解」
「誤解じゃねぇって。今回はちゃんと言ってんのを聞いた」
「ロキ君が好きって?」
「……まぁ、そんな感じのことを」
「嘘だ。ぜっったいに嘘だ。僕、セト君のそういう話はもう信じない」
「はぁっ?」
両手で耳を塞いでみせるティア。その幼稚な仕草に、セトは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「信じたくねぇならいいけどよ」
「うん、信じない。はっきり言って、アリスちゃんはロキ君より僕が好きだと思う。比べるなら、の話だけど」
「そうかよ……まぁ一応、ティアがハオロン引き留めてるっつぅ話はしたし、感謝もしてたけどよ」
「……え? 僕の手柄になってるの?」
「? ……そりゃそうだろ。お前、そのためにカードで本気出してたんじゃねぇの?」
「それはそうだけど。……でもさ、アリスちゃん休ませてあげたいって、セト君の発案でしょ?」
「……は?」
「アリスちゃんと寝るの、ロン君のあと——最後でいいって。あれ、そういうことをしたかったわけじゃなくて、ゆっくり休める場所をあげたかっただけでしょ?」
「………………」
予想外の指摘に、セトは否定どころか何も返せず硬直してしまった。それは肯定したも同じだった。
ティアは頬を微笑でゆるめる。
「人の気質って変わらないらしいよ、ロン君いわく」
「……うるせぇな。俺には責任があんだよ」
「うん、そうだね。あるね。ただそれは、拾った責任ではなくて、引き止めた責任かな?」
「…………お前って厭なやつだな」
「今ごろ気づいたの?」
じとりとした目でティアを見下ろしてから、セトは舌打ちした。
「早く休めよ、お前も」
「や、僕も食堂に行く。お腹空いたし。集中してたから何も食べてないんだよね」
ティアはイスから立ち上がった。ふたりは連れだって娯楽室を後にする。
白い照明が廊下を明るくしていた。
「朝ごはん何かな? メル君が作ってくれる朝食って、僕あんまり食べたことないな~……」
「お前、朝いねぇもんな。夜型か」
「う~ん……日光が苦手だからかな、つい夜が遅くなりがちなんだよね。いつもは朝昼のごはんが合わさってブランチって感じ」
「ふぅん」
「セト君はいつも朝ごはん食べてるんだよね? メル君は何作ってくれるの?」
「なんだっけな……多いのは、ターメイヤサンドにフールとか?」
「ターメイヤサンド? タコスみたいなのだっけ? フールはそら豆のスープ? ……それさ、セト君に合わせて作ってくれてるんじゃない?」
「? ……別に俺は好きってほどじゃねぇぞ?」
「……メル君の配慮がむだに終わっている……」
「なんの話だよ」
「——それにしても、そんな重いもの食べられないな……スープなら、まだ」
「俺は甘くない物ならなんでもいい」
「え? めずらしいね? 甘いものなら無限に食べられるセト君なのに」
「無限には無理だろ……。甘いもんをずっと食ってたから、今はしょっぱいのが食いてぇってだけだ」
「……甘いものをずっと食べてた? あれ、もしかしてセト君も眠ってない?」
「…………ベッド貸してやったし。てきとうに時間潰してたら朝になってた」
「……ほんとに? アリスちゃんの寝顔を眺めてずっと欲望と闘ってた、とかじゃないよね?」
「はぁっ? 俺はやりたくねぇって言ってんだろ! なんでまたそこに戻るんだ!」
「……焦ってるね。半分は図星かな」
エレベーターのドアが開いた。ふたりは乗り込む。セトは大きくなった声を自覚して声量を落とした。
「……眺めてねぇよ。洋服とか揃えてやってたんだよ」
「なるほど……よかった。一晩じゅう見てたらさ、さすがに僕もちょっと怖いなって思っちゃう」
「………………」
「…………え、やっぱり見てたの?」
「いや……なんかうなされてたから、気になっただけで……」
再び開いたエレベーターのドア。ふたりは降りた。歯切れの悪いセトの物言いに、ティアは鼻白んでいる。
「……ずっと見てたの?」
「ずっとじゃねぇよ」
「……ねぇ、もうさ、素直に認めない?」
「何を」
「なにって……」
「仮にお前がうなされていても、心配くらいはする」
「ほんとに? 一晩中、見守ってくれるの?」
「…………それはしねぇけど」
「ほらっ! しないよね!」
「あのな! ウサギのことだって一晩中は見てねぇよ!」
言い合いながら食堂に入った。人の気配に気づいて、ふたりは同時に、長いテーブルの奥へと目をやる。立ったまま、ぱちりと目をまばたかせた、話題の彼女が、
「……せと、てぃあ……すもーぶろ、たべる?」
ふたりの知らない何やら未知の単語を唱えて、ひかえめに首をかしげた。
奥の調理室からメルウィンが出てくるまで、たっぷり1分ほど。セトとティアはそれぞれ異なる理由で、あるいは複数の理由で言葉を発せずに固まっていた。
娯楽室と呼ばれている、赤・金・黒の極彩色の空間。窓から射し込む光のせいか、昨夜よりも健全な印象を受ける室内にセトの質問が響いた。円卓を囲んでいた3人は入り口の方へと視線を向ける。目を輝かせて真っ先に反応したのはハオロンだった。
「セト、いいところに来たわ。一緒にティア倒そっさ」
キラキラした瞳のハオロンとは真逆で、ティアは死んだ眼をしている。
「おはようセト君……ロン君をさ、気絶でもさせて、終わりが見えないこのゲームを終わらせてほしいな……」
「アンタが負けりゃい~んじゃん? いつまでも意地はってねェでさァ」
「こんな感じで僕アウェイなの。可哀想でしょ、早くなんとかして」
辟易したようすのティアは盛大に嘆息した。セトは円卓に寄り、ハオロンの肩に手を乗せ、
「もう諦めろよ。飯でも食おうぜ」
「でもあと少しなんやって……ティアが眠たい今がチャンスやわ」
ティアが向かいで「そのセリフ散々聞いたよ……」遠い目をしている。セトはティアに同情しつつ、ハオロンをどう説得すべきか考えていた。
「なあ、ハオロン。弱ってるときに勝っても納得いかねぇだろ?」
「そぉかぁ……?」
「またリベンジしたらいいじゃねぇか。いつでもやれるんだしよ」
「んー……」
あとひと押しか。セトはロキへと矛先を変えた。
「お前は眠くねぇの?」
「ン? ……あ~まァ、多少は?」
「無理せず寝ろよ。大して楽しいわけじゃねぇんだろ?」
「楽しくはねェな~……全ッ然勝てねェし? サイキックの本領発揮って感じでさァ……」
「別に超能力じゃねぇだろ」
「そォかねェ? もうこれ、超常の域だと思うケド……暇潰しに研究しよかなァ?」
「どう研究すんだよ……」
「脳を解剖すンの」
「貴重な被検体をあっさり殺すな」
セトとロキの応酬に、ティアは「なんか怖い会話してる……」身を震わせ、ハオロンに目を投げた。
「というわけで、解剖される前に終わらない?」
「……ほやの。手ぇ止めたら眠くなってきたわ」
「アドレナリンが切れたんだよ……よかった」
「近いうちにまたやろな?」
「えっ…………うん、気が向いたら」
立ち上がったハオロンに、セトが「メシ、部屋に送ってやろうか?」尋ねたが、ハオロンは「ちょこちょこ摘んでたからぁ……いらんわ。おやすみ」あくびをして去っていった。
ロキも気だるげに席を立ち、ふと思い出したような表情でセトに向いた。
「そォいやウサギは? どこにいンの?」
「……知らねぇ」
「ハオロン完全に忘れてンじゃん? 代わりにオレが欲しいンだけど……てめェの部屋じゃねェの?」
「俺んとこにはいねぇよ」
「……ほんとかねェ?」
「疑うなら部屋開けてやるから、好きなだけ調べりゃいいだろ」
「——なァ、ミヅキもどき」
ロキは唐突にセトから目線を外し、宙に向けて声を発した。その呼び声にセトの眉間がかすかに歪む。
《——なぁに?》
鈴が鳴るような声とともに、空間にふわりと黒髪の少年が現れた。
「ウサギどこにいンの?」
《ハウス内にはいないよ?》
「エ~? そんなワケねェじゃん。コイツの部屋じゃねェの?」
《現在セトの私室には何もいません》
「……じゃァどこにいンの?」
《残念だけど、ぼくは知らないよ。確信をもって言えるのは、ハウスの中にはいないということだけです》
「えェ~? なんで外にいるワケ? ……よく分かんねェ……散歩でもしてンの?」
話を聞いていたティアが、
「うん、散歩するの好きだって言ってた」
「あっそォ……じゃ、い~や。オレも寝よ」
用が無くなったと判断したミヅキは無音で消散した。ロキがその場から離れる。娯楽室のドアが完全に閉まるまで、セトとティアは黙していた。ドアが閉まると、互いに横目で視線を合わせる。
「……ウサギ、散歩が好きなんて言ってたか?」
「言ってない。セト君も分かってるでしょ」
「変だよな? ミヅキのやつ、なんでウサギの居場所言わなかったんだ?」
「たぶんだけど……アリスちゃんのこと、ウサギって認識してないよ。お客さまって呼んでたし、最初に僕が呼んだ〈アリス」のほうで認識してるのかも」
「ああ、そうか。端末登録してねぇしゲストになってんのか?」
「……ちなみにどこにいるの?」
「食堂。つか、調理室。メルウィンに預けて来た」
「それはいいね、安全地帯だ」
んんん、と喉に詰まった声をもらしながら、ティアは両腕をストレッチするように伸ばした。上がった肩を落としながら息を吐き出し、
「……疲れた」
「だろな」
「アリスちゃん、休めた? セト君はちょっかい出してない?」
「お前、ほんと俺のことなんだと思ってんだよ」
「野獣だと思ってる、って言わなかった?」
「あのな……こっちのこと嫌ってるやつなんて俺もやりたくねぇよ。気分悪いだろ」
「なんの話? アリスちゃん、セト君のこと嫌いじゃないって言ってたよね」
「……覚えてねぇ」
「なに白々しいこと言ってるかな。アリスちゃん、泣いて訴えてたよね。嫌いじゃない、ごめんなさいって」
「…………どうでもいい。つぅか、お前がそんな頑張った意味、あんま無ぇかも」
「うん?」
「ウサギのやつ、ロキとけっこう楽しそうにやってたぞ」
「えっ! セト君、ふたりがしてるとこ、のぞいたのっ?」
「語弊がある言い方すんな! あいつらがホールのとこでヤってたんだよ! 声が聞こえただけで見てねぇよっ」
「あぁ……ロキ君だもんね……」
「けどよ。ウサギのやつ、そんなロキが好きだと。趣味わりぃよな」
「……えぇぇぇ? なにその誤解」
「誤解じゃねぇって。今回はちゃんと言ってんのを聞いた」
「ロキ君が好きって?」
「……まぁ、そんな感じのことを」
「嘘だ。ぜっったいに嘘だ。僕、セト君のそういう話はもう信じない」
「はぁっ?」
両手で耳を塞いでみせるティア。その幼稚な仕草に、セトは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「信じたくねぇならいいけどよ」
「うん、信じない。はっきり言って、アリスちゃんはロキ君より僕が好きだと思う。比べるなら、の話だけど」
「そうかよ……まぁ一応、ティアがハオロン引き留めてるっつぅ話はしたし、感謝もしてたけどよ」
「……え? 僕の手柄になってるの?」
「? ……そりゃそうだろ。お前、そのためにカードで本気出してたんじゃねぇの?」
「それはそうだけど。……でもさ、アリスちゃん休ませてあげたいって、セト君の発案でしょ?」
「……は?」
「アリスちゃんと寝るの、ロン君のあと——最後でいいって。あれ、そういうことをしたかったわけじゃなくて、ゆっくり休める場所をあげたかっただけでしょ?」
「………………」
予想外の指摘に、セトは否定どころか何も返せず硬直してしまった。それは肯定したも同じだった。
ティアは頬を微笑でゆるめる。
「人の気質って変わらないらしいよ、ロン君いわく」
「……うるせぇな。俺には責任があんだよ」
「うん、そうだね。あるね。ただそれは、拾った責任ではなくて、引き止めた責任かな?」
「…………お前って厭なやつだな」
「今ごろ気づいたの?」
じとりとした目でティアを見下ろしてから、セトは舌打ちした。
「早く休めよ、お前も」
「や、僕も食堂に行く。お腹空いたし。集中してたから何も食べてないんだよね」
ティアはイスから立ち上がった。ふたりは連れだって娯楽室を後にする。
白い照明が廊下を明るくしていた。
「朝ごはん何かな? メル君が作ってくれる朝食って、僕あんまり食べたことないな~……」
「お前、朝いねぇもんな。夜型か」
「う~ん……日光が苦手だからかな、つい夜が遅くなりがちなんだよね。いつもは朝昼のごはんが合わさってブランチって感じ」
「ふぅん」
「セト君はいつも朝ごはん食べてるんだよね? メル君は何作ってくれるの?」
「なんだっけな……多いのは、ターメイヤサンドにフールとか?」
「ターメイヤサンド? タコスみたいなのだっけ? フールはそら豆のスープ? ……それさ、セト君に合わせて作ってくれてるんじゃない?」
「? ……別に俺は好きってほどじゃねぇぞ?」
「……メル君の配慮がむだに終わっている……」
「なんの話だよ」
「——それにしても、そんな重いもの食べられないな……スープなら、まだ」
「俺は甘くない物ならなんでもいい」
「え? めずらしいね? 甘いものなら無限に食べられるセト君なのに」
「無限には無理だろ……。甘いもんをずっと食ってたから、今はしょっぱいのが食いてぇってだけだ」
「……甘いものをずっと食べてた? あれ、もしかしてセト君も眠ってない?」
「…………ベッド貸してやったし。てきとうに時間潰してたら朝になってた」
「……ほんとに? アリスちゃんの寝顔を眺めてずっと欲望と闘ってた、とかじゃないよね?」
「はぁっ? 俺はやりたくねぇって言ってんだろ! なんでまたそこに戻るんだ!」
「……焦ってるね。半分は図星かな」
エレベーターのドアが開いた。ふたりは乗り込む。セトは大きくなった声を自覚して声量を落とした。
「……眺めてねぇよ。洋服とか揃えてやってたんだよ」
「なるほど……よかった。一晩じゅう見てたらさ、さすがに僕もちょっと怖いなって思っちゃう」
「………………」
「…………え、やっぱり見てたの?」
「いや……なんかうなされてたから、気になっただけで……」
再び開いたエレベーターのドア。ふたりは降りた。歯切れの悪いセトの物言いに、ティアは鼻白んでいる。
「……ずっと見てたの?」
「ずっとじゃねぇよ」
「……ねぇ、もうさ、素直に認めない?」
「何を」
「なにって……」
「仮にお前がうなされていても、心配くらいはする」
「ほんとに? 一晩中、見守ってくれるの?」
「…………それはしねぇけど」
「ほらっ! しないよね!」
「あのな! ウサギのことだって一晩中は見てねぇよ!」
言い合いながら食堂に入った。人の気配に気づいて、ふたりは同時に、長いテーブルの奥へと目をやる。立ったまま、ぱちりと目をまばたかせた、話題の彼女が、
「……せと、てぃあ……すもーぶろ、たべる?」
ふたりの知らない何やら未知の単語を唱えて、ひかえめに首をかしげた。
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