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起きたか?
馬に着いていくよう自動運転の念をかけた10式戦車内。
魔力の消耗か、初めての本格戦闘で精神的にどっと疲労したのか、フリストの膝の上で昼寝…には長すぎる睡眠をとってしまったようだ。
直上にフリストの不安げな顔。
少し高い位置にスルーズの、まだ戦闘モードを解いてないと言った態の表情。
「あっ、すまん、色々と…。
舞い上がっちまったようだ。」
「それはいい。仕方ない。初めてだからな。
かくいう私もあんな恐ろしい戦力での『殺戮』は初めて見た…。」
殺戮、か…。
「ただどんなに恐ろしかろうが残虐だろうが、お前のその力に私や部下やフリストはそれぞれの希望を託した。
自分自身の心と身体を大事にしろ。
戦争の只中でこんな事を言うのは妙な感じかもしれないが。
お前自身の夢のためにも、だ。」
スルーズの言葉に呼応するように、フリストが頭を撫でてくれた。
「そうだな、すまん。
まあ、色々と安定させていくようにはするわ」
その後…
フリカッセとか言う、戦場飯には贅沢過ぎる煮物系のメニューが全軍に振舞われた。
そしてお米が…ある!
と、いうかやはり俺自身が食べたいので、巨大炊飯器ともども実体化したのだが。
(兵器以外では初の試みだったが、むしろこちらのが負担なく大量調達できるようだ。
かと言って、今後の食糧、兵站を全面的に当てにする、されるのも困るのだが。)
「ありがとうございます。
主食のパンが少なめだったので、皆さんもお腹が膨れると思います。」
調理担当兵士達と一緒に動き回っていたフリストが礼を言ってくれた。
「ああー美味ぇなぁー」
「いけますねえ!」
「パンでなくて米でもいいや俺」
兵士達も、直属兵も一般兵の別なく舌鼓をうつ。
スルーズは、ご馳走様と一言言ったきり、普段フリストと併用している天幕に戻る。
これ以降の作戦を再確認したいのだろう。
一通り、直属、一般兵がいるエリア一通り歩き回り、何人かと談笑したりしてから、彼女の所へ行く。
「この後はチョーサカ、バンドを順に抜いて皇都に達する訳だよな。」
地図を見る。
東側の一部だけに海岸線があり、そこにチョーサカが位置する。
そこは流石に抑えておきたい。
ただ、当然アラカスの駐留軍もいる。
大規模な陸と海の基地が…。
断片的な情報では、沖合にはアラカスと、より明確なスメラギの仮想敵国たるあの、シナックスの艦隊が隙あらばとにじりよっている。
もちろん、一応は同盟国のアラカスがシナックス艦隊を牽制していてくれればよい。
だが、すでに内乱発生を知るシナックスが高みの見物を決め込み、その間にアラカス艦隊がチョーサカ市内にご自慢の投石器攻撃を仕掛けてくるやもしれない。
(話を聞いていると、魔導兵器には程遠いが、なんらかのエンチャント的な措置をして威力を旧式火砲並みにしているようだ。)
「この艦隊をお前の能力で抑え、その後に地上軍を叩きたい。
もしアラカスが全力を出せば8万の大軍だが…。そのうち2万5千は我が護衛軍だ。」
スルーズは栗色の髪を掻き上げつつ首を捻る。
「まあ、流石に2つの地域で魔導兵器召喚はまだ無理だ。
時間制限もある。
だが、多分アラカスは明日遅くとも午前中、早ければ朝に距離を詰めてくる。
先に地上部隊を叩こう。」
なるべく、駐留軍というかアラカス帝国そのものが引いてくれれば良いのだが。
前回から、こちらのクーデターは静観してくれるように要請のメッセージを送り続けているのだが…。
あれだけのデモンストレーションを見せてもまだ引いてくれる気配がない。
「あとの問題は…。
そう、アラカスと共に戦う護衛軍、我々の同胞なのでなるべく傷つけたくはない。
で、なるべくなら味方につけたいが、さっき言ったアラカス艦隊がいわば市内に投石器攻撃の狙いを定め人質をとっているような状態だ。」
「なるほど…うむ…」
10秒ほど思考を巡らす俺。
さらに強力な形で、かつピンポイントでこちらの力を見せつけて、そしてその護衛軍も味方につけたい。
「なんとかなるかもしれない…ただ君が率いる軍団にも、大いに働いてもらうだろうが。」
「そうか、わかった。」
その後さらに細部を詰める俺とスルーズ。
そばで聞いていたフリストはいつの間にか寝落ちしてしまい、毛布を被せる。
…。
いまや憲兵士官でなく一軍の将となりつつあるスルーズは、話が途絶えた間に少し膝を詰めてくる。
お、おう。
表情はローソクの灯でも、はっきり上気して見える。
いや、せめて俺の寝所の戦車で…
そう言いかけたが、母性の象徴の容赦ない豊かさを眼前にすると、俺自身が仰角最大になってしまった。
痛いほど抱き合う2人は波に流されるままとなる。
夜が、明けた。
アラカス帝国、駐留軍大将軍コーディエ
「数的には話にならんほど優位。
だが、その神話的な超魔術というモノが厄介という話だ。
ならば、こちらも策を用いる。」
「アレですな。」
「アレだ。」
そう、奴らの同胞、スメラギの護衛軍2万5千を強引に正面に展開させたのだ。
これで奴らが説得にせよ排除にせよ動きが遅滞する間に、側面を衝けばよい。
ふん。超魔導士だろうが我が超大国の波濤には勝てぬのよ…。
馬に着いていくよう自動運転の念をかけた10式戦車内。
魔力の消耗か、初めての本格戦闘で精神的にどっと疲労したのか、フリストの膝の上で昼寝…には長すぎる睡眠をとってしまったようだ。
直上にフリストの不安げな顔。
少し高い位置にスルーズの、まだ戦闘モードを解いてないと言った態の表情。
「あっ、すまん、色々と…。
舞い上がっちまったようだ。」
「それはいい。仕方ない。初めてだからな。
かくいう私もあんな恐ろしい戦力での『殺戮』は初めて見た…。」
殺戮、か…。
「ただどんなに恐ろしかろうが残虐だろうが、お前のその力に私や部下やフリストはそれぞれの希望を託した。
自分自身の心と身体を大事にしろ。
戦争の只中でこんな事を言うのは妙な感じかもしれないが。
お前自身の夢のためにも、だ。」
スルーズの言葉に呼応するように、フリストが頭を撫でてくれた。
「そうだな、すまん。
まあ、色々と安定させていくようにはするわ」
その後…
フリカッセとか言う、戦場飯には贅沢過ぎる煮物系のメニューが全軍に振舞われた。
そしてお米が…ある!
と、いうかやはり俺自身が食べたいので、巨大炊飯器ともども実体化したのだが。
(兵器以外では初の試みだったが、むしろこちらのが負担なく大量調達できるようだ。
かと言って、今後の食糧、兵站を全面的に当てにする、されるのも困るのだが。)
「ありがとうございます。
主食のパンが少なめだったので、皆さんもお腹が膨れると思います。」
調理担当兵士達と一緒に動き回っていたフリストが礼を言ってくれた。
「ああー美味ぇなぁー」
「いけますねえ!」
「パンでなくて米でもいいや俺」
兵士達も、直属兵も一般兵の別なく舌鼓をうつ。
スルーズは、ご馳走様と一言言ったきり、普段フリストと併用している天幕に戻る。
これ以降の作戦を再確認したいのだろう。
一通り、直属、一般兵がいるエリア一通り歩き回り、何人かと談笑したりしてから、彼女の所へ行く。
「この後はチョーサカ、バンドを順に抜いて皇都に達する訳だよな。」
地図を見る。
東側の一部だけに海岸線があり、そこにチョーサカが位置する。
そこは流石に抑えておきたい。
ただ、当然アラカスの駐留軍もいる。
大規模な陸と海の基地が…。
断片的な情報では、沖合にはアラカスと、より明確なスメラギの仮想敵国たるあの、シナックスの艦隊が隙あらばとにじりよっている。
もちろん、一応は同盟国のアラカスがシナックス艦隊を牽制していてくれればよい。
だが、すでに内乱発生を知るシナックスが高みの見物を決め込み、その間にアラカス艦隊がチョーサカ市内にご自慢の投石器攻撃を仕掛けてくるやもしれない。
(話を聞いていると、魔導兵器には程遠いが、なんらかのエンチャント的な措置をして威力を旧式火砲並みにしているようだ。)
「この艦隊をお前の能力で抑え、その後に地上軍を叩きたい。
もしアラカスが全力を出せば8万の大軍だが…。そのうち2万5千は我が護衛軍だ。」
スルーズは栗色の髪を掻き上げつつ首を捻る。
「まあ、流石に2つの地域で魔導兵器召喚はまだ無理だ。
時間制限もある。
だが、多分アラカスは明日遅くとも午前中、早ければ朝に距離を詰めてくる。
先に地上部隊を叩こう。」
なるべく、駐留軍というかアラカス帝国そのものが引いてくれれば良いのだが。
前回から、こちらのクーデターは静観してくれるように要請のメッセージを送り続けているのだが…。
あれだけのデモンストレーションを見せてもまだ引いてくれる気配がない。
「あとの問題は…。
そう、アラカスと共に戦う護衛軍、我々の同胞なのでなるべく傷つけたくはない。
で、なるべくなら味方につけたいが、さっき言ったアラカス艦隊がいわば市内に投石器攻撃の狙いを定め人質をとっているような状態だ。」
「なるほど…うむ…」
10秒ほど思考を巡らす俺。
さらに強力な形で、かつピンポイントでこちらの力を見せつけて、そしてその護衛軍も味方につけたい。
「なんとかなるかもしれない…ただ君が率いる軍団にも、大いに働いてもらうだろうが。」
「そうか、わかった。」
その後さらに細部を詰める俺とスルーズ。
そばで聞いていたフリストはいつの間にか寝落ちしてしまい、毛布を被せる。
…。
いまや憲兵士官でなく一軍の将となりつつあるスルーズは、話が途絶えた間に少し膝を詰めてくる。
お、おう。
表情はローソクの灯でも、はっきり上気して見える。
いや、せめて俺の寝所の戦車で…
そう言いかけたが、母性の象徴の容赦ない豊かさを眼前にすると、俺自身が仰角最大になってしまった。
痛いほど抱き合う2人は波に流されるままとなる。
夜が、明けた。
アラカス帝国、駐留軍大将軍コーディエ
「数的には話にならんほど優位。
だが、その神話的な超魔術というモノが厄介という話だ。
ならば、こちらも策を用いる。」
「アレですな。」
「アレだ。」
そう、奴らの同胞、スメラギの護衛軍2万5千を強引に正面に展開させたのだ。
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