【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

第十六章 遊戯に翻弄される魔塔主と弟子と騎士と聖女

391.師匠と弟子の戦闘開始

　闘技場の舞台の上へレイヴンと共に立つと、ニヤニヤ顔の白髪の男に不快な視線をぶつけられた。
　顔だけでもイラつくし、すぐにでもぶっとばしてぇな。

「テオ……俺も同じ気持ちですが、宝石を手に入れることが一番の目的です。思い切り吹き飛ばして宝石が粉々にするのだけはダメですよ」
「わぁってるよ。だが、アイツがレイヴンを見る目が気に食わねぇ。目をくり抜くぐらいは構わねぇだろ？」
「怖いこと言わないでくださいよ……あの人たちが何を仕掛けてくるか分かりません。気を付けていきましょう」

　俺が改めて前方を睨にらみつけると、白髪の男は嬉しそうに声をあげて笑う。
　隣の魔物使いは頭を抱えてやがるが、すぐに戦闘態勢に切り替えて俺らの方へ構えてきた。

「さあ、私の作品と戦ってもらおうか？　圧倒的な力にひれ伏すがいい！」

　錬金術師が嬉しそうに手をかかげると、鉄格子の向こう側から黒い塊がこちらへ向かってくる。
　ブラックウルフのようだが、頭には角と背にはうろこが付いている。
　お得意の合成獣キメラだな。

「またか。これくらいではしゃぎやがってうざってぇな」

　イラつきを指先にこめてパチンと弾く。
　密かに唱えておいた呪文と共に炎の固まりがブラックウルフの身体を包み込み、燃やし尽くす。
　ヤツはこちらに攻撃を仕掛けることなく燃え尽きた。

「ハハハ！　やはりこの程度ではどうにもならないか。さすが魔族が気にする魔法使い。ぜひ研究させてもらいたいものだ」
「主、笑い事じゃない。ふざけていないで次の準備をしろ」

　魔物使いが腕を振ると、どこからかキツネのような魔物が現れる。
　あれは前に見た尾に刃が付いてる合成獣キメラだ。
　アイツには魔法を弾かれたはずだ。素早いし魔法一本で戦うのは面倒かもしれないな。

「アイツは面倒だ。俺が前へ出る」
「分かりました。後ろは任せてください」

　さっさと終わらせちまわないとな。
　俺が構えると、魔物使いはキツネを放ってくる。
　尾の刃を向けてきたところで、光の盾ライトシールドを張って一撃を防ぐ。
　後ろから魔物使いも俺へ向かってナイフを振りかざしてくるのが分かり、左の手のひらで風撃ウィンドブロウを放って身体へぶち込む。

「っ……チッ」

　キツネが刃で風の塊を受け止めるが、勢いを殺しきれずに魔物使いの腹へぶつかる。
　魔物使いがグラリと身体の体勢を崩したところで、レイヴンが追撃の魔法を放つ。

「風の弾丸ウィンドバレット！」
「クソ、主！　さっさとアレを出せ！」
「うるさい。今、呼んでいるがなかなか来ようとしないのだ……召喚陣から出てきたのは間違いないのだが……」

　レイヴンの放った風の弾丸もキツネが必死に防いではいるが、幾つかは魔物使いの身体を掠かする。
　何の話をしてるのか知らねぇが、新手を呼ぼうとしてるみたいだな。
　そんなことさせる前にさっさと決着をつけちまったほうがよさそうだ。
　このうざったいキツネをどう料理してやるか……レイヴンは俺が声をかけずとも更に追撃に入ろうとしてるな。
　さすが、俺の弟子。やれる時にやらねぇとな。

「――雷サンダー……っ！」

　レイヴンが追撃の呪文を放とうとした瞬間、目の前に何かがひょこっと現れる。
　驚いて呪文を解除してしまったレイヴンの前へ行こうとすると、今度は捨て身の魔物使いに進路を塞がれた。

「てめえ……邪魔すんな！」
「魔法使い、お前の好きにはさせない」

　マジでうざってえ！　レイヴンの元へ行きたいってのに……ちょこまか動きやがって。

「俺は大丈夫ですから！　そちらをお願いします」
「お前の強さは分かってるが……あぁクソ！　またわらわらと湧いてきやがって……」

　俺とレイヴンを分断させる気か？
　奥から合成獣キメラの群れが俺の方へ押し寄せてくる。
　ザっと見ただけでも、五十くらいいるか？
　レイヴンの邪魔をしてるヤツが一番ヤバそうだし、コッチはさっさと終わらせるしかねぇな。