78 / 119
第七章 限界突破のその先は?
75.信頼と親愛
しおりを挟む
俺は椅子へ戻ると、目を瞑っているラウディの前髪へ手を伸ばして優しくハサミを入れた。
サラサラの灰緑色の前髪は、切ってしまうのは勿体ないくらいだったけど……ラウディには明るく前向きになってほしいなと思って切り進めていく。
「急な提案なのに、聞いてくれてありがとな」
「大丈夫。ハルが決めてくれたことだから、嬉しい」
前髪を切っていくと、ラウディが微笑んでいるのもよく分かる。
あまり短くしすぎずに、梳くようなイメージで切っていく。
哩夢にウィッグの前髪を切れと頼まれた時に、前髪の切り方で調べておいてよかった。
「こんな感じかな? できた」
ハサミを置いて、落ちた髪を拾い集めているとラウディがゆっくりと目を開けた。
俺は屈んでいたから、下から見上げる形になったけど……思わず息を飲みこんだ。
「ハル、どう?」
「……」
返事ができない。俺は慌てて立ち上がり、髪をそっとゴミ箱へ捨ててから無言で元の椅子へ座り直す。
そして、改めてラウディをじっと見つめてみた。
「……」
「ハル?」
「……切ったの、失敗だったかも。何だよ……精霊様って、キレイすぎるだろ……」
自分との違いを見せつけられて、恥ずかしさで顔を逸らしてしまった。
自分から髪を切るって言ったくせに、今更カッコ悪いよな。
「ハル……耳まで赤くなってる。そんなに良かった?」
「じ、自分で言うか? 普通……これだからイケメンは……っ!」
悔し紛れに言ったのに、ラウディはクスクスと笑うばっかりだ。
それに俺に近づいて耳の縁をなぞってくる。
「や、やめろよ。からかうなって」
「どっちかって言うと……可愛がってる。そんなに喜んでもらえて嬉しい」
「はあ? 喜んでなんかいな……」
文句を言おうと顔をあげる。
俺の耳に触れながら、ラウディが目の前で微笑していた。
いつも何気に見惚れちゃってたけど、やっぱり……見惚れる。
「ハル、今どんな顔してるか分かる? 顔は真っ赤だし、目もうるうるしてる」
「あのなあ、恋する乙女じゃないんだから俺はそんなつもりじゃ……」
「僕にとっては、ハルが一番可愛いよ」
「だから、俺は男だから可愛いって言われても困るって……」
結局、ラウディは最後まで言わせてくれなかった。
ラウディの唇は俺の唇にピッタリと重ね合わされて、言葉ごと奪ってしまう。
吸い付くような唇の感触に、心の中で必死に抵抗してるのに抵抗しきれない。
「んむぅ! むー!」
「……ん? 嫌?」
「嫌、っていうか……キス、多くない?」
「キスはあいさつ、でしょう?」
俺の訴えにラウディは俺の言葉で返してくる。
俺の頬へ手を触れながら、しれっと言ってくる辺り……色恋沙汰は慣れてる設定?
誰だよ、そんな設定のキャラにしたヤツは!
しかも、相手が男でも抵抗なく言わせるのはおかしいだろ!
「あいさつだとしても、多いって! それに、俺は男で可愛いって言われてもほら……」
「ん? ハルはハル。ハルだから、キスしてる。ハルは……無理強いしなかった。僕の態度を見ても、普通に接してくれた」
「ラウディ……」
「距離感を詰める訳でもなく、僕自身に選択肢をくれた。だから……嬉しかった。優しさだけじゃなくって、僕に勇気をくれた人だから……」
ラウディにぎゅっと抱きしめられる。
抱きしめられたのはもう何度目か分からないけど、ラウディの気持ちは温もりを通してじんわりと俺の心へ伝わってくる。
大した事もしてないし、俺はただ単に距離を取っただけだっていうのに……勘違いでここまで好意を寄せられるなんて思わなかった。
「ハル、ありがとう。僕に向き合ってくれて。だから、ハルも……自分の気持ちを大切にしてほしい」
「俺の……?」
「そう。僕も……急がない。でも、僕の気持ちは伝えたかった」
「そっか……。こちらこそ、ありがとうなラウディ」
ラウディは俺の額へキスを落とし、続いてまぶたへキスをする。
これはモグの教えてくれた、あなたを信頼していますという意味だ。
抱きしめる行為も親愛の一つだって言っていたけど、ラウディは最近特にしてくれるようになったよな。
サラサラの灰緑色の前髪は、切ってしまうのは勿体ないくらいだったけど……ラウディには明るく前向きになってほしいなと思って切り進めていく。
「急な提案なのに、聞いてくれてありがとな」
「大丈夫。ハルが決めてくれたことだから、嬉しい」
前髪を切っていくと、ラウディが微笑んでいるのもよく分かる。
あまり短くしすぎずに、梳くようなイメージで切っていく。
哩夢にウィッグの前髪を切れと頼まれた時に、前髪の切り方で調べておいてよかった。
「こんな感じかな? できた」
ハサミを置いて、落ちた髪を拾い集めているとラウディがゆっくりと目を開けた。
俺は屈んでいたから、下から見上げる形になったけど……思わず息を飲みこんだ。
「ハル、どう?」
「……」
返事ができない。俺は慌てて立ち上がり、髪をそっとゴミ箱へ捨ててから無言で元の椅子へ座り直す。
そして、改めてラウディをじっと見つめてみた。
「……」
「ハル?」
「……切ったの、失敗だったかも。何だよ……精霊様って、キレイすぎるだろ……」
自分との違いを見せつけられて、恥ずかしさで顔を逸らしてしまった。
自分から髪を切るって言ったくせに、今更カッコ悪いよな。
「ハル……耳まで赤くなってる。そんなに良かった?」
「じ、自分で言うか? 普通……これだからイケメンは……っ!」
悔し紛れに言ったのに、ラウディはクスクスと笑うばっかりだ。
それに俺に近づいて耳の縁をなぞってくる。
「や、やめろよ。からかうなって」
「どっちかって言うと……可愛がってる。そんなに喜んでもらえて嬉しい」
「はあ? 喜んでなんかいな……」
文句を言おうと顔をあげる。
俺の耳に触れながら、ラウディが目の前で微笑していた。
いつも何気に見惚れちゃってたけど、やっぱり……見惚れる。
「ハル、今どんな顔してるか分かる? 顔は真っ赤だし、目もうるうるしてる」
「あのなあ、恋する乙女じゃないんだから俺はそんなつもりじゃ……」
「僕にとっては、ハルが一番可愛いよ」
「だから、俺は男だから可愛いって言われても困るって……」
結局、ラウディは最後まで言わせてくれなかった。
ラウディの唇は俺の唇にピッタリと重ね合わされて、言葉ごと奪ってしまう。
吸い付くような唇の感触に、心の中で必死に抵抗してるのに抵抗しきれない。
「んむぅ! むー!」
「……ん? 嫌?」
「嫌、っていうか……キス、多くない?」
「キスはあいさつ、でしょう?」
俺の訴えにラウディは俺の言葉で返してくる。
俺の頬へ手を触れながら、しれっと言ってくる辺り……色恋沙汰は慣れてる設定?
誰だよ、そんな設定のキャラにしたヤツは!
しかも、相手が男でも抵抗なく言わせるのはおかしいだろ!
「あいさつだとしても、多いって! それに、俺は男で可愛いって言われてもほら……」
「ん? ハルはハル。ハルだから、キスしてる。ハルは……無理強いしなかった。僕の態度を見ても、普通に接してくれた」
「ラウディ……」
「距離感を詰める訳でもなく、僕自身に選択肢をくれた。だから……嬉しかった。優しさだけじゃなくって、僕に勇気をくれた人だから……」
ラウディにぎゅっと抱きしめられる。
抱きしめられたのはもう何度目か分からないけど、ラウディの気持ちは温もりを通してじんわりと俺の心へ伝わってくる。
大した事もしてないし、俺はただ単に距離を取っただけだっていうのに……勘違いでここまで好意を寄せられるなんて思わなかった。
「ハル、ありがとう。僕に向き合ってくれて。だから、ハルも……自分の気持ちを大切にしてほしい」
「俺の……?」
「そう。僕も……急がない。でも、僕の気持ちは伝えたかった」
「そっか……。こちらこそ、ありがとうなラウディ」
ラウディは俺の額へキスを落とし、続いてまぶたへキスをする。
これはモグの教えてくれた、あなたを信頼していますという意味だ。
抱きしめる行為も親愛の一つだって言っていたけど、ラウディは最近特にしてくれるようになったよな。
431
あなたにおすすめの小説
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる