いつから魔力がないと錯覚していた!?

犬丸まお

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トライコーンの杖はやっぱりしっくり来る

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「あの地下牢からどうやって逃げ出したのかわからないが……っ!?」
 興味のない王太子の話を聞くつもりは端っからない。まずは杖と指輪を取り返す。
 俺たちに剣を向けている騎士と詠唱の準備をしている魔法使いたちを蔦で拘束すると同時に、ウェリタスの前に転移した。前触れもなく目の前に現れた俺たちに怯んで後ろに下がろうとしたウェリタスの右手を、パーシヴァルが素早く掴み上げる。
「はっ、放せ!」
「これは返してもらうよ」
 パーシヴァルの手を振り払おうと無駄な抵抗をしているウェリタスから杖を奪い返した俺は、久々に再開した相棒に思わず喜びの口付けをする。
 ごめんよ、取られたりして。これからは絶対に離れ離れになったりしないからな! 
「これも貴方が持つべきものではない」
 冷たく言い放ったパーシヴァルは、ウェリタスの首から下げられていた指輪を鎖ごと引き千切った。パーシヴァルにしては、珍しく乱暴な態度だ。
 俺は指輪と杖さえ取り返すことができればそれでいいので、ウェリタスに余計なことをされる前に杖を振る。地面から湧き上がった蔦がウェリタスをぐるぐる巻きにして、芋虫の如く地面に転がした。
 そうそう、これだよ! このしっくりくる感じ! そして、体の中を風が吹き抜けていくような爽快感。相変わらず金色の光が杖の先から噴き出しているけど、いつもより多めに光ってないか?
「ほう……まさか無詠唱の魔法使いだとは。これはますます興味が湧いたな。そこに転がっているお前の兄よりもよほど役に立ちそうだ」
「エイドリアン殿下! こいつは魔力なしの役立たずです! 私の方が遥かに優秀な魔法使いだ!」
 芋虫になったウェリタスが喚く。
 はぁ? まだそんな事言ってるのか? 魔力なしだなんて一体いつの話をしてるんだ。
 ほら、見ろ。話題があまりにも古いから、パーシヴァルがめちゃくちゃ冷たい目で見下ろしているじゃないか。
 ウェリタスは伯爵に似て自尊心の塊みたいな男だから、恥晒しだと屋敷でいないものとして扱われていた俺に負けるなんてことは認められないし、あってはならないんだろう。
 だけど、いつも誰かの優位に立つことばかり考えていたら、生き難くて仕方がないだろうに。
「だが、その役立たずにお前は手も足も出ないようだが? それに私は美しいものが好きなのだよ。精霊のように美しく、無詠唱の稀有な魔法使いならばなおのこと、私に侍るに相応しい魔法使いではないかな?」
 手も足も出ないとは言い得て妙だ。思わず吹き出しそうになるのを、なんとか堪えた。
 暗にお前の方が役立たずだと言われたウェリタスは、顔を真っ赤にして小刻みに震えている。
 恐らくウェリタスは自分は優秀な魔法使いだと言って、憚らなかったんだろう。確かに救国の魔法使いペルフェクティオの血筋だ。実際はペテン魔法使いだけど、それを知っているのは俺だけなので、それなりに信憑性はあっただろうな。
 そうは言っても、ウェリタスには学院で星を獲得した実績があるんだから、そこそこの実力はあるはずだ。実際に見たわけじゃないからよくわからないけど。
 それよりもだ。俺は王太子の後ろにある、蔦が絡まって苔むしている遺跡の入り口がずっと気になっている。遺跡自体は地下にあるようで全体の大きさはわからないが、なんだか嫌な気配がめちゃくちゃ漂ってくる。シュテルンクルスト城の地下に漂っていた魔素と同じ、身体中が粟立つようなあの感じだ。
「稀有な魔法使いよ、私と共に来るがいい。私の側に侍れば、見たことのない世界に連れていってやる。それに私は寛容な男だ、其処のヴァンダーウォールの三男をお前の護衛として側に置いてやろう……その男の目の前で、お前を可愛がるのもなかなか楽しそうではないか?」
 パーシヴァルが怒りの気配を立ち昇らせれば、王太子が口の端を引き上げ薄く笑った。
 あの王太子、悪趣味なのは服だけじゃなかったんだな。色々と悪いところばかりだ。
 きっとこの王太子は、品位ってやつを何処かに置き忘れてきたのかもしれない。悪い事は言わないから、早く探しに戻った方がいい。王族としてその品位のなさは致命的だ。
「申し訳ないけど、謹んで辞退させて頂くよ。見たことのない世界なんて興味ないんで」
「まあ、いいだろう。私が大陸を支配する様を其処で大人しく見ているがいい。さすれば私の偉大さを理解し、自ずと跪くことになるだろうからな」
 そう宣うと、王太子は側にいた護衛騎士と魔法使いと共に姿を消した。どうやら、背後に控えていた魔法使いは転移魔法使いだったようだ。恐らく、遺跡の内部に転移したんだろう。あの中に何かあることは間違いない。
「……置いていかれちゃったね」
 足元に転がるウェリタスに視線を移せば、悔しげに顔を歪ませた。
「お前はなぜ私の邪魔をする! お前のような恥晒し如きが……っ! くそっ! くそっ!」
 蔦に縛られて芋虫のように踠いているウェリタスは、自分が魔法使いだと言うことを忘れているんじゃないだろうか。
 そんな蔦、魔法で切ればいいだけのことだ。少し大人しくして貰おうと縛り上げただけで、特別な蔦でもなんでもない。些か過剰気味に縛り上げてはいるけれど、それにしたって……
「……もしかして、魔力切れ? そんなになるまで一体何をしたの?」
 よく見れば顔色も悪い。
「偉大な竜に私の魔力を与えたのだ! そうだ……私の魔力で育てた竜の卵が間も無く孵化する……そうすれば、エイドリアン殿下も私のことを認めてくださるはずだ……こんな、こんな、魔力なしが私よりも優秀なはずがない……そうだ、そうに決まっている……!」
 偉大な竜? 魔力で卵を育てたって?
「パーシヴァル、嫌な予感しかしない。あいつらを追おう」
「ああ、」
 芋虫ウェリタスを残して、俺とパーシヴァルは遺跡の内部に向かう。
 遺跡はその規模に差こそあれ、内部の作りはだいたい似たり寄ったりだ。それにこの嫌な魔気を辿ってゆけば、目的の場所に辿り着くはず。
 光で周囲を照らしながら階段を降りてゆく。どこに罠があるかわからないので注意は必要だ。飛んでくるものは防壁で防げるけど、落とし穴とか生きている死者とか、結構面倒くさい罠もあるからね。
 それにしても、普通の遺跡なら部屋が幾つもあったり道が分かれていたりするものなのに、この遺跡はただひたすら地下へと続く階段しかない。そして、降りて行けば行くほど魔素が濃くなる。
「魔素が濃いな……サフィラス、気分は悪くないか?」
「うん、大丈夫。パーシヴァルこそ平気?」
「ああ。魔獣の森での討伐で、魔素にはある程度の耐性はある」
 パーシヴァルは幼い頃から魔獣の討伐に参加してるんだもんな。
 魔獣の森には大きな深淵があるから、常に薄い魔素が森の中に漂っている。普段は感じない程度の魔素でも、頻繁に森に出入りすることで体が慣れるんだ。
「あれ、行き止まりだ……」
 どこまでも深く降りてゆくと思われた階段は、突然行き止まりとなってその先へは行けなくなっていた。どこかに仕掛けがないかと壁を探ったけど、特にそれっぽいものは見当たらない。叩いてもみたけれど、壁の向こう側が空洞になっている感じはなかった。
「なるほどね。だから、転移魔法使いが一緒だったのか……」
 転移でなければ、目的の場所に行けない仕組みになっているとはね。
「試しに壁を破壊してみようか?」
「やめた方がいい。下手をすれば、遺跡ごと崩落する可能性がある」
「うーん……あ! そうだ! おいで、ケット・シー!」
「にゃーん! お呼びかにゃ!」
 青白く光る召喚陣を描けば、黒猫が勢いよく飛び出してくる。
 ケット・シーは次元の隙間を見つけては、勝手にこちらの世界にやってくる。彼ら独特の特技でこの先に進む道を探して貰えばいい。
「お願いがあるんだけど、ケット・シーの凄い特技で、地下に向かう道を探して欲しいんだ」
「にゃ? そんなもの、ここにあるにゃ」
 そう言うとケット・シーは、小さな足で石の床をトントンと叩く。その瞬間、床がぽかっと抜けて足元に真っ暗な闇が広がった。
「サフィラスっ!」
「はぁっー!? 嘘だろぉーー!」
 俺はケット・シーの首根っこを掴むと、腕に抱え込む。その俺を、更にパーシヴァルが抱き込んだ。
 このまま落ちたら普通に死ぬ。防壁魔法で俺たちを覆い、噴き上げる風を起こしてその上に乗った。風のお陰で落下速度が落ちたので、地面に激突は避けられる。以前、ヴァンダーウォールで試したことが、こんなところで役に立つとは。なんでもやっておくべきだな。
 深い穴をゆっくりと降りてゆくと、やがて広い空間にたどり着いた。足元がしっかりしてるって素晴らしい。
「サフィラス、怪我はないか?」
「うん、大丈夫」
「みぎゃっ!」
 突然叫び声をあげたケット・シーが腕の中から飛び出して俺の肩に乗ると、全身の毛を逆立てて威嚇の声を上げた。
「いてっ、いててっ! ケット・シー! 爪! 爪が食い込んでる!……っていうか、なんだあれ……」
 異様に禍々しい祭壇の上には天井につくほど巨大で真っ黒な塊が乗っていて、気味悪く蠢いている。
 しかも、よく見れば干からびた屍が、黒い塊と半分同化するかのように幾つも張り付いている。その中の一つに、見覚えのある服を身につけている屍をみつけた。あの服、最近どこかで見かけた気がする。
 一体どこでだ?
「ファガーソン卿……」
 パーシヴァルが呻くように呟く。
「え? ファガーソン卿だって?」
 通りで覚えがあるはずだ。地下牢まで俺を嘲笑いに来たファガーソン卿が、確かにあんな服を着ていた。それにしても、随分変わり果てた姿になってしまったな。
「……誰かと思えば、魔法使いではないか。よくここまで追いかけてきたものだな。私に侍る気になったのか?」
「いいや、全くそんな気にはなっていない。それよりも、ちょっと聞くけどそれは一体何?」
 まさかと思うが、一応聞いてみる。
「これか? これは私の可愛いしもべだよ。嘗ては厄災の黒炎竜と呼ばれ、世界を滅ぼすとまで言われた竜だ。どうだね、なんとも美しく禍々しい姿ではないか?」
「は?」

 ……いや、ほんとふざけるな。
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