とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第57話 不穏な空気

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カリソベリル騎士団第一隊長フェルディとセルジオ、エリオスの手合わせの準備がされていた。

手合わせは日常訓練の中でも必須訓練の一つであった。訓練場で騎士と従士が一斉に剣を交えるものだった。

今、準備をされているのは訓練場の全面を使う一対一の決闘の様であった。
訓練場の整備をしている従士以外は場外で手合わせの見物準備までしている。

バルドとオスカーは念の為にとセルジオとエリオスに薄い革製の防具を着けさせた。

防具はベスト型で胸と背中を全面に覆い、両脇が革の紐で編みこみになっている。革の紐を結ぶと身体の一部となるかの様にぴったり作られていた。

サフェス湖でのマデュラの刺客との戦闘の折、セルジオは身体中に傷を負った。
日々の訓練でもセルジオとエリオスは身体に傷が絶えなかった。

そこで身体の動きを阻害しない様、セルジオとエリオスの身体に合わせてバルドが革職人作らせたものだった。

バルドとオスカーはセルジオとエリオスの防具の両脇の紐を結びながら訓練場全体の気を注意深く読みとる。

バルドは紐を結ぶ手を止めずにオスカーへ口元を動かさずに耳打ちした。

「オスカー殿、何やら不穏な気が漂っておりますね。
ただの手合わせではなさそうです。我らも備えを致した方がよさそうです」

オスカーは素知らぬ風を装い、同じ様に口元を動かさずバルドに呼応する。

「左様ですね。動きがあればただちに場内へ入れる様に致しましょう」

場外にわざわざ手合わせの見物席を設けている。更に弓矢を携えた弓隊が場内を囲む様に待機していた。

騎士と従士の様子も訓練のそれとは異なる。血香を漂わせてはいないものの緊張をはらんでいるように感じられた。

騎士団で所属隊を決める選別試験の待機場所の様であった。

バルドはセルジオとエリオスの防具の固定が終わるとラドフォール騎士団大地の城塞を治めるウルリヒから授かった魔力が込められた短剣を外す様に促した。

「セルジオ様、エリオス様、
この場ではその魔剣は使われない方がよろしいでしょう。
何やら不穏な空気が漂っております。
こちらの全ての手の内を明かさぬ方がよさそうです。
我らが預かります」

「承知した」
「承知しました」

カチャッカチャッ
カチャッカチャッ

セルジオをエリオスはバルドとオスカーへ2口の魔剣を手渡した。

バルドとオスカーはそれぞれ魔剣を受け取ると防具が収められていた麻袋からナイフポケットを取り出し丁寧に収めた。

代わりにナイフポケットから木製の短剣を取り出す。

「手合わせは木剣で行います。短剣も木製のものをお使い下さい」

バルドとオスカーはセルジオとエリオスの腰へ木製の短剣を備え付けた。

この木製の短剣も訓練用にバルドが木工職人に作らせたものだった。短剣と大きさ、形、重量が同じで、常時腰に携えているバランス感覚を損なわない様に作られていた。

バルドとオスカーはセルジオとエリオスがいつ実戦に近い手合わせをさせられても日々の訓練と変わらず最大限の力が出せる様に入念な準備をしてきた。

ラドフォール公爵領を出てからのバルドとオスカーはかつて騎士団に所属していた時よりも強い警戒を怠らなかった。

表向きは穏やかな気を携えて。

スチャッ!!
スチャッ!!

セルジオとエリオスの準備が整った。2人は顔を見合わせ頷くとバルドとオスカーへ一礼をする。

「バルド、オスカー行ってくる
。油断なく、驕りなく、日々の成果を試させて頂く思いで行ってくる。
我らの守護の騎士であり、我らの師である2人に見守っていて欲しい」

セルジオは左手を胸にあて、騎士の挨拶をバルドとオスカーにした。

「バルド殿、オスカー、行ってまいります。
場内でセルジオ様をお守りできるのは私のみ。
セルジオ様と力を合わせ、カリソベリル騎士団の方々の度肝を抜いてまいります。
セルジオ騎士団団長からのお言葉通りに」

エリオスが珍しく不敵な笑いを浮かべていた。
エリオスの眼には少しの憤りが感じられた。

バルドとオスカーは顔を見合わせるとふふふっと笑った。

「エリオス様、意気込みが既に勝者の様ですね。
肩に力が入り過ぎておりますよ。さっ、一度大きく息を吸って下さい。
その様に力んでおりますと相手に隙を与えます」

「力を込めますのはここです。
ポルデュラ様から風の珠を授かるへその位置です。
ここにエリオス様の白銀色の珠を込めるのです。
両手両足だけでなく白銀色の珠を中心に全身が自由に動きます」

オスカーはエリオスのへそへその位置の腰に手を当て、エリオスに意識を集中させた。

「ふぅぅぅ・・・・ふぅぅぅぅ・・・・」

エリオスはポルデュラに回復術を施される時と同じ呼吸と共に臍の位置に意識を集中する。

ウワンッ!!!

へそを中心に白銀色の珠が波紋の様に広がった気がした。

「エリオス様、今の状態を手合わせの間保つ事が
この度の手合わせの成果となりましょう。ご武運を」

オスカーはエリオスから手を離すとかしづいた。

「承知した。己を試してまいる」

エリオスはふっと強く息を吐いた。

セルジオはエリオスとオスカーの様子を見ながら自身も同じ様にへそに意識を集中していた。

グワンッ!!!

青白い炎が湧き立つ感覚を覚えるが制御する。

呼吸を整えるとへそから青き血が胸を伝い両手掌まで達した様に感じた。
両手を見ると手だけではなく全身に薄っすらと青白い光の膜が覆っている。

セルジオの前で膝を折りセルジオの様子を見守っているバルドの顔を見る。
バルドは穏やかで優しい微笑みを浮かべていた。

愛おしそうにセルジオを抱き寄せると耳元でそっとセルジオの不安を取り除く言葉を伝えた。

「セルジオ様、制御できていらっしゃいます。
大事ございません。剣も短剣も木製です。相手を傷つけることはございません。
思いっ切りお力をお出し下さい」

「セルジオ様が青き血が流れるコマンドールの再来であると見せつけてまいりませ。
青白い炎も青き血も存分にお使い下さい。お傍にはエリオス様がいらっしゃいます。
何かあれば私とオスカー殿がお助け致します。大事ございません」

バルドはセルジオの頭にそっと口づけをした。

セルジオはバルドの左肩に額を当て目を閉じる。

「わかった。何も案ずることなく行ってくる。
躊躇せずに己を信じて行ってくる。共に戦うエリオスを信じ行ってくる。
見守ってくれるバルドとオスカーを信じ行ってくる。
バルド、感謝もうす。バルドにその様にされると何でもできると思うのだ。
力が湧いてくるのだ。感謝もうす」

セルジオはバルドの左肩に当てた額をすりすりとこすりつけた。

スッ!

セルジオは顔を上げるとエリオスを伴い、カリソベリル騎士団団長フレイヤの元へ準備が整った旨を伝えに場外に設置された手合わせの見物席へ歩んで行った。


【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

約1ヶ月に渡り滞在したラドフォール公爵領を抜け、次の目的地に到着しました。

到着した途端に何やら不穏な空気にさらされるセルジオ一行。

カリソベリル騎士団ははたして
敵なのか?味方なのか?

次回もよろしくお願い致します。
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