とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第51話 深淵からの帰還

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グッ!
グッググッ!

バルドはポルデュラが自身の腰に巻き付けた銀色の鎖を引いた。

グルンッ!

セルジオを抱きかかえ立ち上がるとセルジオの身体と己の身体を銀色の鎖を縛る様に巻き付ける。

「セルジオ様、上で初代様がお待ちです。
まずは青き泉のほとりへ戻ります」

バルドは熱の感じ方が少しおさまった額を指すと初代セルジオからセルジオを見つける為に授かった六芒星の刻印の説明をした。

「初代様が深淵におられるセルジオ様と私が会える様にと
六芒星の刻印を授けて下さったのです」

「セルジオ様の青白い光と六芒星の刻印から出た薄紫色の糸とを結ぶ事でセルジオ様をお探しする事ができました。初代様にお会いになりましたら御礼を申し上げて下さい」

セルジオはまじまじとバルドの額に刻まれている六芒星の刻印を見る。
うっすらと赤く傷の様にも見えた。

「・・・・まるで血の様だな。刻印とはその様なものなのか?」

セルジオは見たままの事を訊ねる。

「血の様に見えますか!そうですか!」

バルドはふふふっと笑った。

「何なのだ?なぜ、笑うのだ?バルド」

セルジオは不思議そうな顔をする。

その表情を見てバルドは目を細めた。

「セルジオ様、お顔がお考えを映す様になりましたね。
バルドは嬉しゅうございます」

バルドはセルジオの額に口づけをする。

ピクリッ

セルジオはバルドが口づけをした額に左手をあてた。

「・・・・バルドも・・・・だぞ。
その様に・・・・沢山に口づけをする・・・・
その・・・・感謝もうす。
バルドに口づけをされると何でもできる気がしてくる・・・・」

セルジオは少しはにかむと再びバルドの首に両腕を回した。

グググンッ!!!

セルジオとバルドの身体に巻き付けた銀色の鎖が勢いよく引っ張られる。

ググゥゥゥン!!!

濃紺の空間を勢いよく上昇していく。

ググゥゥゥン!!!

グングンと勢いを増して上へ上へと引っ張られていくと青白い光が見え始めた。

セルジオとバルドは向かう先へ顔を向ける。
ゆらゆらと青白い光が揺れて見えた。

徐々に青白い光が大きくなる。あまりにも眩しく感じてセルジオは目を閉じた。
バルドはセルジオを守る様に強く抱きしめる。

グゥゥゥンン!!!
ザァッバァン!!!

セルジオを傍らに座らせ、銀色の鎖を両手で引き上げる初代セルジオが目の前に現れた。

ザァッン!!!
ドサッ!!

バルドは深淵に潜る時に初代セルジオに押された場所に水面下から飛び出す様に倒れた。
身体を銀色の鎖で固定し抱きかかえていたセルジオの姿がない。

「セルジオ様っ!」

バルドは慌ててセルジオの名を呼ぶと青き泉の水面下を覗きこんだ。

「バルド、ここにいるぞ」

初代セルジオの傍らに精気なく座わっていたセルジオが自身を探すバルドへ声を掛ける。

バルドは初代セルジオの傍らにいるセルジオを飛びかかる様に抱き寄せた。

「よかったっ!セルジオ様が深淵より戻られたっ!よかったっ!」

バルドはセルジオをギュッと抱きしめる。

「バっ!バルドっ!先程から一緒にいたではないかっ!くっ苦しいぞっ!」

ガバッ!!!

銀色の鎖を一心不乱に引いていた初代セルジオがセルジオを抱きしめるバルドに覆いかぶさった。

「よかったっ!バルドっ!よくやった!よくやったぞ!
そなたっ!よくやった・・・・うぅ・・・・うぅう・・・・」

初代セルジオは感極まって涙を流した。

「本当によかった・・・・
深淵より戻る事等できるのかと疑心暗鬼であった。
バルド、礼を申すぞ。セルジオを見つけてくれ、
深淵より連れ戻してくれ感謝申す。
こんなにも・・・・こんなにも・・・・
そなたらの絆は深くそして堅固けんごなのだな・・・・
守護の騎士バルド、感謝申すぞ」

初代セルジオは涙ながらにバルドに礼を言う。

バルドは初代セルジオが覆いかぶさったままの体勢で呼応した。

「いいえ、私だけではセルジオ様を深淵より
お戻しすることは叶いませんでした。
初代様がこちらにいて下さり、六芒星の刻印を
授けて下さったからこそ深淵でセルジオ様とお会いする事ができました」

「感謝申します。
そして、初代様が青き血の暴走を食い止めて下さったからこそ、
セルジオ様は生かされております。
全て初代様がこちらへいらしたからこその
奇跡に近い深淵よりの帰還にございます」

バルドは覆いかぶさる初代セルジオから一歩後ろに下がると目前でかしづいた。
セルジオもバルドに倣い初代セルジオにかしづく。

「初代様、初代様があのように青き泉の暴走と
戦って下さっていましたのに私は・・・・
私は己の未熟さに胸が苦しくなるだけでした。
御礼とお詫びをもうします」

セルジオは初代セルジオにかしづく姿勢のまま深く頭を下げた。

「そうか・・・・
これも天の采配さいはいなのであろうな。
全ては必然・・・・起こるべくして起こるのだ。
采配は天、是非は己、評価は他だからな。
そなたらの助けとなれたなら何よりだ。
元々は我の悔恨が深い故のことだからな・・・・」

初代セルジオは嬉しいのか哀しいのか、何とも言えないと言った表情を見せた。
かしづくセルジオとバルドの前に立つとすっと姿勢を正した。

「では、これより深淵よりの帰還としよう!
ポルデュラ殿たちはそろそろ限界と見える。
青白き月の光が揺れているであろう?
六芒星の魔法陣に歪みがでてきているのだろうな。
無理もない。エリオスとオスカーは魔導士ではないからな。
そなたを想う心根一つで堪えているのだからな。
早う、戻ってやらねばなるまい」

ガチャッ!

初代セルジオはかしづくバルドの前で膝を折るとそっと右肩に手を置いた。

「バルド。
そなたにこうして触れる事ができるのはこれが最後となろう。
そなたのその魔眼がこれからのセルジオの助けとなることは間違いない。
だが、申しておくぞ」

「己を盾にはするな。
セルジオを守護することは己の身を差し出すことではない。
セルジオの向かう先をセルジオが進む道を存分に歩める様に
計らう事が守護の騎士の役目ぞ」

「セルジオの盾になりそなたを失った悔恨を
残させる事だけはしてはならん。
傍にセルジオの傍にいるだけでよいのだ。
そなたが傍にいることこそセルジオが己の役目を
果たす最大の力となろう。頼んだぞ。バルド」

初代セルジオはバルドに六芒星の刻印を刻んた時と同様にバルドの額に唇を押しつけた。

「青き血よ、青き泉よ、深淵より帰還しこの者の魔眼の刻印を取り除く」

フッ!!

六芒星の刻印が刻まれたバルドの額に息を吹きかける。

パァンッ・・・・
シャラン・・・・

バルドの額に刻まれた六芒星の刻印が弾け赤い粒が広がると煌めきながら消え去った。

「これで傷一つなく戻れる。さっ、急げ!
六芒星の魔法陣が解かれればバルドは戻ることができなくなる。
バルド、これよりもセルジオの中で見ているぞ。
我はそなたの事を見ているぞ。独りで思い悩むなよ」

初代セルジオはバルドに微笑みを向けるとバルドの腰に巻き付けてある銀色の鎖を引っ張った。

グググンッ!!

「セルジオ、そなたバルドに抱えてもらえ。
そなたは戻る道を存じているが、今はバルドに甘えておけ」

初代セルジオはセルジオを抱きかかえるとバルドの両腕に預けた。

バルドはセルジオを両腕で愛おしそうに包み込むと今一度、初代セルジオの深く青い瞳と自身の深い紫色の瞳を合わせた。

「初代様、数々のご尽力感謝申します!
この先、セルジオ様が二度と深淵に落ちる事がなきようお傍で仕えます!」

「初代様っ!私はもう迷いません!
セルジオ様をご立派なセルジオ騎士団団長へ
青き血流れるコマンドールへお育て致しますっ!
見守っていて下さいっ!」

バルドは初代セルジオへ力強い視線を向けた。
初代セルジオは目を細め優しく微笑みを返した。

「わかった。そなたとセルジオの行く末を見守っていよう」

グググンッ!!!

バルドの腰に巻かれた銀色の鎖が勢いよく引かれた。
バルドとセルジオは青白き月が浮かぶ上空へと昇っていく。

カシャンッ!

初代セルジオは腰に携えているサファイヤの剣を鞘から抜いた。

鍔を両手を握ると顔の前で剣先を垂直にした。青白い月に向かい昇っていくセルジオとバルドを見上げ大きく息を吸った。

「青き血が流れるコマンドールとその守護の騎士よっ!
その身体は滅び離れようとも魂の絆は未来永劫離れることはないだろうっ!
たとえ姿が変わろうとも再び会い合うことを
セルジオ・ド・エステールの名の元に誓うっ!」

ザッ!!!

初代セルジオはサファイヤの剣を高々と掲げるとセルジオとバルドへ2人の絆が永遠に続く事を誓いの言葉として放つのだった。




【春華のひとり言】

今日もお読み頂き有難うございます。

深淵から初代セルジオのいる青き泉の畔に戻ったセルジオとバルド。

常に死と隣り合わせだからこそ、今の時を大切に生きることに懸命なのかなと思っています。

バルドのセルジオに対する溢れんばかりの愛情に時折いたたまれなくなりましたぁ~。

セルジオの帰還を待ちわびている六芒星の魔法陣を囲む6人とベアトレス。

後少しで戻りますから堪えて下さいね。

次回もよろしくお願い致します。
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